大国魂神社の算額(下段第5問)についての考察

大国魂神社の算額(下段第5問)についての考察
永井信一
1.この算額について
所在地
年 代
奉納者
形 状
府中市宮町 大国魂神社
明治18年(1885)
小俣勇門人36名
121cm×222cm
宝物殿
36問(3段×12問)
<問題(36問のうち下段第5問)>
左の図のように,外円内に三角形,甲円,乙円,丙円を
かく。甲円の直径が49寸,乙円の直径が28寸,丙円の
直径が17寸のとき,外円の直径を求めよ。
丙
乙
<術文より>
甲 × 丙 × 8 = 乾 , 乾 × 2 - 乙 2= 坤
甲+丙 ×2+乙 ×乾
=外
坤
甲
とする。
により,答は85寸
★同一の問題が村山市楯岡の最上徳内記念館の復元算額にある。
こ れ は 天 明 4 年 ( 1784 ) に 最 上 徳 内 が 芝 愛 宕 山 に 奉 納 し た も の を
平 成 5 年 に 『 続 神 壁 算 法 』 (藤 田 嘉 言 )よ り 復 元 し た も の で あ る 。
2.問題を解くための準備
△ A B C の 外 接 円 の 半 径 を R, 内 接 円 の 半 径 を r,
各 辺 の 中 点 か ら 外 接 円 ま で の 距 離 (こ れ を 矢 と い
う ) を そ れ ぞ れ a' , b' , c' と す る 。
A
c'
このときに成り立つ関係式をいくつか証明する。
b'
O
R
I
r=4Rsin
②
cosA+cosB+cosC=1+
③
a' + b' + c' = 2 R - r
④
2 a'b'c' = r 2 R
r
R -a'
C
B
a'
A
B
C
sin
sin
2
2
2
①
r
R
【①の証明】
sin
A
2
=
1-cosA
2
=
同様にして,
s-c s-a
B
sin
=
ca
2
ま た , S= s s-a
s-b
1- b2+c2-a2 /2bc
2
, sin
C
2
s-c
よって,
s-a
A
B
C
sin
sin
4Rsin
=4R ×
2
2
2
=
s-a
=
s-c
bc
た だ し , s=
s-b
ab
(ヘロンの公式)
s- b
abc
s-b
s-c
=
, S=
abc
4R
, S = rs
S2 1
S2
S
4R
× =
× = =r
abc
s
S
s
s
a+b+c
2
【②の証明】
A+B
A-B
A + B + C = 180 ° よ り ,
A
B
C
+
+
=90°
2
2
2
C
+1-2sin 2
2
2
A+B
C
A-B
C
cos
cos
-2sin
=1+2sin
2
2
2
2
cosA+cosB +cosC=2cos
2
cos
よって,
C
A+B
sin
=cos
2
2
A-B
A+B
cos
=1+2sin
-cos
2
2
2
C
=1+4sin
=1+
A
2
r
R
sin
B
2
sin
C
2
(①より)
【③の証明】
cosA=
R -a'
R -b'
R -c'
,cosB=
,cosC=
R
R
R
を②に代入すると
R -a'
R -b'
R -c'
r
+
+
=1+
R
R
R
R
R - a' + R - b' + R - c' = R + r
よって,
a' + b' + c' = 2 R - r
【④の証明】
a'=R 1-cosA =2Rsin2
A
同 様 に し て , b'=2Rsin2
2
B
2
,c'=2Rsin2
C
2
よって,
2a'b'c'=16R 3sin2
= 4Rsin
= r2R
A
2
A
2
sin2
sin
B
2
B
2
sin
sin2
C
2
C 2
2
×R
(①より)
3.問題の解法
算 額 の 図 と 2 の 図 を 比 較 す る と , 甲 = a' = 4 9 寸 , 乙 = 2 r = 2 8 寸 , 丙 = c' = 1 7 寸 の
と き , 外 = 2 Rを 求 め れ ば よ い こ と に な る 。
③ よ り , b' = 2 R - r - a' - c'
これを④に代入すると,
2 a' ( 2 R - r - a' - c' ) c' = r 2 R
R ( 4 a'c' - r 2 ) = 2 a'c' ( a' + c' + r )
4a'c' a'+c'+r
2R =
し た が っ て , 2 R= 8 5 寸
4a'c'-r2
乙 = 2 rな の で , 2 rを つ く る た め に こ の 式 の 分 子 と 分 母 に 4 を か け る と ,
甲+丙 ×2+乙 ×乾
=外
術文にある
と同じ形になる。
坤