家族信託<その3> 家族信託の問題点

Tax & Finance
れていますが、たばこ以外の売り上げ
■株主権利の信託
はほとんどありません。陳列商品も古
株式所有者つまり株主の権利は
いままです。
① 配当金の請求権
大企業のサラリーマンは3割です。
② 株式買取請求権
残りの7割は中小企業のサラリーマン
③ 株主総会招集権
です。この格差が広がってきています。
④ 議決権
そのうえさらに、非正規雇用のサラ
⑤ 取締役の違法行為差止請求権
リーマンが著しく増加しています。
⑥ 取締役の解任請求権
レジャーホテル業界も寡占化が顕著
⑦ 提案権
のようです。多店舗展開のホテルグ
等々の経済的権利と経営権です。
ループは資金にも余裕があり、安定し
これらの権利について、自己を受益
た経営が見込める一方で、昔からの小
者として信託し、委託者の死亡後の受
さなホテルの経営はますます難しく
益者を指定することにより実質の後継
なってきています。何とか生き残る方
者が決定し、目的を達成することにな
策を見出してほしいものです。
ります。
さて、今号は家族信託の3回目。相
残念ながら、現在、経済的請求権と
続の遺言書では限界があった財産継承
議決権に信託を分けられるかとの問題
では、議決権は独立した金銭価値がな
く信託財産にならないとの意見が一般
連載●経営者のための税務・財務のポイント
家族信託<その3>
家族信託の問題点
税理士
本村龍史(もとむら・たつふみ)
的(新井誠著信託法)のようですから、
株主の権利すべてを信託することにな
るようです。
このように、同族会社の株式は評価
額としては高くないが、以後、一族の
経済的基盤となる場合や、相続税法上、
高額すぎる場合もあり、相続税法でも
納税猶予処置ができました。しかし、
一族間で経営権を巡る「争族」に発展
したり、節税等を優先し分散した結
果、経営方針に異論がでて収拾が付か
■街中の現状……
や事業継承に新しい道筋となる家族信
ない事例も多々あります。その回避策
大手メーカーを中心としたベース
託ですが、今回はその問題点にも触れ
として考えられています。
アップが話題となっています。
ておきます。
ベースアップ(略してベア)が決ま
■信託の問題点
ると基本給(ベース)を基にする賞与
■株式の信託
残念ながら、新しい法律ですので万
や退職金に大きな影響を受けるため、
同族会社にとって大事なことは、後
能とは言いきれません。受託者は営利
企業は低く抑えたい、組合は高く要求
継者問題です。後継者を早いうちから
目的となる生業ができませんから、弁
する、この攻防が新聞紙上をにぎわす
決め、教育を自ら行うというのが一般
護士、税理士等は避けるべきかもしれ
ことになります。もちろん、大手企業
的ですが、なかには同業者に預け厳し
ません。
でもそれどころではない会社もありま
く指導してもらう方法を取る経営者も
また、税との問題があります。例え
す。では、私の周りの中小企業はどう
います。しかし、多いのは若いうちか
ば信託財産は受託者名義になりますが、
でしょう?
ら自社に入社し、特別なポストに着か
課税はあくまで受益者が原則です。収
加工がメインの町工場は、社員を減
せて経営者としての実務を積む方法で
益については委託者と受益者が一緒な
らし、社長自ら現場作業を行うのが当
す。とはいえ、創業者の眼鏡に適う後
ら所得税です。
然といった状況で、
「昇給など夢のよ
継者が決まらない場合や、問題があり
土地建物を委託する場合、受託者が
うです。心情的には上げてやりたいけ
継がせたくない子がある場合、また前
原因「信託」として所有権登記されま
ど……」と話してくれます。小売業を
号で触れた後妻がいて、後妻の子と先
す。受益者が、委託者ではない場合や
営む小さな店や飲食業はもっと悲惨な
妻の子がある場合などは、遺言だけで
特定できない場合は、贈与が受益者や
状況です。ある小売業では、たばこ販
は不十分です。そこで、信託が考えら
受託者にあったとみなされることがあ
売の許可を持っているため店を続けら
れます。
ります。
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LH-NEXT 2015 ● vol.24