週次レポート 平成 27 年 8 月 24 日 リスク回避の円高持続と反動調整にらむ 日中政策動向、米指標、FRB 幹部発言など焦点 今週の為替相場は、リスク回避による円高持続と反動調整的な円反落が焦点になろう。週間予想はドル/ 円が 119.50-122.80 円、ユーロ/円が 137.10-140.10 円。中国を始めとした世界減速懸念や、米 FRB の利上 げ警戒などが世界株安・資源安とリスク回避を激化させているほか、FRB の 9 月利上げ遅延の可能性や安全 逃避の米国債シフト(金利は上昇)がドル安を促している。世界的な市場混乱に対して、日中などの政策動 向のほか、米国の指標と FRB 幹部発言を受けた FRB の利上げ時期などが注目されそうだ。 米国「金融不安」波及は抑制、ドル下支え 「安倍晋三首相による政権管理能力や政権危機へのマネージメント力を過小評価しないほうが良い」――。 ある官邸関係筋はこのような指摘を行う。現在の安倍政権は安保法制へのタカ派・前のめりなどによる内 閣支持率の急低下のほか、景気の悪化と株安・円高などを受けて、政権基盤が大きく揺らいでいる。中国発 の世界減速懸念などもあり、「アベノミクス相場の終焉リスク」も警戒され始めた。 しかし、安倍首相は自らの第一次政権での短命失敗を含め、1990 年以降の多くの政権が支持率低下を契機 に求心力低下を招き、それが政策推進力の弱体化と政権崩壊につながったという負の連鎖の歴史を熟知して いる。そのため、 「現在の支持率低下や景気の悪化(株価下落)という逆風に対しても、致命傷に至る前のダメ ージ・ケア強化策が十分に想定される」(同)という。今週以降は安倍首相と日銀の黒田東彦総裁の定例会合 を含めて、経済対策の準備始動が注視されそうだ。 もちろん、中国の景気悪化や資源相場の急落などによるリスク回避は深刻だ。米国では FRB の先行き利上 げ懸念もあり、2009 年からの過剰流動性相場を受けた長期株高トレンドの終焉が警戒されている。山高けれ ば谷深しの形で、 「過剰流動性バブル」や「中国などの新興国バブル」 、 「資源バブル」の逆流反転は、長期化 のオーバーシュート・リスクをはらんでいる。 ちなみに米国では 2013 年にも FRB による量的緩和(QE)縮小の地ならしにより、米国株が急落する場面が あった。当時の NY ダウは 5 月 22 日を高値に反落したあと、自律反発を経ながらも、最終的な「3 番底」の 底入れに至ったのは 10 月 9 日であった。市場の安定化までに約 5 カ月の期間を要したが、現在は 7 月 20 日 の直近高値からまだ 1 カ月しか経過していない。目先は FRB の 9 月利上げ「警戒」と「遅延催促」の両面に よる米株続落とリスク回避の円高持続が警戒される。 ただし、短期的には相場の潮流変化として、9 月 7 日にかけてのレイバーデー連休が注目される。現在は 夏休み相場による夏枯れが市場混乱を激化させているほか、レイバーデー連休に向けた当面の利益・損失の 確定やポジション手仕舞い、キャッシュ化の流れが狼狽混乱を助長させている。9 月 7 日に向けて FRB の幹 部などが 9 月利上げの遅延を示唆したり、中国などで政策対応が本格化してくると、リスク回避相場に一旦 の歯止めが掛かる可能性がある。 しかも現在のリスク回避については、2007 年以降のサブプライム危機、リーマン・ショック、欧州債務金 融危機などに比べると、欧米への金融システム波及リスクは限定的だ。とくに米国では金融規制の強化など で金融バブルが抑制されており、S&P500 の銀行株指数は 2007 年以降の高値から安値の 50.0%戻し程度に戻 ってきた段階に過ぎない。1997 年以降の平時でも、レンジ下限に位置するレベルだ。バブル過熱が制御され ている分だけ、現状からの金融株の下落と金融不安の再燃、それに伴うドル安・円高の余地は限られる可能 性がある。その他の注目ポイントは以下の通り。 <リスク回避尺度のスワップ・スプレッドは安定> 米国債市場でリスク回避や信用収縮の度合いを示すスワップ・スプレッド(スワップ金利と国債利回りの 格差)は、市場混乱の中でも安定化が維持されている。 10 年物ベースでは前週末に 7.94bp となり、直近最高である今年 1 月の 15.51 や昨年 10 月の 17.25 などに 比べると縮小傾向が保たれたままだ。2013 年の QE 縮小警戒による米株安と新興国株の急落局面では 26.63bp まで急拡大しており、少なくとも米国を含めた先進国では、信用逼迫や流動性危機といった金融不安への波 及リスクには至っていない。為替相場も当座は投機的な円ショート(売り持ち)やドル・ロング(買い持ち)の 巻き戻しが続く一方、ポジション整理の範囲を超えた円高・ドル安は制御されよう。 <リスク回避尺度の VIX 指数、 「窓埋め」低下余地> 米株式投資家の不安心理の度合いを示すシカゴ・ オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデ ックス(VIX 指数)は 21 日、28.03 と 2014 年 10 月以来の高水準に急上昇した(20 日は 19.14)。2014 年 10 月の直近最高が 31.06 であり、一段の VIX 上昇と米株安、リスク回避の円高余地は消えていない。 もっとも長期トレンド判断で参考になる月足チャートでは、一目均衡表の雲の上限 29.63 が上限の抵抗ラ インとして注目されそうだ。2011 年以降は強力な抵抗ラインとなっており、米欧など先進国経済の基本的な 内需回復や、FRB 利上げ遅延を含めた今後の政策対応次第では、VIX 上昇に歯止めが掛かる可能性を秘めてい る。 しかも VIX 指数は日足ベースで、20 日終値の 19.14 から 21 日寄付が 22.55 と大きく値が飛ぶ形での急上 昇となっている。21 日の日中最低 20.80 から、20 日の最高 19.24 にかけてギャップ(隙間)が空いている。テ クニカル面では先行き、ギャップを埋める「窓埋め」の調整低下に向かう可能性が無視できない (=リスク 回避の後退)。 <米国の経済指標> 米国の経済指標自体は、改善傾向が目立っている。今週は 25 日のケースシラー住宅価格指数と新築住宅販 売、28 日の個人支出などで底堅さが期待されやすい。一方で 25 日のコンファレンス・ボード消費者信頼感 指数や 28 日のミシガン大学消費者信頼感指数などは、株安や世界減速懸念が重石となる。26 日の耐久財受 注についても、航空機受注の減少や、原油安による資源エネルギー業界への打撃が下振れ要因として警戒さ れよう。 <FRB 幹部の講演> 米 FRB による利上げ時期が焦点となるなか、今週は 25 日にアトランタ連銀、26 日に NY 連銀、27 日にカン ザスシティ連銀の各総裁による講演や質疑応答が予定されている。29 日のフィッシャー副議長の講演を含め て、9 月利上げへの慎重発言が見られると、リスク回避の株安・円高に歯止めが掛かりやすい。その場合は ドル続落が警戒されるものの、利上げ遅延は米国の経済や株価を支援するほか、先行き「12 月利上げ」の可 能性は残る。ドルはポジション整理による下落一巡後、底固めから再上昇に向かう余地が残されている。 <中国の政策対応> 中国では前週末から年金による株式投資の拡大や、中国人民銀行による銀行への流動性供給観測が浮上 するなど、政策対応の思惑が浮上してきた。このまま中国で景気悪化と雇用不安、株安が続くと、中国共産 党の一党独裁体制の基盤を揺るがす政治リスクへと発展していく。中国の国民による共産党不満を未然に回 避するため、今後はインフラ整備を含めた財政出動や減税、人民銀行による地方債の買い入れを含めた量的 緩和への移行など、 「何でもあり」の景気対策や株価対策が注視されそうだ。9 月には習近平主席の米国訪問 が予定されており、次なる人民元の切り下げの前に内需拡大努力をアピールする必要に迫られている。 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再 配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ません。 情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、これらの情報によ って生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートの内容は、 投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあたっての最 終判断はお客様ご自身でお願いします。 ---------------------------------Japan Economic Pulse Co.,Ltd. ----------------------------------
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