第11回 歩行指導と靴の関係

2015 年バランス理論コラム
第11回 歩行指導と靴の関係
私は仕事柄、様々な医学・医療関係のテレビ番組を必ず見る様にしています。
勿論、ビデオ録画もしているので、色々なテーマや最新の医療の実態も確認す
ることが出来ています。
人の命を預かり、神の手により命を助ける技術は、只々、頭の下がる思いです。
然しながら、近頃感じているのは、タレントの様にテレビに出演している有名
な医師たちに違和感や不信感を思うシーンが多くなってきている点です。
専門分野では無いにも関わらず、様々な話を理路整然と話している状況に、場
合によっては怒りすら感じる場面が多くなってきています。特に身体の歪みや
バランスを補正するための運動や歩き方、履物について説明を行っている医師
に対して、本当に勉強をしてきたのだろうかと疑ってしまいます。
一般視聴者は、テレビの有名な医師たちの説明やアドバイスを当たり前のよう
に鵜呑みに聞いている訳で、これが実は誤りだったと知った時に、私と同様に
怒りや不信感を持つでしょう、更に、世の中に対して非常に無責任な番組であ
り、医師たちだと感じると思います。
例えば、歩行方法についてアドバイスをする内容が、シューズメーカーの提唱
する歩行方法であり、背筋を伸ばして、大股で踵から着地して歩行する事を薦
めていますが、踵からの着地は、誤った靴の理論から始まった事で、人間本来
の歩行ではありません。
人間の骨格や機能を理解しないままに、メーカーのビジネス戦略によって作ら
れた誤った構造の履物で、今や世界中の常識となってしまった事なのです、せ
めて医師たちには、本来的な歩行や履物の知識を理解してからアドバイスをし
て欲しいと思っています。
人間の骨格は、四足動物の後足と違い、簡単に大きく前に出すようにはできて
いません。
四足動物の大腿骨は胴体の近くにあり、膝が前側に出て傾いています、その事
から後足の膝を伸ばすだけで爪先は前に出る仕組みです。人間は進化の過程で、
踵関節が着地し、骨盤が起きて大腿骨が鉛直になっています、その関係から大
腿骨を前に振り出さない限り、膝を伸ばしても足を大きく前に出すことはでき
ません。特に四足動物の後足との違いは、膝関節と踵関節の位置の違いから真
逆の運動となって現れます。
四足動物の後足は、関節を伸ばすことで全て前側への移動運動となりますが、
人間は関節の向きの違いから、大きく足を前に出すと着地後に受動筋を使いな
がら関節を弛緩しなければ前に出した足への移動が出来ない仕組みになってい
ます。この誤った歩行方法が体を支えている伸展筋の働きまで弛緩して、変形
性膝関節症や腰痛症を引き起こし、足部や下肢の動きを妨げる事から、心肺の
循環機能を補助する役割までも弱くしています。
人間の本来的な歩行方法は、足を大きく前には出さず、前足への重心移動を念
頭に足の前部から着地して、足首関節をしっかりと使い踏み蹴って歩くことで
す。膝関節や踵への過重負担が軽減されて、誰でも綺麗に歩く事や弛緩するこ
とによる姿勢保持力の低下も回避する事が出来ます。この歩行は、人間が素足
で歩くときに行っている歩行で、人間の骨格や関節の機能上、本来の歩き方に
なります。
何故、シューズメーカーは、このような歩き方を提唱したのでしょうか
それは靴の構造にあります。多くの靴は形や強さを維持する為に、シャンク(靴
の内部にある強度な芯材)を使用しています。他にもフィット感を高める為に
内底の足裏の数か所を
盛り上げた構造にしています。その結果、足底腱の運動を妨げてしまい、足裏
からの姿勢保持力や足関節の運動が十分にできなくなってしまいました。その
結果、無理やり股関節から脚部を振った歩きを提唱している訳です。
更には、踏み蹴る動きや足の持ち上がりが難しくなる為に、靴が転がり易いよ
うに、靴の爪先部分を上に持ち上げた構造の靴まで主流となってしまいました。
残念ながら、この様な足趾を使い最後まで蹴る事の出来ない構造の靴が、ラン
ニングシューズとして世の中にまかり通っているのが現実です。
特に内底を盛り上げた構造の靴は、姿勢保持の支点となる足裏の三支点(踵、
拇趾球、小趾球)の保持反応を止めてしまった事から、靴の中で足が滑り動く
現象が起こり、それを止める為に靴の周りの立ち上がりを強化し、内底の幅を
狭くして、アッパー部分の足への巻き込みを強くする構造に変化してきていま
す。残念ながら、この全て構造が足部の機能低下を引き起こしている物であり、
半世紀以上前に行ったビジネス上の誤った構造が、本来的な人間の機能を疎か
にしたことから始まっている「つくろい」と考えています。
有名スポーツプレーヤーが脚部の筋痙攣や膝関節痛でプレーを棄権する場合や
引退に追い込まれる例は沢山あります。その多くは、靴による障害や本質を知
らないトレーナー達によって起きているのが、現状ではないでしょうか、
有名な医師が、テレビで発言する誤った話やアドバイスは元より、地域でも医
者や治療家が本質を理解せずに患者に伝えている事も多いと感じています。
人間にとって大切な歩行方法や身体の歪みを治す運動などは、基本的な身体の
構造や履物の構造を知る事で理解でき、本来のアドバイスができると思ってい
ます。
このコラムを読んでいただいている皆様には、もっと人間の身体や履物につい
ての知識を
理解していただき、世の中の過ちを一緒に正して頂きたいと願っています。