2015年8月21日『学校だより・ふうしゃ生徒版第3号』

学校だより
ふうしゃ
生徒版
平成27年8月21日
アムステルダム日本人学校
No.3
http://www.jsa.nl/
「凡事徹底」から生まれるもの
校長 尾後貫 智
今年で 100 回を迎えた夏の全国高校野球選手権大会が昨日終了しました。これまでに幾多の名勝負
がありましたが、昨日私がみなさんに話したことと関連づけて読んでほしいエピソードを2つ紹介し
ます。
一昨年、2013 年夏の全国高等学校野球選手権大会決勝戦でのこと。前橋育英と延岡学園の2つのチ
ームの戦いぶりに私は感銘を受けました。試合は1点を争う緊迫した戦いでしたが、両チームにとっ
ては「勝ち負け」だけではない相手を思いやる素晴らしいシーンがたくさんありました。
9回表、前橋育英の打者が打ったファールチップが、延岡学園の捕手の右手を直撃し、捕手はその
場にうずくまってしまいました。すると、前橋育英の一塁ベースコーチが捕手のもとへ走り出して、
そのベースコーチは自軍の打者が四球を受けて一塁ベースに来た時のためにコールドスプレーを持っ
ており、相手捕手を心配して駆け寄ってきたのでした。そして打者は捕手のグラブとマスクを手に持
ち、捕手の回復を待っていたのです。
9回裏、延岡学園の攻撃では逆転のチャンスに打者がキャッチャーフライを打ち上げました。前橋
育英の捕手はマスクを外してボールを追いかけ、キャッチしました。マスクを拾い、捕手に手渡した
のは、逆転のチャンスに凡打して悔しい思いをしているはずの延岡学園の打者だったのです。
全国大会、それも決勝戦で「勝つこと」に集中しているであろう場面でさりげなく表れた両校生徒
の振る舞いに、野球を通して行われて育成されたすがすがしい高校球児の心を垣間見ることができま
した。
前橋育英は「凡事徹底」という言葉を掲げ、小さなことを積み重ねて強くなってきたそうです。全
力疾走やカバーリング、日常生活においては挨拶や時間厳守、掃除を重んじて部員の人間性を高めて
きたそうです。監督の口癖は、
「インコースの打ち方を覚えるよりも、まずはトイレをきれいにし
ろ」
。また優勝後のインタビューで「たとえ負けても自分のやり方を変えることはなかったと思いま
す。
」とこの監督は言い切っていました。
一方延岡学園も、日々の積み重ねを重視した。野球の練習だけでなく、日常生活・学校生活の中で
自身を律し、挨拶やゴミ拾いなどの当たり前のことを当たり前に繰り返してきたチームだそうです。
延岡学園の地域の人々は「今年の延岡学園は甲子園に行く」と部員たちの挨拶や普段の行動を見て感
じていたそうです。
両チームとも「凡事徹底」を高い意識で実践したことが、人間性を高め、他者への思いやりや前向
きに行動することへの自信につながったのではないかと思います。
次は 2007 年の夏の甲子園で優勝したチームの話です。佐賀県代表の佐賀北高校という県立高校で
す。ご存知のとおり、私立高校は優秀な選手を遠くから連れてくることもでき、有名な監督を高いギ
ャラで雇うこともできます。ですから、公立高校が優勝したのは16年ぶりでした。
その佐賀北高校が優勝を決めた決勝戦がもの凄い試合でした。佐賀北高校は後攻で、8回の裏ま
で、0-4で負けていました。8回の裏で0-4というのは、かなり敗色濃厚です。
「もう、ダメかな
ぁ」と思ってしまうのが普通かもしれません。ところが、8回の裏になんとか1点取りました。そし
て、その後に副島という選手が「逆転満塁ホームラン」を打ったのです。そして、そのまま、佐賀北
高校が優勝してしまいました。決勝戦での「逆転満塁ホームラン」は夏の大会史上、初めてでした。
ところが、これだけ聞くと、
「副島選手は凄いね。」で終わってしまうよくある逆転ヒーロー話です
が、その日の試合内容というのは、実はもっともっと、点を取られていてもおかしくない内容でし
た。相手の広陵高校のバッターはメチャクチャ打ちました。それを、佐賀北の選手達は鉄壁の守り
で、なんとか4点に抑えていたのです。ファインプレーが続出しました。やっとの思いで、4点差に
抑えてきたところに、
「逆転満塁ホームラン」が飛び出したのです。
しかし、私を驚かせ感動させたのは、試合終了後のインタビューでした。
「どうして佐賀北高校は、優勝することが出来たのでしょうか・・・。」記者が監督に尋ねると、な
んとその監督の口から、「時間を守る、靴をそろえる、勉強もしっかりやる。そういった生活面をしっ
かりしたからだ。
」と言う意外な答えが飛び出したのです。私はこれを聞いて「なるほど・・・。
」と
納得をしましたが、当然記者は納得せず、さらに「時間を守って、靴をそろえて、勉強もしっかりや
っても、甲子園で優勝はできないでしょう。まだ、ほかに理由があるんじゃないですか?」と問い詰
めました。すると、「練習の 3 分の1は体力づくり、3 分の1は基礎的な技術練習、残りの 3 分の1が
実戦的な技術練習。実戦的な練習を削ってでも、体力づくりと基礎的な練習は必ずやります。平日は
バッティング練習なんてしていませんし・・・。」などと、記者を困らせる答えが返ってきました。さ
らに、満塁ホームランを打った副島選手にいたっては、「夏の大会直前まで実戦的な練習はしていませ
んでした。それまでは走りこみばかりです。」またキャプテンの市丸選手からは「平日はゴロとりばか
りでした。
」と言うコメントが返ってきました。これは野球をやっていた人が聞いたら、だれしも驚く
のではないでしょうか。普通は常識的に考えて実戦練習をもっとやるはずですから。
実は佐賀北高校は決勝戦にいくまでに、引き分け再試合をしていました。ですから、相手チームよ
りも 1 試合多い6試合を戦ってきていました。 (「引き分け」は 15 回までやるので、 実際には1.5
試合分多く闘ったことになります。しかも、毎試合対戦校有利の下馬評をことごとく覆して勝ってき
ていました。
)
その年もとても暑い夏でした。普通なら決勝戦に来る頃には選手はみんな疲れ果てているはずで
す。しかも、佐賀北高校の選手は相手より 1.5 試合も余計に試合をしています。ところが、佐賀北高
校の選手達には決勝戦当日、さほど疲れも見えませんでした。そのおかげで、集中力も切れることな
くファインプレーが続出したのです。もう、気づいていると思いますが、佐賀北高校の選手達が、ず
~っと続けてきた、
「体力づくり」や「走りこみ」「基礎的な練習」が最後の最後に彼らを救ったので
す。
「体力づくり」や「基礎的な練習」は単調でおもしろくない練習であることは言うまでもありませ
ん。しかし、そういう基礎的なことがどれだけ大事かということです。当たり前のことを、当たり前
じゃない情熱でやりぬいてきたのだと思います。まさしく「凡事徹底」です。
これは昨日、私が始業式で話した 3 つの気持ちの中の、「本気」
「根気」に通じることだと思いま
す。すごいことでも何でもない基本的なことや、当たり前のことを「本気」でやっても、すぐに結果
はでないものです。それを「根気」強くやりぬいた時、人生の大事な大事なところで、救ってくれる
ような気がします。
以上、私が知っている高校野球のエピソードです。目を見張るような大きなことをしなくても、小
さなことを「本気」で「根気」強く続けた先には、思ってもみないみなさんの成長があることは間違
いありません。2 学期の終業式の際、2 学期を振り返って「本気」を出したこと、
「根気」よく続けた
ことをみなさんに尋ねますので、しっかり答えられるように取り組んでください。