群の表現論について 坂田祥之 2015 年 1 月 9 日 1 群 1.1 群の定義 [定義 1.1.1] 空集合でない集合 (G, ϕ) が群であるとは, 二項演算 ϕ :G × G → G, ϕ(a, b) = ab が定義 されていて, 以下の 3 つの条件を満たすことをいう. (1) ∀ a, b, c ∈ G (ab)c = a(bc) (結合法則) (2) ∃ e ∈ G s.t. ∀ a ∈ G, ae = ea = a (単位元の存在, e を 1 で表すことも多い.) (3) ∀ a ∈ G, ∃ b ∈ G s.t. ab = ba = e (逆元の存在. この b のことを a−1 と表す.) (G, ϕ) は単に G と書かれることが多い. 群 G がさらに次の性質を満たすとき, アーベル群 という. そうでないとき, 非可換群という. (4) ∀ a, b ∈ G, ab = ba G の濃度を群 G の位数をといい,|G| で表す.群の元 a の位数というときは,an = e を満た す最小の正整数 n のことをいう.|G| が有限であれば有限群, そうでなければ無限群という. [定義 1.1.2] 群 G の部分集合 H が,G の演算で群になるとき H を G の部分群という.H が G の部分群 となるためには, 次の条件を満たせばよい. : ∀ a, b ∈ H, ab−1 ∈ H [例 1.1.3] 整数全体の集合 Z は + でアーベル群を作る.単位元は 0 で a の逆元は − a となる.Z の部 分群は, 整数 n について n の倍数全体が作る集合 nZ の形をしたものに限られる. [例 1.1.4] D4 =⟨s, t | s4 = t2 = (st)2 = 1⟩, は位数 8 の非可換群であり, 4 次の二面体群と呼ばれる. 1 sは π 2 の回転,t は鏡映を表している. Q=⟨a, b | a4 = 1, a2 = b2 , ba = a3 b⟩, もまた位数 8 の非可換群であり, 四元数群とよばれ る.(実際には, 四元数群と同型である.) Q は通常,Q = {±1, ±i, ±j, ±k}, の形で書かれることが多く, この i, j, k は i2 = j 2 = k 2 = ijk = −1 という関係式を満たしている. [定義 1.1.5] 群 G,G′ と写像 f :G → G′ が与えられたとき,f が準同型写像とは, 以下の条件を満たす ことである. : ∀ s, t ∈ G, f (st) = f (s)f (t) 準同型写像 f が全単射であれば同型写像であるという. このとき G と G′ は同型であると いい, G ∼ = G′ で表す. 例 1.4 の Q が { ±1, ±i, ±j, ±k} と同型であることは, a → i, b → j となる写像を考えれば従う.このとき, ab → k である. [定義 1.1.6] 体 K 上のベクトル空間 V について,GL(V ) = {f :V → V | 線形同形写像 }, は写像の合 成を演算として, 非可換群を作る. V が n 次元の時は, ある基底に対する f の表現行列を考えることにより,GL(V ) ∼ = GL(n, K) = {n 次正則行列全体 }, となる. [定義 1.1.7] G の部分群 N が次の性質を満たすとき, 正規部分群といい,N ◁ G で表す. : ∀ g ∈ G, ∀ n ∈ N, g −1 ng ∈ N G と {e} は常に G の正規部分群になり, これを自明な正規部分群という. 正規部分群が自 明なものしかないとき,G を単純群という. [例 1.1.8] 群 G,G′ と準同型写像 f :G → G′ について, Ker(f )={ s ∈ G | f (s) = e} は G の正規部分群, Im(f )={ f (s) | s ∈ G} は G′ の部分群になる. [定義 1.1.9] 2 群 G の部分群 H について,G の関係を s ∼ t ⇔ s−1 t ∈ H で定めると,G の同値関係になり,s = {t | s ∼ t} = sH をsの属する H の左剰余類という. 左剰余類全体の集合を G/ ∼ = G/H で表す. [定義 1.1.10] N が G の正規部分群のとき,G/N には自然に群の構造が入り, これを G の N による剰余 群という. [定理 1.1.11(Lagrange)] |G:H| で G の H による異なる左剰余類の個数を表し, これを指数という.N が正規部分群 の時は, |G/N | = |G:N | が成り立つ. さらに, 次の等式が成立する |G| = |H||G:H| この定理により, G の部分群 H は G の位数を割り切ることが分かる. 1.2 群の作用 [定義 1.2.1] 群 G と, 集合 X について,G が X に作用しているとは, 写像 µ :G × X → X, µ(g, x) = gx, が定義されていて, 以下の2つの条件を満たすことをいう. (1) s, t ∈ G, x ∈ X について,(st)x = s(tx) (2) ex = x X の元 x, y について,X 上の関係を, x ∼ y ⇔ ∃ s ∈ G s.t. y = sx で定めると,X 上の同値関係になる. この同値関係による x の同値類を O(x) = {y | x ∼ y}, を x の属する軌道という. Stab(x)={ s ∈ G | sx = x}, は G の部分群となり, これを x の安定化群という. G が有限 群の時は, 次の等式が成立する. |O(x)| = |G|/|Stab(x)| 3 [例 1.2.2] 群 G について, 写像を µ :G × G → G, µ(s, t) = t−1 st で定めると, これにより G は G 自身に作用している. この作用による s の属する軌道は, O(s) = {t−1 st | t ∈ G} であり, これは s の属する共役類になる.(通常これを C(s) で表 す.) また s の安定化群は, CG (s) = {t | ts = st}, になっていることが分かる. よって次の等式が成立する. |C(s)| = |G|/|CG (s)| この等式から, 共役類の元の個数は G の位数の約数であることが分かる. また,G の共役類は互いに交わりを持たないので, その元の個数を考えたとき, 次の等式 (類等式) が成立する. |G| = |C(s1 )| + |C(s2 )| + · · · + |C(sk )|, si は G の共役類の代表元 [定義 1.2.3] 素数 p について, 位数が p 冪の群を p 群という. [定理 1.2.4] p 群の中心は {e} とは異なる. 証明 群 G の中心とは,Z(G) = {s | ∀ t ∈ Gst = ts}, のことであり, これは G の部分群である. 明らかに,s ∈ Z(G) ⇔ |C(s)| = 1, であるので, もし G の中心が単位元のみであれば, 類 等式は |G| = 1 + |C(s2 )| + · · · + |C(sk )|, si は G の共役類の代表元 の形になり, 仮定より左辺は p 冪, 右辺は p の倍数 +1 となり矛盾. (証明終わり) 1.3 可解群 [定理 1.3.1(Sylow の定理)] 有限群 G が素数 p について,|G| = pr m, p と m は互いに素,r は正整数. であるとする. こ の時以下が成立する. (1) G は位数 pr の部分群を持つ.(これを p-Sylow 部分群という.) 4 (2) 全ての p-Sylow 部分群は互いに共役. (3) p-Sylow 部分群の個数は G の位数の約数かつ,np + 1 の形 Sylow の定理の証明はしない. [定義 1.3.2] 群 G が可解群であるとは, 次の性質を満たすような正規部分群の列を持つことである. G0 = G ▷ G1 ▷ G2 ▷ · · · ▷ Gr = {e}, Gi /Gi + 1 はアーベル群. また可解群は, このような性質も持つ. : G が可解群 ⇔ 正規部分群 N と G/N がともに可解群. また, p 群は可解群ことが知られている. 今回の論文のゴールの 1 つは位数が pa q b (p, q は素数) の形の群は可解群であることを示 すことである. そのために, 群の表現と指標の概念を導入する. 2 群の表現 [定義 2.1] 群 G と体 K 上ベクトル空間 V について, 準同形写像 ρ :G → GL(V ) をVを表現空間と するGの線形表現という. (ρ,V) というように表記することもある. V が有限次元の時は, 有限次元の表現といい,V の次元を ρの次数という. V が有限次元の時は,V の基底を定めるごとに, 基底に関する線形写像の表現行列として n 次正則行列が定まり,GL(V ) ∼ = GL(n, K) であった. そこで, 準同形写像 R :G → GL(n, K) を行列表現という. 線形表現と行列表現は上の同 型により 1 対 1 対応している. [定義 2.2] 群 G の二つの表現 (ρ, V ), (ρ′ , V ′ ) が同値であるとは, 次が成り立つことである. : ∃ τ :V → V ′ 線形同型 s.t. ∀ s ∈ G, τ ◦ ρ(s) = ρ′ (s) ◦ τ すなわち次の図式が可換になることである. 5 τ V −−−→ V ′ ρ′ (s) ρ(s) τ V −−−→ V ′ 行列表現の言葉でいえば, 次のようになる. : ∃ P ∈ GL(n, K) s.t. ∀ s ∈ G, P R(s) = R′ (s)P [定義 2.3] 群 G の表現 (ρ, V ) が与えられたとき, G の元 s について, ρ(s) は V から V への線形同型 写像になる.そこで V の元 v について, sv = ρ(s)(v) と定めることにより,G の V への作用を定義できる. この作用で V には G 加群としての 構造が入る. すなわち以下が成り立つ. (1) s(tv) = st(v) (2) s(v + w) = sv + sw (3) ev = v V を G 加群と見たときに自明な部分加群 (G 自身と {0}) 以外の部分加群を持たないと き, 既約であるといい, このとき ρを既約表現という.そうでないとき可約という. V が部分加群 V1 を持てば, 表現をそこに制限することにより,G の表現が得られる, これ を ρの部分表現という.また, 商加群 V2 = V /V1 について, v + V1 → sv + V1 により,V2 の一次変換が得られ, これを商表現という. 行列表現の言葉では, 表現が可約とは次が成り立つことを言う . ( ) A(s) ∗ : ∃ P ∈ GL(n, K) s.t. ∀ s ∈ G, P −1 R(s)P = 0 B(s) ここに A(s) は部分表現,B(s) は商表現を表している. 可約よりも強い概念として完全可約というものがある. [定義 2.4] 表現 (ρ, V ) が完全可約とは, 次の同値な条件を満たすことである. (1) 任意の部分 G 加群 V1 について, ある部分 G 加群 V2 があって,V =V1 ⊕ V2 , とかける. (2) ある既約な部分 G 加群 V1 ,· · · , Vr があって, V = V1 ⊕ · · · ⊕ Vr , とかける. 行列表現の言葉では, 定義 2.3 の行列の ∗ の部分が 0 になることである. 完全加約性について, 以下の強力な定理がある. 6 [定理 2.5(Maschke)] 有限群 G の標数 0 または, 標数が |G| を割らない体における表現は完全可約. M aschke の定理の証明は行わないが, 以下ではすべて有限群の複素数体 C での表現を考 えるので, 表現はすべて完全可約である. 次の定理は一般的に Schur の補題といわれる定理である. [定理 2.6(Schur)] 群 G の既約表現 (ρ, V ), (ρ′ , V ′ ) とする.線形写像τ :V → V ′ を任意の G の元sについて , τ ◦ ρ(s) = ρ′ (s) ◦ τ を満たすものとすれば, 次が成立する. (1) ρとρ′ が同値でなければ, τ = 0 (2) V = V ′ , ρ = ρ′ ⇒ τ は恒等写像のスカラー倍 Schur の補題の証明も行わない. 3 表現の指標 3.1 指標 [定義 3.1.1] 群 G の有限次の表現 (ρ, V ) について, χ(s) = T r(ρ(s)) を表現の指標という.ρが既約表現の時は, 既約指標という.χを, χρ やχV と表すこともある. [定理 3.1.2] 群 G の表現の指標について, 以下が成立する. (1) s と t が共役なら, χ(s) = χ(t). (すなわち, 指標は類関数である.) (2) 2 つの表現ρとρ′ が同値 ⇔ χρ = χ′ρ (3) 表現ρの部分表現ρ1 と商表現ρ2 について, χρ = χρ1 + χρ2 (4) s が位数 m の元ならば, χ(s) は 1 の m 乗根の和. これらの事実は (2) の必要条件以外は容易に証明できる. 指標というのは, 表現のトレー ス (固有値の和) であるので, いわば成分の「削ぎ落とし」とも言えるが, (2) の主張はその部 分を考えるだけで, 表現は決まってしまうということである. 7 [例 3.1.3] アーベル群の指標について考えてみる. 実はアーベル群の既約表現は常に 1 次であること が証明できる. 証明 G をアーベル群だとすると, G の任意の元 s, t について, st = ts が成立する. ρを既約表現だとすると, ρ(s)ρ(t) = ρ(st) = ρ(ts) = ρ(t)ρ(s) が成り立つ. よって Schur の 補題より,ρ(s) は 0 であるか, 単位行列のスカラー倍になる. もしρ(s) = 0 であれば, 1 = ρ(e) = ρ(ss−1 ) = ρ(s)ρ(s−1 ) = 0 となり不合理. よって ρ(s) は単位行列のスカラー倍である.もしρが 2 次以上であれば, 右下の成分が常 に 0 となり, 定義 2.3 から可約となってしまう. (証明終わり) よってアーベル群の既約指標というときには, 準同形写像χ:G → mathbbC \ {0} を考え ることになる. 3.2 指標の直交関係 [定義 3.2.1] 有限群 G について, 2 つの有限次元 C 上ベクトル空間を定義する. F(G) = {f : G → C}, C(G) = {f ∈ F(G) | f は類関数 } F(G) は |G| 次元, C(G) の次元は G の共役類の個数に等しい.また表現の指標が C(G) の 元であることは容易に分かる. F(G) においてつぎの 2 つの内積を定義する. ∑ 1 −1 ⟨ϕ, ψ⟩ = |G| s ∈ G ϕ(s)ψ(s ) ∑ 1 (ϕ, ψ) = |G| s ∈ G ϕ(s)ψ(s) 表現の指標, χ(s−1 ) = χ(s)であるので, 2 つの内積は等しくなる. 以下の定理は証明は行わないが表現の既約指標を求めるときに非常に強力な道具になる. [定理 3.2.2] 有限群 G の表現の既約指標全体は, C(G) の正規直交基底をなす. : χi , χj を既約指標とすると, (χi , χj ) = ⟨χi , χj ⟩ = δij この定理から, 表現の異なる既約指標の数は共役類の個数に一致することが分かる. [定理 3.2.3] 有限群 G の表現の異なる既約指標全体を, χ1 , χ2 , · · · , χr , その次数を, n1 , n2 , · · · , nr とす 8 ると.各 ni は |G| の約数で, さらに次の等式が成立する. |G| = n21 + n22 + · · · + n2r C 上の表現では, 表現の次数は行列環のサイズに一致するので, この定理から表現の形は 大きく制限されることが分かる. [定理 3.2.4] 有限群 G の表現の指標, (χ, χ) = 1 となることである. 3.3 指標表 [定義 3.3.1] 有 限 群 G の 共 役 類 の 個 数 が l 個 で あ る 時, 指 標 の 値 を 並 べ て 作 っ た (l, l) 型 の 行 列 (χi (sj ))(sj は共役類の代表元) を指標表という. [定理 3.3.2] N が G の正規部分群である必要十分条件は, G の既約指標χ1 , · · · , χk があって, N = {s ∈ G | χi (s) = χi (e), i = 1, · · · , k} と書けることである. この定理から原理的には正規部分群は指標表から読み取れることが分かる. 3.4 具体例 このセクションでは, 今までに紹介した定理を具体例とともに考えてみる. [例 3.4.1] G = Z/4Z = {1, s, s2 , s3 } の表現. G は s によって生成される位数 4 の巡回群であり, アーベル群であるので, 共役類は 1 元 からなる集合であり 4 つある.よって定理 3.2.2 から既約指標は 4 つあり, 例 3.1.3 からすべ て 1 次である.G の既約表現としては以下の 4 つが考えられる. ρ1 : s → 1 (単位表現) ρ2 : s → −1 √ ρ3 : s → −1 9 √ ρ4 : s → − −1 ρi の指標をχi とすると指標表は以下のようになる. χ1 χ2 χ3 χ4 1 1 1 1 1 s 1 -1 √ −1 √ - −1 s2 1 1 -1 -1 s3 1 -1 √ - −1 √ −1 [例 3.4.2] G = Z/2Z ⊕ Z/2Z = {1, s, t, st} の表現 これも位数 4 の巡回群なので, 既約表現は以下の 4 つである. ρ1 : s ρ2 : s ρ3 : s ρ4 : s → → → → 1, t → 1 1, t → −1 −1, t → 1 −1, t → −1 よって指標表は以下のようになる. χ1 χ2 χ3 χ4 1 1 1 1 1 s 1 1 -1 -1 t 1 -1 1 -1 st 1 -1 -1 1 [例 3.4.3] G = D4 = ⟨s, t | s4 = t2 = (st)2 = 1⟩ の表現. D4 の共役類は, {e}, {s2 }, {s, s3 }, {t, s2 t}, {st, s3 t} の 5 つあるので, 同値でない既約表現は 全部で 5 つある. その表現を ρi , その次数を ni (i = 1, 2, 3, 4, 5) とすると, n21 + n22 + n23 + n24 + n25 = 8 より n1 = n2 = n3 = n4 = 1, n5 = 2 である.D4 の既約表現は以下で与えられる. ρ1 :s ρ2 :s ρ3 :s ρ4 :s → → → → 1, t 1, t −1, −1, → 1 → −1 t → 1 t → −1 10 ( ) ( ) 0 −1 0 1 ρ5 :s → , t → 1 0 1 0 ρi の指標をχi とすると指標表は以下のようになる. χ1 χ2 χ3 χ4 χ5 1 1 1 1 1 2 s2 1 1 1 1 -2 s 1 1 -1 -1 0 t 1 -1 1 -1 0 st 1 -1 -1 1 0 よって, 指標表から D4 の非自明な正規部分群を読み取ると, { 1,s2 }, { 1,s,s2 ,s3 }, { 1,s2 ,t,s2 t }, { 1,s2 ,st,s3 t } であることが分かる. [例 3.4.4] Q = {±1, ±i, ±j, ±k} = ⟨a, b | a4 = 1, a2 = b2 , ba = a3 b⟩ の表現. D4 の共役類は, {1}, {−1}, {±i}, {±j}, {±k} の 5 つあるので, 同値でない既約表現は全部 で 5 つある.生成元 a, b と i, j, k の対応は例 1.1.4 と定義 1.1.5 を参照してほしい. その表現を ρi , その次数を ni (i = 1, 2, 3, 4, 5) とすると, n21 + n22 + n23 + n24 + n25 = 8 より n1 = n2 = n3 = n4 = 1, n5 = 2 である.D4 の既約表現は以下で与えられる. 1, b → 1 1, b → −1 −1, b → 1 −1, ( ) (√ b → −1 ) −1 0 0 −1 √ , b → ρ5 :a → 0 − −1 1 0 ρ1 :a ρ2 :a ρ3 :a ρ4 :a → → → → ρi の指標をχi とすると指標表は以下のようになる. χ1 χ2 χ3 χ4 χ5 1 1 1 1 1 2 −1 1 1 1 1 -2 i 1 1 -1 -1 0 j 1 -1 1 -1 0 k 1 -1 -1 1 0 よって, 指標表から Q の非自明な正規部分群を読み取ると, 11 { ±1}, {±1, ±i}, {±1, ±j}, {±1, ±k} であることが分かる. このことから, Q の部分群はすべて正規部分群であることが分かるが, Q は非可換群であ る.アーベル群の部分群はすべて正規部分群であるが, その逆が成り立たない例を与えている . さらに, Q の指標表と D4 の指標表は全く同じであるが, D4 と Q は同型ではない.実際 Q の 位数 2 の元は 1 つだが, D4 の位数 2 の元は 5 つある.よって指標表から群の同型を読み取る ことはできない. 4 代数的整数 Burnside の定理の証明のためには代数的整数の知識が少し必要になるので, このセクショ ンで必要な事実をまとめていきたい. [定義 4.1] 複素数αが代数的整数とは, ある最高次係数が 1 の整数係数多項式の根になることである. すなわち, : ∃f (x) = xn + a1 xn−1 + · · · + an , ai ∈ Z s.t. f (α) = 0 この集合を A と書くことにする.A は C の部分環をなす.代数的整数に対して, 通常扱う整 数を有理整数ということもある. [定理 4.2] Q∩A=Z [定理 4.3] z ∈ C について, 次のような複素数の組 v1 , · · · , vl が存在すれば, z ∈ A : zvi = ai1 v1 + ai2 v2 + · · · + ail vl (i = 1, · · · , l) で, aij ∈ Z かつ少なくとも 1 つの vi は 0 でない. [定理 4.4] xm + a1 xm−1 + · · · + am , ai ∈ Q をα ∈ A の満足する有理数係数の最小次数の多項式と する.このとき, ai ∈ Z である. これらの事実を用いて Burnside の定理を示そう. 12 5 Burnside の定理 まずはいくつかの準備を行う. [定義 5.1] |G| = n, G = {1, 2, · · · , n} について, ( 1 2 ... n s1 s2 . . . sn f :G → Sn , s → ) は G から n 次対称群 Sn の中への準同型である. このとき, P (s) = (aij ) ∈ GL(n, C) を, 成分 aij が, si = j になるときは 1, そうでないときは 0 で定 義すれば, 準同形写像 P :G → GL(n, C) が定まり, これを G の左正則表現という. 対角成分が 1 になる必要十分条件は s = 1 になることであるので, 左正則表現の指標χに ついて, 次が成り立つ. |G| s = 1 のとき (1) χ(s) = 0 それ以外のとき [定理 5.2] (ρ, V ) を群 G の左正則表現とすると, その指標χは, χ(s) = 1 + n2 χ2 (s) + · · · + nk χk (s). (2) と書ける. ここに,χi は既約指標で, ni はその次数である. 証明 χ = n1 χ1 + n2 χ2 + · · · + nk χk , (χ1 は単位表現の指標, χ2 , · · · , χk はそれ以外の既約指標 , ni はその次数) と書けることは, 既知である. ここで内積を考えると, ∑ ∑ 1 1 (χ, χ1 ) = |G| s ∈ G χ(s)χ1 (s) = |G| s ∈ G χ(s) = 1 また, (χ, χ1 ) = n1 (χ1 , χ1 ) + n2 (χ2 , χ1 ) + · · · + nk (χk , χ1 ) = n1 以上より, n1 = 1 である. (証明終わり) (1),(2) 式から, 左正則表現の指標 χについて, χ(s) = 1 + n2 χ2 (s) + · · · + nk χk (s) = 0 (s ̸= 1) 13 (3) が成立する. この式が後の証明で重要である. G を有限群, C1 = {1}, C2 , · · · , Ck を共役類, |Ci | = gk とし, 共役類 Cα の元の形式的な和 を Dα とする. : Dα = a1 + a2 + · · · + agα , ai ∈ Cα (これは群環 C[G] の元であるが, 今は群環について考えないことにする.)Dα とβ の形式的 な積を, ∑ Dα Dβ = ai bj , ai ∈ Cα , bj ∈ Cβ (4) i,j で定める.このとき, c ∈ Cγ が右辺に t 個現れるとすれば, ai bj = c となる, (ai , bj ) の組 が t 個ある.c′ ∈ Cγ について, c′ = s−1 cs と書けて, ai′ = s−1 ai s, bj ′ = s−1 bj s とすれば , ai′ bj ′ = c′ であり, 逆も言えるので, ai′ bj ′ = c′ となる, (ai′ , bj ′ ) の組も t 個ある.よって (4) 式 の右辺には, Cγ の各元が t 個ずつ現れる.以上より (4) 式は次のように書き換えられる. Dα Dβ = ∑ tαβγ Dγ (5) γ ここに, tαβγ ∈ Z である. R :G → GL(n, C) を有限群の既約表現とし, R(Dα ) = ∑ R(ai ) (6) ai ∈Cα −1 とおく.ai が Cα の各元をわたれば, s ai s も Cα の各元をわたる. よって ∑ R(s)−1 R(Dα )R(s) = R(s−1 Dα s) = ai ∈α R(s−1 ai s) = R(Dα ) が成り立ち,R(Dα ) は, 全ての s ∈ G について R(s) と可換である. したがって Schur の補 題から, R(Dα ) = ωα E (ωα ∈ C, E は単位行列) の形になる. χを R の指標とすると, χ(Dα ) = gα χ(aα ) = ωα n.(aα は Cα の代表元.) よって次の等式が 成立する. ωα = gα χ(aα ) n (7) また,(5)(6) 式より, ∑ ∑ R(Dα )R(Dβ ) = R(Dα Dβ ) = R( γ tαβγ Dγ ) = γ tαβγ R(Dγ ) よって次の等式が成立する. ωα ωβ = ∑ γ 14 tαβγ ωγ (8) 次に,Burnside の定理を証明するための 3 つの補題の証明に入る. [補題 A] 有限群 G の既約表現の指標, (7) 式で定まるωα は代数的整数である. 証明 (8) 式より, ωα ∈ C について, v1 = ω1 , · · · , vk = ωk は定理 4.3 の条件を満たしている. よって,ωα ∈ A. (証明終わり) 2πi ζ = e m は 1 の原始 m 乗根で 1 の m 乗根はζ i (i = 0, 1, · · · , n − 1) の形になる. ∏ i 0 m−1 xm − 1 = n−1 の基本対称式は有理整数である. k=0 (x − ζ ), であるので, ζ = 1, ζ, · · · , ζ ρ :G → GL(n, C) を有限群の表現, その指標をχ, s を位数 m の元とすると, 定理 3.1.2 よ り, χ(s) = ζ t1 + · · · + ζ tn , と書ける. χi (s) = (ζ i )t1 + · · · + (ζ i )tn , (i = 0, 1, · · · , m − 1) とおくと, χ0 (s), · · · , χm−1 (s) の基本対 称式は, 1, ζ, · · · , ζ m−1 の対称式になり, 有理整数である. 以上より, 多項式 Φ(x) = (x − χm−1 (s) χ0 (s) ) · · · (x − ) n n (9) は有理数係数多項式になる. [補題 B] ρ :G → GL(n, C) を有限群の既約表現, その指標をχとする. s ∈ Ci について, n と gi が互いに素であれば, χ(s) = 0 であるかρ(s) は単位行列のスカラ ー倍である. 証明 仮定より, ある有理整数 a, b があって, an + bgi = 1, よって, aχ(s) + b gi χ(s) n = χ(s) . n χ(s) = ζ t1 + · · · + ζ tn と書いたとき, t1 = · · · = tn であれば, ρ(s) は単位行列のスカラー倍 と同値, したがって, ρ(s) は単位行列のスカラー倍である. もし, ζ ti ̸= ζ tj なる i, j があれば, χ(s) |ζ t1 | + · · · + |ζ tn | < =1 n n ここで, (9) 式のΦ(x) は有理数係数多項式で, Φ( l ここで, P (x) = x + b1 x l−1 + ··· + χ(s) ) n = 0 を満たしている. bl を χ(s) を満たす最小次数の有理数係数多項式とする n と, 定理 4.4 より, P (x) の係数は有理整数である. 15 ̸= 0 ⇒ |bl | ≥ 1 である.一方で, P (x) とΦ(x) についての仮定から, P (x) は i Φ(x) を割り切る.したがって, P (x) の根は χ n(s) のどれかと一致するが、その絶対値は 1 以下 である. χ(s) χ(s) 特に, n < 1 より, |bl | < 1 となり矛盾する.よって n = 0 であり, χ(s) = 0 を得る. (証明終わり) よって, χ(s) n [補題 C] 有限群 G の {1} と異なる共役類 C(s) = {t−1 st | t ∈ G} について, その元の和が 1 でない 素数冪であれば, G は単純群でない. 証明 |C(s)| = pm , (m ≥ 1) とする.G の左正則表現を分解することで, (3) 式を得る.よってある 番号 i でχi (s) ̸= 0 かつ ni と p は互いに素である. よって補題 B により,ρi (s) は単位行列のスカラー倍である. ここで, N = {s ∈ G | ρi (s) は単位行列のスカラー倍 } とおけば,N は G の正規部分群であり, ρi は単位表現とことなるので, N ̸= G である. (証 明終わり) [Burnside の定理] |G| = pa q b , (p, q は素数, a, b は 0 以上の整数) のとき, G は可解群である. 証明 |G| = pa q b とおいて, 位数に関する帰納法で示す.もし b = 0 であれば, G は p 群となり可 解である.よって a も b も正として考える. S を G の p − Sylow 部分群とする.(存在することは Sylow の定理による), 定理 1.2.4 よ り S の中心は非自明である.そこで, s を 1 と異なる S の中心元とすると, CG (s) = {g | sg = gs} は S を含んでいるので, |C(s)| = |G : CG (s)| は q 冪である. もし, |C(s)| が 1 でなければ, 補題 C より G は単純である.もし 1 であれば, G = CG (s) よ り s は G の中心に含まれるので, s の生成する G の部分群は非自明な正規部分群になる.ゆ えに, G は単純群である. ここで N を非自明な G の正規部分群とすれば, 定理 1.1.11 より, |G| = |G/N | |N | が成り立ち,|G/N | , |N | は |G| の約数である.よって帰納法の仮定から, G/N, N は可解群 になり, 定義 1.3.2 より G は可解群である. (証明終わり) 16 有限群が可解群である位数に関する条件は,Burnside の定理のほかに,Feit-Thompson の 定理があり, この定理によれば奇数位数の群は可解群であることが知られている. この 2 つ の定理を合わせることにより, 可解でない群は偶数位数で異なる素因数を 3 つ以上持つ群で なければならないことが分かる. もっとも位数の少ない可解でない群は位数 60 であり, たし かにこの条件を満たしていることが分かる. 参考文献 [1] 服部昭「群とその表現」共立数学講座 18 (1967) [2] 浅野啓三, 永尾汎「群論」岩波全書 261 (1965) 17
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