特集 介護職ポジティブキャンペーン (全老健 本間副会長 インタビュー)

特集
October Vol.26 No.7
業界の外と内で進めていく
介護職のイメージアップ
本間達也
全老健副会長
介護職ポジティブキャンペーン
きちんとした科学的エビデンスに基づいた専門知
識と技術をもつプロフェッショナル集団であるこ
と。そして、介護の仕事とは現代社会に必要不可
欠なものであり、実際に介護の仕事に従事してい
る人は、心から誇りとやりがいをもち働いている
こと ― 。そうした介護の本質でもある素晴ら
しい部分を、業界の外の人たちへ向け、我々は
もっともっと広く発信していかなければならない
のでしょう。
介護職のイメージアップに関しては、全老健
そんな現状を踏まえ、全老健でも、まさにいま
においても重要課題であるとの認識のもと、使
介護職のポジティブキャンペーンが動き出してい
命感をもって、人材対策特別委員会を中心にさ
るところです。本誌 9 月号の特集「老健施設の介
まざまな対策を検討している。
護人材確保を考える」においても平川副会長が言
そこで、本特集の冒頭では、同委員会の担当
及しておられましたが、今号のテーマともまさに
副会長である本間達也副会長より、まずは全老
合致する取り組みですので、再度、紹介させてい
健が取り組んでいる介護職のイメージアップに
ただき、ここではより詳細をお伝えいたします。
向けた最新の取り組みを紹介していただく。併
実際の施設で動画撮影
素晴らしさをアピール
せて、本間副会長自身の同テーマに対するご意
見もうかがった。
〈介護職イメージアップ映像の概要〉
VTR ①「3K の介護から 3LDK の介護へ」
(約 3 分)
実際の老健施設男性職員が、妻も 3 人の
子どももいるプライベートを明かしつつ、
介護の仕事のやりがいを自身のエピソード
を交え語る。
VTR ②「介護を通じて、自分自身もステッ
プアップ」(約 3 分)
さまざまな職業を経て介護を一生の仕事と
して選んだ実際の老健施設女性職員が、介護
におけるキャリアアップの可能性を語る。
VTR ③「多職種協働で自宅へ帰る日」
(約 3 分)
老健施設利用者が晴れて在宅復帰する
シーンをクローズアップし、利用者本人や
ご家族、施設職員たちの笑顔から、感謝の
意や達成感を伝える。
た」
、
「進路指導の先生に止められた」というケー
スが少なくないからです。大人たちにしてみれば、
これは、全老健としては、新しい取り組みです。
大切なわが子や教え子を、労働条件の悪いといわ
この 9 月より、介護職の素晴らしさをよりわかり
れている介護の現場では働かせたくない、と考え
~ 70 歳くらいまでのシニア層、次に労働生産人
やすくアピールすることを目的としたドキュメン
るのでしょう。
「3K」に代表される介護のネガティブ・イメー
口非就業者である専業主婦、そして、外国人就労
タリー映像 3 本を、全老健のホームページおよび
本来なら、親や教師にこそ、介護の世界に興味
ジによるいちばんの打撃は、人材確保に関してで
者、若者を中心とするフリーター層です。
動画共有サイト YouTube などで配信しています
をもった若者たちを誇りとし、自信をもってその
す。全老健の人材対策特別委員会では、2025 年
そのうち、特に若者層は、実生活でもまだ介護
を見据え、これからの介護人材をどこに求めるべ
とは無縁であり、なおかつ彼らはイメージに左右
3 本とも実際の施設で撮影したもので、うち 2
むのでは本末転倒です。それこそ偏った介護のネ
きかについて、会長以下、真剣に意見を出し合い
されやすいという特性がありますので、彼らの抱
本には、今年 1 月の緊急全国集会でも登壇し発言
ガティブ・イメージの上塗りにもなってしまいま
議論しているところですが、やはりイメージの問
く介護のイメージを少しでもポジティブなものへ
した介護職員が登場します。役者による演技など
す。
題は、非常に大きな障壁であると考えます。
と変えていく作業は、業界内からも積極的に行っ
ではなく、実際の施設職員に出演してもらうこと
これらの VTR は各 3 分間と短いながらも、そ
近年、介護職の処遇改善を求めた、我々を含む
ていく必要があると考えています。
で、リアリティあふれる生の現場の雰囲気が伝わ
んな間違ったイメージを改めてもらえるような、
業界団体による運動が、かえって介護職のマイナ
もしも介護の仕事が、いまだ多くの若者に「お
るのではないかと思っています。
介護の仕事のよい面、感動的な場面に焦点を当て
スイメージを強調することともなってしまい、結
しっこまみれになって高齢者のお世話をする、辛
これらの映像は、日常的にスマートフォン等で
た構成となっています。実際に配信されてからの
果として「5K」
「6K」につながるさらなるネガ
い現場」などというとらえ方しかされていないの
気軽に映像を視聴する習慣をもつ若者層をター
反応・感想などをみつつ、今後も継続してコンテ
ティブな K を増やすこととなったのだとしたら、
だとしたら、それは、我々の側にも責任の一端が
ゲットに置いていますが、実は、彼らの両親や、
ンツを増やしていく予定です。
複雑な思いです。
あるのかもしれません。
学校の進路指導の先生などにもみていただけたら
きつい・汚い・臭いのマイナスの 3K を、感
我々としては、今後の人材確保のターゲットを
介護保険制度施行から 15 年。介護の仕事もど
と期待しています。というのも、近年、若者が就
動・共感・幸福といったプラスの 3K に変えるこ
4 つの階層に分けてとらえています。まずは 65
んどん変わってきています。いまや、介護職とは、
職先候補として介護をあげても、
「親に反対され
とは、すぐには難しいでしょう。しかしながら、
イメージは人材確保の障壁に
若者層のイメージを変える
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(各動画の内容は右囲み参照)
。
背中を押していただきたいのに、彼らがそれを阻
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特集
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透明な水に色のついたインクを 1 滴、 2 滴…と垂
らしていくことでやがて水の色が変わるように、
こうした映像をみた人が、
「へぇ、介護の仕事っ
て、思っていたイメージと違うな。なんか悪くな
いな」と認識を新たにし、徐々にそれが広がって
いけば、介護職のイメージももっとポジティブな
方向へ変わってゆくのではないでしょうか。
「人材マネジメント塾」を開催
我々の意識も前向きに
さて、映像配信は外側に向けた取り組みですが、
次に紹介するのは、内側に向けた取り組み、
「人
材マネジメント塾」についてです。
これは、
「人が集まらない、来ても定着しない」
という課題を抱えている施設の管理職の方に、悩
んでいるだけではなく、もう一歩進んで「では、
なぜ自施設には人が集まらないのか。地域性なの
か、施設の運営に原因があるのか」 ― という
客観的視点と論理的な分析力をもっていただくこ
「人材マネジメント塾」概要
〈講義〉
●地域のための老健。その理念とあり方
仕事を生きがいと感じるには
●ES(従業員満足度)をいかにして高めるか
離職率の低い施設を分析して
●人 を育てる/人事評価と部下指導・育成
のポイント
●仕 事の効率化を図る管理者の知っておか
なければならないこと/無駄な残業をい
かにして減らすか
●地域のコミュニティにおける医療と介護
●なぜ老健の介護人材確保に国のキャリア段
位と認定介護福祉士制度が関係あるのか
●高齢者介護という仕事の未来について
(介護人材不足にいかにして対応するか)
〈パネルディスカッション〉
●介護人材対策の ABC ~求人対策の工夫か
ら離職防止の具体策について~
①安 定した老健の職場に求められる労務
管理
②労働基準法(仮)
③労災への対応(メンタルヘルスと腰痛)
とを狙い、企画しました。対象は、施設長・事務
介護職ポジティブキャンペーン
誤ったイメージには
声をあげ、是正していく
介護をしっかりと“育む”ためには、そこのとこ
ろを教育に組み込む必要があると感じています。
特に、近年、生涯地元から出ず、地元の友人関
また、これはメディアでも取り上げられました
係をずっと維持しつつ、地元で働き、結婚・子育
ので、ご存知の方もおられると思います。先般、
てをしていきたいと考える若者層 ―“マイル
中学校や高校で使用する教科書に「介護は重労働
ドヤンキー”と呼ぶそうです ― が、どの地域
で低賃金」といった記述がなされていたことにつ
にも一定数おり、彼らを介護人材の供給源として
いて、全老健を含む介護関係 6 団体が、同教科書
頼ってはどうか、という声もあります。そんな彼
を制作している出版社に対し、その記述を改める
らに、介護という仕事の意義を理解してもらうこ
よう求める文書を連名で提出しました。
とは、外国人労働者受け入れの是非を語るよりも、
訂正を求めた理由は、
「記述の根拠が不正確で
よほど現実的であり、可能性もあると思うのです。
あり、介護という職業の魅力や社会的評価を否定
そして、介護の人材育成に関していうと、私は
する」というものです。
老健施設経営者として老健施設のもつポテンシャ
幸い、出版社からは「真摯な検討と対応を行
ルに、非常にポジティブな希望をもっています。
う」との回答が得られましたが、これもまさしく
例えば、医学部を出たばかりの医師が、いきな
介護= 3K のイメージが当たり前のように定着し
り地域高齢者のための在宅医となるというケース
ていたことが原因と想像されます。
が考えにくいのと同様に、何の経験もない人が介
全老健としては、これからも、こうした介護の
護の仕事に就こうとして、いきなり小さな事業所
誤ったイメージにつながる事例に対しては、きち
の訪問介護員からスタートするというのは、やは
んと声をあげ、是正していく姿勢です。
りリスクが高い。もっとも、訪問入浴サービス事
長をはじめとする管理職から、主任クラスの中間
せん。内側にいる我々、特に管理職の、施設運営
そもそも、介護保険が始まり 15 年経ったいま
業所などで入浴介助のスキルのみを磨けばいいと
管理職。講師は学術的なテーマ以外はすべて全国
に対するネガティブな姿勢、例えば、周辺環境や
でも、まだ、老健施設と特養の違いすら一般的に
いうなら可能かもしれませんが、それでは介護の
の会員施設の人事担当者が務め、今秋からまずは
制度、時勢などのせいにして、最初からあきらめ
は正しく認識されていません。そうしたことも、
醍醐味がわからず、もったいない。
試験的に福岡と東京の 2 か所で開催します。
の気持ちを抱くことを、前向きで積極的な、ポジ
これからはさまざまな手段・媒体を活用し、積極
私としては、最初はある程度の規模の組織の一
前号で平川副会長も述べておられたとおり、こ
ティブな姿勢へと変えていくことも、その目的に
的に広報宣伝していかなければなりません。
員として働き、いろいろな経験を積んでから専門
れだけ人材難が叫ばれるなかでも、人材が定着し
含まれます。
育ち、人材不足をさほど感じていない老健施設は、
愚痴をこぼしているだけでは状況は好転しませ
少なからずあるのも事実なのです。そうした施設
ん。重要なのは、冷静に現状を分析し、解決策を
は、運でもなく偶然でもなく、やはり、なんらか
模索することです。
最後に、ここからは私個人の意見です。
医師をはじめとする看護師・セラピストといった
の対策を講じています。もちろん、そのノウハウ
この「塾」の開催に先立ち実施した、会員施設
これからは、介護というものの大切さ、社会に
医療職がいて、一般企業のような事務職もいて、
を、そっくりそのまま他の施設が真似をすれば成
介護職員の就労状況に関する全老健独自のアン
おける役割といったことを、初等教育の段階で、
多職種協働でチームケアを学びつつ、地域とも関
功する、というような単純なものではないかもし
ケート調査の結果を、特集の最後(P26 ~ 27)
道徳の授業などと同様に子どもたちに教えていく
わる。老健施設をある程度経験した介護職は、ど
れませんが、必ずやなんらかのヒントとなるはず
に掲載します。施設内の管理職は、現状をいま一
べきなのでは、と思います。かつての日本は大家
こへいってもプロとして通用するでしょう。
で、そうした知恵や情報を、この「塾」で学び、
度把握し直し、今後に向けよりよい人材を多く集
族で、子どもは、祖父母が老い、やがて死んでい
老健施設の介護職が介護のフラッグシップとな
参加者と共有していこうというものです。
めて、これからの介護を牽引していく人材へと育
くのを各家庭のなかで身近にみて、経験して大人
ること。これも介護職、特に老健施設の職員のブ
介護職ポジティブキャンペーンとは、介護業界
成するために、施設として何ができるか、どんな
になりました。しかし、現代社会ではそうはいき
ランドイメージ向上へとつながるのではないで
の外側にいる人たちだけに向けたものではありま
方策が有効か、考えていただきたいと思います。
ません。したがって、これからの社会において、
しょうか。
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老健施設の職員こそが
介護のフラッグシップとなる
特化したほうが、効率的かつ自然な流れであると
考えます。そして、その際の経験を積む場として、
老健施設ほど適している場所は他にありません。
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