§8. Cauchy の積分定理と積分公式(その 1) 以下,C D :領域,f :D で正則(D の各点で複素微分可能). 領域の閉包となっている集合を閉域と呼ぶ1. 定理 8.1 (3 角形閉路の場合の Cauchy の積分定理) D 2 :3 角形閉域 ,C : の周を反時計回りに 1 周 =) Z f (z) dz = 0. C 証明 (0) (0) とし, := の各辺の中点を結んでできる 4 個の 3 角形閉域を (1) j (j = 1, 2, 3, 4) とする(下図参照). (1) 3 (0) (1) 1 (1) j C (0) := C とし, (1) 2 (1) 4 の周を,上図のように,C (0) の向きと合うように反時計回りに (1) 回る路を Cj とする (j = 1, 2, 3, 4). (0) の内部では積分が相殺しあって, Z 4 Z X f (z) dz = f (z) dz. C (0) ゆえにある j に対して, Z C (0) この j に対して 用して, (1) (1) から := (2) (1) Cj j=1 f (z) dz 5 4 (1) (1) j ,C (1) Z (1) f (z) dz が成り立たないといけない. Cj := Cj とおく. (0) から (1) を得た手続きを適 を得る.そしてこれを繰り返して,3 角形閉域の減少列 (0) (1) (n) ··· ··· と,その周を反時計回りに回る路の列 C (0) , C (1) , . . . , C (n) , . . . を得て, Z Z n f (z) dz 5 4 f (z) dz (n = 1, 2, . . . ). · · · · · · C (0) ここで各 (n) 1 C (n) は C の compact 集合であり, dn := diam ( (n) ) := sup z,w2 z w (n = 0, 1, 2, . . . ) (n) 1閉域の内部は必ずしも元の領域には一致しない:開単位円板から原点を除いた領域等. 23 角形の内部と周からなる閉域.長方形閉域も同様に定義する. 1 1 1 d ! 0 (n ! 1) ゆえ,9 1 z s.t. z 2 T (n) ⇢ D (演習問題 0 0 0 2n n=0 [8.11] 参照).さて f は z0 で複素微分可能であるから,z0 の近傍で とおくと,dn = f (z) = f (z0 ) + f 0 (z0 )(z z0 ) + '(z)(z z0 ) とかけて,z ! z0 のとき '(z) ! 0 である.定数函数と 1 次函数に対しては,C 全 体で(正則な)原始函数が存在するから,閉路 C (n) に沿う積分は 0 である.ゆえに Z Z f (z) dz = '(z)(z z0 ) dz. · · · · · · 2 C (n) C (n) 1 ` である (n = 0, 1, 2, . . . ). 2n 0 そして "n := sup '(z) とおくと,"n ! 0 (n ! 1) であって, z2C (n) Z Z '(z)(z z0 ) dz 5 '(z)(z z0 ) dz 5 "n dn `n = 1n d0 `0 "n . 4 (n) (n) C C Z Z これと 1 , 2 により f (z) dz 5 d0 `0 "n ! 0 (n ! 1).ゆえに f (z) dz = 0 ここで, (n) の 3 辺の長さの和を `n とおくと,`n = C (0) C (0) である. ⇤ 定理 8.2 (長方形閉路の場合の Cauchy の積分定理) Q Z:長方形閉域,C :Q の回りを反時計回りに 1 周する路 =) f (z) dz = 0. D C 証明 対角線を 1 本入れて 2 個の 3 角形を作ればよい. ⇤ def • S が凸集合 () 8p, q 2 S に対して,[ p, q ] ⇢ S . • 凸領域:凸集合になっている領域(楕円や長方形の内部等). 定理 8.3 (凸領域における Cauchy の積分定理) Z D :凸領域 =) D 内の任意の閉曲線 C に対して f (z) dz = 0. C 証明 a 2 D を固定し,F (z) := Z f (w) dw とおく. h が十分小さいとき,3 点 [ a, z ] a, z, z + h で形成される 3 角形閉域 は D に含まれる3ので,定理 8.1 より 1 周する f の積分は 0 である.ゆえに F (z + h) F (z) = Z [ z, z+h ] 3D は凸集合だから. 2 f (w) dw. の周を F (z + h) 以下以前と同様に, h F (z) f (z) 5 1 h Z f (w) f (z) dw と Z して,F (z) が f (z) の D での(正則な)原始函数となるから, f (z) dz = 0. ⇤ [z,z+h] C 定義 8.4 a 2 D とする.D が a に関して星形 (star-shaped) であるとは,任意の z 2 D に対して,[ a, z ] ⇢ D となることである. 凸領域はその領域内部の任意の点に関して星形である. Im z a O Re z a O a 上左図の領域はまさに中心点 a に関して星形である.また中央の図の角領域 { z 2 C ; ↵ < Arg z < ( ⇡5↵< } 5 ⇡) も,任意の a > 0 に関して星形である.とくに,複素数平面から実軸の負または 0 の部分を除いてできる領域 C \ ( 1, 0 ] も,任意の a > 0 に関して星形である. 定理 8.5 (星形領域における Cauchy の積分定理) 領域 D はZa 2 D に関して星形であるとする.このとき,D 内の任意の閉路 C に 対して, f (z) dz = 0 である. C 証明 最初に固定する点として,D が星形になる所以の点 a 2 D をとれば,定理 8.3 の証明がそのまま通用する. h が十分小さいとき,3 点 a, z, z + h で形成される 3 角形閉域 ⇤ は D に含まれることに注意. 定理 8.6 (円周を使った Cauchy の積分公式) c 2 D とし,r > 0 に対して D(c, r) ⇢ D と仮定する.また,C は円周 z c =r を反時計回りに 1 周する閉路とする.このとき,任意の a 2 D(c, r) に対して, Z f (z) 1 f (a) = dz. 2⇡i C z a 証明 十分小さい 0 > 0 をとって D(c, r + 0) をとって,D(a, ") ⇢ D(c, r) とし,二つの円 z 3 ⇢ D とする.次に十分小さい " > 0 c = rと z a = " を次ページ左 図のように,縦線で結ぶ.そして,同中央図と右図のような閉路 C1 , C2 を定義する. いずれも内部を左に見る正の向きで考えている.さらに,網かけした領域 D1 , D2 を 別個に考える.あきらかに,領域 Dj は点 aj に関して星形である. 以下,関数 F (z) := f (z) を Dj (j = 1, 2) で考える.F (z) は星形領域 Dj で正則で z a Z あり,Cj ⇢ Dj ゆえ,定理 8.5 より,Ij := F (z) dz = 0.したがって,I1 + I2 = 0. Cj ところが,I1 + I2 においては縦線上の積分は往復することで相殺されるので,I1 + I2 は C に沿う積分と,小さい円 z a = " を時計回りに 1 周する積分の和となる. 移項して小さい円 z a = " を反時計回りに回る閉路を C" とすると,以上述べた Z Z ことから, F (z) dz = F (z) dz. · · · · · · 1 C C" D1 C D2 a a c a a1 C1 a2 C2 f (a) f (a) + と変形しよう.関数 f は正則ゆえ, a z a f (z) f (z) G(z) := (z 6= a), G(a) := f 0 (a) z a で定義する関数 G は D で連続になるので,有界閉集合である閉円板 D(c, r) で有界 さて,F (z) = f (z) z である.よって,定数 M > 0 をとって, G(z) 5 M (8z 2 D(a, r)) としておく. Z Z Z f (z) dz . · · · · · · 2 1 = dz = G(z) dz + f (a) z a z a C C" C" 2 の右辺第 1 項の絶対値は 5 2⇡M " であり,第 2 項は 2⇡if (a) に等しい(" に無関 係).よって, 例 8.7 で " ! +0 とすると,定理の公式に達する. Z 1 dz = 1. ↵ < 1 のとき, 2⇡i |z|=1 z ↵ 2 ⇤ 実際,Cauchy の積分公式より,左辺は恒等的に 1 という函数の ↵ での値であるから. 注意 8.8 定理 8.6 の証明を検討することにより,外側の円周 C が,楕円であって も,長方形であっても,凸多角形の周や凸図形の周であっても,Cauchy の積分公式 が成り立つことがわかる(内側の小さい円周はそのまま). 4
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