参考資料2

微分積分学および演習Ⅰ 補足資料 2
2015 年度前期
工学部・未来科学部 1 年
担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教)
■ フェルマーの 2 平方和定理とその証明
babababababababababababababababababab
定理
(フェルマーの 2 平方和定理)
素数 p が整数 a, b の 2 乗の和 p = a2 + b2 として表されるための必要十分条件は、 p が
2 であるか p が奇素数で 4 で割った余りが 1 となることである。
p = 2 のときは p = 2 = 12 + 12 なので、以下では p は奇素数 であると仮定する。
【証明の概略】
第 1 段階.『p = a2 + b2 と表されるならば、p を 4 で割った余りが 1 となる』ことの証明
4 で割った余りに注目する ……整数問題の常套手段
整数 a を 4 で割った余りは 0, 1, 2, 3 の何れか。つまり a は a = 4m, a = 4m + 1,
a = 4m + 2, a = 4m + 3 の何れかの形をしている。このとき


4m

4m + 1
a=

4m + 2



4m + 3
=⇒

2

16m

16m2 + 8m + 1
a2 =

16m2 + 16m + 4



16m2 + 24m + 9
= 4(4m2 ) + 0
= 6(4m2 + 2m) + 1
= 4(4m2 + 4m + 1) + 0
= 4(4m2 + 6m + 2) + 1
であるから、 a2 を 4 で割った余りは 0 か 1 である。同様に b2 を 4 で割った余り
も 0 か 1 だから、a2 + b2 を 4 で割った余りを表に纏めると
a2 を 4 で割った余り
b2 を 4 で割った余り
a2 + b2 を 4 で割った余り
0
0
0
1
1
0
1
1
2
1
となるので、a2 + b2 を 4 で割った余りは 0 か 1 か 2 である。ところが p は奇数
なので、p を (偶数) 4 で割った余りも 奇数 でなければならない。したがって
p = a2 + b2 を 4 で割った余りは 0, 2 にはなり得ないので、1 となることが分かる。
第 2 段階.『p を 4 で割った余りが 1 ならば、p = a2 + b2 と表される』ことの証明
……
面白いのは断然こっち!! (「ガウスの整数」での因数分解を考える)
p を 4 で割った余りが 1 のとき、つまり p = 4n + 1 (n は整数) と表せるときに
整数 x で x2 + 1 が p で割り切れるようなものが存在する
という事実を認めて証明する*1 。つまり x2 + 1 = pm (m は整数) と書けるが、一方で
x2 + 1 は ガウスの整数の世界 では
x + 1 = (x + i)(x − i)
2
と 因数分解 できるのであった。つまり
(x + i)(x − i) = pm
· · · · · · (∗)
が成り立つ。ここで p がガウスの素数であると仮定 すると、素因数分解の一意性から
p は x + i か x − i を割り切らなければならない。つまり、ガウスの整数の世界で
)
(
)
(
x 1
x 1
x+i=p·
+ i
か
x−i=p·
− i
p p
p p
という因数分解が出来なければならないが、明らかに
x 1
+ i はガウスの整数 でない
p
p
(虚部が整数になっていないため) ので、矛盾が生じる。したがって背理法によって
p がガウスの素数 でない (つまり「ガウスの整数」の世界の 合成数 である) ことが
示された。
p がガウスの素数ではないということは、p が 単数ではないような ガウスの整数 α,
β の積として p = αβ と因数分解出来ることを意味する。両辺のノルムをとると
∴
N (p) = N (αβ)
p2 = N (α)N (β)
が成り立つが、α, β は単数ではないので N (α) ̸= 1, N (β) ̸= 1 である。したがって
N (α) = N (β) = p となるしかない (!)
最後に α = a + bi (a, b は 整数) と書くことにすると、
p = N (α) = (a + bi)(a + bi) = (a + bi)(a − bi) = a2 + b2
と計算出来るので、整数 a, b を用いて p が p = a2 + b2 と表すことが出来ることが
示された。
奇素数 p がガウスの素数
*1
⇔
□
p を 4 で割った余りが 3 例えば x = (2n)! とおくと、ウィルソンの定理 『(p − 1)! を p で割った余りは p − 1 である』を用いて x2 + 1 が p で
割り切れることが示せる。または 平方剰余の相互法則の第 1 補充法則 からも従う。いずれにせよ 合同式 congruence
を使わないと結構大変。
■ フェルマーの最終定理
babababababababababababababababababab
定理 (フェルマーの最終定理, リチャード・テイラー*2 、アンドリュー・ワイルズ*3 )
3 以上の自然数 n に対して
xn + y n = z n
を満たす 整数解 は (x, y, z) = (0, 0, 0) を除いて 存在しない (!!)
注意 n = 2 のときは
(x, y, z) = (k 2 − ℓ2 , 2kℓ, k 2 + ℓ2 )
2
2
(k, ℓ は整数)
2
が x + y = z の解となる (ピタゴラス数 Pythagorean triple)。
(k, ℓ)
(x, y, z)
(2, 1)
(3, 4, 5)
(3, 2)
(5, 12, 13)
(4, 3)
(7, 24, 25)
ピタゴラス数の例
勿論ピタゴラス数は直角三角形に対する ピタゴラスの定理 Pythagorean theorem に端を発してお
り、「全ての辺の長さが 整数 となるような直角三角形にはどのようなものがあるか?」という極め
て自然な疑問からこうした問題が考えられるようになったものと思われる。
ピュタゴラス数を求める問題は古来から知られており、古代ギリシアの数学者ディオファントスに
よる著書『算術 (アリスメーティカ)』にも掲載されていた。この『算術』の愛読者であったフランス
の数学者ピエール・ド・フェルマー*4 が次のような有名な書き込みをしたことから、300 年間にも
渡って数学者を巻き込んだ大騒動 (?) が勃発したのである:
*2
*3
*4
Cubum autem in duos cubos, aut
立方数を 2 つの立方数の和に分けること
quadratoquadratum in duos quadra-
は出来ないし、4 乗数を 2 つの 4 乗数の
toquadratos, et generaliter nullam
和に分けることも出来ない。一般に羃の
in infinitum ultra quadratum potes-
指数が 2 より大きければ、その羃乗数を
tatem in duos eiusdem nominis fas
2 つの羃乗数の和に分けることは出来な
est dividere cuius rei demonstrationem
い。私はこのことに関して、真に驚くべ
mirabilem sane detexi. Hanc marginis
き証明を発見したのであるが、それを書
exiguitas non caperet.
き記すにはあまりにも余白が狭過ぎる。
Richard Taylor (1962–)
Andrew Wiles (1953–)
Pierre de Fermat (1607/1608–1665)
■ フェルマーの最終定理の解決までの道程
フェルマー (1640) n = 4 のとき
無限降下法 infinite descent を用いた証明
オイラー (1770 頃) n = 4 , n = 3 のとき
ガウスの整数環 Z[i] (n = 4 のとき), アイゼンシュタイン
の整数環 Z[(1 +
√
2i)/2] (n = 3 のとき) を用いた証明
フェルマー
オイラー
ルジャンドル
ディリクレ
ディリクレ、ルジャンドル (1820) n = 5 のとき
ディリクレの証明の不備をルジャンドルが後に修正
ソフィ・ジェルマン (1823)
p が ソフィ・ジェルマン素数 (つまり、p も 2p + 1 も奇素数となる素数)
のとき xp + y p = z p の整数解の何れかは p の倍数であることを証明
⇝ 初めて 複数の n に対するアプローチを提示
ソフィ・ジェルマン
ラメ (1839) n = 7 のとき
その後、「一般の n について証明した」と発表
⇝ 「同じ証明を思い着いていた」と主張するコーシーと
の論争へ (ラメ-コーシーの論争)
クンマー (1840 頃)
1 の n 乗根 ζ を付け加えた整数 Z[ζ] の世界では 素因数分
ラメ
クンマー
解の一意性が 成り立つとは限らない ことを指摘
クンマーの 理想数 ideale Zahlen の理論
⇝
代数的整数論 の時代へ
…… (その後も重要な貢献が数えきれない程ありますが、紙面の関係で割愛)
テイラー、ワイルズ (1995)
■ 参考文献
最終解決!!!
谷山-志村予想*5 の部分的解決による
サイモン・シン著『フェルマーの最終定理』(新潮文庫)
フェルマーの最終定理の解決までの歴史に加え、ワイルズの証明が発表され、認められるま
での手に汗握るドキュメントを余さず記した一冊。数学的な内容も書かれてはいるけれど、そ
れほど小難しいことは書いてないのであまり得意でない人でも面白く読める筈。
フェルマーの最終定理に興味を持ったなら、何はともあれこの一冊を読んでみよう。
*5
こちらも今やブリュイユ、コンラッド、ダイアモンド、テイラーにより完全に証明されている。