能 面 の こ と は 能 面 が 教 え て く れ る 。

PERSON
仏師を志す方向へと傾けられた。仏像を彫るために
切り口でしたが、能楽に嵌まると抜け出せませんよ
飛び込んだ木彫教室で、表情の勉強にと勧められた
(笑)
。その面白みを、今回の公演で多様な切り口で
紹介することにより、少しでも味わっていただけた
のが「能面」だった。
能 面のことは能 面が教 えてくれる││ 。
らと思っています」と、伊庭さん。
表紙の気になる人
能面
(面打ち)
は基本、伝来の面を写すこと。古い
面を訪ねては探究することを繰り返すうち、0 . 1ミリ
能面作家
い ば て い い ち
東近江市
伊庭 貞一 さん 63歳
単位の彫りで左右される表情の違い、舞台で吹き込
まれる新たな表情、能楽師の違いによる表情の変化
など、たちまち能面の奥深さに魅了されたという。
「優れた面を作るには優れた面を見ることが大切。そ
からだ
うすることで、身体で理解できるようになるんです。
能面作家として、能楽師に命を吹き込んでもらえる
瞬間が一番の喜びですね」と、伊庭さん。
県民の主体性を尊重し、新たな感性で創造する文
化・芸術の発展を目的に、滋賀県文化振興事業団が
公募により実施する県民企画提案事業「はじめての
人のための能鑑賞『能装束着付実演と能 船弁慶』」
が2月15日13時、滋賀県立文化産業交流会館小劇
場で開催される。企画提案者である「滋賀県能楽文
化を育てる会」の副会長で、公演の第二部「着付実
演・能楽解説」で能面解説を担
当する伊庭さんに、能面の
魅力と能面からみる能楽
の世界を聞いた。
勤続30年を機に、勤
めていた会社を退職し
た の が48歳。経
験を重ね、仕事
的にも人間的に
も成熟して脂が
乗る、働き盛りの
時期にも関わらず、周
囲の反対を押し切って
も貫いたのが“能面の
道”だった。
術の教科書に注がれた。とりわけ、阿修羅像などの
仏教美術や高村光雲作「老猿」などの彫刻作品に心
奪われたそうで、食い入るようにページを眺める
日々。美術の成績もよく、将来は芸術家への道も夢
みたが、家庭環境にゆとりが無かったことから高校
では機械科を専攻し、卒業後は電機会社の技術部に
就職する。
大津市の京町に生ま
れ、家の近くにあった製
材所の木の香りに包まれ
ながら育つ。日曜大工を
器用に熟す父親の影響から
か、小学校高学年にしてノミ
かんな と いし
や鉋、砥石などの彫り道具一式
を 揃 え て も ら っ て い た と い う。
小、中学生時分の興味は、もっぱら美
平成26年度県民企画提案事業
社会人として少し落ち着きをみせた頃、現実
(生
計)
と理想
(芸術)
の狭間で揺れ動く気持ちから、自ず
と「禅」の道へと誘われたという。月に 1 度、京都
市北区にある一様院に通い、心と身体、己と向き合
う生活が続いた。40代に入り、設計現場を離れて管
理職を任されると、物づくりへの衝動が溢れ出す。
そ
の思いは、
幼少から慣れ親しんだ木の温もり、振り返
れば常に仏道と共に歩んできた人生とが相まって、
プラス
はじめての人のための能鑑賞
能装束着付実演と能「船弁慶」
●日 時/ 2月15日
(日)
13:00開演
(12:30開場)
●料 金/ 一般前売1,800円、
当日 2,300円
[会場・問合せ]滋賀県立文化産業交流会館 小劇場
TEL.0749-52-5111
α
能装束と能面の展示
古橋竹謳会、滋賀能楽
文化を育てる会会員の
作品が会場ロビーに並
びます
ck
みどころChe
義経や弁慶、静御前など、誰もが一度は耳にしたことのある人物が登場する、
わかりやすい内容の舞台です。物語は弁慶を中心にテンポよく進み、前場の
なぎなた まいばたらき
静御前の優美な舞や、後場での薙刀を振るう荒々しい舞働など、変化に富む
だい もつ あい
劇的な曲になっています。また、大物の浦から大海原へ展開する場面では、間
さお
の船頭の腕の見せ所となっており、棹さばきやワキのとのやり取りなどから、荒
れ狂う海が目の前に広がるかのような臨場感溢れる所作が見られます。
一方、能面を知るには能楽のルーツも学ばなけれ
ばならないと歴史を紐解くうち、中世、滋賀には能
の原形とされる「猿楽」が盛んで、近江猿楽 6 座の
うち「日吉座」の犬王は都でも評判が高く、観阿弥、
世阿弥もその芸を取り入れたともいわれていること
や、浅井郡七条村
(現長浜市七条町)
に「近江井関」
という能面打ちの集団が存在し、江戸時代に活躍し
た 4 代目井関家重は将軍から「天下一」の称号を与
えられるなど、滋賀で育まれてきた能楽、能面文化
の歴史の重さを知ることとなる。その歴史を多くの
人に知って欲しい、伝統を語り継ぎたいとの思いか
ら能登川で能面教室を開講するも、滋賀に住む人の
関心が薄いことを肌で感じるようになった。折しも、
同地で謡、仕舞に関わる中で同じ悩みを抱えていた
呉服屋扇久の出路さんと出会い、また同志を抱く滋
賀の能楽師と共に「滋賀能楽文化を育てる会」を発
足。現在、継承と普及に務めている。
伊庭さんは「私の思いは、滋賀の地で育まれ受け
継がれてきた伝承を守り、次世代に伝え広めること
が、今の使命だと感じています。日々、精進ですね」
と話す。
今回、 2 度目となる県民企画提案事業への応募も、
滋賀の能楽文化の伝承と発展を目的としている。
「能
は想像力を膨らませて鑑賞しなければならない部分
もあるので、少し近寄りがたい印象を持つ方も多い
のではないでしょうか。確かに、一朝一夕で伝わる
ものでもないと思います。ただ、能は噛むほどに味
わいが出てくる昆布のようなもの。私は能面という
[第1部]
Profile
────────────────────────────────────────
1951年、大津市生まれ。99年から能面打ちを始め、2002年に能面師・中村光江氏
に師事。04年、伊庭能面教室を能登川町に開講
(現在県下6カ所)
。05年に
「滋賀能
楽文化を育てる会」
を発足。同年、福井県国民文化祭
「能面の祭典」
にて国民文化祭
実行委員会会長賞、13年には
「第七回島熊山能面祭・能面公募展」
で大賞
(大槻文蔵
賞)
を受賞するなど、数々の功績を収めている。
[第3部]
▍謡仕舞の発表
▍能
●
「滋賀能楽文化を育てる会」会員
子方・源義経 浦部 春仁
●滋賀県立大学能楽部
前シテ 静御前
古橋 正邦
後シテ 平知盛の霊 ●文学解説「平家物語と船弁慶」いかいゆり子
▍船弁慶
[第2部]
▍着付実演・能楽解説
●能面解説(滋賀能楽文化を育てる会)
ワキ・武蔵坊弁慶 原 大
ワキツレ・従者 原 陸
間・船頭 茂山 正邦
●着付実演(観世流能楽師、古橋正邦、分林道治、梅田嘉宏 他) 後見 浦部 幸裕
●能舞台、シテ、ワキ、地謡、お囃子等の解説
地謡 梅田 嘉宏
●ナレーション「船弁慶」井上由理子
塚本 和雄
浦部 好弘
大鼓 河村 裕一郎
小鼓 林 大和
太鼓 前川 光範
笛 左鴻 泰弘
分林 道治
Ⓒ牛窓雅之