(2015/4/23)欧州における証券化商品優遇動向について

新生ストラテジーノート 第 182 号
2015 年 4 月 23 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
欧州における証券化商品優遇動向について
日本にも影響が及ぶ特定の証券化商品を規制上優遇し奨励しようとする動き
欧州委員会は 2015 年 2 月 18 日、EU 域内における証券化商品の一定の基準設定の是非を
問う意見募集 1を開始した。意見募集の締切日は 5 月 13 日となっている。これに先立ち、欧州銀
行監督局(European Banking Authority, EBA)は 2014 年 10 月 14 日に “EBA Discussion
Paper on simple standard and transparent securitisations” (「単純で標準的で透明な証
券化に関する EBA ディスカッションペーパー」)と題する文書 2を公表しており、内容が酷似してい
る。また、これらとやはり内容が酷似しているものが、バーゼル委と証券監督者国際機構(IOSCO)
が共同で設置している Task Force on Securitisation Markets (“TFSM”)が 2014 年 12 月
11 日付で発表した市中協議文書 “Criteria for identifying simple, transparent and
comparable securitisations” (「簡素で透明で比較可能な証券化商品を特定するための要件
案」) 3である。最近では、「高品質な証券化商品の市場は重要である」とのドイツ連銀幹部の発言
が報道される事例
4 もみられ、「高品質」と呼ぶのか、EU
や EBA のように “SST” (simple,
standard and transparent) と呼ぶのか、バーゼル委・IOSCO のように “STC” (simple,
transparent and comparable) と呼ぶのかは別として、優遇し奨励するべき対象となる証券化
商品の要件策定の最終段階にあると見られる。
1
European Commission, Consultation Document—An EU framework for simple,
transparent and standardised securitisation, 18 February 2015
http://ec.europa.eu/finance/consultations/2015/securitisation/docs/consultation
-document_en.pdf
2
European Banking Authority, Discussion Paper on simple standard and transparent
securitisations, 14 October 2015,
https://www.eba.europa.eu/-/eba-consults-on-simple-standard-and-transparent
-securitisations-and-their-potential-regulatory-recognition
3
BCBS and IOSCO, Criteria for identifying simple, transparent and comparable
securitisations, 11 Debember 2014
http://www.bis.org/bcbs/publ/d304.pdf
http://www.iosco.org/news/pdf/IOSCONEWS359.pdf
4 たとえば、 Bloomberg, Banks Say Capital Charges Must Fall for EU ABS Revival, 22
April 2015
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-04-21/banks-say-capital-charg
es-must-fall-for-eu-abs-revival
1
新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
バーゼル合意への落とし込み方が日本への影響度合いを決める
バーゼル銀行監督委員会が 2014 年 12 月 11 日に公表した「証券化の枠組みの改訂」 5では、
バーゼル委と IOSCO による“Criteria for identifying simple, transparent and comparable
securitisations”が固まった後、2015 年中に検討を加え、証券化の資本賦課ルールを更に見直
す可能性を示唆している。
筆者が疑問に思うことは、一定の要件を満たす証券化商品をバーゼル合意で優遇するには、
バーゼル合意の第 1 の柱の信用リスクの取扱に反映させるしかないところ、それは、本来的には、
信用リスクの多寡に応じた資本賦課のルール体系であるべきところに、市場流動性などの基準を
持ち込むことになる点である。確かに、標準的手法における株式の扱いが、上場ならリスクウェイ
ト 400%、非上場なら 300%と、市場流動性の差異(上場株式なら容易に売却できるであろうが、
非上場銘柄の株式の売却はそう容易ではない)をもってリスクウェイトに差異を設ける事例はある
にはあるが、流動性に乏しい貸出金であれ、相応に流動性がある公募社債であれ、全く同じに扱
われるルール体系にどう盛り込むのかが着目される。また、懸念点としては、バーゼル委員会や
IOSCO には、日本やオーストラリアといった、欧州域外の当局者も多く参加し、多くの国々の当局
者にとって概ね納得できる形でのルール化が進むとは予想されるものの、証券化を政策的に優
遇しようとする動きは、明らかに欧州特有のものであり、欧州諸国にとって有利なルールになって
しまわないかという点がある。
欧州域内の問題点としては、EC が意見募集を行っている要件と、バーゼル委・IOSCO が検討
中の “STC”要件は、多くが一致するが、一部に相違点もある。規制上の優遇や政策的な奨励対
象とするべき商品の要件が複数乱立することは、実務的な混乱の原因となることから、今後、歩
み寄りや統一の動きが生じる可能性も考えられよう。
欧州発の証券化優遇運動は、バーゼル委にて証券化の枠組みに落とし込まれ、それが日本国
内の規制に盛り込まれることを通じて、いずれ(今後数年で)、日本にも影響してくることになる。
(調査部長 江川 由紀雄)
5
BCBS, Revisions to the securitisation framework, December 2014
http://www.bis.org/bcbs/publ/d303.htm
2
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新生証券株式会社 調査部
3
名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
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:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
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加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
設立年月 :平成 12 年 12 月
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