ウェアラブル生体センサの EMC

特集
特集/電磁特性技術の最新技術動向
ウェアラブル生体センサの EMC
王 建青 *
EMC of Wearable Vital Sensors
Jianqing WANG*
* 名古屋工業大学大学院情報工学専攻(〒 466-8555 名古屋市昭和区御器所町)
* Nagoya Institute of Technology (Gokiso-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8555)
1.
まえがき
2.
ウェアラブル ECG に対する EMC 評価
高齢化社会の進展に伴い,人体のバイタルデータを収
ウェアラブル ECG を装着した人体に,商用電力線やラジ
集・モニタリングし,ヘルスケアや医療への応用を目的と
オ放送や自動車のワイヤレス給電などの外部電磁界が照射
するウェアラブルデバイスが普及し始める兆しである 。
されると,人体と大地の間にコモンード雑音 Vc が発生し,
1)
例えば,図 1 に示すように,無線また人体通信機能を有す
心電図検出電極を経由して心電図信号に重畳する。外部電
る生体センサを用いて,血圧,心電,筋電などの生体情報
磁界の周波数を 1 MHz 以下に限定すれば,人体がほぼ導体
を取得し,一旦体表に設置される受信部にデータを蓄積し
と見なせる。このときの心電図検出回路のコモンモード等
た後,スマートフォンなどにより,PC また病院などに無線
価回路が図 2 のように描ける。ここで,Z ea,Z eb は検出電
で送ることが考えられる。本稿では,筆者らが開発した人
極と人体間のインピーダンスであり,検出電極が人体に接
体通信型ウェアラブル心電計 (Electrocardiogram, ECG) を
触している場合には接触抵抗 Rea,R eb,非接触の場合には
2)
例として取り上げ,心電図信号のリアルタイム観測例を示
結合容量 Cea,Ceb によるインピーダンスとなり,Cs は大地
すとともに,外部からの電磁干渉によるウェアラブル ECG
に対する差動増幅回路の信号グラウンドの浮遊容量であ
電極に生ずるコモンモード電圧の発生要因,それが電磁干
る。なお,簡便なために,等価回路に各種フィルタを省略
渉として ECG 検出回路出力に現れるモード変換機構,およ
し,その減衰量と差動増幅器の増幅率が同レベルと仮定し
び定量的評価法と対策するための設計指針を解説する。ま
た。このとき,心電図検出部の差動増幅後の出力側に現れ
た,実人体を用いずに,外部電磁干渉に対するイミュニ
る信号グラウンドに対する電圧,すなわちディファレン
ティ試験が可能となる疑似生体信号発生器を用いたイミュ
シャルモード電圧 Vab は以下の式で表せる 3)。
ニティ試験系を紹介し,ウェアラブルデバイスに対する
EMC 試験法のあるべき姿を提示する。
Vab =
R2 ( Z ea − Z eb )
Vc
( Z ea + Z eb + 2 R1 ) Z cs + ( Z ea + R1 )( Z eb + R1 + R2 )
(1)
上式において,Zea = Zeb の場合に Vab = 0 となり,コモン
モード電圧 Vc がディファレンシャルモード電圧に変換さ
⬻Ἴ
れない。しかしながら,実際に両検出電極が人体と等しく
║⌫㟁ᅗ
R2
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⾑ᅽ
Zea
➽㟁
LPF
fc=100Hz
HPF
fc=10Hz
R1
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↓⥺䝛䝑䝖䝽䞊䜽
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䝣䜷䞁
䝁䝰䞁䝰䞊䝗㟁ᅽ Vc
Zeb
LPF
fc=100Hz
HPF
fc=10Hz
Vab
R1
R2
ᅇ㊰䜾䝷䜴䞁䝗
⑓㝔䞉་⒪䝉䞁䝍䞊
ᐤ⏕ᐜ㔞
Cs
኱ᆅ
図 1. ウェアラブル・ボディ・エリア・ネットワークの応
用例
図 2. 心電図検出回路のコモンモード等価回路
エレクトロニクス実装学会誌 Vol. 18 No. 5 (2015)
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