〔科目名〕 〔単位数〕 2 西洋の哲学 〔担当者〕 井上 まや INOUE maya 〔科目の概要〕 〔科目区分〕 教養科目 〔オフィス・アワー〕 時間:授業終了後随時 場所:教室・講師控室 「人間の自然の征服とは、人間が得意になって考え出した勝手な文句にすぎない」とレイチェル・カーソンは『沈黙の春』の中で述べ ている。21世紀を迎え、自然は様々な問題を我々に投げかけている。まるでカフカの小説を読んでいるかのように、出口がなく、物 事の裏と表もわからず、自分の立っている世界もわからない。おそらく我々は分かれ道に立っているのである。人間が、理性により西 洋の思考方法をすべての基本として、素晴らしいハイウェイを猛スピードで長い間旅をしてきた。地球温暖化による異常気象、大気汚 染、生態系の問題等、はますます解決の困窮さを露呈し、我々が身の安全を考えるならば、分かれ道のもう一つの道を選択する方法も ある。杣道(そまみち)で人があまり入り込まないので未知の道である。ハイデッカーは現代がニヒリズムに陥っている時代だと分析 した。高度のテクノロジー社会で、機会の平等という競争原理の中で,能力があるもの頑張ったものがアメリカンドリームを実現でき る。格差は当然の結果である。かくして貧しきものはさらに貧しく、富めるものは更なる欲望を駆り立てていく。時代の閉塞感と指針 のないコンパスを持ち我々は何処へ向かっているのか?戸口に立つ不気味な訪問者に気付きながら,文明の深い闇へと沈んでいくのだ ろうか?最近の IS のテロ集団の行為は人間の持つ残虐性を想起させた。細分化された専門分野とヨーロッパの近代哲学は,高度に発展 した現代のテクノロジー文明や社会のシステム,およびそれを支える西欧中心主義イデオロギーの形成に大きな役割を果たした。近代 ヨーロッパが信奉してきた人間の理性が,科学技術を花開かせ19世紀から20世紀を動かしてきた。 「神の追放」を果たし、世界の舞 台で活躍してきた人間中心主義=理性主義は第一次世界大戦を経て、非ヨーロッパの非合理的なものとぶつかり合い相対化されていく。 さらに大衆社会が経済を変質させ,グローバル化していくことにより,境界を瓦解させわれわれを支えて来たすべてのものの起源や痕 跡を消し去っていこうとしている。国境のなくなった世界がイメージできるであろうか?デカルト以来、二元論や二項対立的な思考法 で問題を考察してきた。二元論は対立関係によって事柄を説明する。例えば世界の秩序づけは一方の項が他の項よりも優位にたつもの を中心に世界が秩序づけられる。こうした考え方は、世界の特定の部分だけが特権的な地位を占め、ヨーロッパと非ヨーロッパとうい ように近代の知は対系づけられてきた。20世紀初頭の西洋の思想的背景を分析し,さらに現代社会のおける知のテーマを取り上げ、 その問題性を、社会•政治•経済を含めて広い意味において「哲学」的に考察する。様々なテーマから西欧の思考対象あるいは思考方法 を徹底的に学んで欲しい。日本と西欧の思考の違いを学ぶことにより、それぞれのバックボーンとなっている社会的•政治的•倫理的• 諸問題の差異を認識することができる。中心となる哲学者はハイデガーであり、哲学を解体し,再構築するために提示したテーマは様々 な分野に及んでいる。この講義でもいろいろな側面からのアプローチを試みる。 〔「授業科目群」・他の科目との関連付け〕・〔なぜ、学ぶ必要があるか・学んだことが、何に結びつくか〕 近代は西欧の知の原理に貫かれて世界が動いてきた。現代はグローバルスタンダードと言われているが,アメリカンスタンダードで世 界が動いていると考えられる。社会のシステムは市場経済の原理で動いていっているといっても過言ではない。市場経済が突きつけた 問題点は現代社会が解決できなければ後世の人々に負の遺産として渡さなければならない。世界で格差の問題がクローズアップされて いる。ピケティの『21世紀の資本』が富の集中から格差と貧困の新しい分析は興味深い。こうした問題を解決する中心となるのが経 済システムであろう。例えば、日本企業の雇用システムの急速な変化は、リストラ・失業者の増大・若年者の就職難など日本社会の構 造転換という現象をもたらしている。それぞれの国家がもつ異質性や多様性を喪失させ、均質性を生み出すグローバル化は、本当に人 類の幸福をもたらすであろうか。リーマンショック以来の市場の不透明さや今回の大震災、原発問題、中国や韓国のパワーに押され気 味の日本。日本を見つめ直す機会として捉えたい。西洋哲学を学び、日本独自のアイデンティティを追求して欲しい。そこから再度グ ローバル化の本質について見えてくものがあると思われる。専門科目や他の教養科目から学び取った知を、文化・政治・経済などあら ゆる側面から社会のシステムを考察し、新たな人類の生き方を考えて欲しい。 〔科目の到達目標(最終目標・中間目標)〕 (1) 自分の興味のあることだけに関心を示すのではなく、人間の存在つまり自分の存在は世界という大きなシステムと関わっていることを認 識すること。近代の二元論が容易に普遍主義思考に導き、そうした世界観がわれわれに残した現代の問題を考察する。 (2)自分の意見・考えを積極的に述べる。問題解決を様々な視点から考察することを学ぶ。 <中間目標> 個別的な社会問題のテーマを関連づけ、経済や政治が哲学的諸問題と深く関わっていることを認識する。 〔学生の「授業評価」に基づくコメント・改善・工夫〕 レジュメと授業の関連を説明しながら授業をする 授業中の説明で分かりにくいことがあったら、その都度質問し,疑問を解決すること。質問は歓迎します。板書が読みにくい場合でもそ の都度指摘して欲しい。 〔教科書〕 教科書は使用しない。15回分のレジュメを配布する。 〔指定図書〕 なし 〔参考書〕 高橋哲哉「デリダ」講談社 2001年 梅木達郎「脱構築と公共性」松籟社 2002年 サミュエル・ハンチントン 鈴木主税訳 「文明の衝突と21世紀の日本」 集英社新書 2004年 ハイデガーの思想 木田元著 岩波新書 1993年 哲学の実存;ヤスパースとハイデガー 逆説の民主主義—格闘する思想— 社会学にできること 日本辺境論 大澤真幸著 西研/菅野仁 著 内田樹著 レイチェル・カーソン リヒャルト・ヴィッサー著 林隆也訳 理想社 1997年 新潮新書 角川書店 ちくまプリマー新書 2008年 2009年 2009年 『沈黙の春』で環境問題を読む 筑摩書房 トマ・ピケティ著『21世紀の資本』の衝撃 現代思想 異邦人 アルベルト・カミュ 窪田啓作訳 新潮文庫 〔前提科目〕 な し 〔学修の課題、評価の方法〕( テスト、レポート等) 課題 出席 20% 全授業15回の3分の1を欠席した場合単位は認められない。 授業中に与えられる課題 最終レポート 80% 〔評価の基準及びスケール〕 課題レポート 出席 授業で書かせるコメントの合計点 A 100‐80 B 79‐70 C 69‐60 D 59‐50 F 49‐ 0 〔教員としてこの授業に取り組む姿勢と学生への要望〕 各講義の内容はシラバスにそって行います。その都度問題となるテーマを授業の最初に明確にします。 積極的な態度で授業に出席してく ださい。疑問に思ったこと分からないことはその都度解決するために 遠慮なく質問してください。レポートを書く際に、インターネットからの引 用を参考文献としてあげる学生がいますが、参考として使うことは結構ですが、すべての資料がインターネッのサイトからの引用ではレポート としては認めません。また、ネットの文章をそのままコピーする学生が毎年います。つまり内容が同じレポートがある場合にはどちらも F です。 授業スケジュール 第1回 第2回 第3回 テーマ(何を学ぶか): 内 容: 哲学の問題 哲学史から見た哲学の問題 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):近代哲学のアウトライン 内 容:キェルケゴールからハイデガー 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):近代から現代(1) 内 容:ヨーロッパの価値転換―ニヒリズムー 神なき時代の人間分析 教科書・指定図書 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第 10 回 第 11 回 第 12 回 第 13 回 第 14 回 第 15 回 試 験 テーマ(何を学ぶか):近代から現代(2) 内 容:近代理性の破綻―西洋の没落・ヨーロッパの悲劇― 世紀末と第一次世界大戦 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):ニヒリズム 内 容:ニーチェ哲学 目的の喪失キーワード 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):ハイデガー哲学のキーワード(1) 内 容:死にさしかれられた存在としての人間 現代文明とニヒリズム 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):ハイデガー哲学のキーワード(2) 内 容:現存在 世界内存在 Dass Man(ダス マン 顔のない人間存在) ハイデガー{存在と時間}における人間分析 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):大衆社会―第二次世界大戦― 内 容:世界が大衆によって動かされる危うさ 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):民主主義と普遍主義 内 容:ハイデガーとナチズム なぜナチズムが生まれたか 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):究極の人間理性- アウシュヴィッツとヒロシマ 内 容:本来的人間 民族主義 人間の理性の再考察 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):多数決と正義 倫理的ジレンマ 内 容:正義の定義 (人間の生の重さ) 「等しい」という概念について 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):アメリカ文明の影響 内 容:技術主義と故郷喪失 資本主義と労働観の変容 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):哲学と「豊かな社会」 内 容:「資本主義的豊かさ」とは何か 自由と多様性 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):現代社会における哲学の位置づけ 内 容:倫理的パラダイムの再構築 高度専門化と教養 教科書・指定図書 テーマ(何を学ぶか):講義の結び 内 容:グローバリズムと人間存在 教科書・指定図書 レポート
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