クレアシンガポール事務所 外国人労働者の受け入れにはバランスが必要 シンガポールでは自国の少ない人口や少子化などによる人材不足を補うため、これまで 外国人労働者を積極的に受け入れ、人口の約4割が外国人となっている。 2011 年に実施された総選挙では、外国人労働者の増加による国民の雇用機会の喪失、不 動産価格の高騰、公共交通機関の混雑などに対する国民の不満などが起因し、与党である 人民行動党が 60.1%と史上最低の得票率で議席を減らし、その後の補欠選挙でも敗北する 結果となった。 これを受けシンガポール政府は外国人労働者の流入を段階的に抑制する方針へと転換を 図っていった。メイドを除く 2014 年の外国人就労者増加数は2万6千人で、11 年の8万人 から大幅に減少している。 9 月 11 日に実施された今回の総選挙で争点の一つともされた外国人労働者政策について、 リーシェンロン首相は 8 月 23 日(日)の独立記念集会の演説で「とても慎重に扱うべき問 題で簡単な答えはない」と述べ、「どのような選択をしてもわれわれは多少の痛みを伴う。 過度な抑制や緩和を行うと国内の社会経済に影響が出る。バランスを保たなくてはならな い。」と国民に理解を求めた。この発言からは、国民の不満への対応と経済成長を一定程度 外国人に頼らざるを得ない事実との間で苦しむ様子が見え隠れしている。 8 月 20 日(木)には、シンガポール人的資源省が生産性向上策を進める中小企業を対象 に、外国人労働者雇用規制を最長3年間、緩和する計画を発表している。対象企業は、高 技能外国人労働者の採用枠や比率の緩和、地元の人材育成に必要な専門知識を持つ外国人 の採用が認められる。しかし同省は、外国人労働者の流入抑制は維持すると強調した。 今回の総選挙では与党が圧勝したことで政府が進める外国人労働者政策が国民の一定の 理解を得たものとみられる結果となったが、国民も首相と同様に苦渋の選択であったのか もしれない。
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