露岩率(%) ≦20 20< イヌシデ 7.3 0.0 クマシデ 5.1 10.0 表1.100m

萌芽能力の違いがイヌシデとクマシデの生育立地に与える影響
緑地生態学研究室 飯島 達也
目的
イヌシデとクマシデは、温帯落葉樹林の林冠を構成する主要な樹種である。この 2 種
は、類似した性質を備えている。そのため、同所的に生育していることが知られている。
しかし、より細かい環境に着目すると、2 種の生育立地には違いが見られた。だが、これ
までにイヌシデとクマシデの生育立地の違いは、明らかになっていない。
樹木の分布を左右する要因として、地表面の露岩状態が挙げられる。地表面に多くの岩
石が露出している場所は、土壌が少ない。そのため、樹木が根を張れる空間が少なく、幹
が倒れる危険がある。よって、露岩の多い場所で生育できる樹木は、限られていると考え
られる。樹木が倒れたときに、修復・再生する手段に萌芽幹を出すことがある。そのため、
萌芽能力が高い樹種は、露岩が多い立地でも生き残れる可能性がある。一方で、萌芽能力
が高いと、その代償として樹高の成長が抑えられる傾向があると考えられている。これら
のことから、萌芽能力の違いは、樹木の生育立地を左右すると考えられる。
そこで本研究では、露岩の状態とイヌシデ・クマシデの分布の関係を調べた。さらに、
2 種の萌芽能力と樹高成長の様子を調べ、比較した。それらの結果から、イヌシデとクマ
シデの生育立地の違いを明らかにすることを目的とする。
調査地と調査方法
調査は、茨城県の中央に位置する、加波山で行った。加波山の林内では、イヌシデ・ク
マシデのどちらも生育しており、林冠に達する個体も見られた。また、地表面に岩石が露
出している様子を、所々で観察することができる。
5m 四方の調査区を 13 ヶ所設置して、イヌシデ・クマシデの生育状況と、露岩の状態
を調べた。それぞれの調査区に生育している、イヌシデとクマシデの個体数、萌芽幹を持
っている個体数、樹高を記録した。調査した全ての個体のうち、萌芽幹を持っている個体
の割合を、萌芽率として計算した。樹高成長の様子を見るために、林冠に達している個体
の割合を用いた。調査地では、樹高 10m 以上の個体が林冠に達していた。そして、地表
面の面積のうち、岩石が露出している面積の割合を露岩率として測定した。
結果
2
表1.100m あたりの平均出現個体数
表 1 に、イヌシデとクマシデの出現個
体数と、露岩率の関係を示す。イヌシデは、
露岩率(%)
≦20
20<
20%よりも高い場所でも生育していた。露
イヌシデ
7.3
0.0
岩率 20%以下の場所では、イヌシデの方
クマシデ
5.1
10.0
露岩率が 20%以下の場所でしか生育して
いなかった。一方、クマシデは露岩率が
がクマシデよりも多くの個体が生育してい
-3-
た。
次に、イヌシデとクマシデの萌芽能力、および樹高成長の様子を比較する(表 2)。萌芽率
は、クマシデの方が高かった。この結果から、クマシデの方がイヌシデよりも、萌芽能力
が高いことがわかる。林冠に達している個体の割合は、イヌシデの方が高かった。このこ
とから、クマシデは萌芽能力が高いために、樹高成長が抑えられていると考えられる。
表2.イヌシデとクマシデの生育状況
イヌシデ
クマシデ
萌芽率(%)
20
42
林冠に達している
個体の割合(%)
95
37
生育立地の露岩率
20%以下
関係なし
考察
調査結果から、イヌシデとクマシデが、露岩率の違いによって住みわけをしていること
がわかる(表 1)。イヌシデは、露岩が少ない所だけに生育している。そして、露岩が少な
い所では、クマシデよりも有利に生育していることがわかる。一方、クマシデは露岩率の
高低に関係なく生育している。ただし、露岩の多い所の方が生育している個体数が多い。
このように、イヌシデとクマシデの分布に違いが生じるのは、2 種の萌芽状況、樹高成長
が違うためだと考えられる(表 2)。
イヌシデは萌芽幹を持っている個体が少なく、樹高が高い個体が多かった(表 2)。露岩
が多い場所では、樹高が高くなるにつれて樹木が倒れる危険が増す。そして、倒れた場合、
萌芽能力が低い樹木は枯死してしまう。そのため、イヌシデが露岩の多い立地で生育する
ことは、困難であると考えられる。また、露岩が少ない場所では、イヌシデはクマシデよ
りも多くの個体が生育していた(表 1)。根をしっかりと張れる場所では、大きく成長する
イヌシデの方が、クマシデよりも有利に生育できると考えられる。
一方、クマシデは萌芽幹を持っている個体が多く、樹高が高い個体が少なかった(表 2)。
クマシデは、樹高の成長が抑えられているため、露岩が多い立地でも倒れる危険が少ない
と考えられる。さらに、幹が倒れた場合でも、萌芽幹を出すことで再生できる可能性が高
い。クマシデが露岩率の高低に関係なく生育できるのは(表 2)、そのためだと考えられる。
以上のように、同じ林内に生育しているイヌシデとクマシデが、露岩状態の違いによっ
て住みわけをしていることがわかった。そして、その要因が 2 種の萌芽能力と樹高成長
の違いであることがわかった。
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