近畿地区肢体不自由教育研究会第18回宿泊研修会 第3分科会レポート 「重度・重複の障害を持つ子どもとの コミュニケーションについて」 障害が重度・重複ゆえに、快・不快すら表出しにくい子どもたち。 だからこそ今の生活、そしてこれからの生活をより豊かにするために どのようなことが考えられるのか。「コミュニケーション」を一つの テーマとして考えたい。 高槻市立養護学校 戸田純子・中田多恵子 -1- はじめに 本校の概略 本校は大阪府の北部にある市立の養護学校で、小学部と中学部のみである。 昨年度末小学部在籍児童13名(内訪問籍1名)中学部在籍生徒6名(内訪問籍1名)で 重度・重複がほとんどであり、吸引・吸入などの医療的ケアを必要とする児童・生徒は7 名で約1/3の割合を占める。 校内研テーマ 「コミュニケーション」 本校は市内唯一の養護学校(知的障害の府立高槻養護学校はある)で市内の一般の小学 校・中学校から転任してくる教職員がほとんどである。重度・重複の子どもたちに初めて 接する者も多いことから、毎年「教科 音楽 」「個別学習 」「粗大運動」などテーマを決 めて校内研究を行ってきた。テーマについては教育内容委員会が1年間の総括をした上で 来年度の研究テーマを考え、全体に提案。承認されたら、新年度当初に新委員会メンバー で1年間の具体的な計画提案・実行を行っていく。 新教育課程を考える中で①「子どもたち児童・生徒に将来にわたってどんな力をつけ るべきか、今、目の前のことだけでなく、どんな力をつけることが必要か」 ②「今の反 応をどうとらえたらいいのか」という2点の課題から出てきた。子どもたちの様々な反応 ・表現をより豊かにして、少しでも自己表現・自己決定ができるようにすることで、これ からの生活がより豊かに生き生きとしたものになればとの思いをこめて研究テーマをコミ ュニケーション」に全員で決定していった。 又、このテーマ「コミュニケーション」については2002年に行う予定の30周年 記念行事までの継続テーマとして研究を深めていくことをあわせて決めている。 1年間の取り組み過程 研究グループについて 教職員だけの研究では子どもたちの課題を明確に把握し共有化してその課題に対する 取り組みを見通しを持って進めることには困難な点があることから、外部から継続しての 講師依頼を行った。 又、校内で子どもたちのコミュニケーション力を5つの課題別に分けた。 Aグループ 手話等を使い日本語を習得する Bグループ 発語が一部出来ている Cグループ 発声があり、表情や反応が豊かに表せる Dグループ 快・不快程度の反応が表せる Eグループ 発声と表情はあるが、表出している反応が判断しにくい 子どもたちの反応を理解し、子どもたちのコミュニケーション力を少しでも高めてい くためにEグループを研究グループとし、校内研究の中心として進めていくこととなった。 -2- また研究を校内に広げるために、各クラスより子ども一人、教師一人のペアで E の研究 グループを構成している。(昨年度は子ども4人、教師4人で構成) グループ指導から個別指導へ 「インリアル・アプローチ」との出会い 研究グループの4人の子どもの実態は様々であったが、グループとしてのねらいは「好 きな音や遊びに必ず反応する。」というものにしていた。コミュニケーションの研究も初 めてということもあり、当初はグループ指導を行っていた。(別紙資料、ビデオあり) 6月にやっと講師が決定。大阪教育大学非常勤講師の高橋和子氏が毎月1回指導に来てく ださることとなったので、さっそく全グループ(研究グループも含む)を参観してもらい、 感想を聞かせていただき今後の具体的指導について相談をした。 高橋氏の助言 *全グループを対象に指導するのではなく、研究グループを継続して指導していく。 そして研究グループの教師が力量を高め、校内に広めていく方法がよいだろう。 *研究グループはグループ指導でなく、個別指導がよい。 一人一人が好きな音や遊びが違うし反応速度も違うので、せっかく反応していても 周りの子どもの反応を待たなければならない場合がある。子どもと教師一人ひとり がペアを組んで、出来れば部屋も分かれて、それぞれの子どもの好きな遊びなどで 取り組むようにする。 *「コミュニケーション」=誰にでも明確にわかる伝達手段を獲得すること 好きな音や遊びに反応するだけで終わってはいけない。「この楽しいことをもう一 度したい」と子どもが思い、相手に伝える。「この方法で伝わるんだ」ということ がわかっていくことが大事。子どもが「もう一度」と要求するような取り組み(手 遊びなど)をする事。 *重度の子どもたちなので丁寧に繰り返し取り組むこと。 「楽しい」と感じるのに時間がかかるし、「もう一度」と何らかのサインを出すの にも時間がかかる。何度も何ヶ月も繰り返し取り組む必要がある。 *ビデオに撮り、それを繰り返し観ることで子どもの反応、サインの出し方とそれに 対する教師の対応の仕方など研究をしていく方法がよい。 以上のことから、研究グループはそれぞれ4つの子どもと教師のペアを作り、4つの部 屋にわかれ、4つのビデオカメラを用意し週1回取り組んでいくこととなった。 取り組み過程 <インリアル・アプローチ 取り組み例1(ビデオあり)> ①「始めるよ」(はっきりわかるように) ② 体あそび「お船はぎっちらこ」(サービスで楽しく盛り上げる) ③「やった!」(終わりもはっきりさせる) ④ シーンと待つ(サインの出るようなポジションをとって待つ) (余分な刺激を入れない) ⑤サインが出る ⑥「やってやね。もう一回。」 -3- 上記のようなそれぞれの子どもたちの好きな遊びなどで取り組みを始めていった。 <7月から10月にかけて> (ビデオあり) 高橋氏から研究グループへの指導内容 ・始めと終わりをはっきりさせる。 ・取り組み最中は思いっきり楽しくサービスする。 ・終わったら黙って待つ。名前も呼ばない。 ・終わった後をよく見ておいて、視線、手足の動きなど見逃さない。 以上のようなことを指導されて、やっと少しずつ教師側の要因が大事だとわかってきた。 しかし、今までの授業とは違った初めての取り組みだったので「どれだけ待てばいいのか」 「どの動きがサインにつなげられるのか」「この取り組みのままでいいのか」という疑問 や迷いがあった。ビデオに撮ってはいるもののインリアル・アプローチを理解出来ていな い中では疑問や迷いを共有化しじっくり検討しあう時間が足りなかった。 <11月から3月にかけて> (ビデオあり) 高橋氏から研究グループへの指導内容 ・教師がインリアルの取り組みを理解してきた ・子どもたちも「サインを出せば楽しいことが又始まる」と意識し始めた。 取り組みを継続している内に、『子どもたちの反応にこちらが意味づけしていく』こと でサインにつながっていくことがやっと認識でき、子どもとの呼吸も合ってきて、「今日 は5回中3回サインの動きが出た」と教師同士話せるようにもなってきた。 冬場に入 り、体調の思わしくない子ども、入院をする子どもも出てきて、取り組みが中断してしま うこともあったが、一方ではクラス内の他の子ども(研究グループ以外の)が、いろんな 場面でサインを出していることに気づけるようになり、その子どもたちへの取り組みも一 部で始められるようになっていった。 今年度の取り組みと今後の課題 昨年度の反省として研究グループの子どもが初めて取り組むにはあまりにもサインの表 出が難しい子どもたちだったことと、研究グループの教師がインリアル・アプローチを理 解する事で精一杯で校内に広めきれなかったことが挙げられる。 今年度は上記の2点を解消するために①高橋氏から引き続いて指導を受ける②「サイン の表出しやすい子ども」を研究グループに加え、研究をより進めやすくする③研究グルー プの教師も増やすことで、研究を校内へより広めやすくする という3点を考慮して子ど も8人教師8人の体制で取り組んでいる。 今後もインリアルアプローチを通して子どもたちとのコミュニケーションを深めていき、 より確実に要求が伝えられるようになることで子どもたちの生活を豊かにしていきたい。 -4-
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