44 函南原生林 - 千葉県森林インストラクター会

千葉県森林インストラクター会
㊹ 函南原生林
地元の財産区が禁伐林として保護してきた結果生まれた巨樹古木の森
【概要】地域の農民が自主的に禁伐の掟を作り、資金と労力を拠出し先祖代々保護してきた禁伐林
としての歴史、その結果残された見事な巨木林を実感する。幹回り日本一であったブナは平成 17 年
に倒れたが、アカガシ、オオモミジ、ヒメシャラなど巨木揃いで、一般の森とはスケールの違いを
感じさせる。
【森林の特徴と見所・歴史文化】
とにかく全ての木が大きく感じる。ヤマボウシの
に戻ってややきつい登行を繰り返す。ヒメシャラと
ブナの巨木⑥が並び立つ様も面白い。箱根周辺はヒ
株立ちは径 2m 以上もあろうか。オオモミジもたくさ
んあるが、いずれも巨木で美しいモミジの紅葉も空
高すぎてよく見えないのでは、と心配になる。
ブナ、オオモミジ、ヒメシャラ、イヌガシ、アカガ
シ、シラキ、イヌシデ、ケヤキ、ヤブニッケイ、アオ
キ等暖温帯と冷温帯の樹種が混じって生育できるの
は、関東地方では箱根周辺ぐらい、夏はさほど暑くな
く、冬もあまり寒くないという気候条件がもたらし
た結果と言える。モクレイシ、タンナサワフタギもこ
こで見られる。
原生林内は鬱蒼とした大木に覆われ、湿気が高く、
見晴らしはさほど良くないが、樹木の愛好家ならば
一度は訪れたい場所であり、森林インストラクター
の研修会を実施する場所としては最適だろう。一般
のハイキングコースとしては、コースも長く、急坂が
多く、ややマニアックな場所かもしれない。
【コース紹介】
原生の森公園駐車場①から暫くはよく整備された
公園内を歩く。直ぐに不伐の森記念碑②が現れ、ここ
から函南原生林区域になる。駐車場から周回路分岐
④まで 1.2Km 程度、標高差は 150m程有り、そこそこ
メシャラが多いが、ブナの巨木に引けを取らない巨
きつい登りが続く。途中に観察広場③が有り、ベン
木はここでしか見られないのではないか。
チ・テーブルがあり一休みできる。
函南原生林入口のバス停⑦からの道が合流し、暫
周回路の分岐④は時計回りで左へ進む。周回路は
く行くと左手にアカガシの巨木(樹齢 700 年)⑧が
途中で沢を 3 か所横切るが、その際 70~80mの上り
現れる。周回路から少し離れているので迫力は前述
下りを繰り返すので、やや健脚向きのコースと言え
のアカガシの方がまさるが、これも中々のもの。
る。富士箱根ランドからの道と合流したら少しだけ
かつて幹回り日本一であった推定樹齢 700 年のブ
周回路から離れて富士箱根ランド方面へ行くと、ア
ナは、平成 17 年(2005)に倒れ展望台と看板⑨だけが
カガシの巨木(樹齢 500 年)⑤が現れる。原生林内に
残っている。倒れた一因はサクを超えてブナに近寄
入ってから、ブナ、オオモミジ、ヤマボウシ、イヌガ
る人が後を絶たず、根の周りを踏み荒されたことだ
シ、ヒメシャラ等すべての木が桁違いに大きく、本当
という。暫く行くと分岐④に戻り、駐車場までもと来
に巨木の森だなあ、と森好きは嬉しくなってしまう
た道を引き返す。
場所だが、このアカガシはひときわ大きく、幹がよじ
れて四方に枝を広げている様は圧巻である。周回路
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千葉県森林インストラクター会
樹齢 500 年のアカガシ
ブナとヒメシャラ
樹齢 700 年のアカガシ
【一言メモ】
<函南原生林>---The 函南遺産より引用
函南の原生林は、地元では禁伐林とか大樹立と呼ば
れ、箱根外輪山のひとつである鞍掛山の南西斜面に位
置します。標高 860m付近から来光川上流の 550m付
ヤマボウシの株立ち
近に広がっている総面積 223haの自然林で、下流の
函南町や三島市の水田をうるおす水源涵養林として、
コースで見られる主な植物等
昔から手厚く保護されてきた森林です。
アカガシ、ブナ、ヒメシャラ、イヌシデ、ケヤキ、オ
この森は、地域の農民が自主的に禁伐の掟を作り、資
オモミジ、シラキ、ツルシキミ、エイザンスミレ、ナ
金と労力を拠出し先祖代々保護してきたので禁伐林と
ガバノスミレサイシン、シコクスミレ、ニリンソウ、
呼ばれています。過去を振り返ると伐採の危機は何度
エンレイソウ、タニギキョウ、ハルトラノオ、ネコノ
となくありました。記録に残るものとして、江戸時代
メソウ、コチャルメルソウ、ダイコンソウ、マジオウ、
に徳川幕府は、御用炭の供出を命じました。地元関係
キッコウハグマ、マメヅタほか
者の粘り強い中止願いを受けた江川坦庵の仲介もあ
り、幕政の一環として江戸を守る自然のとりでとして
野外講座企画のための情報
の機能もあって存続できたのでした。また、昭和初期
FS 指数:3B 水平距離:5.0km
の水騒動では、残念ながら現在の原生林から観音滝に
トイレ:原生の森公園駐車場、富士箱根ランド側入
登高 352m
至る禁伐林の一部25haが伐採されました。しか
口、周回路には無い。
し、地元での保護努力の結果、今日のように自然の森
昼食場所候補:原生の森駐車場、観察広場
林を残すことができました。
安全確保上の留意点:周回路内は滑りやすい
その他:観光での立入は不可。大人数では入りにく
い。バスで行く場合は函南原生林バス停から入る。
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