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聖マリアンナ医科大学雑誌
前 田 賞
Vol. 43, pp. 25–27, 2015
新しい心臓 CT 装置の開発
〜更なる低被爆をめざして〜
よねやま
き へい
米山 喜平
(受付:平成 27 年 1 月 29 日)
概
り,現状では撮影するタイミングを広域にする方法
要
が開発されているが,この撮影は単なる無駄な被曝
過去 5 年間で Multiple detector computed tomog‐
である。
raphy (MDCT) が大変進歩した結果,心臓 CT が高
最新の 320 列 CT 装置で撮影された冠動脈画像を
い信頼性をもって冠動脈疾患を評価できるようになっ
図 1 に示す。心臓が動く時相で撮像した CT 画像は,
た。一方で,放射線被曝とイメージの質はトレード
モーションアーチファクトが生じるのに対し,心臓
オフの関連であり,画像の信頼性を確保するために
が静止する時相に撮像した CT 画像は診断に有用で
は,自ずと放射線被爆量が増加する。国際放射線防
ある。図 2 に心臓 CT 検査の撮像プロトコルと被曝
護委員会 (ICRP: International Commission on Radi‐
の関係を示す。心臓が動く時相に関係なく撮像する
と失敗がすくないが被曝量が増加する (図 2A)。心
ological Protection) は, ALARA (As Low As Rea‐
sonably Achievable) (実際可能な範囲で出来る限り低
く) を勧告している。
近年,各社独自の機能を持つ CT 装置が開発され,
臓が静止する時相を考慮して撮像すると,被曝量が
減少する一方,アーチファクトのリスクが上がる (図
2B)。そこで,我々は,実際の心臓の動きを算出し,
従来に比べ格段に被爆量が低くなってきている。し
心臓が静止する心位相を個々に推定することで,被
かしながら,心臓 CT 検査では撮像対象が動いてお
曝を最小限にしながら,動きの少ない画像を再構成
図 1 320 列 CT 装置で撮影された冠動脈画像
A 心臓が動く心位相で撮像した CT 画像
B 心臓が静止する心位相に撮像した CT 画像
聖マリアンナ医科大学 循環器内科
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米山喜平
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図2
冠動脈 CT 検査と被ばく (ヘリカル CT スキャンの場合)
A Retrospective ECG gating
B Prospective ECG gating
C Prospective ECG gating (tube modulation technique)
くても低被爆を実現させるものである。本研究によ
り,さらなる信頼性の高い画像と低被曝を同時に実
現することが可能となると考えている。
実用化に向けて
これを実現するには,高速な画像処理装置 (例え
ば CPU や GPU) が必要で,現在販売されている CT
装置では対応が困難であるが,これまでの画像処理
装置の進歩を考えると,数年程度で実現可能である
と予想している。医療機器メーカー (東芝メディカ
ルシステムズ) との共同開発を行う予定である。
おわりに
この度は,前田賞を受賞することができ身に余る
光栄であるとともに,前田和子様,明石勝也理事長,
図 3 冠動脈トラッキングにより決定された心臓静
止の心位相
選考委員の皆様に感謝いたします。本研究は,特許
申請の段階であり,今回は概要のみの紹介とさせて
赤で示した心位相が冠動脈静止の心位相
頂きます。
謝
する CT 装置を考案した。図 3 に冠動脈トラッキン
辞
グにより決定された心臓静止の心位相を示す。この
本研究をまとめるに当たり,多くのご支援とご指
方法は,一連の画像から動きの情報を得て,更に心
導を賜りました。特許申請をご指導頂いた循環器内
電図情報を組み合わせることがユニークである。現
科,明石嘉浩教授, Johns Hopkins 大学 Joao Lima
状で存在するどんな CT 装置であっても使用できる
教授,東芝メディカルシステムズ,尾嵜真浩氏,立
アルゴリズムであり,かつ時間分解能を改善させな
崎寿氏,MPO 株式会社知財事業部,井上正範氏に
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新しい心臓 CT 装置の開発
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深謝いたします。また,研究の実施や発表にあたり
学のすべての協力して下さった皆様へ心から感謝の
貴重な指導にあたりご指導頂いた三宅良彦学長,原
気持ちと御礼を申し上げたく,謝辞にかえさせてい
田智雄病院教授,鈴木健吾講師,秘書の桜井真弓氏,
ただきます。
上野純子氏に深謝いたします。心臓 CT 検査に関し
OCI 表示
て貴重な指導をして下さった放射線科,小林泰之講
師,画像診断センターの立石貴代子氏,小川泰良氏,
聖マリアンナ医大病院と東芝メディカルシステム
力石耕介氏に深謝いたします。聖マリアンナ医科大
ズ共同で本研究の内容を特許出願しています。
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