経済の進路 2 0 1 4 . 3 注目される米国「出口戦略」の行方 米国経済が堅調な拡大を続けている。09 年 6 月を底とする今回の景気回復局 面は、この 3 月で 58 ヵ月と第 2 次大戦後の同国景気回復期間(全 11 循環)の平 均値に到達した。景気の足取りは足元でもしっかりしており、先頃発表された FRB(連邦準備制度理事会)の地区連銀経済報告(14 年 1 月)をみても、米国経 済は殆どの地域や業種で拡大を持続している由にある。 問題は今後の展開だが、リーマン・ショックから 5 年余りを経て、米国経済は 景気のリード役が政府から民間へと引き継がれた形となっており、民間部門の自 律的な需要増加を背景に、当面は拡大軌道を歩み続ける公算が大きいと考えられ る。何よりも、米国 GDP の 7 割を占める家計部門の過剰債務がほぼ解消し、家 計の消費・投資活動が一層前向きに転じることが期待されるからだ。 図は、米国家計の資産・負債、及び住宅価格と鉱工業生産指数の推移を 03 年 以降について四半期別にみたものである。住宅バブル開始直前の 03 年当時を便 宜的に米国家計が適正な資産・負債バランスの状態にあったとみなし、これを 100 として指数化してみると、バブル崩壊で生じた過剰債務の状態は 11 年頃に解 消、以後はプラスの乖離幅が期を追って拡大している様子が見て取れる。住宅市 場の需給改善を受けて住宅価格も上昇を持続、資産価値も上がって家計の購買力 は一段と厚みを増し、前向きの消費・投資活動へとつながっている。こうした家 計行動の変化はマネーフローにもはっきりと表れており、FRB の金融勘定によ れば、家計の資金ポジションは昨年 7 ~ 9 月期にマイナス 416 億ドルと、負債の 純増を伴う形としてはリーマン・ショック前の 07 年 10 ~ 12 月期以来約 6 年ぶり の資金不足を記録した。即断は禁物だが、家計部門がバランスシートの調整を終 え、意図的な負債の増加行動に転じた証と言えなくもあるまい。 このように、景気が自律的な拡大基調を持続する蓋然性が高まってきたとすれ ば、FRB としても、金融政策は追加的な緩和を考える必要はなく、いわゆる「出 口戦略」としては、専ら緩やか、かつ段階的な量的緩和の縮小にのみ気を使って いればよいということになる。ただ、ここで留意すべきは、景気の拡大が想定よ ― 1 ― 2 0 1 4 . 3 経済の進路 りも速いペースで進むケースだろう。実際、失業率をみると、直近の本年 1 月時 点ですでに 6.6%と、FRB の目標とする 6.5%に迫ってきており、目標値を下回る のは時間の問題となりつつあるし、雇用者数も、今回景気回復局面の平均増加 ペースで回復が続いたとすれば、この夏にはリーマン・ショック後の雇用減少 883 万人分を全量リカバリーし、雇用政策面で一つの大きな節目を迎えることに なる。さらに住宅価格も、現在の上昇ピッチで単純に引き延ばすと、早ければ今 年末にも 07 年に記録した過去最高水準を超える計算だ。 かつて、グリーンスパン元 FRB 議長が、2000 年代前半の住宅バブル進行時に 当時の消費者物価上昇率が 2 ~ 3%に止まっていたことを根拠に、資産価格は別 物であるとして住宅価格の高騰をしばらく静観した結果、政策金利の引き上げが 後手に回り、住宅市場の過熱とその後の急激なバブル崩壊を招いてしまったこと は記憶に新しい。近い将来、住宅価格の高騰が現実のものとなれば、物価がイン フレターゲットの 2%を下回っているからといって、雇用優先のゼロ金利政策を 維持し続けていて本当に問題はないのか、元議長の轍を踏むことにならないか、 といった議論が当局内部で沸き起こらないとも限らず、その時期が意外に早く訪 れる可能性も決して小さくないように思われる。 シェール革命などの技術進歩もあって、現下の米国経済には、1990 年代や 2000 年代のような息の長い景気拡大を実現できるチャンスが残されているだけ に、この 2 月に就任したイエレン FRB 新議長の手腕が大いに注目される。 (91/1∼3月=100) (03/1∼3月=100) 240 米国家計の資産・負債、住宅価格、 及び鉱工業生産の推移 (前年比、%) 50 住宅価格 220 40 200 30 180 家計負債 家計資産 20 160 10 140 0 120 -10 100 80 鉱工業生産(右目盛) 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 -20 13(年/四半期) (注)住宅価格(FHFA 指数)は 91 年 1 ∼ 3 月を 100、家計資産・負債は 03 年 1 ∼ 3 月を 100とする指数。 (資料)FRB、FHFA(連邦住宅金融局) ― 2 ―
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