平成26年度 日本大学文理学部個人研究費 研究実績報告書 学科・資格 社会学科・准教授 申請者氏名 中村 英代 研 究 課 題 研究目的 お よ び 報 研究概要 告 研 究 の の 概 結 果 要 研 究 の 考 察 ・ 反 省 ㊞ 認知行動療法と 12 ステップ・プログラムにおける〈回復観〉の違い―依存症と近代社会のエートス 依存症の介入/支援の代表的なものに、認知行動療法と 12 ステップ・プログラムがある。前者は、専 門家主導の治療的アプローチであり、後者は、当事者主導のサポートプログラムである。両者は、依 存症支援の二つの柱として世界的にも普及しているが、目指すべき回復像が決定的に異なる。すなわ ち、認知行動療法では現行の社会への適応が目標にされるが、12 ステップ・プログラムでは、今の社 会システムそのものが依存を生んでいるとして現行の社会の価値観が相対化される。ここから、それ ぞれの回復モデルの根底には、現在の社会システムを肯定するか否定するかという、社会に対する価 値規範が組み込まれていることがわかる。本年度は、両者間の論争の整理、両者の〈回復観〉とその 違いを考察し、知見としてまとめるまでを具体的な課題とする。本研究は、依存症とそこからの回復 を、近代社会論から再検討しなおす試みの一環として位置づけられる。 【研究の結果】 本研究の結果として本年度は2本の論文を執筆し、学会報告を 1 件行った。その他に、現在査読中の 1 本の論文があり、掲載の方向で調整が進んでいる。また、2016 年度に『(仮)依存症と資本主義』(光文社 新書)として、研究成果を単著で刊行する予定であり、次年度も引き続き本研究課題の研究を継続してい く。共同研究としては、ユタ州立大学から、大学生を対象とした摂食障害や自己意識に関する国際比較 (米国・日本・タイ)についての研究協力依頼を受け、2016 年度の調査実施に向けて調整中である。 【アウトリーチ活動(研究成果の公開活動)】 学術的な成果を広く社会に還元するアウトリーチ活動として、エッセイを1本執筆した。エッセイは、依存 症と12ステップ・プログラムについて、専門家以外の人々にもわかりやすく説明したものである。さらに、 一般の人々や医療職の方たちを対象とした、摂食障害に関する講演を3回行った(6月・第55回日本心 身医学会市民公開講座、10月・摂食障害家族の会、3月・小平市「親と子のメンタル相談事業」)。 本年度は、3本の論文を執筆し(内 1 本は査読中)、学会報告を 1 件行ったという点で、十分な成果が出 たと考える。また、講演を含め、アウトリーチ活動も十分行えた。海外との共同研究(ユタ州立大学)の準 備も順調に進んでいる。その他、本年度は、科学研究費基盤C「薬物依存者の『社会復帰』に関するミク ロ社会学的研究」(研究代表:成城大学・南保輔)の連携研究者として共同研究も年間を通じて行ってお り、本課題とも関連の深い、依存症に関する施設でのフィールドワークも相当数実施することができた。 来年度も、科学研究費若手研究B(研究代表:中村英代)とも関連づけながら、現在進行中の研究を成果 としてまとめるとともに、関連する新たな研究課題にも着手していきたい。 なお、本年度の研究目的と課題を最も忠実に反映した研究成果は、「〈回復〉の語られ方――摂食障害 にみる『治療』 ・ 『癒し』 ・ 『肯定』 ・『解消』のナラティヴ」 『社会学論叢』第 182 号である。 ※この欄は,本報告書提出時点で判明している事項について御記入ください。 研究発表 学会名 発表テーマ 年月日/場所 研究成果物 テーマ 誌 名 巻・号 発行年月日 発行所・者 【研究発表】 ・日本大学社会学会大会 「社会学における依存症(アディクション)研究の現状と課題」2014 年 7 月 12 日,日本大学文理学部. 【研究成果物】 [論文] ・ 「誰も責めないスタンスに立ちつつ、問題の所在を探りあてる――摂食障害・薬物依存へのナラティヴ・アプロ ーチ」 『ナラティヴとケア』第 6 号:34-40 頁,2015 年 1 月 30 日,遠見書房. ・「 〈回復〉の語られ方――摂食障害にみる『治療』 ・ 『癒し』 ・『肯定』 ・『解消』のナラティヴ」 『社会学論叢』 第 182 号:79-93 頁,2015 年 3 月 25 日,日本大学社会学会. [エッセイ] ・ 「ニヤリとした猿から人生を取り戻す――依存症と 12 ステップ・プログラム『世界思想』42 号:34-37 頁,2015 年 3 月,世界思想社.
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