自然対数の底 e について 中学・高校と数学を学んでいくと「数学Ⅲ」において、 「自然対数の底」と呼ばれる新しい数を 知ることになります。それは 2.718281828459045" と永遠に続く数であり、循環小数ではないので、 分数に表せない数です。このような数のことを超越数といいますが、きっと高校生にとっては「 π 」 以来の超越数でしょう。最初、何だこの数は?と思うのも無理はありませんが、実はこの数、数 学の世界に限らず様々な場面に登場する、とてつもなく重要な定数なのです。この定数がどのよ うにして得られるかというと、それにはいろいろな方法があります。 私の手元にある数Ⅲの教科書には lim (1 + h) 1 h h →0 の極限値として書いてありますし、 1 それとほとんど変わらない lim (1 + ) n として書いてある教科書もあるかもしれませんし、 n →∞ n e = 1+ ∞ 1 1 1 1 1 + + + +"" = ∑ という美しく、不思議な式で表現されているものもあるかもし 1! 2! 3! 4! k =0 k ! れません。または、指数関数 y = a x に対して、微分したときに変わらないような指数関数 y = e x と 1 h 1 1 して、定数 e を捉えることもできます。lim (1 + h) と lim (1 + ) n は h = とおけば、同じであること n →∞ h →0 n n ∞ 1 1 がわかると思いますので、一見異なる lim (1 + ) n と ∑ が同じであることを式変形を使って説明 n →∞ n k =0 k ! してみたいと思います。さらにこの e が 3 より小さいことを示します。この証明は大学入試でも よく見ます。不等式の扱いについて、中学生・高校生はとても苦手です。等しいものとしての「方 程式」ばかり扱っていますし、不等号を用いて大きく評価したり、小さく評価することはなかな か難しいことでしょう。大学の数学は「不等式の学問」と異名をとるほどです。易しくないけれ ども、そのエッセンスを感じてもらえればと思います。 問題 1 lim (1 + ) n と n →∞ n ∞ 1 ∑ k! とが同じ値であることを説明せよ。 k =0 〔説明の前に〕 説明に入る前に、「無限級数は有限和の極限」として定義されていることを思い出そう。 1 よって、 (1 + ) n を展開することを考える。 n 〔説明〕 1 (1 + ) n を 2 項展開すると、 n n n 1 1 1 (1 + ) n = ∑ n Ck ⋅ 1k ⋅ ( ) n − k = ∑ n Ck ⋅ n − k n n n k =0 k =0 = n C0 ⋅ 1 1 1 1 1 1 + n C1 ⋅ n −1 + n C2 ⋅ n − 2 + "" + n Cn − 2 ⋅ 2 + n Cn −1 ⋅ + n Cn ⋅ 0 n n n n n n n = n Cn ⋅ 1 1 1 1 1 1 + n Cn −1 ⋅ + n Cn − 2 ⋅ 2 + "" + n C2 ⋅ n − 2 + n C1 ⋅ n −1 + n C0 ⋅ n 0 n n n n n n n! であるから、 n Ck = k !(n − k )! = 1+ n× 1 n! 1 n! 1 n! 1 n! 1 + × 2 + "" + × n−2 + × n −1 + × n n (n − 2)!{n − (n − 2)}! n 2!(n − 2)! n 1!(n − 1)! n 0!n ! n = 1+ n× 1 n(n − 1) 1 n(n − 1) ⋅ " ⋅ 4 ⋅ 3 1 n(n − 1) ⋅ " ⋅ 3 ⋅ 2 1 n! 1 + × 2 + "" + × n−2 + × n −1 + × n n 2! (n − 2)! (n − 1)! n! n n n n = 1+ n× 1 1 n(n − 1) 1 + × × 2 +" n 2! 1 n "+ = 1+1+ "+{ = 1+1+ 1 n(n − 1) ⋅ " ⋅ 4 ⋅ 3 1 1 n(n − 1) ⋅ " ⋅ 3 ⋅ 2 1 n! 1 × × n−2 + × × n −1 + × n (n − 2)! 1 (n − 1)! 1 n! n n n 1 n −1 × +" 2! n 1 n −1 n − 2 3 1 n −1 n − 2 2 1 n −1 n − 2 1 × × ×"× } + { × × ×"× } + { × × ×"× } (n − 2)! n n n (n − 1)! n n n n! n n n 1 1 1 1 2 n−3 (1 − ) + " " + { (1 − )(1 − ) ⋅ " ⋅ (1 − )} 2! n (n − 2)! n n n +{ 1 1 2 n−2 1 1 2 n −1 (1 − )(1 − ) ⋅ " ⋅ (1 − )} + { (1 − )(1 − ) ⋅ " ⋅ (1 − )} (n − 1)! n n n n! n n n 右辺の各項の先頭に注目すると、1 + う。 n → ∞ とすれば、 1 1 1 1 + + + + "" の各数が現れていることに気付くでしょ 1! 2! 3! 4! 1 の後ろの因子がそれぞれ 1 になることから、見事に n! 1 1 1 1 1 lim (1 + ) n = 1 + + + + +" であることが示されました。 n →∞ n 1! 2! 3! 4! 1 さて、 (1 + ) n は、 n 1 n +1 1 ) (1 + ) n +1 1 n +1 n > > (1 + ) > 1 より n に関して単調増加であり、 1 1 n (1 + ) n (1 + ) n n n (1 + 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 =3 lim (1 + ) n = 1 + + + + +" < 1 + 1 + + 2 + 3 + 4 +" = 1 + n →∞ 1 1! 2! 3! 4! 2 2 2 2 n 1− 2 となって、3 より小さいこと(上に有界であること)がわかります。 上の途中の不等式の変形は、すべての数字を 2 に置き換えています。そうすると、分母が小さく なりますから、分数としては大きくなりますね。どうしてこんな変形を?と思うかもしれません が、等比数列の和に帰着させていること、 2.718281828459045" という細かい値ではなく、 3 より 小さいことだけを示せば良いということ、これらのことから階乗をより定量し易い形に変形する ことが戦略として現れてくるのです。
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