〔科目名〕 〔単位数〕 2単位 社会と人間 〔担当者〕 相澤 出 〔科目区分〕 〔オフィス・アワー〕 時間: 講義時間の前後 場所: 非常勤講師控室 〔科目の概要〕 この講義では社会思想史、社会科学の歴史をひもときながら、社会と人間に向けられた学問的な思考・視点について 理解を深めてもらうことを目指している。本講義がとりあげる領域は、主として社会学(および人類学)の学史であるが、で きるかぎりこの部分に限定されず、隣接する諸領域にもふれながら、講義を進めていく予定である。主題となるのは、社 会と人間を研究する視点である。ここに焦点をあてて、社会と人間を研究する視点の移り変わり、学問上で生じた論争か ら見えてくるそれぞれの視点の意義と限界、そういった視点が登場した歴史的背景について解説する。 社会と人間ついて考える、といっても、実にさまざまな専門分野があって、多様な視点による研究の積み重ねがなされ てきた。社会学という領域にかぎっても、多様な問題設定や視角がある。本講義では、基礎論の部分を思想史的な取り 上げ方をしながら俯瞰していく。限定された領域、専門性を深く掘り下げることはいうまでもなく大切なことである。しか し、ここではあえて学問の歴史をふりかえり、普段自分が学んでいる学問分野や専門領域の研究が用いている視点自体 を検討してみよう。その視点はいつ、どこでも当然のように用いられるものではなく、かなり特殊な関心に基づくもので、 時代や社会との関連のなかで生み出されたものかもしれない。視点自体をふりかえって違う角度から見直す、ということ は普段やらないことであるが、自らの思考の道具がどういったものなのかを知ることは、学問という世界でも重要である。 いいかえれば、使い慣れた視点の意義と限界の再考の仕方を歴史から学ぶということである。人間と社会を研究する学 問の歴史という、高校時代にはなじみのなかった歴史を学ぶことになるが、できるかぎり受講生の皆さんも触れたことが あるような論点も紹介しながら、講義を進めていく予定である。 〔「授業科目群」・他の科目との関連付け〕・〔なぜ、学ぶ必要があるか・学んだことが、何に結びつくか〕 複眼的なものの見方ができること、さらには自分が普段依拠する視点自体を問い直すことができるということは、アカ デミックな世界に限らず、およそ社会の中で生きていく上でも重要なことである。思考が凝り固まり、しかもその視野が狭 い上に偏りがひどいことに自覚もないなどということは、お世辞にもほめられたことではない。もともと社会科学には、社 会を支える市民のための高等教養というべき一面があったといわれている。社会と人間について、さまざまな角度から見 て考えることができる、その上でそれぞれの視点の長所と短所を理解することは、社会の担い手である市民として大切な 資質である。教養科目としての本講義は、これを育むひとつの手がかりにもなりうる。現実というものは、無限に複雑かつ 多様な姿をみせてくる。その点、社会学(もちろん他の学もそうだが)は、現代社会とそこに生きる人間のあり方を考える に際して、多様なものの見方、考える手がかりを提供しうる。そのため、社会学(および人類学)を学ぶことは、複雑きわま りない現実の社会と人間に対する、複眼的なものの見方を身につけ、さらには日常で自分が用いている視点の振り返り の基点にもなるであろう。加えて、社会科学のなかの一つの学としての社会学(および人類学)は、当然ながら隣接する さまざまな学との接点を有している。経済・経営などの領域に対しても、直接的にも間接的にも関係する論点を多く含ん でいる。そのため経済・経営、地域社会の研究をそれぞれ専攻する受講生の方々にも、この講義は間接的に、いろいろ な問題提起をすることにもなるであろう。 〔科目の到達目標(最終目標・中間目標)〕 社会と人間について考える学問的な視点に、現在に至る歴史的変遷があったこと、さらには、現在もそれぞれ長所と 短所をかかえた多様な視点が学問的に用いられていること理解し、その上で自分がいかなる視点を有する学問を学ん でいるかを意識してもらえるようになったら、本講義の所期の目的は達成されたと考える。いうまでもないが、講義内容の 理解が一定程度なされているかどうかは試験で判断されるところとなる。本講義では、社会学(とそれに隣接する分野) の基礎論の入門的な部分を紹介することになる。この基礎の部分を身につけてもらい、社会と人間を研究する学問的な 思考の入門編に親しんでもらえたらよい、と講師は考えている。 ただし注意してもらいたいが、考え方に親しむ、さらには理解する、身につけるということは、講義内容の丸暗記を意 味するものではない。理解と暗記とは似て非なるものである。思考の手がかり、道具も、さまざまな道具や手段と同じよう に、実際に使ってみてこそ身に付くものである。そのため、使い方がおぼつかなくてもよいので、「社会と人間」に関し て、社会学の概念という思考の道具にふれて、使ってもらいたいと考えている。試験においては、この点を特に評価す る。講義担当者は、社会学の概念をつかって、自分の頭で社会や人間について考えることが多少なりともできればよい と考えている。それゆえ、講義の内容についての優秀な暗記も評価することはするが、それ以上に、自分の頭で考えた と思えるものを高く評価したい(しかし、自前で考えることは、自分勝手に考えることを意味するものではない。あくまで講 義内容を理解し、なおかつ理解した考え方を自分の設定した問題に対して適切に用いることが肝要である)。高校まで の歴史は暗記科目だったかもしれないが、そうではない歴史の理解、接し方をしてもらえたらと考える。 〔学生の「授業評価」に基づくコメント・改善・工夫〕 講師の話が早口でありすぎる、との指摘があったので、できるかぎりゆっくりとした口調で講義を行いたい。 板書については、字が下手であるとの指摘があったので、せめて読みやすく、大きな文字での板書を心がけたい。 脱線に関しては、講義内容に関わる事柄の示唆等を考えたため、あえて行っているところは多々ある。その点はご理 解いただけたらありがたい。 説明が長すぎる、というコメントもあったが、理解するということは思いのほか時間がかかるものである(単に記憶する のではなく、身に付けるために時間もかかるし、理解もしていなくてはならない)。最悪なのはせっかく受講しても、中途 半端な理解のままで訳が分からないことである。これを避けるために時間をかけてしっかりと、確実に理解していくことが 学問に向き合う上で大切である。その点もどうかご理解いただきたい。 〔教科書〕 なし。講師の用意した資料を用いて講義を行う。 〔指定図書〕 なし。 〔参考書〕 指定するものはない。講義中に関係する文献を紹介する。 〔前提科目〕 な し 〔学修の課題、評価の方法〕(テスト、レポート等) 期末に論述による筆記試験を行う。 〔評価の基準及びスケール〕 評価のスケールは以下のとおりである。 A:80 点以上 B:80 点未満 70 点以上 C:70 点未満 60 点以上 D:60 点未満 50 点以上 F:50 点未満 〔教員としてこの授業に取り組む姿勢と学生への要望〕 社会思想史、学史(本講義の場合、社会学史や人類学史)に関する議論の紹介・解説が中心となるため、中学校・高校 で歴史に苦しめられてきた人にとっては少々興味が持ちづらい講義かと思われる。しかし、大学で学ぶ歴史は、単なる 暗記科目ではないので、その点は安心されたい。むしろ、単なる暗記科目の延長ののりで受講した場合には、高校まで の歴史の授業との違いに戸惑われる可能性がかなり高いので注意されたい。講義中に登場する概念や視点は、実際に 社会と人間を研究するための思考の道具としてつくりだされたものであるから、ただ単に暗記するだけでなく、実際にお 試しでよいから使用してみよう。 教養科目という位置づけから、本講義の内容は浅く広いものになっている。そのため、もっと掘り下げた話をききたいと いう不満がでるかもしれない。こうした点については、各自の質問に個々に応じ、入門編以降に読むべき本を紹介する などして対応する。本講義の内容すべてに興味関心を持つ必要はない。しかし、何か少しでも知的関心をひくもの、興 味深いもの、楽しいものを見出してもらえたらよいかと思う。それゆえに受講者には、ひろく知的好奇心のアンテナをは って講義に臨んでもらいたい。自分の関心のある領域や専門に関係付ける、というのも有効なやり方である。もともと学 問はおもしろおかしいものではない。そのため大学の講義は漫然と聴いていても、たいして愉快なものではない。それ ゆえに、講義の内容から興味深いこと、おもしろいことを各自が見つけ出すことが必要になる。この努力と工夫を少しば かり求めたい。なお、私語と徘徊は慎んでください。 第1回 授業スケジュール テーマ(何を学ぶか): 社会と人間をとらえる学問的視点の登場(1) 内 容: いわゆる「社会」の言葉や概念の登場とその意味について、歴史的な経緯も検討しながら解説す る。 第2回 第3回 第4回 教科書・指定図書 講師が用意した資料を用いる(以下同様) テーマ(何を学ぶか): 社会と人間をとらえる学問的視点の登場(2) 内 容: 「社会」という状態の歴史的な背景について、西洋史をとりあげながらその理解を深める。 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 社会と人間をとらえる視点の登場(3) 内 容: 西洋近代において人間と社会を学問的にとらえる上で「自然」と「歴史」という論点がどのように登 場してきたかを解説する。とくに社会契約論について解説を行う。 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 社会と人間をとらえる視点の登場(4) 内 容: 人間と社会をとらえる際に「自然」と「歴史」という論点がどのように登場してきたかを、19 世紀の「歴 史主義」に即して解説を行う。 第5回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 社会学の登場 内 容: 19 世紀における社会学の登場について、コントの思想を紹介しながら解説する。 第6回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 社会と人間における「進化論」 内 容: コントの一世代あとに登場したスペンサーと、それにつづく社会学、人類学における進化論的な 視点について解説する。 第7回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 社会調査の登場 内 容: 19 世紀以降、諸国で本格化した社会調査について、その歴史的背景にもふれながら概説する。 第8回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の登場(デュルケムの社会学その1) 内 容: 初期のデュルケムと、同時代のドイツの社会学者テンニースの議論を紹介し、両者がモダンな社 会の特徴をどのように描き出したかを比較しつつ解説する。 教科書・指定図書 第9回 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の登場(デュルケムの社会学その2) 内 容: デュルケムの社会学の代表作とされる『自殺論』をとりあげながら、その社会観や近代における人 間の孤独について解説する。 第 10 回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 社会学および人類学における機能主義の登場(デュルケムの社会学その3) 内 容: デュルケムによって理論的に確立され、のちに社会学、人類学において有力な立場となった機能 主義について解説する。 第 11 回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の登場(ヴェーバーの社会学その1) 内 容: 近代資本主義経済の成立について、宗教の領域との関係から検討したヴェーバーの議論につい て解説する。 第 12 回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の登場(ヴェーバーの社会学その2) 内 容: 近代以降、大規模な組織において取り入れられている「官僚制」組織についてヴェーバーが提示 した論点について解説する。 第 13 回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の登場(ヴェーバーの社会学その3) 内 容: ヴェーバーの社会学の方法および学問論について解説する。 第 14 回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の展開(1) 内 容: デュルケムとヴェーバーの両者から影響を受け、両者の学問的な遺産を総合化しようとしたパー ソンズの社会学について解説する。 第 15 回 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか): 現代の社会学の展開(2) 内 容: パーソンズの社会学の影響、あるいは反発のもとにその後の社会学はさまざまな展開を見せるこ とになる。ここではパーソンズ以降の社会学について概説する。 教科書・指定図書 試 験
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