有限群の表現論 Frobenius の相互律と既約性判定条件 515 ひかる (Twitter: @515hikaru) 2015 年 12 月 1 日 概要 この PDF は, Math Advent Calendar (http://www.adventar.org/calendars/852) の 1 日目の記事である. 主に『有限群の線型表現』([1, 2]) のゼミのまとめである. この文書の 最終目的は誘導表現について考察をし, Frobenius の相互律とその応用について述べることで ある. 今回は企画の趣旨や, 純粋数学を専門にする人以外も読むことになることが想定され, また堅 い企画にしたくないので, 多くの事前知識を仮定するのは好ましくないと考えた. そこで, 指標 の理論へのモチベーションがよくわからない, あるいはこういった代数的な議論にあまり馴染 みがない人のために有限群の表現と指標の理論を証明なしで, しかも “informal” な形式*1 で 書いておくことにした. それが第 1, 2 節である*2 . 指標の理論の基礎を知っておられる方はこ の部分を読む必要はない. 逆に, 表現論なんて聞いたこともない人や, あまり群などの代数系に 慣れていない人はこの前半を流し読みしていただければ十分だと思われる. 細部が気になる方 や, もっと踏み込んだことが知りたい方は参考文献を手にとっていただきたい. 後半の第 3 説以降は誘導表現について述べる. 誘導表現を 2 通りで定義し, 誘導表現の指標 の公式, Frobenius の相互律, Mackey の既約性判定条件などを述べる. 当初はもっと真面目に 証明を書こうと思っていたのだが, 真面目に書くとあまりにも時間を食うので省略したり, 略記 した部分も多い. しかし, 僕が重要だと思ったポイントは, 僕なりの熱意でもって記述したつも りである. この文書を通して, 誘導表現の重要性が伝われば幸いである. *1 *2 “formal” な理論の解説をしないのは, 既に指標の理論の成書は多数あり, 僕がそうした成書とは異なる内容を正確に 記述できるとは思えなかったからである. ただし例外として, Schur の補題の一部には証明をつけた. 1 目次 1 既約表現の意味 3 1.1 表現の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.2 部分表現と既約表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 指標の理論概説 5 2.1 指標の重要性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.2 指標の定義と表現との関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.3 Schur の補題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.4 指標の直交性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.5 既約指標の数と群構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 表現と環論 8 2 3 3.1 誘導表現の定義 (環論を使わない場合) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 3.2 誘導表現の定義 (環論を使った場合) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 4 指標の計算と Frobenius の相互律 12 4.1 Frobenius の相互律 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 4.2 既約性判定条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 5 あとがき 16 5.1 参考文献に関して . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 5.2 Advent Calendar としてのあとがき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 2 以下特に断らない限り, 群あるいは G と書いたら有限群であるとし, ベクトル空間あるいは V , W などと書いたらそれは有限次元の複素ベクトル空間 (つまり C ベクトル空間) であるとする. 1 既約表現の意味 この節, 及び次節では証明はしない. この資料では既約性判定条件について述べるので, 既約表現 (指標) がなぜ重要かについて証明なしで概説する. 正確な議論は [1, Part.I] などを参照. 1.1 表現の定義 有限群 G と, ベクトル空間 V に対して, ρ : G → GL(V ) なる群準同型 ρ を群 G の表現という. ここに, GL(V ) は V から V への線型同型写像のなす群である. V を G の表現空間といいう. しばしば (用語の濫用であるが), G の表現 V という表記をするこ ともある. ρ は, 群 G の各元 s ∈ G に対し, ρ(s) : V → V という同型写像を対応させる写像であって, 準同 型写像であることから ρ(st) = ρ(s) ◦ ρ(t), ρ(1) = idV , ρ(s−1 ) = (ρ(s))−1 といった等式を満たす. ただ, この表記では x ∈ V に対して ρ(s) を作用させると, (ρ(s))(x) となって煩雑である. その ため, しばしば ρ(s) を ρs と表記する. 各 s ∈ G に対して, ρs は線型写像であるので, 行列表示をすることもできる (線型代数の基本中 の基本である). V の基底 B = {e1 , . . . , en } をひとつ固定して, B に関する ρs の表現行列を Rs と書くことにしよう. このとき, Rs (s ∈ G) は, det Rs 6= 0, (1.1) Rst = Rs · Rt (s, t ∈ G) を満たす. このとき, 先の準同型写像で表示した関係式と次のように対応がつく. 写像と行列の対応 • ρ(st) = ρ(s) ◦ ρ(t) • Rst = Rs · Rt • ρ(1) = idV • R1 = En • ρ(s−1 ) = (ρ(s))−1 • Rs−1 = Rs−1 ここに, En は n 次の単位行列, n = dim V であるとする. 表現空間 V の次元を表現の次数とい い, それが n のとき, ρ を n 次の表現という. 表現を与えれば行列が定まる. 逆に群の元で添字付けられた行列の族で, (1.1) の性質を満たすよ うな行列が与えられれば, 表現が定まる. このようにして, 表現と行列に 1:1 の対応がつく. 次に, 表現が “同じ” であることを定義しよう. G の表現 ρ : G → GL(V ) と ρ : G → GL(V ) が同値 (同型) であるとは, ある線型同 0 0 型写像 τ : V → V 0 が存在し, 任意の s ∈ G に対して τ ◦ ρs = ρ0s ◦ τ が成り立つことをいう. 特に, 表現が同値であれば表現の次数は等しい. 3 V ρs τ V0 V τ ρ0s V0 1.2 部分表現と既約表現 群 G の表現空間 V の中でもそのうちの基本的なものをはなんだろうか. たとえば表現空間 V の部分空間 V1 , V2 もまたともに G の表現空間であったとき, V = V1 ⊕ V2 が成り立ったとすると, V1 と V2 を表現空間とするような G の表現だけ決定すれば V が求められ る (これからこのような議論をきちんと正当化する). つまり, ベクトル空間 V を直和分解していくことで, 与えられた表現を分解し, その表現の “最 小単位” で議論をする. この “最小単位” になる表現が既約表現と呼ばれるものである. ではまず, 部分表現を定義しよう. Def. 1.1 (部分表現): G の表現を ρ, 表現空間を V としたとき, V の部分空間 W で ρs (W ) ⊆ W を満たす空間を, G 不変 (stable under G) な部分空間という. このときの ρ の値域を GL(W ) へ 制限した ρW : G → GL(W ) を ρ の部分表現という. 部分表現があれば, V は表現空間の直和に分解できる. それが次の定理である. Thm. 1.1: V を G の表現空間とし, W ⊆ V を G 不変な部分ベクトル空間とする. このとき, V における W の補空間 W 0 で, G 不変なものがある. Cor. 1.1: Thm.1.1 同じ記号を使う. このとき, (1.2) V = W ⊕ W0 が成り立つ. つまり, 部分表現をひとつ決めれば自然な直和分解がひとつ構成できてしまうのである. これは行列表示をすることもできる. ρW : G → GL(W ), ρW : G → GL(W 0 ) としたとき, W 0 W と W 0 の基底をそれぞれ, B, B 0 と書き固定する. このとき, この基底に関する ρW の表 s と ρs 0 現行列を Rs , Rs0 (s ∈ G) と書くことにすると, V = W ⊕ W 0 における表現に対応する行列は, Rs 0 0 Rs0 (1.3) (s ∈ G) という形になる. このときの G の V における表現を表現の直和といい, ρW ⊕ ρW などと書くこ 0 ともある. このように, 部分表現がひとつ定まれば, もともとの表現の直和による表示が得られる. このように直和分解ができるが, どこまで直和分解できるかということを考える. つまり, これ以 上 (本質的に) 直和分解できない表現を考えよう. それが既約表現である. Def. 1.2 (既約表現): G の表現空間 V で, V 自身かまたは {0} 以外に部分表現をもたないとき, V を既約表現という*3 . Ex. 1.1: 次数が 1 の表現は既約である. 次数が 1 の表現の表現空間は C と同型であるが, C には ベクトル空間としての部分空間は {0} と C 以外に存在しないからである. *3 既約 (irreducible) ではなく単純 (simple) ということもある. 4 既約表現が前述の “最小単位” の役割を果たすのはこの Thm.1.2 が保証する. Thm. 1.2 (表現の完全可約性): 任意の表現は既約表現の直和で書ける*4 . 以上の議論から, 既約表現が基本的であってかつ既約表現を決定することが群の表現を決定する ことになるということがわかる. 2 指標の理論概説 この節でも証明はしない. 2.1 指標の重要性 有限群の表現論において, 指標の重要性は強調してもし過ぎることはない*5 . 指標がなぜ重要な のかというと, 表現の重要な情報も群の構造の情報も持っているからである. まず, 指標が決まれば実は表現は定まる. これは Section 2.4 で紹介する. 指標だけでは群の構造を決定することはできないが, 指標は群の構造を強く制限する. これは後 で見る群の共役類と既約指標の個数との対応などが象徴する事実である. これは Section 2.5 で紹 介する. 実際の応用としては, たとえば Dirichlet の定理*6 といった古典的な数論への応用, 他にも, 有限 群が単純群が否かを決める問題へのひとつの答え (Burnside の定理) などがある. このように, 与えられた群の表現を決める問題, あるいは表現や指標がわかっているときにその 群の構造を決めるという問題, 表現空間を考える問題などが考えられるが, 指標はいずれの問題に 対しても強力な武器になる. 2.2 指標の定義と表現との関係 G を群とし, ρ : G → GL(V ) を表現とする. n = dim V とし, V の基底 B をひとつ固定する. この基底 B に関する ρs (s ∈ G) に対応する表現行列 Rs = (rij )1≤i,j≤n が定まる. この Rs の対 角和を Tr(Rs ) = Pn i=1 rii と書き, トレースというのだった. このとき, Rs と ρs を同一視して, Tr(Rs ) を Tr(ρs ) とも表記することにする. ここで, χρ を, χρ : G → C s 7→ Tr(ρs ) (2.1) と定める. χρ を表現 ρ の指標 (character of the representation ρ) という. 後で見るように, 文字 通り, 表現を特徴づける (characterizes) ものである. トレースの性質や線型代数の知識より, 次のことが従う. *4 この資料では C で考えているので問題ないが, 一般の体で考えると正標数ではこの定理は一般には正しくない. これ, 高校の時に受験英語で多くの人が習うと思うのだが, この日本語を素で使っている人を僕は見たことがない. なので使ってみた. やはり違和感しかない. *6 等差数列の形をした素数の密度に関する定理 *5 5 Thm. 2.1: χ を次数 n の表現 ρ の指標とすると, 次が成り立つ. • χ(1) = n • χ(s−1 ) = χ(s) • χ(tst−1 ) = χ(s) (s, t ∈ G) ここに, z = x + iy ∈ C に対し, z = x − iy (複素共役) である. 3 番目の性質を類関数 (class function) という. 共役類ごとに値が定まるという関数ということ である. Ex. 2.1 (直和): V = W 1 ⊕ W 2 と書けているとし, ρ1 : G → GL(W 1 ), ρ2 : G → GL(W 2 ) と 2 つの G の表現があったとき, それぞれの指標を χ1 , χ2 とすると, ρ1 ⊕ ρ2 : G → GL(V ) の指標は χ は, χ(s) = χ1 (s) + χ2 (s) で与えられる ((1.3) 参照). 2.3 Schur の補題 指標の理論に直接関係するわけではないのだが, 表現論において基本的で重要な Schur の補題 (Schur’s Lemma) がある*7 . これを紹介しよう. Lem. 2.1 (Schur の補題): ρ1 : G → GL(V 1 ),ρ2 : G → GL(v 2 ) を, ふたつの G の表現とし, f : V 1 → V 2 を線型写像で, 任意の s ∈ G に対し ρ2s ◦ f = f ◦ ρ1 を満たすとする. このとき, 次 が成り立つ. 1. ρ1 と ρ2 が同値でなければ, f = 0 である. 2. V = V , ρ = ρ としたとき, ある λ ∈ C が存在 1 2 1 2 V1 し, f = λ · idV となる (このような f を相似写像 f (homothety) という). V2 ρ1s V1 f ρ2s V2 1. の対偶もよく使われるので掲出しておく: f 6= 0 ならば, ρ1 と ρ2 は同値である. Proof. 1. 対偶を示す. f 6= 0 のとき, W 1 = Ker f 6= V 1 とおく (もちろん, Ker f = {x ∈ V 1 | f (x) = 0} ⊆ V 1 である). x ∈ W 1 に対し, f ◦ ρ1s (x) = ρ2s ◦ f (x) = 0 (s ∈ G) より, W 1 は部分 表現になる. V 1 は既約表現だから, W 1 = 0 または W 1 = V 1 である. いま W 1 6= V 1 なので, W 1 = 0 である. W 2 = Im f に対しても同じ議論をする. x ∈ W 2 に対し, y ∈ V 1 があって, f (y) = x とかける ので, ρ2 (x) = ρ2 ◦ f (y) = f ◦ ρ1 (x) ∈ W 2 である. V は既約で W 2 6= 0 より, W 2 = V 2 がわか る. よって, f は同型写像である. これは表現が同値であることを意味する. 2. 省略する. 2.4 指標の直交性 G 上の C 値の類関数全体の集合 C(G) を考える. すなわち, *7 有限群の表現論の創始は Frobenius で, Schur はその弟子である. Frobenius は表現と指標の理論は難解であった が, Schur の補題により簡易化されたそうだ. [3] のまえがきを参照. 6 C(G) = {f : G → C | f (s) = f (t−1 st) (∀t ∈ G)} (2.2) これは C ベクトル空間になる. ϕ, ψ ∈ C(G) に対して hϕ, ψi = 1X ϕ(t)ψ(t) g (ただし, g は G の位数) (2.3) t∈G と定義すると, (C(G), h−, −i) は内積空間になる. この内積空間において, 指標は重要な役割を果たす. Thm. 2.2: 上で定義した内積と, 既約表現の指標 (既約指標という) に対して, 次のことが成り立つ. 1. χ が既約指標であるとき, hχ, χi = 1 が成り立つ. (つまり, 既約指標のノルムは 1) 2. χ と χ0 が同値でない既約表現の指標であるとする. このとき, hχ, χ0 i = 0 である. 言い換えれば, 既約指標は内積空間 C(G) の正規直交系になっている. この事実から, 次のこと が導かれる*8 . Cor. 2.1: 2 つの表現が同じ指標を持てば, その 2 つの表現は同値である. さらに, Thm.2.2.1 の逆も成立する. Thm. 2.3: G の表現 ρ : G → GL(V ) の指標を χ とする. hχ, χi = 1 を満たすことと, ρ が既約表 現であることは同値である. このように, 指標は C(G) という G 上の関数のなす空間で重要な役割を果たしている. 2.5 既約指標の数と群構造 前節からわかることは, 与えられた群 G の表現を決めるには既約指標を決めればよいというこ とはわかった. しかし, 我々が表現論に求めるのは表現と群の構造との関係である. 今のところ, 既 約指標と群の構造が関係していない. それが, 実は次のような形で関連が見いだせる. Thm. 2.4: χ1 , χ2 , . . . , χn ∈ C(G) を相異なる G の既約指標とする. このとき, χ1 , . . . , χn は C(G) の正規直交基底になる. C(G) は類関数なので, C(G) の次元は G の共役類の個数と一致する. ` 実際, G = g∈R Cg を G の共役類での軌道分解 (Cg は g ∈ G を代表元とする共役類, R は 完全代表系) とすると, Cg で 1, その他の共役類で 0 をとるような関数 fg を考える. このとき, {fg | g ∈ R} が C(G) の基底になる. よって, 共役類の数と次元が等しい. よって次元の一意性から, 次のことがわかる. Cor. 2.2: G の共役類の個数と, G の異なる既約指標の個数は一致する. *8 実際はもっと議論が必要である. 詳細は [1, Chapter2,Section3] などを参照. 7 まず, これは不思議な事実であるように思う. 既約指標 (G 上の関数のうち特別なもの) と群 G の共役類という群の構造とが関連することはもちろん明らかではない. さらに, 共役類の数は群論 的にはその群の “可換性” を表す数であって, それと既約指標の数が一致するというのは, G 上の 規約指標 (関数) が群の可換性の情報を持っているということである. これは驚くべき事実ではな いだろうか? また, 実際に指標を利用した群の構造を調べる, 決定する問題の解答があるし, それ以外にも数多 応用がある. 例えば指標を利用して曲線の有理点を求めることもある (数論の問題). また, 数学的な内容の応用に限らず, アーベル群の指標の理論 (Fourier 変換) は, CD(コンパクト ディスク) にも利用されていて, 身近な数学でもある. 数学の応用と言ったら解析とか確率とか統計 とかを思い浮かべる人が多いだろうが, 代数だって応用されることはあるのである. 3 表現と環論 ここからは, 少なくとも表現論の基礎, および多少の環論を知っている人のために記述する. 具体 的には, [1, Part I] と, 環上の加群の基本的なこと (特に非可換環上の加群と係数拡大) を仮定する. 3.1 誘導表現の定義 (環論を使わない場合) 前節までの内容では, 有限群の表現は有限群 G と, ベクトル空間 V くらいしか登場人物がな かった. つまり使える手法が有限群論と線型代数程度に限られているわけである. しかし, この 2 つの世界の手法だけ用いているといろいろと不都合が生じる. 例えば, 誘導表現 をこの範囲の知識で定義すると非常に面倒である. 非常に面倒であるが, 敢えてやろうと思う. 3.1.1 群論の復習: 左剰余類分解 G を群, H ≤ G をその部分群 (正規部分群とは限らない) とする. s ∈ G に対し, sH := {st | t ∈ H} と書き, s を含む H の左剰余類 (left coset) という. s, s0 ∈ G に対し, s−1 s0 ∈ H ⇔ sH = s0 H となるとき, H を法として合同であるというのだっ た. H を法とする左剰余類全体の集合を G/H と表す (必ずしも自然な群構造があるとは限らな い). これは G の同値類別 (s ∼ s0 ⇔ s−1 s0 ∈ H としたときの G/ ∼) である. G の位数を g, H の位数を h とすると, G/H の濃度は g/h になる. これは G の H における 指数 (index) と呼ばれ, (G : H) と書く. H を法とする各左剰余類からそれぞれ一つ元を選ぶと, G の部分集合 R が得られる. これを G/H の代表系という. このとき任意の s ∈ G に対して, 一意に r ∈ R, t ∈ H が存在し, s = rt と 書ける. 3.1.2 誘導表現の定義 状況として, 次のような状況を考える. 群 G とその部分群 H ≤ G が与えられ, かつ G の表現 ρ : G → GL(V ) が与えられている時を 考える. このとき, ρ|H : H → GL(V ) を ρ の H への制限とする. V の部分空間で, H で安定な もの W をとる. このとき, ρ|H の部分表現 θ : H → GL(W ) (W は V の部分空間) なる H の W における表現が定義できる. 8 このとき, s ∈ G に対して ρs W := {v ∈ V | ある w ∈ W があって, v = ρs (w)} ⊆ V を 考える. これは V の部分空間であって, さらに s ≡ s0 (mod H) ならば ρs W = ρs0 W である. 実際, s ≡ s0 (mod H) ならば s = s0 t(t ∈ H) と表示できるので, W は H の表現空間なので ρs W = ρs0 t W = ρs0 ◦ ρt W = ρs0 W が成り立つ. このとき, ⊕s∈G ρs W ⊆ V は G で安定なので, ρ の部分表現になっている. ここまでは, G の表現があったときに H の表現を構成し, その H の表現を用いて議論をした. 逆に G の表現を H の表現を使って表せないか, ということを考える. それが次で定義する誘導表 現である. Def. 3.1 (誘導表現 (環論を使わない場合)): G の V における表現 ρ : G → GL(V ) が, H の W における表現 θ : H → GL(W ) により誘導されるとは, H ≤ G, W ⊆ V であって, R を G/H の 代表系をひとつ固定したとき, V が ρs W (s ∈ R) の直和で書ける (つまり, V = ⊕s∈R ρs W なる 等式が成り立つ) ことをいう. この定義の良い所は, ほとんど予備知識を必要としない点と, 簡単な群の場合具体的に計算で きるところにある. しかし例えば, この定義からは「群 G とその部分群 H, および H の表現 θ : H → GL(W ) が与えられた時, その表現はある G の表現を誘導し, それは同型を除いて一意で ある」 といったことが成り立つが全く自明でない (直接証明可能であるが少々議論が必要). 3.2 誘導表現の定義 (環論を使った場合) 3.2.1 表現と群環 上記の定義の問題を踏まえた上で, 環論を用いた定義をしよう. 表現と群環の作用との対応を用 いることで, 環論的に誘導表現を構成すると存在と一意性は自明になる. 3.2.2 表現と作用の対応 Def. 3.2 (群環): R を可換環, 群 G の元 s で添字づけられた集合 {es }s∈G を基底とする R 自由 P P 加群, R[G] := { s∈G rs es | rs ∈ R} を考える. このとき, R[G] の 2 元 f = s∈G as es , g = P t∈G bt et ∈ R[G] に対して, f + g := X (as + bs )es (3.1) s∈G f g := X (as bt )eu (3.2) st=u と定義する. このとき, R[G] は環になる (一般に可換環になるとは限らない). 以後混同の恐れがない限り, {es }s∈G と, G の元を同一視して es を単に s と書く. G の表現 ρ : G → GL(V ) (V は今 R 加群) が与えられたとする. R[G] の V への作用を, R[G] × V → V ! X X as s, v 7→ as ρs (v) s∈G s∈G 9 (3.3) と定義する (ρs (v) ∈ V なので, as ∈ R の作用は定義されている). このように, 表現 ρ が与えられ ていれば, 群環 R[G] の作用が定まる. 逆に, V が R[G] 加群だったとしよう. そのとき, s ∈ G (つまり es ) に対して, sv ∈ V が定義さ れている. そこで, ρ : G → GL(V ) を ρs (v) := sv として定義する, つまり ρ : G → GL(V ) s 7→ ρs : V → V (v 7→ sv) (3.4) と定義する. これが well-defined なのは G が群 (つまり s に対し s−1 がある) ことなどから 従う. このようにして, 有限群の表現 ρ と群環 R[G] の作用との 1 : 1 対応が得られる (よって, 表現と 作用とを同一視する). これは, たとえば次のようなことを示唆している: • 有限群論, 線型代数, 表現と指標しか登場していなかった有限群の表現論に環論の手法が使 える. • 線型代数で構成してきた表現を環論的に構成出来る可能性. すなわち, 群論と線型代数という言わば (比較すると) “狭い世界” でのみ考えられていた表現の 理論が, 実は環論的な手法が使える “より広い世界” に広げられる可能性を示唆している. これが, 一般の体の時は, 標数に条件が必要であるが, 完全に部分表現, 既約表現を環論の言葉に 翻訳可能であることを主張するのが次の Maschke の定理である. Thm. 3.1 (Maschke): G を有限群, K を G の位数をわらない標数を持つ体とする. このとき, K[G] は半単純環である. Rem. 3.1: 半単純環というのは, 任意の K[G] 加群 V に対し, V の部分 K[G] 加群が V の直和因 子になることを言う. K[G] 部分加群は部分表現に対応するので, K[G] 部分加群を決定することは , K[G] の作用に対応する表現の部分表現を決定することに等しくなることをこの Thm.3.1 は保証 する. さらに加群が半単純であるための必要十分条件は, 単純加群の直和で書けることであった ([6, p.148]). 単純加群とは 0 と自分自身以外の部分加群を持たない加群であり, それは既約表現の定義 と対応する. つまり, 次のような対応表が得られる. 表現と作用の対応 • 表現 ρ : G → GL(V ) • K[G] 加群 V . • 部分表現. • K[G] 部分加群. • 既約表現. • K[G] 単純加群. このようにして表現空間を体上で考えている限り (正標数だと例外があるが), 基本的には有限群 G の表現はこれまでと同じように考えられる, ということになる. Proof. (Thm.3.1) 略 ([1], [6] など参照). 10 3.2.3 テンソル積による誘導表現の導入 このように, 群環の作用と表現との 1 : 1 対応を考えることで, 表現論に環論の手法が使えること が示唆された. 実際に環論を使って誘導表現を定義しよう. この節から, ベクトル空間は C 上で考える*9 . Def. 3.3 (誘導表現 (係数拡大による定義)): G を群, H ≤ G を部分群とする. C[H] 加群 W が あったとき, C[H] から C[G] への係数拡大 C[G] ⊗C[H] W (3.5) が存在する. この C[G] 加群を, H の表現から誘導された G の表現という. Thm. 3.2: Def.3.1 で定義した誘導表現 ρ : G → GL(V ) と, Def.3.3 の定義による C[G] ⊗C[H] W は同型である. 同型写像は, W の基底 {w1 , . . . , wm } をひとつ固定したとき, 生成元 s ⊗ wj ∈ C[G] ⊗C[H] W を ρs (wj ) ∈ V に送る線型写像である. Proof. 次元を比較すれば良い. Rem. 3.2: この瞬間, 誘導表現の存在と同型を除いて一意であることは, 係数拡大の存在から明ら かとなった*10 . このとき, H の表現 W から誘導された G の表現 C[G] ⊗C[H] W を IndG H (W ) と表す. 誤解の ないときは単に Ind(W ) と表す. Rem. 3.3: H ≤ G とし, W を H の表現, V = Ind(W ) とする. E を任意の C[G] 加群とすると, 標準的な同型写像 HomH (W, E) ' HomG (V, E) (3.6) が得られる. ここで, HomG (V, E) は V から E への C[G] 準同型写像全体のなすベクトル空間で あり, 元の対応は f ∈ HomH (W, E) を, fˆ ∈ HomG (V, E) に対応させる. fˆ は, V の生成元 s ⊗ w (s ∈ G, w ∈ W ) を fˆ(s ⊗ w) = sf (w) へと移す線型写像である. これは G 準同型写像である. Rem. 3.4: 部分群 K ≤ H ≤ G があったとき, K の表現 W があったとすると, G H IndG K (W ) ' IndH (IndK (W )) (3.7) が得られる. これは, C[G] ⊗C[K] W ' (C[G] ⊗C[H] C[H]) ⊗C[K] W ' C[G] ⊗C[H] (C[H] ⊗C[K] W ) (3.8) からわかる. *9 *10 C でなければならないことはない. 標数 0 の代数的閉体であれば十分である. 非可換の場合の係数拡大の存在などについては, [4, 6], あるいは手前味噌であるが http://515hikaru.blogspot. jp/2015/10/blog-post.html をご覧に入れたい. 11 4 指標の計算と Frobenius の相互律 一般に, 与えられた群の構造がよくわからないとき, その部分群を調べることから始めるのは常 套手段である. 誘導表現も同じで, 部分群の表現を決めればもとの群の表現をある程度制限できる. このような議論のもとで強力な武器になるのが, Frobenius の相互律である. 4.1 Frobenius の相互律 まず誘導表現の指標の公式を思い出そう. Thm. 4.1: H ≤ G とする. H の表現 (W, θ) の指標 χ に対し, (Ind(W ), ρ) の指標 χρ は次で与え られる. χθ を θ の指標, R を G/H の完全代表系としたとき, X χρ (u) = χθ (r−1 ur) r∈R r −1 ur = 1 X χθ (s−1 us) h s∈G s−1 us ここに, h は H の位数である. Proof. 略 ([1, PartI, Theorem12]). 以後簡単のため, H ≤ G のとき, f : H → C なる関数に対して, ( f (s) (s ∈ H) f 0 (s) := 0 (s ∈ / H) (4.1) と定義する. f 0 : G → C である. Def. 4.1: H ≤ G, h を H の位数とする. f : H → C を類関数とし, g : G → C を g(s) := 1 X 0 −1 f (t st) h (4.2) t∈G と定義する. このとき, g は f より誘導されるという. g を IndG H (f ), 誤解のないときは単に Ind(f ) と表す. 言うまでもないが, この定義は Thm.4.1 を踏まえたものである. Thm. 4.2: Ind(f ) は G で定義された類関数である. Proof. f は H 上の類関数であるので, H の既約指標, すなわち類関数の線型結合でかける (Thm.2.4). 定義より, Ind(f ) も既約指標の線型結合で書けるので, Ind(f ) も類関数になる. (2.3) を思い出そう. G 上の類関数 ϕ, ψ に対して内積 hϕ, ψi を定義した. G で定義された関数 に対し定義していることを明示したいときは, hϕ, ψiG と表すことにする. 12 また, 一方で 表現 G の表現 V 1 , V 2 に対して, V 1 , V 2 = dim HomG (V 1 , V 2 ) とおく. 同じ記 号で表すのは次の理由による. Thm. 4.3: 群 G の表現 V 1 , V 2 の指標を ϕ1 , ϕ2 とする. このとき, 等式 ϕ1 , ϕ2 = V 1 , V 2 (4.3) HomG (V 1 ⊕ V 2 , W ) ' HomG (V 1 , W ) ⊕ HomG (V 2 , W ) (4.4) HomG (V, W 1 ⊕ W 2 ) ' HomG (V, W 1 ) ⊕ HomG (V, W 2 ) (4.5) が成立する. Rem. 4.1: が成り立つので, V 1 ⊕ V 2 , V 3 = V 1 , V 3 + V 2 , V 3 などが成り立つ. Proof. 上の注意により, 直和分解して V 1 , V 2 が既約であると仮定して良い. あとは既約指標の 直交性を使うのみである. 実際, ϕ1 , ϕ2 が既約指標なので, 既約指標が異なれば (左辺) = 0 と なるが, その時は Schur の補題より (右辺) = 0 でもある. 既約指標が同じであれば (左辺) = 0 であり, そのとき V 1 ' V 2 (C[G] 同型) である. このとき HomG (V 1 , V 2 ) ' HomG (V 1 , V 1 ) = {λ · idV 1 | λ ∈ C} が成り立つ (Schur の補題より). よって, V 1 , V 2 = 1 Thm. 4.4 (Frobenius の相互律 (Frobenius reciprocity)): H ≤ G とする. ψ を H 上の類関数, ϕ を G 上の類関数とすれば, 等式 hψ, Res ϕiH = hInd(ψ), ϕiG (4.6) が成り立つ. ここに, Res ϕ は ϕ の H への制限である. Proof. 任意の類関数は指標の一次結合であり, Res(−), Ind(−) ともに C 線型写像である. よって, Thm.4.3 から ψ を C[H] 加群 W の指標, ϕ を C[G] 加群 E の指標として次の等式を示せば十分: hW, Res EiH = hInd(W ), EiG (4.7) dim HomH (W, Res E) = dim HomG (Ind(W ), E) (4.8) ところが, これは という等式と同じであり, この等式は Rem.3.3 より分かる. これで, 部分群の表現 (つまり C[H] 加群) の世界と, その誘導表現 (C[G] 加群) の世界との間の 相互法則を見出すことができた. 4.2 既約性判定条件 相互律の重要な応用のひとつに, 既約性判定条件がある. それにはもう少し上で導入した制限写 像 Res に対する理解を深める必要がある. そのために, 群論から次のことを準備しよう. 13 4.2.1 両側剰余類分解 G を群, H, K をその部分群とする. s ∈ G に対し KsH = {ksh | k ∈ K, h ∈ H} なる G の部 分集合を考える. ここで, G 上に関係 ∼ を, s ∼ s0 :⇐⇒ KsH = Ks0 H (4.9) と定めると, これは同値関係になる (難しくない). よって, G をこの同値関係で類別して, S を完 全代表系とすれば G = ` s∈S KsH と書ける. これを G の (H, K) による両側剰余類分解という. このときの G/ ∼ を K\G/H と書くこともある. 4.2.2 制限した表現とその誘導 まず, 問題を定式化しよう. ここで考えたいことは次のような問題である. G を群, H, K をその部分群とする. H の表現 ρ : H → GL(W ) は与えられているものとし, V = IndG H (W ) = C[G] ⊗C[H] W なる G の表現があるとする. このとき, この表現の K への制限 ResK V を決定できないか?ということを考える. (H, K) による G の両側剰余類分解をする. G におけるこの両側剰余類の完全代表系 S をひと つ固定して考える. s ∈ S に対して, Hs := sHs−1 ∩ K ≤ K と置き, x ∈ Hs に対して, ρs (x) = ρ(s−1 xs) (4.10) と定める. すると, ρs : Hs → GL(W ) なる準同型が定まり, Hs の表現 Ws が定まる. Hs ≤ K であるので, IndK Hs (Ws ) = C[K] ⊗C[Hs ] Ws が定まる. Thm. 4.5: 上記の記号のもとで, 次の C[K] 同型が成立する. ResK IndG H (W ) ' M IndK Hs (Ws ) s∈S Proof. 証明中でも, 先程までと同じ記号を用いる. まず, R を S を含むような G における G/H の完全代表系とする. V = ⊕r∈R rW なのは知っ ている. s ∈ S に対して, V (s) を xW (x ∈ KsW ) で生成される V の部分空間とする. すると, 各 V (s) は K 不変であって, V = 因子 V (s) が IndK Hs (Ws ) L r∈R rW = L s∈S V (s) である. よって, s ∈ S に対応する直和 と同型であればよい. ところで, K における sW の安定化群: {x ∈ K | x(sW ) = sW } は Hs に等しい. したがって, 群 K をこの作用で軌道分解することにより V (s) = M x(sW ) (4.11) x∈K/Hs がわかる. これは, V (s) ' IndK Hs (sW ) 表している. よって, sW ' Ws (Hs 加群として同型) が言えれば良いが, これは s : Ws → sW w 7→ sw 14 (4.12) とすればよい. これが同型写像なことは, 各々を直和分解して, 直和因子同士が同型であることを示 せば十分なので, Ws , sW はともに既約であると仮定して良い. sW と Ws の Hs の作用の違いに 注意すれば, これが同型写像になっていることは Schur の補題より分かる. 実際, x ∈ Hs , w ∈ Ws に対し, s ◦ ρs (x)(w) = s(ρ(s−1 xs)(w)) = (xs)w Ws = x(sw) ρs (x) s sW Ws s x sW となり, 右の図式は可換である. Ws が 0 でなければ, 写像 s も 0 ではないので同型写像になることが Schur の補題より分かる. Ws が 0 ならば, 定理は明らかである. 4.2.3 Mackey の既約性判定条件 この節でも, 前段までの記号をそのまま使う. 前段の内容を, K = H のときに応用する. s ∈ G に対して, Hs := sHs−1 ∩ H は H の部分群であり, H の表現 ρ : G → GL(W ) の Hs への制限 を Ress (ρ) と表す. Rem. 4.2: 4.10 で定義した ρs と Ress (ρ) は異なる. 実際, x ∈ Hs に対して, (4.13) ρs (x) = ρ(s−1 xs) (4.14) (Ress (ρ))(x) = ρ(x) である. 混同してはならない (後者は, K 6= H のときは一般には定義することができない). さて, いよいよ既約性判定条件を述べる. Thm. 4.6 (Mackey の既約性判定条件 (Mackey’s irreducibility criterion)): H の表現 ρ から誘導 された G の表現 IndG H (W ) が既約であるためには, 次の 2 条件を満たすことが必要かつ十分で ある. 1. W は既約である. 2. 任意の s ∈ G に対し, ρs と Ress (ρ) が共通部分を持たない. (一般に, 群 G の表現 V1 , V2 に共通部分がないとは, これらが共通の既約成分を持たない (⇐⇒ hV1 , V2 iG = 0) ことを意味する.) Proof. Frobenius の相互律より, hV, V iG = hW, ResH V iH (4.15) が成り立つ. 一方で, 表現 ρs の表現空間を Ws とおけば, 前節より ResH V = M IndH Hs (Ws ) (4.16) s∈H\G/H である. よって, 再度 Frobenius の相互律を用いる. Ress (ρ) の表現空間を Res(W ) と書けば, hV, V iG = X D E W, IndH (W ) s Hs (4.17) hRes(W ), Ws iH (4.18) H s∈H\G/H = X s∈H\G/H 15 であることがわかる. 記号の簡単のため, ds = hRes(W ), Ws i とおく. d1 ≥ 1 が成り立つ. なぜな ら, ρ1 = Res1 (ρ) だからである. では, ここで V が既約であるとしよう. V が既約であるための必要十分条件は, hV, V iG = 1 で ある. したがって, hV, V iG = 1 が成り立つためには d1 = 1 が必要. これは W が既約であること を意味する. また, s 6= 1 ならば hRess (ρ), Ws i = 0 が必要である. これは条件 2 を意味している. 逆に, 1, 2 が満たされていれば (4.17) より明らかに hV, V iG = 1 が成り立つ. このように, もとの表現が既約であるための必要十分条件が部分群の表現を調べることと同値に なった. ここで注目するべきは, 部分群のとり方に全く制限をつけていないことである. 正規部分 群である必要すらない. 逆に言えば, 部分群に条件をつけるともっと精密に表現を調べることが出来る. 例えば可換正規 部分群ならば既約表現の次数に関して非常に強い条件がつく ([1, p61,Prop24,Cor]). さらに, G が 可換な正規部分群をもち, その半直積で群 G が書けている時, 既約表現を誘導表現で全て決定する ことが出来る ([1, p62,Prop25]). より詳しくは, 参考文献を手にとっていただきたい. 5 あとがき 5.1 参考文献に関して この文書は主に [1, 2] を読んで書いた. 記号, 証明もそこに書かれていることを書いていること がほとんどである. 別の本では, [4] を見た. [1] に書いてあることがさらに詳しく書いてあるよう に思う. また, 対称群の表現の一般論も載っている. 有限群の表現論の前提知識となる線型代数や有限群などの代数系の基本知識については, [5], [6] などを参照されたい. 特に, 後者は (非可換な) 環に関することも豊富に載っていて, 環論でわから ないことに遭遇するときに筆者がよく参照する本のひとつである. 個人的にはおすすめである. なお, 先輩の S さんと, 後輩の G くんとでやっている [1] による自主セミナーがなかったら, 僕 はこの文書を書くことも, そもそも有限群の線型表現にここまでハマることもなかったように思う. ふたりにはとても感謝している. 5.2 Advent Calendar としてのあとがき 正直なところ, 想定よりもたくさんの人にカレンダーに登録していただいて, 本当に感謝してい ます. わいわいやりたいので, 内容などは問いません. 僕はわりと真面目に数学をしたつもりです が, もっとくだけた記事でも全然構わないです. 楽しくやりましょう. さて, 明日へのバトンを...... 明日, 12/2 は shoyan__ さんです. 内容は “30 歳から始める数学の話し” です. よろしくお願 いします. まだまだ参加受け付けておりますので, お時間のある方はぜひ登録してください. それでは, また! 16 参考文献 [1] Jean-Pierre. Serre, Leonhard L. Scott (translate) Linear Representation of Finite Group, Springer, 1996 [2] J.-P. セール, 岩堀 長慶 (翻訳), 横沼 健雄 (翻訳) 『有限群の線型表現』(岩波書店, 1974) [3] 永尾 汎, 津島行男 共著, 『有限群の表現』(裳華房, 1987) [4] 服部 晶, 『群とその表現』(共立出版, 1967) [5] 斎藤 毅, 『線形代数の世界―抽象数学の入り口 (大学数学の入門) 』(東京大学出版会, 2007) [6] 堀田良之, 『代数入門 -群と加群-』(裳華房, 1987) 17
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