2015年6月記事 - 全造船機械労働組合

企業・産業動向レポート
= 2015年6月1日~30日の報道内容 =
Ⅰ.各分会所属企業、関連企業・関連地域の状況
◎函館どつく関連
◆函館どつく/前期経常益57%増33億円/今期経常トントン予想 名村造船所子会社・函館どつくの2015年3月期経常
利益は、前の期比57%増の33億円となった。建造しているハンディサイズバルカーの採算改善が主因。一方、16年3月
期の経常利益は、建造船の採算悪化を反映してトントンを見込む。15年3月期の売上高は、前の期比5%増の316億円。新
造船は3万2,000重量㌧型ハンディサイズバルカー3隻、3万4,000重量㌧型ハンディサイズバルカー3隻の計6隻を引き
渡した。部門別の売上高は、新造船が13%増の222億円、修繕船が4%減の85億円、橋梁陸機ほかが4%減の8億円だっ
た。営業利益は建造船の採算改善を反映し、57%増の33億円だった。純利益は3.2倍の23億円となった。16年3月期の業
績は、建造船の採算悪化を映し、経常損益がトントンとなる見通し。売上高は前期比17%減の260億円を見込む。新造船
は3万4,000重量㌧型ハンディサイズ6隻を引き渡す予定。営業利益、純利益の予想数値は公表していない。
◎東北地方造船関連
◆水産の街・気仙沼の挑戦 ≪造船・下降、復活へ集約≫波の静かな気仙沼湾に面した広大な土地では現在も重機
の作動音が響き、流失した建物の基礎撤去工事などが続く。年内にもこの一角で造船所の建設が始まり、巨大な設備
が姿を現す。地元の中小造船4社が震災で傷ついた自社の施設を打ち捨てて合併する新会社「みらい造船」の拠点だ。
≪地元4社の決断≫その一社、吉田造船鉄工所の設備は津波をかぶり、震災から4年が過ぎても仮復旧の状態だ。「今
後10年は今の設備を使えるが、その先に未来はあるか」。合併構想が持ち上がったとき、吉田慶吾社長は自問した。漁
船の建造では漁労長一人ひとりの漁法の癖などに応じて、船舶ごとに内部構造を細かく調整する独特の技術が必要。
これを若手に伝えるため、合併の覚悟を決めた。吉田造船は2002年に民事再生法の適用を申請し、取引先などの支援
を得て再建を果たした。「助けてくれた方々や残ってくれた社員のためにも、気仙沼で船を造り続ける」(吉田社長)17
年に操業を始める新たな造船所は巨大な台に船舶を乗せ、海中から引き上げる。まだ日本に2カ所しかない特殊な施
設だ。大型船を扱いやすく、防衛省や海上保安庁などの艦艇も建造できるようになる。4社は手を結び、震災前とは大
きく異なる姿に進化する。
◎いすゞ自動車
◆GMに中型トラック/いすゞ、米で供給提携拡大 いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)は米国の中型トラック
事業で提携する。いすゞが生産した車両をGMが「シボレー」ブランドで2016年から販売する。両社は06年に資本提携を
解消したが、14年に小型商用車の共同開発を始め「復縁」した。連携をトラック分野にも広げ、事業関係を強化する。両社
が近く発表するとみられる。いすゞが積載量4㌧規模の中型トラック、Nシリーズ(日本名エルフ)をGMに供給する。小回り
がきく車両のため、街中で配送する運送会社などの需要を取り込む。米中型トラック市場は堅調で、GMは日本で同分野
のシェアが高く、長く提携関係があったいすゞと連携する。ディーゼルエンジン車は藤沢工場(神奈川県藤沢市)から輸
出し、ガソリンエンジン車は米国の組み立て委託先から供給する。いすゞはGMへの供給で車両の量産効果を見込む。供
給台数など詳細は今後詰める。GMはガソリンエンジンや変速機をいすゞに供給する一方、中型トラック事業に事実上、再
参入する。いすゞは1971年にGMの出資を受け入れ資本業務提携していたが、経営危機に陥ったGMが06年にいすゞ株を
売却。その後、トヨタ自動車や商社がいすゞに出資したため、現在はGMと資本関係がなくなっている。ただ、14年9月にG
Mといすゞは新型小型商用車(ピックアップトラックなど)の共同開発で合意。事業面での連携拡大を模索してきた。過去
に両社はトラック事業で協力関係を築いたことがあったが、GMの経営難から連携は休止していた。
◆GM、商用トラック補う/いすゞと提携発表、米で通販需要 いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)は16日、米国
の中型トラック事業で提携すると発表した。いすゞが生産した車両をGMが「シボレー」ブランドのトラックとして2016年か
ら販売する。両社は06年に資本提携を解消したが、14年には小型商用車の共同開発に乗り出した。トラック分野でも連
携し事業強化を図る。いすゞが積載量4㌧規模の中型トラック、Nシリーズ(日本名エルフ)をGMに供給する。ディーゼルエ
ンジン車は藤沢工場(神奈川県藤沢市)から輸出し、ガソリンエンジン車は米国の組み立て委託先から供給する。街中で
配送する運送会社などの需要を取り込む。日本で同分野のシェアが高く、提携関係が長かったいすゞと連携する。米国
の物流事情が変わり、GMが商用トラックに熟視線を注ぐ。ネット通販が浸透した米国では物流の主役が再びトラックにな
りつつある。ネットで買い物を済ませる消費者の元に商品を届ける「ラスト・ワン・マイル」のきめ細かな輸送網が不可欠
だからだ。ハブ空港と地方空港を航空機で結ぶ独自の輸送網を築き上げた米物流大手フェデックスも、航空機を1割減
らす一方でトラック輸送網の強化に力を入れる。米小売大手の間ではトラック業者の争奪戦が広がっている。
◆いすゞ・日野/バス開発 ≪連結型、五輪の輸送力向上≫いすヾ自動車と日野自動車は路線バスを共同開発する。車
両をつなぎ1度に多くの乗客を運べる「連接バス」を開発し、2020年の東京五輪に向け新たに整備する交通網で使うこ
とを想定している。両社はバスの生産子会社を折半出資で設立するなど協力関係にあるが、日本の大型車の大手2社
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が車両開発でも組み需要を掘り起こす。新型バスの共同開発に向け協議を始めた。これまで両社はバスの生産で協力
してきたが、共同開発まで踏み込むのは初めて。既存の路線バスをベースに、連接部の部品は外部調達するなどして開
発する方針だ。全長や乗客数、ハイブリッド技術や燃料電池技術の活用など詳細は今後詰める。一般のバスは乗客数が
60-80人とされ、連接バスは単純計算すると2両で2倍、3両で3倍になる。海外では連接バスの専用レーンも珍しくな
い。日本では専用レーン建設が難しいため一般道でも曲がれるサイズの車両を開発する見通しだ。
◎住友重機械
◆造船事業で採用再開/住重が3年ぶり 住友重機械工業が3年ぶりに造船事業で新卒採用を再開した。2008年のリ
ーマン・ショック後の世界不況や円高で新造船受注が激減し、13年度には約半年間にわたり、仕事がない状況を味わっ
た。円高是正で苦境を脱し、昨年度投入した省燃費新型タンカーで6隻の契約を獲得するなど足元は3年分の受注残を
確保。15年度には3年ぶりの事業損益の黒字化を見込む。自動車メーカーや他部門に応援派遣していた従業員も4月ま
でに戻り、平時を取り戻した横須賀造船所(神奈川県横須賀市)ではカイゼン活動が再び動き始めた。≪円高是正で採
算改善、受注残も3年分確保≫「新卒採用は造船をきちんとやっていくメッセージ。現場の雰囲気は良くなっている」。住
重の造船子会社、住友重機械マリンエンジニアリング(東京都品川区)の宮脇伸賢社長は明るい表情を浮かべる。4月に
大卒2人、卒技能系5人、同設計1人の合計8人が入社。来年4月には中途を含め33人の正社員を追加する予定だ。今後
も毎年10人前後の新卒採用を継続する方針。背景にあるのは「船舶」セグメントの採算改善に他ならない。手持ち工事
がなくなるとされた「2014年問題」が直撃し、直近2カ年は営業赤字に転落。10年度、11年度に100億円前後の営業利益
をたたき出し、営業利益率16-18%超で全社の稼ぎ頭となっていた勇姿は見る影を笑った。一時、決算発表時には「赤
字継続は認められず、今年度内をめどに事業の方向性について検討し成案を得る」との方向性が示された。円安の進
展を受けて、13年度後半から状況が一変。「アフラマックス型」と呼ばれる10万重量㌧級タンカーを相次ぎ受注。17年度
いっぱいまでの手持ち工事(12隻)を確保した。現状は船価が極めて厳しい時期に受注した不採算船の建造が残るが、1
5年度下期からは操業回復、個別工事の採算改善により黒字転換を見込む。「まだ病み上がり」と宮脇住重マリン社長は
話すが、横須賀造船所(神奈川県横須賀市)の長さ560㍍×幅80㍍の巨大ドックは工事で埋まり、岸壁にも艤装途中の
タンカーが係船される。ピーク時の年産9-10隻からはかけ離れているが、同3隻体制まで絞り込んだ底辺からは抜けだ
した。協力会社社員500人を含めた合計約900人で、今後年4-5隻建造体制へと生産レートを上げる。ただし、大型の設
備投資や増員などは計画していない。住重は03年に当時の関東自動車工業(現トヨタ自動車東日本)から指導を受け、
横須賀造船所にトヨタ生産方式を導入。建造船種を中型タンカーに絞り、量産による習熟効果などで高い生産性を生み
出した。厳しい中でも14年度には前年度比3%の工数低減を実現。カイゼン活動のアクセルを踏み「15-16年度の2年間
で10%の工数低減が目標だ」(宮脇住重マリン社長)。目玉になるのが3次元(3D)プロダクトモデルを活用した各生産工
程の作業時問や物量の標準化だ。鋼船は鋼板の水切りから始まり板継ぎや切断、平面ブロック化、塗装、小組立、大組
立、曲げ加工、ブロック艤装、ドックへのブロック搭裁、艤装などさまざまな工程を経て完成する。住重はトヨタ生産方式
に基づき、工事進行を各工程で管理している。問題を工程内で早期解決し、後工程へのしわ寄せを排除。手待ちなどの
無駄をなくし、リードタイムを短縮する。現状は各工程2時間単位だが、3Dプロダクトモデル導入により1時間単位に管理
メッシュを短縮するめどをつけた。「将来は15分単位を目指す」(同)。たくさんのパイプやケーブルが張り巡らされる主
機関(エンジン)周辺のブロック艤装では、必要とされる部材が大きな通い箱に入って横付けされ、作業者がパソコンで
取り付け位置を3次元モデルで確認できる。手戻りは大幅に減った。技能伝承の標準化も進めており、映像などを交え
たカリキュラムを使い「作業者を一人前にするのに半年かかっていたところを、3カ月に短縮する」(住重関係者)。懸念
もある。足元のドルベースの船価は利益の出る水準にあるが「昨年末から緩やかに下降気味」(宮脇住重マリン社長)。
名村造船所や常石造船など国内の有力造船所との競争激化や韓国中堅造船所による値下げ攻勢など、供給圧力が強
まっているためだ。これに対し、住重はアフラマックス型タンカー一本足から脱し、6万重量㌧級「パナマックスタンカー」
や15万重量㌧級「スエズマックスタンカー」など船種拡充を計画するなど秘策を練る。″小粒な大手造船所″として生
き残りをかけた正念場は続く。
◆三菱重工/矢継ぎ早に事業再編 ≪機械・設備部門を中心に製品再構築≫三菱重工業が、製品戦略の見直しによる
事業再編を次々と打ち出している。5月初めに新事業計画を発表した後、わずか1カ月の間に産業用クレーンの売却や
工作機械事業の分社、トンネル用シールド掘進機の統合などを明らかにした。10月には長崎造船所での商船事業分社を
控えるが、同時期には他事業でも次々と事業改革が進む。三菱重工では昨年までに、火力発電システムの日立製作所
との統合と、製鉄機械事業の独シーメンスとの統合という2つの大型事業再編をまとめた。売上高5兆円、株主資本利益
率(ROE)10%以上といった数値目標の達成に向けて事業再構築を猛スピードで進めており、競合他社との事業統合か
ら、事業撤退まで、あらゆる形態を選択肢に入れている。この流れが、加速している。先月だけで、別表のような事業再
編を公表した。トンネル用シールド掘進機事業は、IHIとJFEエンジニアリングと事業統合を目指すことになった。工作機
械事業を10月1日付で分社。また、デッキクレーンなどの油圧機械と加速器、高度道路交通システム(ITS)の各事業は子
会社に集約する方針だ。産業用クレーンは住友重機械に売却。農機事業は、インド系企業と提携する。再編対象となって
いる事業の多くは、「機械・設備システム」ドメインに属する製品。5月に発表した2017年度を最終年度とする事業計画で
は、同ドメインの方向性として「事業再編のさらなる加速」を掲げており、この戦略を具体化に移しているといえる。ま
た、海外市場開拓というねらいも共通している。従来は公共事業や日本企業に支えられてきた事業が多いが、長期的
に内需の縮小が見込まれるため、事業強化で海外市場を目指すねらいがあるようだ。造船事業では、今年10月に長崎
造船所香焼工場での大型商船事業を2つの子会社に分社することが予定されている。まずは商船のコスト競争力など
を再構築するのがねらいだが、会社全体の事業改革の流れが、次段階として商船の他社との協業なども含めた再編に
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つながる可能性もありそうだ。このほか先月には横浜金沢工場の閉鎖も発表しており、生産拠点の再編にも踏み込み
つつある。
◆三菱重/一部事業の撤退・縮小 ≪特損、3年で最大で1,500億円≫三菱重工業は2016年3月期-18年3月期の3年間
に、一部の低採算事業の撤退・縮小に伴う費用として最大1,500億円の特別損失を計上する。航空機部品などの伸びを
支えに今期は営業最高益の見通しで、業績が好調なうちに事業の再構築を加速する。M&A(合併・買収)の活用で事業
を入れ替え、安定してキャッシュフロー(現金収支)を稼ぐ収益構造を目指す。≪M&Å活用し構造改革≫「構造改革費用」
として計上する特別損失は、1年で最大500億円を想定している。今期は米ボーイング向け航空機部品、火力発電設備
が伸び、連結営業利益が前期比8%増の3,200億円と3期連続で最高益になる見通し。一方、特損を計上する影響で純
利益は18%増の1,300億円と最高益(14年3月期の1,604億円)に届かない。撤退・縮小の主な対象は、数百の事業が集ま
る機械・設備システム部門だ。例えば10月に港湾で使う大型クレーン事業を住友重機械工業に譲渡し、16年1月には掘削
機事業をIHIとJFEエンジニアリングと統合する。木村和明取締役常務執行役員は「中小規模の事業の再編・統合を急ぐ」
と話す。事業の縮小・撤退をすれば生産設備の減損などが発生し、利益を圧迫する。「どの事業と決めているわけでは
ないが、毎期500億円の特損を出せるのを前提に事業の見直しに取り組む」(野島龍彦・最高財務責任者)一方で、競争
力を高められると判断した事業は積極的に取り込んでいく。4月に設置したオイル&ガス事業開発室を中心に同分野で
のM&Aを模索し、機械・設備システム部門では子会社のニチユ三菱フォークリフトが産業革新機構傘下のユニキャリア
ホールディングスの買収に名乗りをあげている。事業の入れ替えを急ぐのは、キャッシュフロー重視の経営を掲げてい
るためだ。中期経営計画では、16年3月期と17年3月期にフリーキャッシュフロー(純現金収支)でそれぞれ1,000億円を
見込み、国産小型旅客機「MRJ」への投資が一巡する18年3月期に2,000億円を視野に入れる。宮永俊一社長は「事業が
生み出す資金をMRJなどの成長事業に振り向け、売上高で5兆円規模の高収益企業にする」と話している。
Ⅱ.国内造船・造機関係の動向
◆5月の受注/3倍の147万総㌧ ≪輸組統計、11カ月ぶリブラス、コンテナ牽引≫日本船舶輸出組合(輸組)が17日発表
した5月の輸出船契約実績は17隻・147万総㌧だった。総㌧ベースで前年同月の3.2倍となり、11カ月ぶりに前年同月を
上回った。昨年5月が低調だったため、対前年同月比では大幅な増加となった。コンテナ船やVLCCなどバルカー以外の
船種が牽引した。1-5月累計では15%減の95隻・617万総㌧だった。5月の契約船の内訳は貨物船7隻(コンテナ船4隻、
自動車運搬船3隻)、バルカー9隻(ハンディ2隻、ハンディマックス6隻、パナマックス1隻)、タンカー1隻(VLCCl隻)。5月は
バルカー以外の船種が総㌧ベースで全体の8割を占めた。17隻のうち純輸出船は7隻だった。5月の受注船の契約態様
は、㌧数ベースで円建て契約2.5%、円・外貨ミックス15.7%、外貨建て81.8%だった。現金払い契約は100%、商社契約
は3.0%。また、納期別では2016年度もの28.1%、18年度もの34.0%、19年度もの37.9%だった。竣工量に相当する通
関実績は、5月が前年同月比ほぼ横ばいの19隻・81万総㌧で、1-5月累計が1%増の136隻・543万総㌧だった。
◆5月の輸出船契約/3.2倍146万9,648総㌧、11カ月ぶり増加 日本船舶輸出組合(JSEA)が17日発表した5月の輸出
船契約実績(一般鋼船)は、前年同月比3.2倍の146万9,648総㌧となり、11カ月ぶりにプラスに転じた。隻数は17隻(前年
同月は14隻)。超大型タンカー(VLCC)やコンテナ船など大型船契約が寄与し、トン数ベースでは大きく伸びたものの、
隻数の増加幅は限定的。船腹過剰は変わらず、新造船マーケットが回復したとは言い難い状況だ。船種別内訳はコンテ
ナ船4隻、自動車運搬船3隻、ハンディ型バラ積み運搬船2隻、ハンディマックス型バラ積み船6隻、パナマックス型バラ積
み船1隻、VLCCl隻。前年同月は中小型バラ積み船主体だったが、市況低迷でタンカーなどへのシフトが鮮明になってい
る。契約形態(トン数ベース)は円建て2.5%、円・外貨ミックス15.7%、外貨建て81.8%。納期別では16年度28.1%、18年度
34.0%、19年度37.9%。一方、通関実績は19隻、同0.5%増の80万5,15総㌧。5月末時点の手持ち工事量は630隻、2,885
万7,458総㌧となった。
◆5月受注3倍の147万総㌧/船舶輪組まとめ 日本船舶輸出組合(船舶輸組)が17日発表した5月の輸出船契約(受
注)実績は、147万総㌧(61万CGT=標準貨物船換算㌧)と前年同月の3.2倍(CGTベースで2.6倍)に上った。昨年6月以来1
1カ月ぶりにプラスに転じた。大型のコンテナ船やVLCC(大型原油タンカー)などの成約が総トン数を押し上げた。7月1日
以降の契約船には新国際ルール「H-CSR(調和共通構造規則)」が適用されるが、その前の駆け込み発注の動きがある
かどうかは不透明な状況。5月の契約隻数は3隻増の17隻で、このうち海外船主向けの純輸出船は7隻だった。全17隻の
船種別内訳は、コンテナ船4隻▽自動車船3隻▽ハンディサイズバルカー2隻▽ハンディマックスバルカー6隻▽パナマ
ックスバルカー1隻▽VLCC1隻。契約は全て現金払いとなっており、トン数ベースの契約形態別シェアは円建て3%、円・外
貨ミックス16%、外貨建て82%。商社契約は3%だった。納期は2016年度28%、18年度34%、19年度38%。輸出船の竣工
量を示す通関実績は81万総㌧(38万CGT)と1%増(CGTベースで2%減)だった。通関隻数は工隻減の19隻。15年5月末
の輸出船手持ち工事量は630隻、2,886万総㌧(1,399万CGT)となった。前年同月末は655隻、2,773万総㌧(1,317万CG
T)だった。
◆輸出船契約実績、5月は3.2倍に/11カ月ぶりプラス 日本船舶輸出組合が17日発表した5月の輸出船契約実績は、
前年同月比3.2倍の146万9,648総㌧だった。前年同月を上回るのは11カ月ぶり。大型のコンテナ船など貨物船の受注が
伸びた。ただ、日本勢が得意とするばら積み船は海運市況の低迷を受けて契約隻数を減らしている。「契約増は一過
性」(同組合)との見方が強い。
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◆手持ち工事量/2,886万総㌧に増加 日本船舶輸出組合がまとめた今年5月末時点の手持ち工事量は630隻・2886
万総㌧(1,400万CGT)で、総㌧ベースで4月末時点から増加した。納期別の内訳は、2015年度引渡分262隻・1,019万総㌧、
16年度196隻・867万総㌧、17年度131隻・671万総㌧、18年度32隻・247万総㌧、19年度以降9隻・82万総㌧だった。
◆4月の造船統計/竣工25隻 国土交通省がまとめた2015年4月の造船主要5工場の鋼船受注・建造実績は、起工24
隻・88万6,000総㌧、竣工25隻・78万7,000総㌧、竣工船価703億円だった。竣工船のうち国内船の実績は貨物船2隻(ば
ら積み船、自動車専用船各1隻)、自動車航送船、油送船が各1隻の計4隻・7万2,000総㌧だった。輸出船は21隻・71万4,00
0総㌧で、内訳は貨物船が19隻(一般貨物船2隻、ばら積み船9隻、コンテナ船1隻、鉱石兼ばら積み船6隻、木材兼ばら積
み船1隻)、油送船が2隻(鉱石兼油送船、LPG船各1隻)だった。マルタやバヌアツ、パナマ、シンガポール、香港、マーシャ
ル諸島向けに竣工した。鋼船修繕実績は123隻で、工事金額は76億円だった。
◆国内中堅2社減益 ≪前期業績 内海は黒字化≫デスク 上場している中堅造船3社の前期連結決算が発表され
たね。A 前の期に過去最高益を記録した名村造船所、サノヤスホールディングスがそれぞれ営業減益でした。名村の
営業益は前の期比3%減の215億円、サノヤスが32%減の22億円でした。前の期に赤字だった内海造船は、新造船事業
で、工事進行基準適用船の売上隻数が増えたことや、コスト低減、円高是正などによる工事損失引当金の計上が抑制
できたこともあり利益全項目で黒字転換しました。営業損益は前の期の19億円の赤字から1億3,500万円の黒字となり
ました。B 名村は、期初予想で、リーマン・ショック後に受注した採算的に厳しい新造船の建造が主体になること、工事
損失引当金積み増しなどで、前の期と比べ厳しい業績を予想していました。一方、期初予想を上回る円安傾向持続によ
る増収、未竣工船を対象とする工事損失引当金の大幅な取り崩し、為替差益計上などで、減益幅は小幅にとどまりまし
た。C 名村は5月末、受注していた新造船2隻を合意解約したことによる業績予想の修正を発表しました。2016年3月
期連結営業利益は、前期比80%減の43億円を見込みます。合意解約した2隻は、海外船主発注の3万4,000重量㌧型(3
4製)バルカーとみられます。第3四半期から建造開始を予定していましたが、この解約で後続船の建造工程を調整した
ことが影響します。2隻の合意解約後も、手持ち工事量は約3年分にめどをつけています。デスク 前期の各社の受注は
どうだった。A 年度後半から失速しましたが、各社とも確保しました。サノヤスは89型バルカー2隻のほか、紀型・60型
バルカー7隻の計9隻、内海では貨物船、自動車船、RORO船など計6隻確保しました。両社とも隻数ベースでは、前の期
比工隻減にとどまっています。修繕などを含めた受注高は、サノヤスが36%増の457億円、内海が34%減の295億円で
した。B 名村グループでは、14年10月から佐世保重工業が連結子会社に加わりました。前期の新造船受注高は、25%
減の964億円でした。受注隻数は伸びていると思われますが、詳細は開示していません。14年4-12月期段階で、名村本
体建造予定船として82型バルカーなど14隻、連結子会社函館どつく建造予定船が34型バルカーなど10隻、佐世保重
工建造予定として85型バルカー1隻の計25隻を成約していました。佐世保重工は連結子会社化する前の14年4-9月期
に78型バルカー1隻、85型バルカー5隻の計6隻を受注しているので、その分を入れると、名村グループでは14年4-12
月期に単純計算で31隻成約していたことになります。C 各社とも今期業績予想は、内海で増収増益を見込むものの、
名村とサノヤスは、増収減益を予想しています。世界的な船腹・建造能力過剰、海運市況低迷など厳しい状況が続きそ
うです。
◎新造船
◆新造船価相場/バルカー・タンカー横ばい 新造船マーケットでバルカーの新造船価レベルが横ばいで推移してい
る。ドライ市況底ばいの影響により小幅続落する展開が続いていたが、持ちこたえた格好。ただし、弱含み基調には変
わりない。香港船主ジンフイが先週、6万重量㌧型バルカー1隻キャンセル(解約)を公表したが、頭金10%没収後の新造
船価の残価(2,619万㌦)が足元のハンディマックスの新造船価レベルより高かったため、新造船価相場への影響は現在
のところ出ていない。最近一部下落したタンカーの新造船価レベルも横ばいとなっている。マーケット筋によると、足元
のバルカーの新造船価レベルは、ケーブサイズ5,000万㌦(18万重量㌧型)、パナマックス2,680万㌦(7万6,000重量㌧
型)、ハンディマックス2,530万㌦(6万2,000重量㌧型)、ハンディサイズ2,150万㌦(3万5,000重量㌧型)と弱含み横ば
い。下落圧力は依然として強く、目先もじり安傾向が続きそう。タンカーも足元は横ばい。VLCC(大型タンカー9,600万㌦
(32万重量㌧型)、スエズマックス6,450万㌦(15万7,000重量㌧型)。5月第3週に50万㌦安となったアフラマックスも横
ばいの5,300万㌦、MR(ミディアムレンジ)型プロダクト(石油製品)タンカーは3,650万㌦。ガス船は、LNG(液化天然ガ
ス)船が横ばいの2億㌦(16万立方㍍型)、大型LPG(液化石油ガス)船VLGCは弱含み横ばいの7,700万㌦。コンテナ船は1
万3,000TEU型が横ばいの1億1,600万㌦、2,750TEU型は弱含み横ばいの3,100万㌦、6,000台積み自動車船(PCTC)も弱
含み横ばいで5,950万㌦で推移している。
◆新造船価相場/タンカー・バルカー弱含み横ばい 新造船価相場が、バルカー、タンカーともに足元は弱含みながら
横ばいで推移している。ドライ市況底ばいの影響によりバルカーの新造船価レベルは引き続き下押し圧力が強いもの
の、タンカーの新造船価レベルは堅調なタンカー市況と、7月1日以降の契約船に新たな国際ルール「H-CSR(調和共通
構造規則)」が適用されることを回避する駆け込み発注により、6月いっぱいは大きく崩れることなく推移する可能性
が高い。マーケット筋によると、タンカーの足元の新造船価レベルは、やや弱含みながら横ばい。VLCC(大型原油タンカ
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ー)は9,600万㌦(32万重量㌧型)、スエズマックスは6,450万㌦(15万7,000重量㌧型)、アフラマックスは5,300万㌦、MR
(ミディアムレンジ)型プロダクト(石油製品)タンカーは3,650万㌦で推移している。バルカーの足元の新造船価レベル
も弱含み横ばい。ケープサイズは5,000万㌦(18万重量㌧型)、パナマックスは2,680万㌦(7万6,000重量㌧型)、ハンデ
ィマックスは2,530万㌦(6万2,000重量㌧型)、ハンディサイズは2,150万㌦(3万5,000重量㌧型)。ガス船は、LNG(液化天
然ガス)船が横ばいの2億㌦(16万立方㍍型)、大型LPG(液化石油ガス)船のVLGCは弱含み横ばいの7,700万㌦。コンテ
ナ船は、1万3,000TEU型が横ばいの1億1,600万㌦、2,750TEU型はやや弱含み横ばいの3,100万㌦。6,000台積み自動車
船(PCTC)は、弱含み横ばいの5,950万㌦で推移している。
◆新造船価/バルカー全船型で小幅続落 新造船マーケットでバルカーの新造船価レベルが全船型で小幅続落した。
ケープサイズは3年ぶりに5,000万㌦を割った。ドライ市況底ばいにより、新造発注が世界的にほぼ止まっていることが
主因。タンカーではVLCC(大型原油タンカー)の新造船価レベルが若干値を下げた。マーケット筋によると、バルカーの
足元の新造船価レベルは直近と比べ、ケープサイズが50万㌦安の4,950万㌦(18万重量㌧型)、パナマックスは30万㌦
安の2,650万㌦(7万6,000重量㌧型)、ハンディマックスは30万㌦安の2,500万㌦、ハンディサイズは20万㌦安の2,130万
㌦となった。バルカーの新造船価は全船型で、2008年秋のリーマン・ショック以降で底値となった12年のレベルに迫って
いる。12年末時点の新造船価レベルは、ケープサイズ4,600万㌦、パナマックス2,580万㌦、ハンディマックス2,430万㌦、
ハンディサイズ2,100万㌦だった。タンカーの足元の新造船価レベルは、VLCCが50万㌦安の9,550万㌦(32万重量㌧型)
となった。スエズマックス、アフラマックスはやや弱含み横ばいで、それぞれ6,450万㌦(15万7,000重量㌧型)、5,300万
㌦(11万5,000重量㌧型)。MR(ミディアムレンジ)型プロダクト(石油製品)タンカーは横ばいの3,650万㌦(5万1,000重量
㌧型)で推移している。ガス船は、LNG(液化天然ガス)船が横ばいの2億㌦(16万立方㍍型)、大型LPG(液化石油ガス)船
VLGCは弱含み横ばいの7,700万㌦(8万2,000立方㍍型)。コンテナ船は1万3,000TEU型が横ばいの1億1,600万㌦、自動
車船(PCTC)は6,500台積みが50万㌦安の5,900万㌦。
◆新造船価/バルカー弱含みも横ばい ≪ルール来月適用≫新造船マーケットで、バルカーの新造船価レベルが弱含
みながら足元は横ばいで推移している。タンカーの新造船価レベルも、やや弱含みながら横ばい。7月以降のバルカー
とタンカーの契約船には新たな国際ルールが適用されるため、新造発注が当面は見合わせとなる可能性が高く、両船
種の新造船価レベルは、じり安が続くものとみられている。マーケット筋によると、足元のバルカーの新造船価レベル
は、ケープサイズ4,950万㌦(18万重量㌧型)、パナマックス2,650万㌧(7万6,000重要㌧型)、ハンディマックス2,500万
㌦(6万2,000重量㌧型)、ハンディサイズ2,130万㌦(3万5,000重量㌧型)。足元は横ばいで推移しているものの、下押し
圧力は引き続き強い。下落圧力はパナマックス、ケーブサイズ、ハンディマックス、ハンディサイズの順で強くなってい
る。ドライ市況低迷が海運サイドのバルカ一新造整備意欲に影響していることに加え、7月1日以降の契約船に新ルール
H-CSR(調和共通構造規則)が適用されるため、造船サイドは新ルールを取り込んだデザインの新造船を開発する必
要がある。そのため、バルカ一新造発注は当面、低調にする可能性が高いと市場関係者は見ている。タンカーの足元の
新造船価レベルは、VLCC(大型原油タンカー)9,550万㌦(32万重量㌧型)、スエズマックス6,450万㌦(15万7,000重量㌧
型)、アブラマックス5,300万㌦(11万5,000重量㌧型)で、若干弱含み基調。MR(ミディアムレンジ)型プロダクト(石油製
品)タンカーは3,650万㌦(5万1,000重量㌧型)と横ばいで推移している。ガス船は、LNG(液化天然ガス)船が2億㌦(16
万立方㍍型)と横ばい。大型LPG(液化石油ガス)船VLGCは弱含み横ばいの7,700万㌦(8万2,000立方㍍型)。コンテナ
船は、1万3,000TEU型が横ばいの1億1,600万㌦、2,750TEU型はやや弱含み横ばいの3,100万㌦。自動車船(PCTC)は6,0
00台積みが弱含み横ばいの5,900万㌦となっている。
◎中古船
◆中古船価 バルカ―/一部小幅続落 ≪タンカーはVL急騰も≫中古船マーケットで、バルカーの中古船価が一部で
小幅続落した。ケーノサイズ、パナマックぺハンディサイズが船齢により直近と比べ50万-150万㌦下落した。スポット運
賃市況が堅調なタンカーでは、VLCCが船齢15年物で300万㌦の急騰をみせた。マーケット筋によると、足元のバルカー
の中古船価は、ケープサイズが新造リセールは100万㌦安の4,600万㌦、船齢5年物は100万㌦安の3,200万㌦となっ
た。船齢10年物、15年物は弱含み横ばいで、それぞれ1,800万㌦、1,100万㌦で推移している。パナマックスは、新造リセ
ール、船齢5年物、10年物は弱含み横ばいで、それぞれ2,850万㌦、1,750万㌦、1,150万㌦となっている。船齢15年物は5
0万㌦安の650万㌦を付けている。ハンディマックスは全般的に弱含み横ばい。新造リセールは2,750万㌦、船齢5年物は
1,500万㌦、10年物は1,100万㌦、15年物は650万㌦を維持しているが、高齢船ほど下落圧力が強く、目先は引き続きじり
安が予想される。ハンディサイズは、新造リセール、船齢5年物がそれぞれ横ばいで、2,150万㌦、1,350万㌦で推移。船
齢10年物は50万㌦安の900万㌦、15年物は150万㌦安の450万㌦となっている。タンカーは底堅い運賃市況を反映し、
全般的に横ばい。VLCC(大型原油タンカー)は、新造リセール、船齢5年物、10年物が横ばいで、それぞれ1億500万㌦、8,
000万㌦、5,200万㌦となっている。堅調なスポット運賃市況からみて値ごろ感のある船齢15年物は3,400万㌦と300万
㌦急騰した。スエズマックス、アフラマックスは横ばい基調。スエズマックスは新造リセール7,000万㌦、船齢5年物5,900
万㌦、船齢10年物4,000万㌦。アフラマックスは、新造リセール5,600万㌦、船齢5年物4,500万㌦、船齢10年物3,000万㌦
で推移している。
◆バルカー全船型で続落/中古船価、50~100㌦安 中古船マーケットでバルカーの中古船価が続落した。船齢にもよ
るが、全船型で50万~100万㌦下落した。一方、タンカーの中古船価相場は、VLCC(大型原油タンカー)が堅調な運賃市
況を反映し、一部で200万~300万㌦急騰した。マーケット筋によると、バルカーの足元の中古船価レベルは、ケープサイ
ズが新造リセールは100万㌦安の4,500万㌦、船齢5年物は100万㌦安の3,100万㌦となった。船齢10年物、15年物は弱含
みながら横ばいで、それぞれ1,800万㌦、1,100万㌦で推移している。パナマックスは、新造リセールが50万㌦安の2,800
万㌦、船齢5年物は50万㌦安の1,700万㌦、船齢10年物は50万㌦安の1,100万㌦、船齢15年物は弱含み横ばいの650万
㌦。ハンディマックスは、新造リセールが100万㌦安の2,650万㌦、船齢5年物は50万㌦安の1,450万㌦、船齢10年物は50
万㌦安の1,050万㌦となった。船齢10年物は弱含み横ばいの650万㌦。ハンディサイズは、新造リセールが50万㌦安の2,
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100万㌦、船齢5年物は50万㌦安の1,300万㌦となった。船齢10年物、15年物は弱含み横ばいで、それぞれ900万㌦、450
万㌦で推移している。タンカーの足元の中古船価相場は、VLCCが新造リセール、船齢5年物とも横ばいで、それぞれ1億
500万㌦、8,000万㌦。船齢10年物は300万㌦高の5,500万㌦、船齢15年物は200万㌦高の3,600万㌦となった。スエズマ
ックス、アフラマックスは若干弱含みながら横ばい。スエズマックスは、新造リセール7,000万㌦、船齢5年物5,900万㌦、
船齢10年物4,000万㌦。アフラマックスは、新造リセール5,600万㌦、船齢5年物4,500万㌦、船齢10年物3,000万㌦で推
移している。
◎国土交通省関連
◆造船人材検討会、12日に会合/国交省 国土交通省は、「造船業・海洋産業における人材確保・育成方策に関する
検討会」の第3回会合を12日に開く。同検討会は、日本の造船業・海洋産業の発展を長期的に担つ日本人技能者・技術
者の雇用拡大と育成方法の検討が目的。今回の会合では、各地の造船所が取り組む人材育成のための優れた事例を
紹介し、業界全体で活用できるベストプラクティスの共有を回る。造船業は受注の回復を受けて技術者や現場技能者の
不足が顕在化しつつある。政府では、昨年に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2014」などを踏まえ、人材
確保・育成対策の総合的な推進に取り組んでいる。
◆国交省/造船・海洋人材確保へ第3回検討会 国土交通省は12日、「第3回造船業・海洋産業における人材確保・育
成方策に関する検討会」を開催した。昨年8月の第2回に続く今回の検討会では、造船業における人材確保・育成の取り
組みの状況を昨年までの検討を受けてフォローアップするとともに、2015年度予算の関連施策も踏まえた今後の対応
を協議した。冒頭、国交省の坂下広朗・大臣官房技術審議官は「地方に立地する造船業は地域の経済、雇用を支えてい
る。昨年度は(新造船を発注する)海運業の特別償却制度の延長や、オリンピック・パラリンピックの開催を踏まえた(建
設と造船の)人材問題に対する施策をが講じられ、国会でも造船、海洋の重要性の認識を議員に深めて頂いている。造
船・海運の企業・業界への期待が高まっている」とあいさつした。また、「造船所は2年程度の新造船受注残を抱え(建造
は)回復期にある一方、海運業の船腹過剰から発注が減速し、新造船市場は一息ついている。バルカー受注がないこと
を懸念する声もメディアで伝えられているが、海上荷動量は今後も継続的に増加していく。海運マーケットは改善する。
調整局面にある現在から、今後の受注で成長を取り込み続けていくには、競争力と新分野への展開、それらを支える人
材-の3つが課題と認識している」と述べた上で、「15年度は海洋の人材に関する施策もスタートを切る。重要な課題へ
の対応に、業界と一緒になって取り組んでいきたい」と検討会の開催趣旨を述べた。
◎日本造船工業会関連
◆「双子の過剰、解消に5~10年」 日本造船工業会の新会長に16日、川崎重工業の村山滋社長が就任した。就任記者
会見で村山会長は、足元の最大の課題を「船腹過剰と造船能力過剰の“双子の過剰”」とし、過剰状況が解消して市況
が本格回復するには「5~10年程度かかる」との認識を示した。そのうえで「円高修正で当面の仕事を確保した今こそ、
長期的視点で経営を行うことが肝要」とし、人材や経営強化、技術開発などに力を入れるべきと話した。 村山会長は
就任にあたり、「中長期的には海上荷動き量の増加、スクラップ進展、新造船建造の落ち着きで“双子の過剰”は解消し、
市況好転が見込まれるが、短期的には厳しい状況が続く」、「今後も造工は『経営基盤の強化』『技術基盤の強化』『国際
協調の推進』を推進する」、「造船業は海洋国家日本として必要不可欠な産業。強固で魅力ある造船業を構築したい」
と話した。記者との一問一答は次のとおり。-最大の課題は何か。「いまは円安で一息ついているが、海運市況回復が
遅れ、新規商談も滞っており、不安感はぬぐえない。荷動き量は増えており、必ず船の需要はあるが、需給バランスが崩
れている。短期的にいかに耐え、中長期の戦略につなげるかが重要だ」-中長期的に市況好転するのは、いつ頃か。
「造船の供給過剰解消に5~10年程度かかるのではないか」-経営基盤強化と造船再編についての意見は。「経営基盤
強化では、まずは人材が大きい」「業界再編や業務提携は経営者なら当然考えるべき問題。双方がウインウインになる
なら各社の経営判断で手掛けるだろう。再編は状況次第。各社が決めたことについてはリスペクトし、造工としても応
援する」-人材不足への打ち手は。「日常的な活動として、学生向けプレゼンや技能向上の仕組みをつくっている。大き
なものを造ることに。魅力を持つ学生もいる」-村山会長は造船以外の部門出身だが、総合重工の中で造船をどう見
ていたか。「私自身は航空機出身。入社した1974年当時は造船事業が会社を背負っていた。二度の造船不況を経て、当
社も造船人員を縮小したが、その中でも日本の各社は経営を考え、川重もガス船特化や海外進出など手を打った。よく
ぞここまで皆が持ちこたえてきたという印象だ」-ブラジル造船業問題について。「ブラジル側が問題を整理して資
金が流れるまで、もう少しの辛抱。進出時より原油価格が下がっているので動きは鈍いかもしれないが、いずれ戻ると
思っている」-川重は水素運搬船なども手掛けているが、今後の技術戦略は。「他より難しいものを造っていくごとが
重要。難しい課題を与えられる方が、日本人は力を発揮できる。水素船も世界でまだ誰も手掛けていない技術。日本が
スタンダードを作り、日本が参入障壁をつくっていけば良いのではと思う」-川重には中国合弁造船があるが、中国造
船をどうみるか。「中国の大量建造で船腹過剰になっているが、中国は品質の悪い造船所から閉鎖している。川重の中
国合弁は品質が良いと世界から注文を頂いており、同じ値段で良いものを造れば世界に通用する」「日本造船業は円
高時にシェアが20%を切る水準まで落ちたが、その後回復しており、底を打った。ただし世界的な造り過ぎは変わって
おらず、建造キャパシティが大きいため、落ち着くまでには時間がかかるだろう」。
◆造工会長/船腹・造船能力「双子の過剰」、解消には5~10年必要 日本造船工業会(造工)の村山滋会長(川崎重工
業社長)は16日に都内で開いた就任会見で、海運・造船市況が船腹と造船能力の「双子の過剰」により低迷しており、短
期的には厳しい事業環境が続くとの見方を示した。「ここ2~3年造り過ぎた。それがならされる(双子の過剰が解消され
る)までには5~10年はかかる」と語った。一方で、中長期的には世界経済の成長に伴う海上荷動き量の増加、老齢船・不
採算船のスクラップの進展、新造船建造の落ち着きで、双子の過剰は解消し、市況好転が見込まれると強調した。短期
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的に厳しい状況が継続する中、足元では日本の造船所は手持ち工事を確保しているとし、造工が重点政策に掲げる経
営基盤強化、技術基盤強化、国際協調の推進の3項目を不変のテーマとして推進することの重要性を指摘した。技術基
盤強化に関しては、「難しいものを造ることは、日本にとってウエルカム(歓迎すべきこと)」と強調。自身の川崎重工で
開発している世界初の水素運搬船などを例に挙げ、「ジャパン・スタンダードとして、こちらから参入障壁をつくる活動
をすればいい」と語った。経営基盤強化につながる業界再編については、「M&A(合併・買収)に対し、前向きでも後ろ向
きでもない」と自身の考え方を披露した。「双方がウイン・ウインの関係になるのなら、積極的にやるべきだ。いまの状
況下ですぐどうこうとはならないが、今後の状況次第。そういう動きがあれば、リスペクトして応援したい」と述べた。
現地造船に出資しているブラジルの海洋資源開発については、「国営石油会社ベトロブラスの話(贈収賄問題)と原油
安で停滞しているが、今後整理され、お金が流れるのではないか。もう少しの辛抱。原油価格低迷で少し動きが鈍いか
もしれないが、いずれまた(元に)戻る」と説明した。
◆造工/副会長8人体制に拡大 日本造船工業会は16日の総会で新役員体制を決定した。今期から副会長を2人増の
8人に拡大し、新たにジャパンマリンユナイテッド(JMU)の三島愼次郎社長と大島造船所の南尚代表が就任。総合重工会
社のトップ以外で、専業造船所から4人が副会長に就く体制になった。造工の役員はこれまで長らく、会長1人・副会長6
人の体制が続き、造船大手(総合重工)から会長1人と副会長4人、中手から副会長2人が選出される形をとっていた。大
手で造船事業の分社や統合などが進んだが基本的な枠組みは変わらず、2007年以降は、三菱重工業・川崎重工業・三
井造船・IHI・住友重機械の総合重工5社から会長・副会長の計5人が選ばれ、専業2社から副会長2人という体制になって
いた。今期から定款が変わり、副会長の人数が最大8人に改められた。副会長には、総合重工系の造船専業会社であるJ
MUの三島社長が初めて就任したほか、オーナー系から今治造船の檜垣幸人社長と新来島どっくの門田尚社長の再任
に加え、一昨年まで副会長を務めていた大島造船の南代表が再び就任した。造工の新体制は次のとおり。〈会長・副会
長〉▽会長 村山滋(川崎重工業社長)=新任▽同 日納義郎(住友重機械工業相談役)▽同 加藤泰彦(三井造船会長)
▽同 釜和明(IHI会長)▽同 大宮英明(三菱重工業会長)=新任▽同 三島愼次郎(ジャパンマリンユナイテッド社長)=
新任▽同 檜垣幸人(今治造船社長)▽同 門田尚(新来島どっく社長)▽同 南尚(大島造船所代表)=新任▽専務理事
木内大助▽常務理事 桐明公男〈常設委員委員長〉▽企画委員長 村上彰男(川崎重工業)▽技術委員長 太田垣由夫
(ジャパンマリンユナイテッド)▽労務総務委員長 山本隆樹(三井造船)▽中手造船委員長 檜垣幸人(今治造船)
◎日本中小型造船工業会
◆会長に東・北日本造船社長/中小造工 日本中小型造船工業会は10日、東京都内で総会を開き、会長に東徹・北日
本造船社長を選任した。東会長は総会後に記者会見し、「騒音規制など新規制に対応することが中小造船各社にとっ
て最大の課題。これらに対処していきたい」と抱負を語った。東・新会長は会見の冒頭、「檜垣清隆・前会長の路線を受
け経ぎ、経験・力量のある副会長をはじめ、会員企業と力を合わせ、頑張っていきたい」と話した。その上で、政府のデ
フレ脱却と円安を歓迎するとした一方、2013~14年前半の新造発注ブーム後、バルカーの新造発注がほぼストップして
いること、船内騒音規制への対処、今後の新規制H-CSR(調和共通構造規則)、NOx(窒素酸化物)3次規制、海中騒音規
制などに「対応しなければならない」と強調した。また単品生産を得意とする中小造船がエネルギー効率設計指標(EE
DI)を導入以降、開発費などをめぐり単品生産が困難になってきたこと、外国人研修生の賃金が3倍に上昇したことな
どにも触れ、「中小造船を取り巻く環境は厳しくなっている」と指摘した。
◆人手不足で建造効率ダウン/中小造船、一部工程混乱、即戦力は大手へ 人手不足の影響で、中小規模の造船所で
は建造効率の低下が顕著になってきた。人員の新規採用などの手段は講じているものの、習熟度がなかなか上がら
ず、一部の中小造船所では建造効率の低下に伴って、建造工程の遅れが常態化しつつあるようだ。建設業への人材の
流出は緩和されつつあるものの、操業アップを図る造船業内での競合があり、経験者などの即戦力は規模の大きな造
船所に集中する傾向があるという。また、新規採用や外注コストの上昇などにより、建造コストも上昇している。建造工
程の混乱や建造コストの上昇が新造商談に与える悪影響を懸念する声も強くなっている。国内の造船所は深刻な人手
不足を補うため、時には未経験に近い人材を新規採用するなどの手段を講じてきた。建設ラッシュなどに伴う人手不足
は以前よりも落ち着きを見せているものの、「経験者は造船所での取り合いになってしまう。中小にはなかなか回って
こない」(中小造船関係者)。また、外国人研修生の採用を中断していた造船所でも、人手を補うために受け入れを開始
した造船所もある。ただ、建造工程の挽回には至らず、「雑用係が増えているだけで、なかなか習熟度も上がらない。意
欲も高くない」「増員しているものの、従来は100時間の操業で済んでいた工程が120時間かかるようになっている。手
戻りも増えている」といった悲鳴にも似た声が複数の造船所で上がっている。建造効率の低下を受けて、工程の混乱が
常態化しつつある造船所も複数あるようだ。用船市況の低迷などを受けて、最近は引き渡しを契約の範囲内でギリギリ
まで先送りにするケースが増えているが、複数の造船所では「ペナルティが出ないアローワンスをもらってさらに納期
を調整してもらっているが、それでも工程に余裕がない」との声も聞かれている。人手不足に起因する建造コストの上
昇も顕著になってきた。人材の新規採用や外注の増加など建造工程を挽回するためのコストがかさんでいるという。ま
た、外注費や舶用品のコストアップも建造コスト上昇に拍車をかけている。外注業者や舶用品メーカーも人手不足は同
様で厳しい状況が続いているようだ。「船体ブロックの外注単価も昨年と比べて上がっている」(国内造船所関係者)。
新造商談にも悪影響が出始めている。建造工程の遅れが常態化している造船所では、納期の面でめどが立たず、新規
の商談を進めたくとも進められない状況が続いている。また、円安という追い風はあるものの、人手不足に起因してコ
スト競争力が落ちる中、中小規模の造船所は「今のマーケット環境では、案件があってもバルカーの受注はかなり厳し
い選択になる」と指摘する。こうした状況を受けて、一定のリプレース需要などが見込める内航 船の受注へとシフト
する動きもあるが、円建ての受注になる内航船は、「円安効果がなく、コストの上昇が採算悪化に直結する」(造船営業
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担当)といった懸念もあり、受注には慎重にならざるを得ない。また、納期遵守が絶対になるフェリーなどは、設計や現
場が逼迫する中で受注にはリスクも伴うようだ。
◆造船この1カ月<上>バルカーの安値オファー続出 ≪新造船市場、国内競争激化の兆候か≫バルカーが仕事量の8
割を占める日本の造船業。バルカーの新造船需要の低迷長期化の影響が深刻化してきている。足元では新規制発効前
の期間限定で「バーゲン価格」が提示されているが、これを国内造船所間の競合激化の始まりと見る向きもある。この
ままドライバルク市況の低迷が長期化すれば、円安や燃費性能といった他国との競争優位を生かせない、熾烈な国内
競争に陥るおそれがある。日本の造船業が一丸となって、海外とバルカー以外の船種で勝負する必要性を訴える声も
強くなっている。≪売り尽くしセール≫司会 今月は新造船市場から振り返ろう。バルカーが手持ち工事の8割を占める
日本の造船業だが、需要の低迷長期化でいろいろな影響が出てきているな。― 国内造船所の一部が相場を下回る
船価をオファーしている。1つ下の船型かと間違えるような船価だという噂も飛び交っている。― ただ、船価を下げた
からといって必ずしも受注できるわけではなく、船価を下げてもなかなか決まらない。受注環境としてはここ最近では
最も悪い状況だろう。― それだけ競争が熾烈になっているということか。― 案件があってもそれに対する各社の
船価プレッシャーがすさまじいというからね。特にハンディマックスやパナマックスでの競争が激しい。バルカーを主体
に建造する国内造船所や工場にとって、これらの船型はまさに主力製品だから、競合するのは当然だけど。― ハンデ
ィマックスは昨年の高値では日本建造船で3,000万㌦を超えていたが、3,000万㌦が遠い昔の話のようだ。いまや2,00
0万㌦台中盤のオファーがあるという。― いま動いているのは底値狙いのギリシャ船主などだけ。造船所としても背
に腹は代えられず、ここを果敢に狙っていっていくしかない。― ただ、今の造船所のオファーは6月末までの期間限
定ではないのかな。造船各社がこのようなマーケット環境下でも受注を急いでいるのは、今年7月以降の契約船から新
規制の新共通構造規則(H-CSR)が適用されることを受けてだろう。規制に対応するために設計を作り直す必要がある
から、それまでに既存のデザインで船台を売り切ってしまいたい思惑がある。― 新規制適用後の新造船は、鋼材使用
量が増えて、建造コストも増える。さらに来年1月の起工船からは、大型で高価な排ガス処理装置を搭載しなければいけ
ない。両方を合わせると建造コストは数百万㌦規模の増加になるようだ。― パナマックスでも1割以上のコストアップ
か…。造船所の自助努力では吸収し切れない。― 新規制の期限まで残り1カ月を切った。契約までの諸手続きを考慮
すれば、今から新規案件をまとめるには、もう時間が足りない。― それで造船所も昨年から船主に発注を急ぐように
説得を進めていたんだ。ただ、市況低迷が長期化して、仮にコストが増えたとしても今は急いで発注すべきではない、
という考えに変わった船主が増えた。― 足元の安値オファーに新規制という背景があるにしても、7月以降は船価が
元に戻るのかというと、答えはノーだろう。もちろんNOxもあるが、このマーケットでは船主の発注意欲が戻ってこない
だろう。安い船価で決まらない案件が高値で決まるわけがない。― 船主の前提としては、今ですら“足元の用船料と
船価が合わない”という意識があるだろうから、建造コストの上昇分を船価に転嫁するのは難しそうだ。― そうする
と、期間限定ではなく、国内造船所間の競争の始まりという見方もできるね。― さらにボリュームゾーンのハンディマ
ックスやパナマックスだけでなく、ハンディサイズでも競争が激化している。ハンディサイズはリーマン・ショック後でも
需要が底堅かったこともあり、造船所が相次いで再参入し、いまや日本の造船所9社がひしめく混戦模様になった。既
に激戦市場ながら、なお進出を検討する造船所がいる。― もともとハンディサイズを主力として建造していた造船所
にとっては予期せぬことだ。まさかあのクラスの造船所がスモールハンディまでやらなくてもという思いはあるだろ
う。― ハンディサイズを主力として建造していた造船所は長年のノウハウなど性能面などで長けているのではない
か。― 確かにノウハウなどで長けている部分もあるが、ハンディサイズに限らず、バルカーでの明確な差別化は難し
い。トレードに最適な船型や、使い勝手の良さ、燃費性能といった差別化要因もあるが、近年はキャッチアップのスピード
も早い。当然のことながら、皆が船主やオペレーターのニーズを汲んで汎用船型を開発すれば、トレンドに沿った似通っ
た船型がそろう。― ハンディサイズをみても、国内造船所の各社で仕様は異なるが、トレンドとなっている3万7,0003万8,000重量㌧級のデザインを9社のうち8社が持っている。― 日本同士での競争となると、「世界最高水準の燃費
性能」も、最高水準で横並びだ。エコシップで他国との差をつけて価格プレミアムを得る、という日本造船業の不況後
の国際戦略は、国内競争が激しくなれば機能しにくくなる。― こうしてハンディサイズを建造していた造船所が近海
貨物船や内航船といった具合に流れていけば、同じようなことがドミノ倒しのように小型船型に広がっていく。実際、内
航に重点を置いた営業に切り替えつつある造船所もある。― タンカーやコンテナ船などバルカー以外の船種があれ
ば良かったんだが。≪脱バルカーの模索≫司会 バルカー以外の船種という話が出たが、今のように全船型で需要が
なくなるのは、この10年では初めてのことだ。日本の造船業は今後どのような事業展開が必要になるだろうか。―
日本がリーマン・ショック後、操業を落としながらも造船不況の深刻なダメージを負わずに済んだのは、バルカーの需要
で食いつなぐことができたからだったが、非常に厳しい言い方をすれば、日本の造船所は楽な道を選んだという見方
もある。建造効率や採算性を重視して得意とするバルカ一に特化していった。他の船種への多角化ではなく、ハンディ
サイズのように船型の幅を広げることで対応を図っていった。― ドライバルク市況の低迷は船腹供給圧力が強くな
る来年以降も続くという悲観的な見方もある。一方で、他の船種に目を転じてみれば、コンテナ船やタンカーなどで需
要がないわけではない。円安を追い風に他の船種で他国の市場を切り崩すチャンスにもみえるが。― もちろんそう
だ。ただ、設計や現場の人手不足が深刻化する中で、不慣れな船種を建造するのはリスクもある。採算などをある程度
犠牲にして造船所が受注に踏み切れるかどうかだ。司会 一部の造船所ではバルカー以外の船種の転換も既に始ま
っているな。― 象徴的なのは今治造船とジャパンマリンユナイテッド(JMU)。バルカーが一時9割を占めていた今治造
船では西条、広島でメガコンテナ船やLNG船の建造が始まるし、JMUは今年からは呉でメガコンテナ船、津でLNG船の建
造が始まり、有明もVLCCや自動車船など他船種の比率が高まる。得意とするVLCC以外は久々の船種ばかり。両社とも“
総合造船所”化を進めている。― 今治やJMU以外でもバルカーからの転換が進んでいる。鉱石船とバルカーを中心と
した名村造船所の伊万里事業所も、今後はアフラマックス・タンカーがミックスされる。バルカー主体となっていた新来
島どっく大西工場も自動車船やケミカル船の建造が拡大する見込みで、尾道造船も得意のプロダクト船に復帰する。
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― 脱バルカーの動きはもう一歩進みそうだ。常石造船などこれまでバルカ一にほぼ特化していた造船所で、3,000T
EU級のコンテナ船やアフラマックス・タンカーなどの船種の受注を模索する動きが広がっている。― 常石以外でもコ
ンテナ船や自動車船、タンカーを真剣に検討していた造船所もあると聞く。需要の見込まれる3,000TEU級のコンテナ
船を検討している造船所も多い。― 検討した結果、断念したケースもある。また、大型船も納期が先物しか提示でき
ず、韓国に流れてしまうケースもある。― ただ、このままバルカーで国内の消耗戦を繰り広げていても見通しは暗
い。1社でできなければ、ブロック製作や共同設計など造船所がアライアンスで取り組む方法もあるのではないか、と指
摘する意見もある。― たしかにそうだね。日本連合で、今の為替を生かして海外とタンカーやコンテナ船などで勝負
する方が、日本クラスターが生き残る可能性が高いのではないか、との指摘もある。― 個々も大事だけど、日本造船
業としての今後を考えた場合、そういったアライアンスのような考えも必要になるだろう。
◆造船この1カ月<下>いまこそ設備と人に投資 ≪国内造船、市況低迷下でも将来に備え≫国内造船所で、設備投資
を再開する動きが広がっている。ドックの拡張や新設、クレーンの大型化などに各社が着手し、生産効率を高めようとし
ている。人材確保と育成に向けたさまざまな施策も打ち出し始めている。人手不足やバルカー需要低迷など足元の環
境は厳しいが、それだけに将来を見据えて、競争力を高めるための手を打つ。≪競争に食らいつく≫司会 バルカーの
需要低迷で厳しいという話が多いが、前向きな話題はないだろうか。― 造船所が設備投資を再開している点は、や
はり将来に向けたものといえる。今治造船が丸亀に大型ドックを建設するのが象徴的な案件だ。― 今治は西条工場に
加えて丸亀でも400m級の新造船を建造できるようになる。メガコンテナ船の建造が主な狙いだ。これで今治は西条と
丸亀、広島の3工場でメガコンテナ船のロット建造体制が整う。― 広島工場では1,200㌧クレーンの導入も決めた。今
はほぼ毎月1隻という驚異的なピッチで1・4万TEU型を連続建造しているが、効率がさらに高まるのだろう。― ただ、
この今治のキャパシティをもってしても、メガコンテナ船にようやく追いつけるという意見もある。今回もエバーグリー
ン向けと商船三井向け、川崎汽船向けのコンテナ船が並んだが、これで3工場の数年分の船台が埋まった。韓国造船所
は、欧州船社のロット発注をどんどんのみこんでいるが、改めて彼らのキャパシティの大きさを痛感するよ。― 大きけ
れば、空いたときに苦労する。適正な規模というのは難しい。― ただ、基幹航路のコンテナ船は1万-2万TEU級に大型
化していて、このクラスの大型船の新造需要は、これから先も山谷はあっても永遠に続くだろう。それに対して、日本で
対応できる造船所がほとんどなくなってしまった。今治とJMU(ジャパンマリンユナイテッド)が何とか食らいついている
が、後は川崎重工のNACKS(南通中遠川崎船舶工程)くらいだ。日本が世界の流れについていけなくなって、ふるい落
とされてしまった、といえないかな。― バルカーやタンカーを大宗船と呼ぶ造船所が多いけれど、コンテナ船もそう
だからね。― バルカ一需要消失のテーマでも話したが、バルカーがないからコンテナ船で、といえる造船所がない。
結果として韓国造船所は、このウォン高の逆風下でも次々と受注できている。日本がいまタンカーとコンテナ船の競争
に出てこないことを不思議に感じているようだ。― 設備があればそれだけで建造できるわけではないけれど、なら
ば同一図面で協力するとか、手はないだろうか。コストなど簡単ではないのかもしれないが…。≪中断していた投資再
開≫司会 設備投資に話を戻そう。新たに投資に踏み切っているのは今治造船だけではない。― 「投資再開」の象徴
例が三井造船の玉野事業所だと思う。玉野は造船ブーム期に上流工程の鋼材切断から順番に増強のための投資を進
めていたが、リーマン・ショックが発生したので中断していた。今回、小組立工場の建屋を新設することを決めたのは、ま
さしく再開ということだ。― 三井造船は中期経営計画を見直して造船への設備投資を200億円に引き上げている。―
重工系各社が投資を増やしているね。JMUは今期の投資額が前年比40%増の70億円だ。統合後も設備投資は控え
ていたが、増やすことになった。川崎重工も、最近は設備投資を年20億円程度にまで絞り込んでいたが、今期は100億
円近くまで拡大する。― 分杜を決めた三菱重工の長崎造船所も、ブロック製作強化に向けた投資を進めると聞いた。
― それから、常石造船が本社工場にクレーンを増設するというのがトピックスだね。建造船台とドックに400㌧クレーン
を5基導入する。― 投資額は数十億円だから、常石の規模としてはそれほど大きくない。― ただ、常石はこれまで1
0年以上にわたって、海外への投資をメーンにしていただろう。日本は規制対応設備を除くと、老朽更新程度だった。多
度津を売却して日本は本社工場だけになった。マザー工場として重要性が増しているから、工場に競争力をつけない
といけない。そういう背景があるようだ。― 最先端の生産技術を実証する工場という役割もある。当面はクレーンな
どの従来型の設備だが、先日のドローンの活用のように、いろいろな技術が導入されることにもなりそうだ。≪経験を
積ませるには≫司会 マーケットが好転したという感じはしないが皆が投資を再開している。造船所には、設備投資を
いましないと厳しくなるという危機感があるのだろうか。― 背景はいろいろだろうが、将来を見据えたのだろう。今
治の丸亀もそうだが、得意とするマーケットで船型大型化が進んでいるから、ドックなどを整備しないといけない、とい
う造船所もある。― 人手不足も影響している。少ない人数でも同じ規模の建造量を維持するには、生産効率化に設備
も整えないといけないということではないか。― 人手不足の問題は相変わらずかな。― 協力工の不足は若干緩和
したという声もあるね。「建設産業がゆるんだので、以前に比べて集めやすくなった」という意見を聞いた。外国人研
修生拡大の効果も出ているはすだ。― ただ、各社とも採用は増やしている。今年4月の新入社員が倍増した、という
造船所が相当いるし、来年入社も同様だ。団塊世代の退職補充は以前からあったが、むしろ増強という方向ではないか
な。― うん。生産現場でも内製化や本工化が広がっている。これまで外注比率の高かった造船所でも社内の割合を
増やす方向のようだ。― 人手不足で懲りたということだろうか。― もちろん工程安定化やコストアップ対策もある
だろうが、品質や生産性を重視するうえで本工の役割が高まっているという面もあるようだ。― 技術者も増強の方
向だね。これだけ繁忙が続いているから。― ただ、課題は育成のようだ。忙しい中で一人がカバーする範囲が増えて
いるので学ぶことも多いが、一方では目前の仕事に集中せざるを得ないので、広い視野を持たせるのが難しいとも聞
いた。― MIJAC(マリタイムイノベーションジャパン)の成果報告会では、同社の人材育成の意義も示されていた。技術
者がMIJACに出向して、他社のエンジニアと共同で研究開発に取り組むことが、大きな経験になるというものだ。―
確かに、旨の造研のような研究プロジェクトが、エンジニアとして成長するきっかけになったという人は多い。ただ、造
船所にも人員の余裕がなくなっていて、なかなか人を出すのは難しい面もあるはずだ。― それでも省エネの業界プ
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ロジェクトで、舶用メーカーなどと共同研究の場も増えている。― 通常業務から外して、業界プロジェクトに専従させ
ている会社は、育成を視野に入れている。― 忙しいからとパッチあてで人手を増やすだけでは不十分なのかもしれ
ない。
◆新造解約が表面化 ≪バルカー、ドライ市況低迷 波及≫造船業界では、長引くドライ市況低迷の影響が新造バルカ
ーキャンセル(解約)という形で波及してきた。造船、内航、行政などのこの1カ月を振り返る。デスク 発注済み新造バ
ルカーのキャンセルがいよいよ出てきた。この話題からいこうか。A まず、名村造船所がバルカー2隻の合意解約を公
表しました。デスク この件については、のちほど触れるとして、香港ジンフイ・シッピングの6万重量㌧型ハンディマック
ス1隻キャンセルからいこう。B ジンフイ・ホールディングスが5月28日、支払い済みの頭金291万㌦(約3億6,000万円)
没収と解約を契約者との間で合意したことを公表しました。C この6万重量㌧型ハンディマックスは、2014年4月購入
契約が結ばれました。建造は日本の造船所、納期は16年3月、購入価格は2,910万㌦でした。デスク ドライ市況底ばい
の影響が既発注の新造船にも及んできた。A 13-14年前半の発注ブームで、日本のバルカー建造造船所は海外船主
からほとんどの新造船を受注しました。邦船オペレーター各社が新造バルカーをほとんど仕込まなかったに等しかった
からです。B ギリシャやノルウェーなどの投機的な船主からもかなり受注しました。もちろん、頭金を厚めに設定する
など、リスクもヘッジしています。C 新造船の納期を造船所のできる範囲で後ろ倒ししたり、船主からの船種変更に応
じられる造船所は応じています。デスク それはそれとして、現在のレベルのドライ市況が続いた場合、海運・造船関係
者は「この夏以降はたいへんなことが起こる」と指摘している。船主と造船所の合意解約はまだいい方ということか。
A 海外船主と国内造船所との間に主契約者が入っている場合は、まだ打つ手は出てきます。B あとで触れる名村の
ケースでは、起工前だったため、転売の必要がなく、影響は最低限にとどまりました。C 例えば契約時に頭金30%を
支払った欧州船主は、資金力のある船主なので、船種変更はあってもキャンセルはないとの見方もあります。デスク
キャンセルによって新造船の転売が必要になった場合、この状況下では頭金を差し引いた価格となるので、それが新
造船価相場のベンチマークとなり、相場を押し下げる悪循環に陥ることになる。08年秋のリーマン・ショック後がそうだ
った。そういう事態が発生しないことを祈念しながら、注意深く取材を進めていこう。
◆日本財団造船関係運転資金/15年度第1回、100件に123億円 日本財団は17日、造船関係貸し付け事業の2015年
度第1回運転資金貸し付け(受付期間5月7~22日)で、100件に計123億160万円を融資することを決定したと発表した。
前年度の第1回実績に比べ金額ベースで約19%減。今回の運転資金貸し付けの内訳は、造船業の申請17件に32億5,500
万円、造船関連工業の申請83件に90億4,660万円となる。
◆造船所の開発リードタイム長期化 ≪規制強化・人員不足が影響、市況対応のネッタ≫造船所が新船型を開発する
ためのリードタイムが長期化する傾向にあるようだ。国際規制が順次強化されているため、水槽試験や構造解析など
で従来よりも工数が増えているうえに、設計技術者や外注などリソースも慢性的に不足気味。「需要に合わせてタイム
リーに新製品を市場投入することが困難になっている」(造船所営業担当者)という。バルカーの新造需要低迷で他船
種への転換を模索した造船所が、開発期間が足りず断念した例もある。新造船の需要がめまぐるしく変わる中、開発ス
ピードの遅れが致命的になるおそれもある。IMO(国際海事機関)や国際船級協会連合(IACS)での規則改正が相次ぐ中
で、造船所が船型開発に要する時間が以前よりも増えている。例えばエネルギー効率設計指標(EEDI)規則では、設計
段階の予備認証として船級協会立ち会いの下、水槽試験が義務付けられている。開発にあたって考慮すべきポイントも
増えているほか、昨年の騒音規制や今後の排ガス規制のように、船種によっては大幅な船型の見直しが必要になる例
も増えてきた。こうした新たな要求に対して、造船所では既存の設計人員では不足感が強まっており、これに加えて団
塊世代の大量退職や、外注先の設計会社の不足もあり、開発に以前よりも時間がかかるようになっている。もともと国
内造船所ではこの10年ほどは、開発前に市場調査などを綿密に行い、船型開発にエネルギーと時間、人をかけてじっく
り行うスタイルに変わっていた。一方で最近は、新造マーケットの勢いやスピード感がかつてよりも速くなっている。「特
定の船種・船型が有望視されると、短期間に大量発注されてしまう」(造船所営業担当者)。このため、マーケットに反応
して船型を開発してもトレンドに間に合わない例もある。「売り出そうとしたときには、もう発注残が大量に積み上がっ
ていて、船主も新規発注に慎重になっている」(同)。足元のバルカーの新造需要低迷でも、この開発期間がネックとな
った例がある。昨年来、バルカーの低迷で多くの造船所が他船種への転換を模索してきた。だが、「今年7月のH-CSR
(共通構造規則)適用までにデザインを用意して売り出すには時間が足りないと判断して断念した」(造船所幹部)とい
う例がいくつかあったようだ。今後はH-CSRで設計工数がさらに増大することが危倶されている。造船所には、設計シ
ステムのさらなる活用などによる開発期間の短縮化などが求められるようだ。
◆造船用パワースーツを共同開発へ ≪東大・船技協ら、上向き溶接など負担軽減≫物流や建設業などで活用が広が
る「パワーアシストスーツ」を造船所が工場現場でいかに活用するか、東京大学や造船所らが共同研究を実施した。上
向き溶接作業などの工程で作業負荷低減の効果が見込めるとの検討結果を示し、22日に三井造船千葉事業所でデモ
ンストレーションを実施した。研究を踏まえて、今年度から日本船舶技術研究協会(船技協)の事業として造船所に適し
たスーツの開発を進める。少子高齢化に伴い、造船現場で高齢者や女性の活用が期待されるが、そのうえで作業の肉
体的負担を機械的に低減するアシストスーツの活用が期待されている。今回の研究は、日本財団の助成を受けて、船技
協に調査委員会を設けて実施。研究には東大のほか海上技術安全研究所と労働科学研究所、造船所5社が参加した。
研究では現時点で市販・開発されているスーツの特徴などを整理するとともに、造船所の各工程の労働負荷などを調
べ、両者のマッチングが可能かどうかを効果と安全性の両面で調べた。造船所の工程の中では、板継裏直し溶接や吊り
ピースの溶接、塗装作業などの上向き・立向き作業で、作業者の負担低減に対する造船所のニーズが高く、短期的な開
発も可能と判断。このため、必要な技術要件などを詰めたうえで、今後の市販を前提に年度内にもスーツメーカーと共
同で造船所用製品のプロトタイプを開発する。一方、現時点では構造や装着性、操作性などで造船所の要求を全て満
たすスーツが存在しないため、造船所が市販製品を使用するにあたっての注意点などを手引書としてまとめた。22日
のデモでは、小組部材の運搬と、吊りピースの上向き溶接でクボタ製とアクティブリンク製のアシストスーツをそれぞれ
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活用。スーツを着用した作業員からは「(部材運搬に)力をほとんど入れていない感じになる。長時間の作業ができそう
だ」「(上向き溶接で)工具の重さがなくなり、肘を棚に置いて作業しているような感じだ」と効果についての感想を語
った研究を主導する東京大学の青山和浩教授は「稼働性や防火性、耐久性などで造船用にカスタマイズした製品を開
発し、橋梁などの現場でも展開できるようにしたい」と語った。
◆船の溶接/負担軽減スーツ 造船会社や海運会社が組織する日本船拙技術研究協会(東京・港)は22日、造船所で
作業者の動きを補助するアシストスーツの開発を始めると発表した。上を向いた溶接工程で、肩などにかかる負担を軽
減する。人手不足が続くなか、アシストスーツの活用で高齢者や女性も造船所で働けるような環境づくりを進める。同
協会が東京大学と共同で開発し、三井造船など造船会社も協力する。造船所で求められる耐火性能の向上や、狭い現
場でも使えるよう小型化を進める。クボタなどアシストスーツメーカーにも協力を求める方針だ。まず来年3月末までに
試作機を製作し、2017年以降に実用化する。価格は20万円以下を目指すという。22日、三井造船千葉事業所(千葉県市
原市)で試験を公開した。高齢者など新たな担い手のほか、既存作業者の負担軽減も狙う。今後は負荷低減効果の数
値化も進める方針だ。
◆造船向けパワーアシスト ≪東大 軽量化・着脱性を追求≫ 東京大学は日本財団の助成を受けて調査研究を進め
ている造船業向けパワーアシストスーツの試用に関する手引きを作成し、デモンストレーションを三井造船千葉事業所
(千葉県市原市)で22日公開した。溶接や研削、重量物運搬などにおける作業者の肉体的負担を軽減。労働力不足が深
刻化する中、"3K職場″のイメージを変え、高齢者や女性の活用促進にも結びつきそうだ。今回の知見を生かし、日本
船舶技術研究協会が2015年度に上向き・立向き作業負担を軽減する試作品を開発し、商品化を検討する。現場適用に
当たり火気対策や夏場の暑さ対策、安全器具への影響排除などが必要で、燃えにくく通気性の良い素材や軽量化、着
脱性が求められるという。調査、デモでは開発済みのパワーアシストスーツを利用。アクティブリンク製「AWN-02」を装
着し、約8㌔㌘フの板材を仕分けした40代男性は「違和感がないわけではない」と言うが、腰への負担が減り「長時間
作業できそう」と話した。東大は造船会社や国土交通省などの関係者を交えた「造船所へのパワーアシストスーツ適用
可能性に関する調査研究委員会」で1年以上かけて適用可能と思われる工程や姿勢、注意すべき事項を取りまとめた。
今回は「働きやすい環境をつくる」(青山和浩東大大学院工学系研究科システム創成学専攻教授)ことを目的とした
が、実用化では生産性向上など費用対効果も重要になりそうだ。
Ⅲ.世界・各国造船業の動向
◆中国造船/5月受注量7割減 ≪CANSI統計、8カ月連続マイナス≫中国船舶工業行業協会(CANSI)によると、今年5
月の中国造船業の新造船受注量は前年同月比72%減の123万重量㌧だった。バルカーの新造商談の停止を受けて中
国造船業の受注低迷が続いており、単月ベースの受注量は8カ月連続で前年同月を下回っている。一方、竣工量は13%
増の301重量㌧としており、昨年に比べて上向いている。今年1-5月の累計実績は、受注量が77%減の786万重量㌧、竣
工量が19%増の1,548万重量㌧としている。手持ち工事量は受注低迷に伴って減少が続いており、5月末時点で1億3,81
8万重量㌧で、4月末時点と比べて178万重量㌧減少。1年前と比べると1,229万重量㌧減少した。重点観測企業とする造
船54社の1-5月の受注量は前年同期比80%減の673万重量㌧、竣工量は14%増の1,431万重量㌧、手持ち工事量は7%
減の1億3,646万重量㌧だった。船舶関連の重点観測企業とする88社の1-5月の完成工業総生産額は6%増の1,630億
元(約3兆2,500億円)。このうち造船関連が9%増の810億元(約1兆6,100億円)、舶用が10%増の125億元(約2,500億
円)、修繕が8%減の53億元(約1,060億円)としている。また、主要事業収入は4%増の1,020億元(約2兆300億円)で、
利潤総額は20億6,000万元(約410億円)で17%増加した。
◆韓国造船/1-5月受注高3割減 ≪タンカー・コンテナ船へ傾注≫韓国造船大手3社の今年1-5月の造船・海洋(オフシ
ョア)部門の受注高は計74億㌦だった。受注金額ベースで前年同期比29%減となり、3社とも前年同期を下回る厳しい
展開が続いている。海洋案件の新規受注はなく、タンカーやメガコンテナ船など商船回帰が顕著になっている。3社の1
-5月の受注実績は表のとおり。各社が公表しているIR資料によると、現代重工業は5月にタンカー3隻、コンテナ船6隻、
LNG船1隻を受注し、ここまでの累計受注実績は22隻(タンカー11隻、コンテナ船6隻、LNG船l隻、LPG船2隻、その他2隻)
になった。受注金額ベースで前年同期比32%減となっている。また、現代グループの現代尾浦造船は59%減の9隻・4億
5,000万㌦(プロダクト船5隻、LPG船2隻、白勤車船2隻、現代三湖重工は34%減の21隻・17億㌦(タンカー12隻、コンテナ
船5隻、その他4隻)だった。現代尾浦は主力のMR型プロダクト船や中小型LPGの商談低迷が響いている。サムスン重工
業と大宇造船海洋は5月にそれぞれタンカー2隻を受注した。1-5月の受注実績は、サムスンが22隻(コンテナ船10隻、L
NG船2隻、タンカー10隻)、大宇が12隻(タンカー6隻、LNG船6隻)となっている。各社の受注状況をみると、コンテナ船や
タンカーの比率が高くなっている。ただ、海洋案件は動きがなく、受注高としては苦戦が続きそうだ。また、成約案件を
みると、17年納期の船台にもまだ空きがあるようだ。原油価格の低迷やベトロブラス問題などで海洋プロジェクトに遅
れが生じており、各社とも侮洋部門での純粋な新規案件の受注はここまでない。新規の商談は当面の間、商船をメーン
に進めざるを得ない状況で、商船回帰の傾向がより一層強まることが予想されており、高付加価値船での競合激化が
加速しそうだ。
◆韓国造船大手3社/前年同期比減続く ≪1-5月受注高、商船堅調も海洋ゼロ≫現代重工業、サムスン重工業、大宇
造船海洋の韓国造船大手3社の1-5月期受注高は、それぞれ前年同期比マイナスだった。5月単月では3社それぞれ一
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般商船の受注を複数確保したものの、海洋(オフショア)関連の成約はゼロの状況が続いている。現代重工の造船(シッ
プビルディング)部門の受注高は前年同期比36%減の23億㌦、受注隻数は21隻減の22隻だった。オフショア・エンジニ
アリング部門の受注高も、53%減の7億9,700万㌦に落ち込んだ。現代重工単体のほか、現代尾浦造船、現代三湖重工業
分を含めたグループ3社の造船関連受注高も、現代重工と現代三湖が5月単月で合計19隻を成約したものの、41%減
の53億㌦にとどまっている。サムスン重工の1-5月期受注高は、33%減の26億㌦。5月単月でタンカー2隻を追加し、累
計受注隻数は11隻増の22隻となった。大宇の同期間中の受注高も8%減の17億㌦だった。受注隻数は5隻減の12隻で、
船種別内訳はタンカト6隻、LNG(液化天然ガス)船6隻。5月単月でタンカー2隻を追加した。5月末の受注残高は前年5月
末と比べ11%増の492億㌦に増加した。このうち、一般商船は62%増の184億㌦で、受注残隻数も25隻増の114隻に拡
大。一方、海洋の受注残は7%減の259億㌦(8隻減の27隻、特殊船も2%減の49億㌦(増減なしの19隻)だった。
◆738万円/韓国主要造船所の昨年の平均給与の円換算額 新造船マーケットが低迷している中、日本と韓国の造船
業が直接商談で競合する場面も増えてきた。今回は、競争力を比較する上での一つの指標となる人件費について、韓
国の現状を採り上げたい。韓国造船各社の事業報告書を基に本誌がまとめた2014年度の給与実態は下表の通り。昨年
の主要7社の社員1人当たり平均年間給与(加重平均)は7,347万ウォンで、前の年に比べて0.4%増とほぼ横ばいだっ
た。これを昨年の日本円/韓国ウォンの平均為替レートで換算すると約738万円。日本の総合重工の平均とほぼ同等
か、上回っている水準だ。つまり、いまの為替水準でみれば、日本の重工系が韓国とほぼイーブン。日本の専業造船所
は韓国より競争力があるといえそうだ。韓国の造船所別でみると、1人当たりの年俸では最大手の現代重工業グルー
プ3社はいずれも、前年に比べて増加し、高かった。現代重工は4%増の7,527万ウォン(757万円)。現代三湖重工は7,81
3万ウォン(785万円)で、韓国の中で最も高かった。サムスン重工業は6%減の7,210万ウォン(724万円)、大宇造船海洋
は1%減の7,371万ウォン(740万円)といずれも減少した。韓国造船業全体の平均年俸は、90年代末から年率4-6%で一
貫して増加を続けているが、この10年でみると平均給与が減少に転じた年が2回ある。1度目はリーマン・ショック直後の
09年。当時は新規受注ができず資金不足に直面して、全社的なコスト抑制を実施した年だ。現代重工やサムスン重工で
は労組が賃金交渉を行わず、経営者に賃金を白紙委任するという異例の体制を取り、賃上げが凍結された。昨年も韓
国主要造船所にとって、創業以束の危機と呼ばれるほどの巨額の赤字が発生し、大規模な事業リストラも進んだ年。に
も関わらず、賃金が横ばいで踏みとどまったのは意外な感もある。背景として推測されるのが、労使関係の変化だ。現
代重工の労組では一昨年、12年ぶりに急進的路線をとる執行部に変わった。昨年は大規模損失で賃上げ抑制などを求
めた経営側に対し、労組はむしろ大幅な賃上げを求めた。20年ぶりのストなど労使交渉が紛糾し、最終的に一定の賃上
げなどが取られた。強い労組はかつての韓国造船業の特徴だったが、こうした路線が復活することば、今後の競争力
にも影響する可能性がある。
Ⅳ.造船・造機以外の産業動向
◎外航海運
◆鉄鉱石船、用船料7割安/中国需要減、荷動きに陰り 鉄鉱石を運ぶ大型ばら積み船、ケープサイズのスポット(随時
契約)運賃が軟調だ。運賃の算定基準となる用船料(船会社が船主に支払うチャーター料)は1日あたり4,200㌦前後
で、前年の同じ時期に比べて7割安い。直近の高値を付けた5月中旬から3割近く下がった。世界最大の鉄鉱石輸入国で
ある中国需要が減少し、荷動きに陰りが出ている。用船料に連動する鉄鉱石のスポット運賃も代表的な航路のオースト
ラリア西部~中国間で1㌧あたり5㌦前後で推移し、前年の同じ時期に比べて4割安い。中国の5月の鉄鉱石輸入量は前
年同月比8%減で、4月に続いて前年実績を下回った。2カ月連続で前年実績を割り込んだのは、ほぼ5年ぶりだ。中国
の粗鋼生産の伸びは頭打ちで、鉄鉱石の輸入量にも減速感が強まっている。
◆4月は9.1%減の116万TEU ≪欧州西航荷動き≫日本海事センターが12日発表したCTS(Container Trades Sta-
tistics)の統計によると、今年4月のアジア発欧州向け西航荷動きは前年同月比9.1%減の116万782TEUだった。3月の2
2.9%減からマイナス幅は縮小したが、今年は中国の春節入りが昨年より半月程度遅かった影響もあり、荷動きの立ち
上がりが遅れているようだ。1-4月の累計では前年同期比3.3%減の471万2,259TEUとなった。4月の方面別輸送量を
見ると、西・北欧州向けが4.7%減の75万647TEU、地中海東部・黒海向けが17.6%減の20万8,381TEU、地中海西部・北ア
フリカ向けが14.5%減の20万1,754TEUだった。仕出地別に見ると上位15カ国・地域では、香港、シンガポール、フィリピン
を除いていずれも減少した。約7割のシェアを持つ中国出しは7.0%減の82万6,768TEUだった。第2位の韓国出しは29.
9%減の6万9,135TEU、第3位の日本出しは7.0%減の4万8,305TEU、第4位のベトナム出しは7.8%減の4万7,043TEU、
第5位のタイ出しは16.4%減の3万4,911TEUだった。揚げ地別では上位3カ国が3月のマイナスからそろってプラスに転
じた。ドイツ揚げが7.9%増の16万7,944TEU、英国揚げが6.3%増の16万64TEU、オランダ揚げが13.5%増の13万8,089T
EUだった。欧州発アジア向けの4月の荷動きは3.0%減の57万1,541TEUだった。1-4月累計では3.1%減の224万6,415TE
U。
◆ドライ市況、回復へ3つの障壁/中国・減速運航・FFA 記録的な低迷が続くバルカー用船市況の回復に向けては、い
くつか乗り越えなければならない壁がある。需要面では減少基調で推移する中国向けの荷動きが増加に転じることが
必須。心理面では現物マーケット以上に冷え込むFFA(海運先物)が上昇に転じるかがカギとなる。供給面では市況上昇
局面でバルカーの減速運航が解除され、実質船腹量が増加し市況回復の重しになりそうだ。これらのマイナス要因か
ら、バルカー用船市況は本格回復までに2~3年かかるという見方が大勢になりつつある。バルカーのスポット用船料は
現在、ケープサイズからハンディサイズまでの全船型が4,000~6,000㌦台に低迷。この状態が昨年末から半年にわたり
続いている。邦船社幹部は「マーケットの回復には2つの段階がある。現在の市況はマーケットの実態と比べてあまりに
- 12 -
も安すぎるので、これがまず正常化することが第一段階。その上で、実際に需給は悪いので、それがバランスしマーケ
ットが本格的に回復に向かうのが第二段階だ」と語る。市況低迷の根本的な原因は船腹の拡大に輸送需要の伸びが追
いつかないためで、特に最近の中国向け荷動きの不振が大きい。「中国の輸入が減速することは想定していたが、減少
するというのは全くの想定外」(邦船社幹部)で、船腹需給だけでなく心理面にも悪影響を与えている。ケープサイズ
の主要貨物である中国の鉄鉱石輸入量は5月は前年同月比8.5%減の7,087万㌧で、2カ月連続減少。今年1~5月の累計
は前年同期比1.1%減の3億7,807万㌧だった。パナマックスの主要貨物の石炭輸入量は昨年夏から大幅な減少が続く。
5月の輸入量は前年同月比41%減の2,401万㌧で、1~5月累計は前年同期比38%減の8,326万㌧となった。中国はこれ
まで鉄鉱石価格が下落すると国産鉱石から輸入鉱石へのシフトを加速したが、国内景気の減速による鉄鋼需要の停滞
で輸入を増やす気配はない。北京で9月に開催される戦勝70周年の記念式典に向けた大気汚染対策も、輸入量の減少
要因となっているとみられ、邦船社の鉄鋼原料輸送担当者は「9月の式典を前にすでに粗鋼などの生産調整に入って
いるようだ」と語る。鉄鉱石の荷動きは季節的な要因で秋以降年末にかけて増加する傾向があるが、今年は中国の式
典の開催の影響で秋口まで減少が続くとみられている。心理面ではFFAマーケットの低迷が足を引っ張る。FFAマーケッ
トは本来の目的であるリスクヘッジに加えて投機対象としてリーマン・ショック前に取引が拡大。ただ、現在の取引数は
ピーク時の3分の1程度に縮小しているといわれている。「FFAマーケットは金融機関など外部からの参加者の思惑に左
右される。海運の実態とは違う要因で決まるFFAが、現物マーケットに影響を及ぼしている」(邦船関係者)ことでマー
ケットが実際の需給以上に低迷する一因になっているとみられる。また、バルカーは現在ほぼ全船で燃費削減のため
の減速運航が実施されているが、それが市況上昇局面で解除されることで上値が抑えられる可能性がある。「現在は
減速運航によって船腹供給が通常運航時と比べて2~3割減少しているとみられるが、マーケットが上昇し減速運航が解
除されれば船腹供給が元に戻る」(邦船関係者)ためだ。燃料油価格の下落によって、減速運航を解除したほうが採算
が良くなるマーケット水準は切り下がっており、「減速解除の抵抗を乗り越えてマーケットが上昇し続けるにはかなりの
突破力が必要」(同)との指摘もある。
◆コンテナ船輸送力/20年で7倍 ≪荷動き超す伸び、運賃は軟調≫日用品から大型機械までさまざまな貨物を運ぶ
コンテナ船の運航数は右肩上がりで伸びている。日本郵船調査グループのまとめによると、全世界で運航している隻
数は2014年末で5,061隻と、この20年間で3倍に増えた。船のサイズも大型化しており、輸送能力ベースでの運航量の
増加幅は7倍に上る。世界各地を結ぶ海上コンテナ輸送サービスが普及し始めたのは1960年代。コンテナ船市場の拡
大に弾みが付いたのが90-2000年代だ。中国を中心にアジアが「世界の工場」に成長し、米国や欧州に最終製品を大
量に輸送するニーズが高まった。世界全体の輸送量は20フィートコンテナに換算して年1億8,600万個(14年推計)で、過去
20年間で4・4倍に増えた。拡大基調は続いているが、11年以降の増加率は輸送能力の伸びを下回っている。コンテナ貨
物の出発地をみると、中国発のシェアが圧倒的に高い。日本海事センター(東京・千代田)の集計によると、アジアから米
国に向かう貨物のうち中国発が6割を占めている。欧州向けの輸送シェアも7割に上る。日本発は米国、欧州向けとも5
%前後にとどまる。アジアから米国に運ばれるコンテナの中身は家具・家財道具や衣料品、電気機器、自動車部品が上
位を占める。欧州向けも電気機器や自動車部品が多い。コンテナの荷動きを左右するのはアジアから製品を輸入する
米国や欧州の景気動向だ。15年は堅調な個人消費を背景に、米国への輸送量は増加基調にある。一方、欧州は景気の
先行きに不透明感がぬぐえず、今年の荷動きは横ばいまたは微増にとどまるとの観測が、業界関係者からば出てい
る。アジア-米西岸で運航する船の輸送能力は1隻あたり平均7,000個なのに対し、欧州航路は1万1,500個。航海距離の
長い欧州航路は輸送効率を高めるため、海運各社が大型船を積極的に投入している。欧州航路では15年以降、1万4千
-1万8千個規模の大型船の就航が一段と増える見込みで、輸送スペースのだぶつき感が強い。船の供給量の伸びが荷
動きの増加ペースを上回れば、市場の需給バランスは崩れる。需給緩和観測を反映し、アジアー欧州のスポット(随時契
約)運賃は比較可能な09年以降の最安値圏で推移している。
◆鉄鉱石船就航/5月末も減少 ≪老朽船の整理進む≫鉄鉱石を運ぶ大型ばら積み船、ケープサイズの供給過剰に
一服感が出ている。海運調査会社のトランプデータサービス(東京・千代田)の集計によると、全世界で就航中の船は5
月末で1,614隻と前の月に比べて5隻減った。4カ月連続で隻数が減少した。海運市況の低迷を背景に老朽船の整理が
進んでいる。ケープサイズの用船料(海運会社が船主に払うチャーター料)は現在、1日あたり約7,800㌦で前年同期に
比べて4割安い。海運業界の採算ラインとされる2万-2万5千㌦を大きく下回っている。
◎内航海運
◆新制度移行へ着々 ≪暫定事業 解撤交付金制度が終了≫デスク 5月の内航業界の話題に触れていこう。日本
内航海運組合総連合会(内航総連)が長年、内航事業者に対して募集してきた解撒交付金交付(引き当て資格の買い上
げ)の受け付けがこの5月で終了した。A 先月20日まで募集していた2015年5月期の解撒交付金申請は、交付金の対
象船が数隻だったこともあり、交付金の交付を希望する船はありませんでした。現行の制度では、次の交付金申請は9
月期となりますが、この数隻も交付金対象となる船齢15年以下(進水月を基準)の旧規程承認船から外れますので、募
集は今回で打ち切りとなります。B 1998年5月からの17年間の解撒交付金額は、1,744隻・206万4,600対象㌧に対して、
1,309億1,000万円に達しました。C 近年の解撒交付金の交付は13年度以降、申請がない状況が続いていました。応募
の減少は11年度から顕在化。背景には、原子力発電所の稼働停止といった東日本大震災後の環境の変化や、内航船輸
送の活発化などで解撒交付金申請せずに船を持ち続けようという船主が増加しました。内航荷動きが鈍化している状
況でも、「再び荷動きが活発になったときに備えよう」との経営判断から申請を行わないケースが多くなったと思いま
す。デスク 解撤交付金制度は以前、交付を希望する事業者に対して、資金確保が難しくなったために交付金を支払え
ない時期もあったな。A 事業開始後に長く続いた景気低迷で、事業の縮小や撤退を余儀なくされた内航事業者が、こ
の制度を利用して所有船の解撤などを図ろうとする動きが多く、建造納付金収入も低調で、交付金を支払う資金収支
が厳しかったために交付金の未交付が発生した時期もありました。近年、交付金申請の減少、堅調な建造需要を受け
て、収支状況が改善。実質的に未交付は解消されました。B 船舶建造(改造、転用含む)納付金制度とともに、暫定事業
- 13 -
の柱となっていた解撒交付金制度が終わりました。16年度からは環境性能に特に優れた船や、事業者のグループ化・協
業化を行う船などにインセンティブを与えて建造納付金単価を設定する「代替建造制度が始まるなど、暫定事業も次
の段階へと進みます。C 24年度の暫定事業終了に向けた動きが一歩一歩進んでいきます。A 新制度へと移行する暫
定事業を運営する内航総連は、5月14日の理事会で、上野孝会長の後任に小比加恒久副会長が就任する人事を内定し
ました。小比加次期会長の体制下で新制度がスタートします。今後も着実な事業運営が行われることが期待されます。
◆15年度の建造申請動向/潜在的な需要、表面化するか注目 内航海運暫定事業(日本内航海運組合総連合会が実
施)での建造認定に対する申請動向は、輸送実績調査などとともに、その時々の内航業界や船主のトレンドを示す指標
となっている。先月、今年度1回目となる5月期建造申請受け付け(同月20日に締め切り)が行われ、全船種合わせ35隻
・6万4,000対象㌧(貨物船・重量㌧、油送船・立方㍍、曳船・馬力など)の応募があった。リーマン・ショック以後で最多と
なった昨年同月期の41隻には及ばなかったが、3年連続で30隻超となった。この数字を見る限り、建造動向は堅調とい
える。ただ、その内容をみると、貨物船と油送船では様相が異なる。23隻の申請があった一般貨物船は、主力船型とな
る499総㌧型の小型船を中心に、比較的多くの船の申請が出された。老齢化した船を新造船に切り替え、安定輸送を継
続的に図っていきたいという動きが出ているとみられる。一方、油送船はケミカル系の小型タンカー3隻にとどまるな
ど代替建造の動きが沈静化している。東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止で石油火力向け輸送需要の高まり、
製油所再編への対応などで一時期活発だった建造需要も無くなった。申請船の多くを貨物船が占め、油送船が少数と
いう図式は昨年5月期と同じだ。今年もその状況に変わりがないことが証明された。現行の暫定措置事業規程では、新
年度に入ると事業者が支払う納付金単価が前年度に比べ低減する。そのため、例年5月期は年平均よりも申請数が多
くなり、年度2回目の募集となる7月期には、申請隻数が落ち込む傾向にある。昨年度も例年通りの傾向だったが、14年7
月期は事前に想定した水準よりも一段と減少。一般貨物船が5月期の28隻から4分の1の7隻まで減少するなどし、全体
でも13隻と5月期の3分の1以下まで減った。9月期以降も一般貨物船の建造が弱含みだったことに加え、油送船の応募
の減少で、年間を通じた建造認定隻数は4年ぶりに100隻を割り込んだ。果たして、今年度の建造申請動向はどうなる
か。足元の内航荷動きは、貨物船では消費増税後の反動減や建設現場での人手不足が影響し、輸送量は伸び悩んでい
る。一方で、今後は東京五輪関連の輸送需要など明るい材料もある。油送船は製油所再編による転送需要の増加はあ
るものの、石油需要自体が減少している。さらに原油処理削減の動きが出ているなど先行きに不透明感が漂う。他方
で、内航船の老齢船(船齢14年超)の比率は隻数ベースで72%、トン数ベースで49%に上る。1990年代のバブル経済崩
壊以降の景気の不透明感からリプレース(代替)する時期が遅くなったことで老齢船が多くなり、物理的な使用限界に
達している船は相当数あり、潜在的な建造需要は高い。さらに新船投入で、労働環境を改善し船員確保につなげたいと
いう声もある。ただ、新船への代替建造を図るためのファイナンスがなかなかつかないという課題もある。船主の「船
を造りたいがなかなか踏み切れない」という環境下で、潜在的な建造需要が将来を見据え新たな船に切り替えていく
動きとして表面化していくか。7月期以降の建造申請に注目している。
◆7月期建造、来月1~20日申請受け付け/内航総連 日本内航海運組合総連合会(内航総連)は、組合員(内航事業
者)からの7月期船舶建造(政造、転用含む)申請を来月1日から20日まで受け付ける。この募集は暫定措置事業規程に
基づき実施される。7月期建造募集は、2015年度に内航総連が実施する第2回申請受け付け。15年度は5、7、9、11月と16
年1月の年5回、受付期間を設けている。船種別に見た1対象㌧(貨物船・重量㌧、油送船・立方㍍、曳船・馬力など)当たり
の15年度の建造納付金単価は一般貨物船5万6,000円、油送船3万8,500円、曳船5,600円。先月受け付けた5月期建造
募集の申請隻数は35隻だった。
◆漁船保険組合統合へ/水産庁、財政基盤を強化 水産庁は全国で1つの漁船保険組合をつくる検討を始めた。全国
47都道府県にある漁船保険組合(組合)と、その上部組織である漁船保険中央会(中央会)を統合する。2011年の東日
本大震災では東北地方の一部の組合の支払保険金が原資を上回り、国が公的資金を注入した。南海トラフ地震の発生
も懸念されるなか、統合で財政基盤を強化し、円滑な支払いにつなげる。漁船保険は船の火災や破損、津波による沈没
などの損害を補填する。漁業者は組合の保険に加入し、組合は中央会に再保険を掛けている。この仕組みにより組合の
支払いは総額の1割程度で済むが、甚大な被害をもたらした東日本大震災では、岩手と宮城の両県で支払原資が不足
し、国は総額41億円を補填した。水産庁は、南海トラフを震源域とした地震が起きれば同様の事態に陥る組合が出ると
分析。全組合と中央会を統合すると、保険金支払いに充てられる原資の総額は数百億円になり支払い余力が高まる。1
6年度に必要な法改正を実施した上で、17年4月の施行を目指す。
◆推定鉄骨需要量は約46万㌧ ≪4カ月ぶりに前年上回る≫国土交通省の4月の建築着工統計調査報告によると、全
着工床面積は前年同月比1・2%減(前月比18・6%増)の1,160万9,000平方㍍となった。構造別(※表1)では、S造が同5・7
%増(同21・4%増)の433万4,000平方㍍、SRC造は同52・5%増 (同60・8%増)の52万6,000平方㍍。全床面積中のS
造、SRC造の比率は41・9%、推定される鉄骨需要量は約46万㌧の水準(前年同月は約42・7万㌧※表2)と4カ月ぶりに前
年を上回った。
◆橋建協/14年度鋼道路橋受注22万4,000㌧ ≪都道府県・市町村が増加≫目本橋梁建設協会(会長=石井孝・JFE
エンジニアリング取締役専務執行役員)はこのほど、14年度の会員会社の鋼橋受注量をまとめた。それによると、14年
度の鋼道路橋受注は対前年度比14・9%減の22万3,924㌧となった。震災復興需要が出件してきたが、下部工工事の遅
れなどにより、大型工事発注の延期で前年度比2桁減のうえ、7年連続の30万㌧割れとなった。鋼道路橋の発注機関別
内訳では、都道府県が同5・3%増の3万8,307㌧、市町村が同17・6%増の7,406㌧と増加した。一方、国土交通省が同19・
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4%減の11万9,065㌧、旧公社公団が同18・5%減の5万2,607㌧、その他官庁(国内)が同63・9%減の869㌧、民間(国内)
同21・9%減の4,526㌧と前年を下回った。品目別では鉄道橋が同107・0%増の9,155㌧と増加となったが、その他の鋼橋
が同87・4%減の459㌧、輸出橋梁に関してはゼロという結果となった。今年度の新設橋梁に関しては、下部工工事の遅
れで期ズレしている震災復興関連工事が出件されてくるが、目立つ大型プロジェクトがないことから25万㌧前後と予
測。保全工事、大規模更新事業や点検・維持管理などで脚光を浴びる維持・更新市場は、首都高で羽田線を皮切りに大
規模更新事業が始動、今年度は本格化すると予想、有望な市場といえる。
◆工作機械8社受注/5月14%増507億円 ≪本社まとめ 21カ月連続上回る≫日刊工業新聞社が9日まとめた工作機
械主要8社の5月の工作機械受注実績は、前年同月比14・9%増の507億9,100万円となり、前年実績を21カ月連続で上
回った。牧野フライス製作所が過去3番目の好結果となるなど、各社が高水準を維持。オークマは国内が2008年のリー
マン・ショック後の最高額を記録した。日本市場の継続的な回復がうかがえる。内需は22カ月連続の増加となる。円安で
ユーザーの収益が回復し、投資意欲が高まっている。オークマは大型機と複数台案件の受注を重ね、牧野フライスは得
意とする金型向けの横型マシニングセンター(MC)を中心に伸ばした。DMG森精機は国内が減ったものの、前年は自社
展示会で高水準だったことが理由だ。一方、外需は12カ月連続の増加。欧州市場の先行きが不安視されるが、足元では
「大きなかげりがある地域はない」(牧野フライス業務部広報課)。昨年末から課題視されてきた北米のオイル・ガス向け
は、受注が再度動きだしたという声がある。三菱重工業は前年が会計基準見直しなどにより、マイナス実績だったた
め、増減を比較できない。
◆工作機械受注/5月 ≪1-5月最高6,731億円≫日本工作機械工業会(日工会)が9日発表した5月の工作機械受注
実績(速報値)は、前年同月比15・0%増の1,385億4,400万円となり、5月単月で過去最高となった。1-5月は6,731億4,20
0万円で、暦年最高だった2007年を4・0%上回る高水準で推移している。当月の過去最高は14年11月から7力日通続と
なる。牧野フライス製作所は過去3番目に高い受注実績となった。内需は同44・4%増の530億2,100万円で23カ月連続
の増加「ゆるやかな回復が続いている」(牧野フライス製作所業務部広報課)と上向きの基調にある。政府が設備投資
を支援する省エネ補助金の効果が一部出始めており、6月以降に本格化しそう。オークマは08年のリーマン・ショック後
の最高額を更新。大型の門型五面加工機や、まとまった数の旋盤の受注が目立った。外需は同2・1%増の855億2,300万
円で2カ月ぶりの増加となった。15カ月連続の800億円超で「高水準、横ばいが続いている」(日工会事務局)。北米の自
動車や航空機が引き続き好調。前年はスマートフォン特需があったが、ことしは前年はどの水準ではなさそう。ツガミは
「中国がやや前月を下回った」(管理部)。ただ、国内と欧米は堅調だったという。スマートフォン、タブレット端末関連で
は東芝機械が中国や台湾で精密金型向けの受注を伸ばした。過去最高額だった07年の受注額は1兆5,899億9,100万
円。日工会は今年の目標を過去2位の1兆5,500億円としている。
◆工作機械/内需堅調で受注高水準 DMG森精機が4月下旬に郡内で開いた展示会。複雑な加工に向く5軸加工機
を目玉に特定の顧客の来場を想定したにもかかわらず、3日間で予想を1割上回る約1,100人が訪れた。森雅彦社長は
「日本市場での受注は今年、10%程度伸びるだろう」と予測する。日本工作機械工業会(日工会)がまとめた4月の受注
額(確報)は前年同月比10・5%増の1,346億円。通常は期末効果の反動で落ち込む月だが、3カ月連続で1,300億円を超
えた。4月単月としてはりーマン・ショック前の2008年を上回る過去最高額を記録した。とりわけ国内市場に勢いがある。
自動車向けが好調で、2カ月連続で200億円起と高い水準だった。完成車や部品のメ-カーにとって円安は追い風で設
備更新意欲は高い。オークマの花木義麿社長は国内の自動車向けの工作機械について「今後も非常にいい状況が続く
のでばないか」と話す。5月以降は工作機械の購入費の2分の1を補助する省エネルギー設備導入補助金(省エネ補助
金)の効果が出始める。これとは別に設備投資の一部を賄うものづくり補助金の申請も始まり、国の施策が需要を後押
しする状況が続く。活況を受け、工作機械メーカーの生産体制も増強が進んでいる。オークマは年内にも台湾に新工場
を完成させ、高性能ながら価格を抑えた旋盤やマシニングセンターを生産する計画。自動旋盤大手のシチズンマシナリ
ーでは4月「とにかく作れ」(中島圭一社長)とフル生産体制を続けるよう指示を出した。一方、受注の6割を占める外需
は4月の受注額が18カ月ぶりに前年同月を下回った。中国のスマートフォン(スマホ)関連の需要が好調で、外需全体は1
4カ月連続で800億円を超えたものの、北米が足を引っ張った。北米の落ち込みの原因は自動車向けだ。対ユーロのドル
高進行で投資に慎重になり、2月以降失速した。欧州もウクライナ問題などの不安定要素があり、回復の足取りに勢い
は見られない。アジアのスマホ向けは人気機種の投入の有無に左右されやすく、期待の米アップル「iPhone」ばマイナ
ーチェンジの年になるとみられる。米欧中を中心とする外需が安定成長するかは見極めが必要だ。好調な国内と不透
明な外需という色分けが鮮明になる中、総需要は上昇傾向が続いており、日工会は15年の年間受注額予想を1兆5,500
億円としている。リーマン・ショック前の07年に記録した1兆5,899億円を超えられるかが年後半の焦点になる。景気は緩
やかながらもこのまま回復を続けていけるのか。消費や企業の動きを追う。
◆工作機械受注15%増 ≪日工会まとめ 20カ月連続前年超え、5月1,385億円≫日工会が17日発表した5月の工作機
械受注(確報値)は、前年同月比15・0%増の1,385億4,500万円だった。20カ月連続の前年超えで、2008年5月を上回り5
月の最高額に達した。日本と北米で受注が多かったほか、中国のスマートフォンといった電気・精密向けの特需があっ
た。一方、欧州は同14・7%減に落ち込んだ。ギリシャの債務問題が一部で影響したようだ。内需は同43・9%増の528億4,
000万円で23カ月連続で増加した。政府が設備投資を支援する省エネ補助金が受注に結びつき出した。補助金の効果
は「これから2-3カ月継続するだろう」(石丸日工会専務理事)と、当面は堅調な国内受注を後押ししそう。業種別では
一般機械が200億円に迫る勢いで、自動車は3カ月ぶりの200億円割れだが、22カ月連続増加で14年平均の140億円を
超えた。外需は同2・3%増の857億500万円で2カ月ぶりに増加。アジアの電気・精密向けはベトナムが5億2,500万円。同
国での「特需がすっかりはく落した」(同)。代わって中国が同4・8%増の350億1,800万円と、米アップル向けとみられる
- 15 -
スマホ特需に沸いた14年3月以来の350億円起となった。欧州は2ケタ減で2カ月連続の減少。ウクライナ問題に加え、
ギリシャ債務問題が生じ、設備需要はありながらも「金融不安で金が借りられない状況にあるようだ」(牧野二郎日工
会副会長)と投資が滞っている。
◎産業機械
◆産機受注 4月13%減2,519億円 日本産業機械工業会(産機工)が11日発表した2015年4月の産業機械受注額は
前年同月比13・7%減の2,519億5,100万円となり、2カ月ぶりにマイナスに転じた。内需は同12・5%減の1,821億2,500万円
で3カ月ぶり、外需は同16・6%減の698億2,600万円で3カ月連続の各マイナス。内需のうち製造業向けは同3・4%減、非
製造業向けは同24・4%減、官公需向けは同13・8%減、代理店向けは同0・7%減。一方、主要約70社の輪出契約高は同19
・5%減の600億9,800万円で、3カ月連続のマイナス。地域別構成比はアジア58・7%、北米18・9%、欧州12・1%、ロシア・東
欧4・1%、中東3・1%、南米1・9%だった。
◎環境装置
◆環境装置受注12%減 ≪4月 官公需・民需マイナス≫日本産業機械工業会が11日発表した2015年4月の環境装置
受注実績は、前年同月比12・2%減の247億8,300万円で4カ月ぶりの減少となった。ウエートの大きい官公需は前年同
月に汚泥処理装置で大口案件があった反動により同12・2%減の173億1,200万円、民需も非製造業分野の電力向け排煙
脱硫装置などが減少し同17・5%減の47億9,300万円と落ち込んだ。外需は同1・0%減の26億7,800万円。全需要部門で
受注が減少した。民需の内訳は製造業が同16・0%減の33億4,200万円、非製造業が同20・8%減の14億5,100万円。製造
業では機械産業向けの集じん装置や鉄鋼・機械産業向けの産業廃水処理装置が減少。非製造業では電力向け排煙脱硫
装置のほか、廃棄物処理装置が減少した。装置別では、大気汚染防止装置が同19・0%増の39億9,800万円、水質汚濁防
止装置が同32・3%減の56億9,400万円、ゴミ処理装置が同7・7%減の150億2,800万円。
◆国内4輪生産7・5%減 ≪4月 小型車の減少大きく≫日本自動車工業会(自工会)がまとめた4月の4輪車国内生産
は、前年同月比7・5%減の71万3,155台となった。前年4月は消費税増税を受けた駆け込み需要の受注残があったため、
上回れなかった。車種別には海外での現地生産化が進んでいる小型4輪乗用車の減少幅が大きく、同19・8%減の10万
9,299台と統計開始以来下から4番目の水準だった。軽乗用車は同18・5%減の12万3,373台だったが、軽人気を反映して
統計開始からは上から5番目だった。乗用車合計は同9・2%減の59万2,244台。バスの生産はアジア向け輸出が好調で4
月として過去最高だった。4輪車の輸出は同1・1%増の37万9,907台。小型乗用車が同36・7%減の1万4,460台で4月とし
て過去最低となった。バスは過去最高だった。2輪車の生産は同12・0%減の3万5,912台。251CC以上の2輪車の北米向け
輸出が低調で、生産が同12・3%減の2万3,057台となったことが影響した。2輪車の輸出は同14・0%減の3万1,826台だっ
た。
◆5カ月連続前年割れ ≪5月の新車販売「軽」落ち込み響く≫ 日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車
協会連合会(全軽協)が1日発表した5月の新車販売台数は、前年同月比7・6%減の33万5,644台となった。前年同月割
れは5カ月連続。登録車は微増となったが、軽自動車の落ち込みが大きかった。軽の販売台数は同19・6%減の12万5,75
5台となり、2カ月連続で2ケタ減となった。前月と同様、前年同月が消費増税後の新車の受注が残っていたことで高水
準にあったことと、軽自動車税増税の駆け込み需要の反動減が重なって大幅減となった。登録車は同1・4%増の20万9,
889台と2カ月連続で前年実績を超えた。トヨタ自動車が再び前年同月割れに転じたが、マツダと富士重工業の好調が
続いている。自販連は「サンプル調査では受注も来場数も前年を超えているが、水準は依然として高くない」としてい
る。
◆普通トラック8・7%増 ≪5月販売 2カ月連続プラス≫トラック業界関係者がまとめた5月の普通トラック(積載量4トン
以上)の販売台数は、前年同月比8・7%増の5,309台となり、2カ月連続で前年同月実績を上回った。2014年5月は消費
増税に伴う反動減があったが、その影響も改善されプラスとなった。建設関連需要が底堅くダンプトラックなどの販売
が堅調だったほか、バンやカーゴなど一般貨物運搬用の車両も伸びた。車種別では大型トラックが同16・8%増の3,255
台。一方、中型トラックは同2・1%減の2,054台だった。今後について業界関係者は緩やかな景気回復を見込む一方、公
共投資による経済対策の下支えが徐々に減退するとの見通しから「国内販売は前年同月実績を徐々に下回るのでは
ないか」との見方を示した。
◆車8社/世界生産4・5%減 ≪5月 国内生産落ち込み≫乗用車メーカー8社が29日に発表した5月の生産・販売・輸
出実績によると、世界生産は前年同月比4・5%減の207万6,115台となった。前年実績を割るのは5カ月連続。市場が好
調な北米地域などの増加で海外生産は微増を維持したが、市場低迷に見舞われる国内生産の落ち込みが大きかった。
≪統計 実績、予測≫国内生産が前年実績を超えたのは日産自動車のみ。スポーツ多目的車(SUV)「エクストレイル」の
販売が好調だった。ハイブリッド車(HV)を追加した国内向けだけでなく、アジアや豪州向けの輸出が増えた。富士重工
業は、北米向けSUV「フォレスター」がモデル切り替え前で生産を一時的に抑えたことで、15カ月ぶりの前年割れとなっ
た。海外生産はトヨタ自動車と三菱自動車を除く6社が前年実績を超え、5月として過去最高を記録した。米国市場の堅
調な伸びを受けて、北米地域での生産の伸びが目立った。スズキ、ダイハツ工業はそれぞれ主力市場のインド、インドネ
シアやマレーシアの生産増がけん引した。トヨタはアジアや北米、アフリカで、三菱自動車はアジアでの生産減が響いて
海外生産、世界生産ともに前年割れとなった。マツダと富士重工は国内生産が落ち込んだが、海外生産の伸びがけん
引し世界生産は増加。5月として過去最高を記録した。マツダと富士重工は4月も過去最高を記録していた。
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◆白物家電出荷、8ヵ月ぶり増/5月国内、エアコン好調 日本電機工業会(JEMA)が18日に発表したエアコンや洗濯機
など白物家電の5月の国内出荷額は、前年同月比3.8%増の1,753億7,300万円だった。前年実績を上回るのは8カ月ぶ
りになる。2014年4月の消費増税に伴う反動減で前年割れが続いていたが「消費マインドの回復に加え、5月は気温が
高い日が多くエアコンの販売が好調だった」(JEMA)という。ルームエアコンは7.7%増の669億9,200万円と13カ月ぶり
のプラスになった。冷蔵庫も6.2%増の329億5,300万円と8カ月ぶりに前年実績を上回った。掃除機は13.5%増の70億4
00万円でヘアドライヤーは46.1%増の19億6,100万円だった。洗濯機は6.1%減の193億円と8カ月連続のマイナスが続
いている。
◆電子機器出荷額10・5%減/5月、民生用 電子情報技術産業協会(JEITA)が23日に発表した5月の民生用電子機器
の国内出荷額は、前年同月比10・5%減の859億円だった。14カ月連続の減少となった。薄型テレビなどの映像機器の出
荷額は7・3%減の453億円で、3カ月ぶりに減少に転じた。アナログ放送のデジタル変換サービスの停止に伴う買い替え
需要が一巡したためとみられる。分野別では携帯音楽プレーヤーなどの音声機器の落ち込みが大きく、30・2%減の49
億円と6カ月連続のマイナスだった。
◆粗鋼生産 5月 ≪9カ月連続で前年割れ≫日本鉄鋼連盟によると、5月の粗鋼生産量(速報)は前年同月比7・0%減
の891万6,500㌧となり、9カ月連続で前年同月を割り込んだ。4月から鉄鋼大手を中心に業界挙げての減産に入ってお
り、その効果が表れた格好。ただ、前月に比べると1日当たりの生産量は2・7%増えており、絶対量では底を打ちつつあ
る。炉別では高炉系の転炉鋼が同8・2%減の677万4,500㌧、電炉鋼が同3・1%減の214万2,000㌧。転炉鋼は3カ月連続、
電炉鋼は6カ月連続の減少だが、前月比ではいずれも6%前後のプラス。鋼種別では普通鋼が同4・5%減の705万100
㌧、特殊鋼が同15・3%減の186万6,400㌧。それぞれ3カ月連続、6カ月連続の減少だが、前月比では普通鋼はプラス。
市場では建材の一部で回復傾向が見られ、実際にH形鋼の生産が同22・2%増と10カ月ぶりに増如したほか、大・中形棒
鋼もプラスになるなど、わずかながら明るい兆しも見られる。
◆世界粗鋼生産/3カ月連続マイナス ≪5月、主要国の減少響く≫世界鉄鋼協会がまとめた5月の世界65カ国・地域
の粗鋼生産量(速報)は、前年同月比2・1%減の1億3,930万8,000㌧で3カ月連続のマイナスとなった。全体の半分強を
占める中国が同1・7%減の6,995万3,000㌧と3力月連続で減少したため。2位の日本の同7・0%減のほか、米国、韓国、ロ
シア、ドイツなどの主要生産国も減少した。具体的には、世界4位の米国が同8・5%減の683万7,000㌧で4カ月連続、韓
国が同2・6%減の603万7,000㌧で6カ月連続のマイナス。ロシアは同1・9%減の610万㌧で15カ月ぶりにマイナスに転じ
た。トルコも同4。3減の291万9,000㌧、ウクライナが同23・0%減の217万7,000㌧と、いずれも振るわなかった。一方、欧
州連合28カ国は独・伊の上位2カ国が減少したものの、仏・西・英などの主要国が増え、同0・7%増の1,508万6,000㌧と
わずかながらも2カ月連続で増加した。世界3位のインドは同4・0%増の768万㌧で18カ月連続、ブラジルは同3・8%増の
298万2,000㌧で2カ月連続のプラスとなった。
以
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