道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座 北の電力線を守る~ロボットを使った画像技術の試み~ 講師:北海道情報大学 情報メディア学部 藤原 孝幸 准教授 ◇講座の内容 ◇ ・送電線は、電柱についている電線より高い電圧の 電気を送るもので、設備規模も大きくなる。 ・私たちの生活を支えている電気について、その電力流通 設備の維持のこれまでの取り組みと、今後に向けた画像 技術を使った電線の検査について紹介する。 ◆カメラとコンピュータ ・画像処理に関連する分野を研究対象としている。 ・特に工業製品を対象とした事例が多い。 ・例えば、自動車のタイヤの製造工程の最終段階で、製品に異常がないかを確認する検査を自動化 する研究に携わってきた。 ・つまり、従来は人の目によってされていた仕事をカメラとコンピュータに置き換えることが私の 研究分野である。 ・現在の研究でも最終的には、ロボットが電線を検査したり、様々なデータを収集できるようにす ることが目的である。 映像で電線の特徴を紹介 (取材 VTR) ◆電線の交換 ・電線は定期的に交換をしなくてはならいので、壊れるまでずっと使えるわけではない。 ・電線の状況を把握して、最適な交換時期を見極めたいという現場からの要望もある。 ・現状では、使っている場所とその状況を考慮して有効に利用している。 ・これは電線の一部である。一般的に使われている規格の中では細い方となる。 ・さらに細いもの、倍ぐらいに太いものもあり、流す電圧の高さによって使い分けている。 1 ◆より線構造 ・電線は細い線を束ねてねじった一本の太い線、すなわち、より線の構造になっている。 ・電線の断面を見ると 2 層の構造になっており、電気は どちらにも通電している。 ・内側は鋼の線である。鉄塔間の長さになると電線もか なり重くなり、鉄塔からのひっぱる力もかなりのもの になる。 ・その引っ張る力、張力に耐えるように頑丈でさらに電 気が通りやすい、電気伝導率の高い鋼を使っている。 ・外側はアルミニウムの線である。鋼に比べて若干電気は通りにくいが、軽い上に腐食に強い。 ・このアルミニウムの線で回りを囲むことで内側の腐食を防いでいる。 ◆経年変化の損傷 ・まわりを錆びにくいアルミニウムで覆っているとはいえ、塩やガスの影響で長い時間をかけて中 の鋼が錆びる事もある。 ・経年変化によって、長い年月をかけて劣化していく。 ◆自然現象の損傷 ・瞬間的に傷が付くというケースもある。 ・1 つが落雷による電撃での傷である。 ・実際には落雷への対処もされていて、通常の電線のさ らに上に架空地線という雷よけの線もあり、電線への 落雷が全て回避されるというわけではない。 ・もう 1 つは、自然現象による損傷で、電線が激しく振 動して線同士がぶつかることによって付く傷である。 ・この激しい振動の原因として、非常に強い風がある。こ れは北海道に限らず、どの地域でも起こりうることである。 ・一方で北海道をはじめとした豪雪地域では、積雪による影響もある。 ◆電線への着雪 ・雪が電線の上に積もるとき、サラサラした軽い雪だと風に飛ばされて、落ちてしまう。 ・張られている電線は、重みで中央部が下がるので高低差ができる。 ・少し湿った雪が積もると、高低差かあるので、雪が電線の上を下 側へ滑ることになる。 ・より線の構造になっているので、雪が電線のより線にそって、 滑って成長していく。 ・このとき、雪はらせん状の溝に沿って積もり、ねじれて滑っ ていくので落ちづらくなる。 2 ・このように電線に雪が積もっていくと、より線の溝にそって 成長していく。 ・そうするとまた雪が降ってくるので、滑っていった雪 に対して、その上に雪が積もる。 ・これを繰り返していくと、電線の周りに円周方向に対 して、雪がたくさん増えていく。 ・この細い線が電線で、この曲線が電線にまとわりつい た雪である。 ・これだけ雪がついてしまうと、電線自体の重みに雪の 重みが加わって、かなりの負荷になる。 ◆ギャロッピング現象 ・もう 1 つ、ギャロッピング現象という問題も起こる。 ・電線は強風によって振動するが、通常の太さより雪がついて、さらに太くなってしまうと、より 風にあたりやすくなる。 ・そうなると、本来は電線同士が接触しないような強風でも、振動がおこりやすくなる。 ◆送電鉄塔の倒壊 ・2012 年 11 月、送電鉄塔の倒壊によって、登別市を中 心とした広い範囲で停電が発生した。 ・これが倒壊した鉄塔のフレームと送電線である。 ・この倒壊の原因は、悪条件が重なったためであった。 ・ 積雪量が多く、また強い風が継続的にあり、温度が高 かったため、電線へ着雪しやすかったのである。 ・さらに天候と地域的な特性から 10〜20m/s 程度の強風 であった。 ・複合的な要因で、鉄塔につながる電線への着雪量がア ンバランスとなった。 ・そこへかなり強い風が吹いたため、鉄塔にかかる荷重のバランスが大きく崩れ、鉄塔の倒壊をひ きおこした。 ・特に冬の北海道では、電線が切断されて停電になると、暖房機も電気を使ったものが多いので大 変なことになる。 北海道の厳しい自然から電線を守る技術を研究している施設を紹介 (取材 VTR) ◆難着雪リング ・先ほど紹介したように、電線は束ねてねじったより線になっているので、まとわりついた雪は、 らせん状にねじれて成長していく。 ・ねじれて成長していくことが問題であり、どこかで成長が止まればいいのである。 ・この難着雪リングは、電線表面に固定されているだけであるが、ねじれて滑っていく雪がここで 止まる。 ・そうすることで、雪の成長を止めることができる。 3 ・ところが、雪の量や気温などの悪条件が重なると、難着雪リングだけでは、雪を落としきれなく なることもある。 ・電線への着雪による影響は、重みやギャロッピング現象以外にもある。 ・それは、電線そのもののねじれである。 ・電線は、らせん状のより線で、より線の溝に沿って雪が成長していく。 ・そうするとこのまとわりついた雪によって、ねじれそのものが力となる。 ・人の手で相当力を入れてもより線は壊れないが、雪の力によって、より線の構造が外から壊れて しまうことがおこる。 ねじれ防止ダンパを紹介する(取材 VTR) ◆ねじれ防止ダンパ ・壊した鉄塔の電線には、ねじれ防止ダンパが取り付けられている箇所と、取り付けられていない 箇所があり、その有無により積雪の差が生じた。 ・倒壊した鉄塔に張られた電線の片方が重く、片方が軽くなり、そのため、電線間のアンバランス が生じて倒壊につながった。 ・現状では、その対処として、監視体制を強化するとともに、類似の危険性がある道内の電線には、 全てねじれ防止ダンパの設置がされている。 ◆電線の監視 ・電線の損傷についても普段からの確認が重要である。 ・そのため、普段から電力流通設備は、巡視されている。 ・その場へ見に行ったり、電気が一瞬途切れる瞬断が起こったりしていないかを確認している。 ・瞬断は自然現象による損傷か、それとも経年変化による損傷なのかは分からない。 ・経年変化による損傷は、継続したデータ収集が不可欠だか、解明されていない点もある。 ・研究所の実験で得られるデータだけでは、不十分なので現場でのデータ収集を重ねていく必要も ある。 ◆点検作業 ・ 送電線の電気を止め、作業者が鉄塔に登り、電線を 点検していく。 ・鉄塔の間の電線に滑車を取り付け、移動していく。 ◆目視と触診 ・点検では、目視と触診で診断するので、これらの損傷 は、きちんと発見される。 ・ただし、専門の方とはいえこの作業は、高所であるた め危険をともなう。 ◆点検の機械化 ・検査を機械化するために様々な研究がされている。 ・人による点検をコンピュータに置き換えるためには、まず、電線をカメラで撮影する必要がある。 ・通常、電線の点検では、送電状態を停止しなくてはならない。 4 ・そこで、電線には触れずに、地上や空から電線を撮影する点検方法も試みられてきた。 ・地上から撮影するときの問題点として、電線の全周が撮れないということがある。 ・空からでは、ヘリコプタを使う方法があるが、周りの環境にも依存して小回りがきかないことも あり、やはり電線の全周は撮りにくい。 ・また、撮影そのもののコストを考えてもなかなか難しいところである。 ・最近は小回りのきくドローンもあるが、風の影響をかなり受けてしまうので風の強い北海道では 現実的ではない。 ・また、北海道の鉄塔は山間部に多くある。そうなると、北海道の環境で使いやすい電線の計測方 法を考えた。 ・私たちは、北海道電力総合研究所と函館高専の研究グループで北海道仕様の電線検査ロボットを 開発した。 ・ロボットは、まだ試作品で研究段階だが、その構造をまずご覧いただきたい。 電線検査ロボットを紹介します。 (取材 VTR) ◆電線検査ロボットのカメラ ・もっと高画質のカメラもあるが、画質より操作性を重視している。 ・とはいえ、かなりワイドなレンズなので歪みもかなりある。 ・また、フォーカスの制御も自由にできない。 ・そこで、画像技術を使って撮影した画像を補う必要がでてくる。 ◆顔検出の画像技術 ・タブレット端末機を使って、顔検出技術を1つの例にお話しする。 ・顔検出という技術は、私たちの身の回りの様々なシーンで利用されている。 ・このタブレットに入っているアプリは、私が制作したもので、画像中の顔を見つけるという機能 がある。 ・このアプリには、アウトカメラ機能も付いている。 ・私の顔を撮影し、ここで目や鼻を隠してみる。 ・現在、使われている顔検出の多くは、顔の陰影情報を元に認識をしている。 ・目や鼻を隠すと認識されなくなることが分かる。 ・私が研究しているのは、画像の認識機能についてである。 ・今、ご覧頂いたのは、顔を見つけるという機能をアプリで紹介した。 ・顔を見つけることができると、その後に笑顔の判定をすることができる。 ・顔の位置が分かると、そこへピントを合わせたり、私の顔と藤原さんの顔を識別することもでき る。 ・顔を特定する機能や、その顔の笑顔度を判定する機能に拡張することができる。 ・電線の検査では、周りの風景の中から電線がどこにあるかを見つけるという技術がまず必要であ る。 電線検査ロボットが電線を撮影した映像を紹介します。(取材 VTR) 5 ◆ロボットが損傷発見 ・この研究の最終目的は、ロボットが電線の損傷を見つけることだが、手始めとして、この加工し た映像を点検作業者に見てもらうことも計画している。 ・これによって、リスクのある高所の作業を減らしていくことができ、送電時にもロボットを動か せるようにできると、電線の点検・検査が非常にしやすくなるという期待もある。 ・結果としてコストを抑えつつも、私たちの生活に不可欠な電気をより安定して供給できるように なっていく。 ・皆さんも鉄塔の間にある電線にどのような装置が付いているのか眺めてみてはいかがか。 ・また、スマートフォンやデジタルカメラに使われている画像処理技術について、どんな使い方が できるのかを考えてみていただきたい。 6
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