11月27日の講義ノート

§8. Cauchy の積分定理と積分公式(その 1)
以下,C
D :領域,f :D で正則(D の各点で複素微分可能).
領域の閉包となっている集合を閉域と呼ぶ1.
定理 8.1 (3 角形閉路の場合の Cauchy の積分定理)
D
2
:3 角形閉域 ,C :
の周を反時計回りに 1 周 =)
Z
f (z) dz = 0.
C
証明
(0)
(0)
とし,
:=
の各辺の中点を結んでできる 4 個の 3 角形閉域を
(1)
j
(j = 1, 2, 3, 4) とする(下図参照).
(1)
3
(0)
(1)
1
(1)
j
C (0) := C とし,
(1)
2
(1)
4
の周を,上図のように,C (0) の向きと合うように反時計回りに
(1)
回る路を Cj とする (j = 1, 2, 3, 4). (0) の内部では積分が相殺しあって,
Z
4 Z
X
f (z) dz =
f (z) dz.
C (0)
ゆえにある j に対して,
Z
C (0)
この j に対して
用して,
(1)
(1)
から
:=
(2)
(1)
Cj
j=1
f (z) dz 5 4
(1)
(1)
j ,C
(1)
Z
(1)
f (z) dz が成り立たないといけない.
Cj
:= Cj とおく.
(0)
から
(1)
を得た手続きを適
を得る.そしてこれを繰り返して,3 角形閉域の減少列
(0)
(1)
(n)
···
···
と,その周を反時計回りに回る路の列 C (0) , C (1) , . . . , C (n) , . . . を得て,
Z
Z
n
f (z) dz 5 4
f (z) dz
(n = 1, 2, . . . ). · · · · · ·
C (0)
ここで各
(n)
1
C (n)
は C の compact 集合であり,
dn := diam (
(n)
) :=
sup
z,w2
z
w
(n = 0, 1, 2, . . . )
(n)
1閉域の内部は必ずしも元の領域には一致しない:開単位円板から原点を除いた領域等.
23
角形の内部と周からなる閉域.長方形閉域も同様に定義する.
1
1
1 d ! 0 (n ! 1) ゆえ,9 1 z s.t. z 2 T
(n)
⇢ D (演習問題
0
0
0
2n
n=0
[8.11] 参照).さて f は z0 で複素微分可能であるから,z0 の近傍で
とおくと,dn =
f (z) = f (z0 ) + f 0 (z0 )(z
z0 ) + '(z)(z
z0 )
とかけて,z ! z0 のとき '(z) ! 0 である.定数函数と 1 次函数に対しては,C 全
体で(正則な)原始函数が存在するから,閉路 C (n) に沿う積分は 0 である.ゆえに
Z
Z
f (z) dz =
'(z)(z z0 ) dz. · · · · · · 2
C (n)
C (n)
1 ` である (n = 0, 1, 2, . . . ).
2n 0
そして "n := sup '(z) とおくと,"n ! 0 (n ! 1) であって,
z2C (n)
Z
Z
'(z)(z z0 ) dz 5
'(z)(z z0 ) dz 5 "n dn `n = 1n d0 `0 "n .
4
(n)
(n)
C
C
Z
Z
これと 1 , 2 により
f (z) dz 5 d0 `0 "n ! 0 (n ! 1).ゆえに
f (z) dz = 0
ここで,
(n)
の 3 辺の長さの和を `n とおくと,`n =
C (0)
C (0)
である.
⇤
定理 8.2 (長方形閉路の場合の Cauchy の積分定理)
Q
Z:長方形閉域,C :Q の回りを反時計回りに 1 周する路
=)
f (z) dz = 0.
D
C
証明 対角線を 1 本入れて 2 個の 3 角形を作ればよい.
⇤
def
• S が凸集合 () 8p, q 2 S に対して,[ p, q ] ⇢ S .
• 凸領域:凸集合になっている領域(楕円や長方形の内部等).
定理 8.3 (凸領域における Cauchy の積分定理)
Z
D :凸領域 =) D 内の任意の閉曲線 C に対して f (z) dz = 0.
C
証明 a 2 D を固定し,F (z) :=
Z
f (w) dw とおく. h が十分小さいとき,3 点
[ a, z ]
a, z, z + h で形成される 3 角形閉域
は D に含まれる3ので,定理 8.1 より
1 周する f の積分は 0 である.ゆえに
F (z + h)
F (z) =
Z
[ z, z+h ]
3D
は凸集合だから.
2
f (w) dw.
の周を
F (z + h)
以下以前と同様に,
h
F (z)
f (z) 5 1
h
Z
f (w) f (z) dw と
Z
して,F (z) が f (z) の D での(正則な)原始函数となるから, f (z) dz = 0. ⇤
[z,z+h]
C
定義 8.4
a 2 D とする.D が a に関して星形 (star-shaped) であるとは,任意の z 2 D
に対して,[ a, z ] ⇢ D となることである.
凸領域はその領域内部の任意の点に関して星形である.
Im z
a
O
Re z
a
O
a
上左図の領域はまさに中心点 a に関して星形である.また中央の図の角領域
{ z 2 C ; ↵ < Arg z <
( ⇡5↵<
}
5 ⇡)
も,任意の a > 0 に関して星形である.とくに,複素数平面から実軸の負または 0
の部分を除いてできる領域 C \ ( 1, 0 ] も,任意の a > 0 に関して星形である.
定理 8.5 (星形領域における Cauchy の積分定理)
領域 D はZa 2 D に関して星形であるとする.このとき,D 内の任意の閉路 C に
対して,
f (z) dz = 0 である.
C
証明 最初に固定する点として,D が星形になる所以の点 a 2 D をとれば,定理 8.3
の証明がそのまま通用する. h が十分小さいとき,3 点 a, z, z + h で形成される 3
角形閉域
⇤
は D に含まれることに注意.
定理 8.6 (円周を使った Cauchy の積分公式)
c 2 D とし,r > 0 に対して D(c, r) ⇢ D と仮定する.また,C は円周 z
c =r
を反時計回りに 1 周する閉路とする.このとき,任意の a 2 D(c, r) に対して,
Z
f (z)
1
f (a) =
dz.
2⇡i C z a
証明
十分小さい
0
> 0 をとって D(c, r +
0)
をとって,D(a, ") ⇢ D(c, r) とし,二つの円 z
3
⇢ D とする.次に十分小さい " > 0
c = rと z
a = " を次ページ左
図のように,縦線で結ぶ.そして,同中央図と右図のような閉路 C1 , C2 を定義する.
いずれも内部を左に見る正の向きで考えている.さらに,網かけした領域 D1 , D2 を
別個に考える.あきらかに,領域 Dj は点 aj に関して星形である.
以下,関数 F (z) :=
f (z)
を Dj (j = 1, 2) で考える.F (z) は星形領域 Dj で正則で
z a
Z
あり,Cj ⇢ Dj ゆえ,定理 8.5 より,Ij :=
F (z) dz = 0.したがって,I1 + I2 = 0.
Cj
ところが,I1 + I2 においては縦線上の積分は往復することで相殺されるので,I1 + I2
は C に沿う積分と,小さい円 z
a = " を時計回りに 1 周する積分の和となる.
移項して小さい円 z a = " を反時計回りに回る閉路を C" とすると,以上述べた
Z
Z
ことから, F (z) dz =
F (z) dz. · · · · · · 1
C
C"
D1
C
D2
a
a
c
a
a1
C1
a2
C2
f (a)
f (a)
+
と変形しよう.関数 f は正則ゆえ,
a
z a
f (z) f (z)
G(z) :=
(z 6= a),
G(a) := f 0 (a)
z a
で定義する関数 G は D で連続になるので,有界閉集合である閉円板 D(c, r) で有界
さて,F (z) =
f (z)
z
である.よって,定数 M > 0 をとって, G(z) 5 M (8z 2 D(a, r)) としておく.
Z
Z
Z
f (z)
dz . · · · · · · 2
1 =
dz =
G(z) dz + f (a)
z
a
z
a
C
C"
C"
2
の右辺第 1 項の絶対値は 5 2⇡M " であり,第 2 項は 2⇡if (a) に等しい(" に無関
係).よって,
例 8.7
で " ! +0 とすると,定理の公式に達する.
Z
1
dz = 1.
↵ < 1 のとき,
2⇡i |z|=1 z ↵
2
⇤
実際,Cauchy の積分公式より,左辺は恒等的に 1 という函数の ↵ での値であるから.
注意 8.8
定理 8.6 の証明を検討することにより,外側の円周 C が,楕円であって
も,長方形であっても,凸多角形の周や凸図形の周であっても,Cauchy の積分公式
が成り立つことがわかる(内側の小さい円周はそのまま).
4