勤務医の負担増加は深刻 ~進まない負担軽減

勤務医の負担増加は深刻
~進まない負担軽減~
勤務医労働実態調査 2012
集計結果
速報
2012 年 11 月 15 日
勤務医労働実態調査 2012 実行委員会
勤務医の過重労働が社会的な問題になってからすでに 5 年以上がたちます。この間、政府・厚労省は
勤務医の負担軽減を進めているとされますが、その後も過労死が起きており勤務医の過重労働は改善さ
れていないと考えられます。このために新たに勤務医の労働実態を具体的に知る調査が求められていま
した。
私たち全国医師ユニオンは、医労連等に呼びかけ勤務医労働実態調査 2012 実行委員会を 4 月に立ちあ
げ、労働実態と意識調査を同時におこなうアンケートを作成しました。そして、小児科学会をはじめと
する 4 学会や各医療団体の協力もあり 2000 名を超える勤務医のアンケートを集め、その集計・分析を行
いました。今回の記者会見では、集計結果の主要なデータと主な特徴を発表いたします。
1,アンケート回答者の主な属性
①有効回答 2108、男性 1661 名(79%)
、女性 447 名(21%)。年齢別では 20 歳代 191 名(9%)、30 歳
代 527 名(25%)
、40 歳代 581 名(28%)
、50 歳代 538 名(25%)
、60 歳以上 271 名(13%)。
②勤務形態は、常勤 1715 名(82%)
、非常勤 174 名(8%)、初期研修医 115 名(5%)
、後期研修医 85
名(4%)
、大学院生 15 名(1%)となっています。また、勤務の開設主は、大学病院 200 名(10%)、
国公立病院 263 名(13%)
、公的病院 434 名(21%)、私的病院 923 名(44%)
、診療所 178 人(8%)、
その他 85 人(4%)
。
③勤務地域は、都市部 1153 名(55%)
、一般地域 852 名(41%)、過疎地域 82 名(4%)
。
(ここで、
「都市部」とは、東京・大阪の全地域、各県の県庁所在地の市や政令都市などです。
「一般地域」
とは、上記を除く市などです。
「過疎地域」とは、郡・町・村などです。)
2,アンケートの結果の特徴
1)44%の勤務医は業務負担が増えた(負担減の 2 倍)
負担の増減(全体)
減った
17%
「あなたの業務負担は、この 2 年間で変わりましたか」の
問に「増えた」が 44%であるのに対し、
「減った」はわず
か 17%でした。この傾向は、すべての地域と診療科でも同
様の結果が出ました。また、この問は、「勤務時間」「日当
変わら
ない
39%
直数」「診療時間」
「文書作業」「診療外勤務時間」
「ストレ
増えた
44%
ス」に関して、個別に質問していますが、
「日当直数」のみ
「減った」が「増えた」を上回ったものの、他の項目はす
べて「増えた」が「減った」を大幅に上回っています。
2)24 時間体制を担う医師は過重労働
1 週間の労働時間は、全体平均で 54.5 時間ですが、初期研修医 64.4 時間にたいして、非常勤医 35.7
時間と大きな開きがあります。また、当直を担う病院医師に絞ってみると 58.8 時間、診療科では救急科
がトップで 60 時間を超えています。24 時間体制を担う医師が過重労働を行っていると考えられます。
3)依然、当直を担う勤務医の 8 割は 32 時間連続勤務
長時間労働は、いわゆる当直と大きな関係があります。今回の調査では、約 9 割は交代制勤務がなく、
当直明け後の勤務も「1 日勤務」が約 8 割を占めます。また、当直の 85%は時間外労働であると考えら
れます。
「ほとんど通常業務がない」宿直にあたるものは 15%のみでした。
4)残業不払いが横行、9 割の勤務医が「労働問題を話し合う場がない」
残業代を全額請求しているのは 3 割のみで、さらに雇用にあたり詳細な契約書があるは 25%しかありま
せん。これだけ深刻な労働問題をかかえながら、労働問題を話し合う場があるのは、約 1 割のみです。
5)約半数の勤務医が健康不安、6 割以上が「やめたい」
「健康に不安」や「病気がち」は半数近い 47%。
「最近やめたいと思うこと」の問では「いつもあった」
と「時々あった」で 34%、
「まれにあった」も含めると 62%にものぼります。
6)医療過誤の 4 大原因は労働問題に関係
医療安全のために、システムや連
医療過誤の原因(複数回答)
携が問題視されています。しか
医師の負担増
連携の不足
システムが不十分
スタッフの不足
時間の不足
過剰業務による疲労
1213
707
し、医療過誤の 4 大原因は、「医
師の負担増」、
「時間の不足」、
「ス
971
1175
1213
1160
タッフの不足」、
「過剰業務による
疲労」となっています。
7)83%が医師不足を実感、61%が医師数増を求める
83%が自分の病院で医師不足を感じており、医師養成数を増やすべきは 61%で「現在の養成数で十分」
は 25%となっています。
8)診療科の偏在に 97%の勤務医が「労働条件と関係」
診療科の偏在と労働条件の関係については、
「大きく関係」が 65%、
「ある程度関係」が 32%となってお
り、97%が関係あるとしています。
3,調査結果から見えてくるもの
調査結果に関しては、さらに詳細な分析を必要としますが、現段階では以下の点が指摘できるでしょう。
・いまだに、多くの医療機関で労基法は無視され、勤務医に対する適切な労務管理が行われずに、当直
問題を主要とする長時間労働問題は、ほとんど解決していない。
・政府・厚労省は勤務医の負担軽減を進めたとされていますが、勤務医の負担感は大幅に増加していま
す。これは、医療技術と高齢化の進行により医師の業務量そのものが増加しているのに、需要の増加に
応える医師の供給がないために、一人当たりの労働量が増加していることが原因ではないでしょうか。
・また現在、医師不足の解決策として、医師の地域的な偏在と診療科の偏在の解消が取り上げられてい
ます。しかし、すべての地域と診療科で負担増が進んでいる現状を考えれば、偏在の解消で得られる効
果は限定的で、医師数を増やさなければ根本的な勤務医の負担軽減は解消されないと思われます。