第10話 イラクの観光

第10話
イラクの観光
UNSCOM の査察業務は、週休2日ではありません。ここイラクでは、金曜日のみ
が休みであり木曜日が、日本で言う半日仕事する土曜日のような感覚です。また、
UNSCM では、1ヶ月に2日の有給休暇をもらうことが出来ます。従って、金曜日の
休みに有給休暇を合わせれば、私の場合、5日間の休みを取ることが出来ました。査
察官の中には、休暇を取ってイラク外に観光(トルコ、エジプト等)に出かける者も
いました。しかし、私は、休暇を取ってイラクから出る勇気がありませんでした。な
ぜなら、せっかく慣れたイラクでの生活(激務)に、一度イラクから外に出たら戻っ
てこられる自信がありませんでしたから休暇を取ることなく仕事を、したのです。そ
ればかりか、休みの金曜日まで査察機器の修理等で休めないことが多かったのです。
結局休めたのは、2ヶ月で4日間だけでした。その貴重な休日の中で少し観光が出来
ました。イラク観光のお勧めを紹介いたします。また、イラク旧約聖書の舞台として、
有名な所がいくつかありますが、それは、後に、イラク聖書の旅で紹介させて頂きま
す。
第一に「サマラー」です。この名前に日本の自衛隊が派遣された「サマワ」の間違
いではと思われる方がいるかも知れません。サマワは、下の地図でバグダッド)約
250km 南のユーフラテス川沿いにある街であり、サマラーは、バグダッドより約
130km 北北東の
街でフセイン大
統領の故郷のテ
ィクリートの約
40km 南のチグ
リス川沿いの街
です。
現 在 のイ ラク
の中心はバグダ
ッドですが、サ
マラーは、紀元
8世紀半ば、こ
の地におけるイ
スラム教聖地の
4つの内の1つ
として作られ栄
えた街です。
写真、何の写真か分かりますか? 旧約聖書に出てくるバベルの塔を、思い浮かべ
るのは私だけではないと思います。残念ながら、これはバベルの塔ではありません。
サマラータワーであり、イスラム教の建造物です。その意味では、イスラム教もコー
ラン以外に旧約聖書は、聖典の一つとして用いているのですから、バベルの塔を意識
したのかも知れません。
私がイラク滞在中、気温が毎
日 50℃を越える暑さもさるこ
とながら、毎日が写真のように
真っ青に晴れ渡って 快晴でし
た。私が滞在中に雨が降ったの
は、わずか1日だけで、それも
たったの2時間だけでした。
こ の青さに 塔が美し く立っ
ているのです。赤い帽子をかぶ
って、塔の写真を撮っている人
物は、私の同僚のニックです。
塔の外側に螺旋階段があり、そ
の階段を登ります。上の方に黒
い点のようなものが写ってい
ますが、これは、人が実際に登
っているところです。登ってい
る人と写真を撮っている人か
ら、この塔の高さが想像できる
と思います。ちなみに、塔の直
径は 27mです。 答えは、次回
の第 11 話に記載致します。
ですから相当高い塔なのに、
その塔を登る階段は、幅が写真
のように狭く(約 1.5m 位)、転
倒防止の手すりがないのです。
登るにつれ、恐怖心からか身体が自然に壁にへ
ばりつきます。そんな、階段を子供達が競争し
ながら駆け降りてくるのです。階段を転ぼうも
のなら、間違いなく塔から落ちて命を落とすこ
とでしょう。駆け下りてくる子供達にぶつから
ないように交わしながら必死で登ったのです。
これが、私のイラク滞在期間中、最大の命の危
機でした。
(注:高所恐怖症の方は、決して登ら
ないでください。途中で動けなくなってしまい
ますよ!)
サマラーには、もう一つ見所があります。下記の写真のモスク(イスラム教の寺院)
です。黄金のモスクは、青い空に栄えてとても美しく見えます。
第2が、イラク北部第一の都市(バクダッドから北へ約400km)である「モスル」の近くにあ
るハットラ神殿です。査察の帰り、イラク政府の査察随行者が親切に案内してくれた
事により見学したものです。ハットラ神殿は、紀元前2世紀頃の遺跡であり、かなり
風化が進んでいますが、とても雄大な遺跡で、当時の反映が伺われるものです。
また、モスルの東側に
は、イラクには珍しい山
岳地帯があり、その奥は、
クルド人地区で私たちは、
行くことの出来ない地域
でした。 随行者は、こ
の山岳地帯にある初期
(紀元2世紀ころ)の教
会を、私たちに案内して
くれました。残念ながら
この時、カメラを持って
いなかったので写真があ
りません。教会は、山の
切り立った中腹にあり、
その廻りには、自然の洞
窟が幾つもあって祈りの
場所として何世紀にも渡って使われてきたのだそうです。何故切り立った山の中腹に
建てられたかと言うと、それは迫害を、逃れるためだったそうです。
教会の中に入ると、修道院としても使われており、クリスチャンとしてちょっと残
念に思う事が2つありました。 その一つがフセイン大統領の大きな写真が、飾られ
ていたこと、また、講壇の奥に部屋があり、鎖のついた首輪があるのです。その首輪
について、案内してくれた教会の長老風の老人は、得意そうに説明するのです。首輪
につながれ、一晩祈ると病が癒され、不妊の女性は身ごもると言うのです。
核査察の合間に、少しの安らぎの時が与えられたのです。
聖書の言葉「主は私の羊飼い。私は、乏しいことがありません。主は私を緑の牧場に伏さ
せ、いこいの水のほとりに伴われます。 主は私のたましいを生き返らせ、御名のために、
私を義の道に導かれます。
たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、私はわざわいを恐れません。あなたが私ととも
におられますから。あなたのむちとあなたの杖、それが私の慰めです。聖書詩編23編」
“第8話の答え:妻楊枝”
第11話に続く