芸大生が語る 河合塾美術研究所

河合塾で受験生時代を学び、
現在は東京芸大に在籍する学生たち。
白いものがきれい、とか、そういう印象が
人が言う“ふつう” を分かった方がいい」
っ
ありましたけど。でも、んー、すごく多様と
てこと。僕がモチーフに感じる「普通」が、
それぞれに、
どんな思いで受験を経験し、
いうか、個性がある、絵がバラバラな予備
けっこう細かいところだったんで、
「ふつ
校だと思います。予備校の絵にならない予
う、人はそうは見ないよ」っていう価値観
備校というか。
の擦り合わせで、結構苦労しました。今で
いま大学生活を送っているのか。
お話を聞きました。
建築(62 ページ)・芸術学(66 ページ)
先端表現専攻(70 ページ)の
芸大生の声は、各専攻ページで
紹介しています。
インタビュー:2014 年 12 月
みんなの良さ、多様性が、はっきりと出ていた。
久しぶりの美術研究所新宿校の校舎で
河合塾はどういう予備校でしたか?
話、心の置き方みたいな、抽象的な話とか
絵って、予備校ごとにタイプがあるように
も好きでした。
思ってました。河合塾は、
光がきれい、
とか、
印象に残っているのは「菊池は普通の
受験の最後の頃、みんなばらばらな絵
もしてますけど(笑)
。
を描いていておもしろかったんですよ。普
この 1 枚の話のようで、ずっと先のこと
段は 11 時間でやる課題を、14 時間という、
まで言われているようなことってあるんで
少しだけ長い時間で描いたことがありまし
すよね。大学で描いていても「あ、これそ
た。その 3 時間で、みんなの良さみたいな
ういえば言われてたわ」ということもある
ものが、本当にはっきりと分かれて出てき
んで、意外と遠くまで見て、言われてるん
たんで、多様性が担保されているのかな
だなって思うことがあります。
あって思いました。
先生が、その人の良さに対して、どうい
うところをカバーすればそれが出せるか、
という感じで接してくれてるんだなあと。
そういうところを潰しにこない。こうしな
さい、っていう「やり方」的なことじゃなく
て、こうした方が良さが出るよ、という視
点で接してくれていたのかな。
東京芸術大学 デザイン科 3 年
佐藤 絵里子 さん
今年受かるな、って思った?
試験前は、めっちゃ情緒不安定だったんで
いま振り返ってみて、
最近すごく考えています。
じゃないかな、ということをずっと感じて
すけど、終わってからは、
「これで受からな
どんな受験でしたか ?
2 年生のときに、東京芸大の虫部を発足
いました。
かったらしゃあない」って。これで落ちた
現役での受験は、いろんなものが、まだ追
させたんです。いろんな学科にひろがって、
与えられたモチーフの魅力を見つけて、
らほんと、しんどいな、と思いましたけど、
いついていない感じでした。合格した年は、
気づいたら部員が 35 人くらいになってて、
できれば余すところなく描きたいって思っ
すごくいいのが描けたと思ったんで、もう、
今までいろいろ経験してきたし、このまま
しかも全学科いる、
みたいな。
やっぱり人っ
ていました。観察って、すごい、おもしろ
いいでしょ、って…。
楽しんでやろうと思って、気持ちは楽でし
て、不思議なこととか、よくわからないこ
いなって。真剣に取り組めば、どこまでも
試験中に先生の言葉を思い出すの?
たね。それに一番成長もしました。やらな
とが好きじゃないですか。この生き物って
いけるようなことだなって思っていました。
エア○○さんとか、すぐ後ろにいるんで…
きゃいけないことに手が追いついてきた
何でこんなふうになっているんだろう、み
だから、型にはめて構成するというより、
笑。序盤はあの先生を召還して、次にあの
感じで、こうやればこうなるっていうのが
たいなことを密に話せる場所ができて面
毎回違う構成をしてましたね。
先生が来る、みたいな。僕の場合、失敗す
感覚としてつかめてきて。あとは、デッサ
白かったし、すごく嬉しかった。
そういうとき、先生たちは、生徒がこう
るときはたいてい走り過ぎるか、走らなさ
ンだったらパースはおさえるとか、大事な
すぎるか、という感じだったんで、その手
正中線は絶対とるというような基礎をひと
芸大を受験して良かったですか?
絵を描く子だからっていうのを、すごく大
つずつ確実にしていった感じでした。
はい。そう思います。受験時代に、私が手
事にしてくれていたと私は思っています。
にした一番大きな収穫って、観察力だなっ
普段、大学に通っていると、そんなに浪人
今は大学でどんなことを
て思っているんです。何回描いても、毎回
時代のことを思い出したりすることもない
先生ってどんな存在だった?
考えていますか ?
そのモチーフとか、課題に対して、新しい
ですけど、こうやって思い出してみると、
僕は、遠い先輩、というような気持ちで接
私は予備校に通っていた頃から、昆虫とか、
発見があるっていう視点を養えたこと自
すごくいい時間を過ごさせてもらったなあ
していました。先生とは、描いた絵のこと
星とか、自然科学みたいなことに興味が
体が一番大きいんじゃないかなと思って
と思います。親も、先生も、ずっと好きにや
や、いろいろな作家さんの話もしていまし
あって。博物館とかすごく好きなんですね。
います。予備校では「受かるためにこうい
らせてくれていたから。あの感じじゃな
綱を取ってもらう意味でも、第三者的な視
点がすごい大事だったなと思います。
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「観察力」が、いつも新しい発見に出会わせてくれる。
芸大生が語る
河合塾美術研究所
東京芸術大学 日本画専攻 1 年
菊池 玲生 くん
いうふうにしたいとか、この子はこういう
た。絵の話が好きなんで、どんな話でも楽
自分が作品をつくって発表するのも好き
う絵を描く」っていうんじゃなくて、いま
かったら、今の私にはなれなかっただろう
しかったです。
なんだけど、みんなでなにかについて考え
自分は課題としてこれをやっているけど、
なと感じています。だからすごくありがた
受験の 1 枚の話じゃなくて、それ以外の
る場所みたいのをつくりたいということを
それ以上に、すごく魅力的な要素があるん
いなって思うし、恵まれていましたね。
河合塾美術研究所 2015
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技術だけではなく、「考え方」も教えてくれた。
東京芸術大学 油画専攻 1 年
谷戸 晶子 さん
考えると、自分がいいと思わない絵が上位
にいったりすると、やっぱり気になるじゃ
ないですか。そういう傾向の絵に変わって
いってしまう人もいたりする。そういうこ
試験を終えて、合格する自信はあった?
とではないよなって。
いけるかな、っていうより、
わりと平均的に、
失敗しなかったという印象。芸大に合格す
そうやって「自分で考える」というときに、
る、ある程度の水準みたいなものがあって、
先生はどういう存在だった?
それは満たしているから、それ以上の人が
人に相談をするときって、話すだけでいい、
すごく多かったら危ないけど、試験で描い
みたいなところがあるじゃないですか。自
た 3 枚を並べて見て、すぐに落とされるこ
分がどう悩んでるのかを口に出すことで、
とはないかな、
という感じでしたね。
自分が理解することにもなるから。美術を
その水準って、どうやってつかんだの?
す。ただしい返事をしてくれるときもあっ
合格する人の参作もそうですけど、自分が
たと思います。話しすぎて、
覚えてない
(笑)
わかっている人に話すのはいいと思いま
先生は、ちょっとうまくいったときは、も
う一度やってみればとか言ってくれたり、
けど、色の入り方とか、配色とか、白黒バラ
画家をお薦めしてくれたりしました。教え
ンスとか、トーンの良さとかは勉強できる
てもらった映画を観て、その話を先生とす
ところがすごくあるんで、そういうのを全
るのも楽しかった。美術館や映画とかって、
部あわせて、やっぱりひとつの水準、間が
一番身近で簡単にできる、感受性を豊か
持つ画面のバランスみたいなものがある
にしたり、勉強になるものだから、そうい
なっていうのは、河合塾にいる間に、わ
うのを積極的に薦めてくれたのはすごく
かってきたかなと思います。
良かったです。
そうやってじっくり話してくれる先生が
ほかに河合塾で得たものはある?
いて、自分の作品の流れをしっかり理解し
なんていうか、デッサン力とか構成力とか、
てくれていて、本当によかったなと思います。
を続けていくために一番大事なのって、自
己管理だったりするんですよね。たとえば、
うまくいかないときの自分の絵に対する考
え方とか。上手いとか下手とかよりも、ま
ず楽しく描くことが重要だから、その気持
ちを毎日持続できる絵との向き合い方を
学べたのは、いいことだったと思います。
それと、やっぱり人はそれぞれ違うから、
自分はどうなのかな、って考えることが
大事だと思いました。周囲の人との比較で
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芸大生が語る河合塾美術研究所
絵を描くこととの向き合い方を学べた。
表現力とかももちろんなんですけど、それ
東京芸術大学 彫刻科 1 年
笠原 悠介 くん
絵を描くときに大切にしていることは ?
授業で重視されてるなと感じるのは、絵の
なかに物語がないことっていうか…自分
のなかの「きれいごと」みたいなのが出
大学はどうですか ?
ちゃうと、絵がすごく甘くなるんですよね。
クラスメイトが本当にレベル高いんです
そこにあるものを、本人の意図が出すぎな
よね、みんな負けず嫌いっていうか。やっ
いように画面にしていく感じとか、クオリ
ぱりそこはすごいです。自分から進んでや
ティが高くなるってそういうことなのか
らなきゃいけないことがたくさんあって、
なって思ってます。
ただ課題をこなしているだけだと全然ダ
そういう意味では、描くときも、思い通
メですね。展示はもちろん観に行きますし、
りにならないのがいいっていう感じもあっ
本でも勉強したりしながら、日本画という
て。画面に絵具を置いたら勝手に作用を
ものが、どういう流れで現在に至っている
起こしてくれて、すごくいい感じの色に
のかを、自分なりに探ってます。
なったりする、みたいな。日本画って、そう
いう部分がかなり大きいんじゃないかと思
受験の絵と大学の絵って違いますか ?
います。岩絵具は扱いが難しくて、下地に
鉛筆技術とか水彩技術っていうのは、その
何があるかによって発色がものすごく変
一部は使えるんですけど、でも受験ではあ
化するし、なかなか自分の思うようになっ
んなに上手だった人がうまくいかない、と
てくれない。
いうこともよくあります。自分の表現が水
そういう、僕が描いていてるんだけど、
本科(高卒生)で学び始めたときは
彩に適するのか、日本画、岩絵具に適する
どこか僕が描いてない部分があることで、
どんな感じでしたか ?
のか、ってすごく違いがあると思います。
見た人が何かを感じるのかなあ。あなたど
現役の入試直後は、あと1ヶ月あればいけ
水彩画は光を描写したり、西洋表現に近い
こにいるの、みたいのが、魅力なのかなっ
るんじゃないかって思ってました。でも、
ところがあるけど、岩絵具で光を描写する
て、今は思ってますね。
現役のときにあまり考えて取り組んでい
大学での学びはどうですか ?
となると、水彩画のようにはいかないんで
なかったせいか、本科生になってすぐ上達
新しく教えてもらう技術が新鮮だったり、
すよね。なんかすごく安っぽい絵になっ
していく感じでもなく、
よくわからなくなっ
全くやったことがないことを習う経験が
ちゃう。ただ、芸大の博士課程とかになる
てしまった。それは、すごく単純な、技術
多々ありますね。ゼロから始まるような勉
人とかは、もちろん受験絵画もうまい人が
的な工程がひとつ抜けてしまっていて、作
強が増えてきているというか。彫刻に関わ
圧倒的に多いです。
品全体があまりよく見えないということ
らず、人生経験としても、そういう学びが
だったんですけど。先生と作品を見ながら
できる新鮮さを感じてます。
話をするなかで、最終的に言われたことが
河合塾で学んで役立っていることは ?
デッサンで鍛錬された忍耐力とか、自分の
ドンピシャで、それを解決していったら弱
そういう学びに、予備校での経験は
絵を客観視するとか、そういうところです
点が克服できて、それ以外のことをやっと
活かせてる ?
かね。僕は、すごく悩んでる時とかは、先
勉強し始められた感じでしたね。
「学ぶこと」を経験しておけた、という感じ
生に、いま困ってるんですって言って、相
ですよね。短い期間に、その技術をいかに
談にのってもらったりはしたんですけど、
入試直前はどう過ごしていましたか?
身につけていくかというなかで、漠然とや
なんというか、自分でいろいろ気づけるよ
得意な課題では「ここまでできれば大丈
るだけじゃなくて、よく考えてやるという
うに育ててくれたと思います。何が足りな
夫」
というものができていたんですけど。苦
ことを求められて、その重要性が分かって
いかを自分で研究して、自分の力で作品を
手な課題は、どこをどうすれば合格レベル
きたと思います。
描いて、それを先生に見せるというスタン
スが身につくようにしてくれたのかなって。
へ持っていけるのか、いまいちつかめてい
河合塾の良さってどんなところだった?
それは大学に入ってからすごく役立って
の作品に長い時間手をいれ、何が必要な
一人ひとりにかけてくれる時間が、やっぱ
いることです。
のかちゃんと理解しておこうと思いました。
り違うので。毎回必ずちゃんとコメントを
そうやって 1枚にかける時間がだんだん長
くれるし、自主的にやっている作品を見て
くなりましたね。試験本番では、やりきっ
もらえるチャンスも多かった。でも、変に
なくて。だから夜に残ったりして、ひとつ
自分で研究して、
自分の力で描けるように、
育ててくれた。
いいなって思う画家の構成とかも参考に
してましたね。最初は理解できないんです
東京芸術大学 日本画専攻 2 年
和田 宙土 くん
たな、という感じでした。落ち着いて、ス
甘やかされたりはしなかった。先生は受験
ピードも上げていくことを意識して、今ま
の技術だけではなく、考え方とかを教えて
でのなかで一番真剣にやれたと思います。
くれるような人たちだったかなと思います。
河合塾美術研究所 2015
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東京芸術大学 油画専攻 3 年
薬師神 知美 さん
一番自分と向き合えた場所
東京芸術大学 彫刻科 1 年
小林 百代 さん
東京芸術大学 工芸科 1 年
黒住 優 さん
大学ではどんなことに
思う色とかを、ひたすらやってる感じかも
大学はどうですか ?
自分のクセとかをわかってくれているから、
取り組んでいますか?
しれないですね。
ひたすら自由ですね。身体を動かしてやる
相談もしやすかった。
私はドローイングをけっこうやっています
のが性に合っていて楽しいです。2 年生の
ね。油絵を一枚がっつり描くことよりも、
河合塾の本科で学んだ 1 年は、
後半から、鋳金・鍛金・彫金・染織・漆・陶
身体的なこととか、感覚的なところ。それ
どんな経験だった?
芸という専攻に別れるのですが、1 年生は
途中でなにを言われても、一から十まで
はたぶん、河合の授業で、ドローイングが
現役のとき、毎日すごい描いて、いろいろ
その前の段階で、いろいろなことをやって
「これがいいと思ったから私はつくりまし
大事にされてたこともきっかけにあると思
手を動かしてたんですけど、わかんない
ます。いまはガラスの課題がすごく楽しい
た」っていう作品をつくりきること。それ
います。いろいろやってみて、楽しいんだ
なっていう印象もすごい強かった。それで、
です。
をやってから誰かに評価してもらわない
なって。これも作品なんだよって言われる
浪人したときに、ちゃんと自分が納得する
までは、下描きみたいな感覚が強かった。
まで考えてから描こうって思ったんです
受験で学んで良かったと思うことは ?
て何が正しいのかが、わからなくなっちゃ
アイデア出しと捉えることもできるし、ク
ね。もちろん講評とかで言われて気づくこ
やっぱり技術的なことですよね。粘土はす
うな、っていうのがあって。だから、酷評
と、自分が何を間違えていて、自分にとっ
オリティの高いドローイングがあるという
ともたくさんあったんですけど。なんか、
ごく良く使うんで。あとは、教授にスケッ
されてもいいから、そうやろうって思って
ことは、ここに来てはじめて知りましたね。
人になにか言われてどうとかよりも、納得
チで作品の案を見せなきゃいけないから、
ます。
受験のときから続いてるんですけど、自分
して考えて、しっかり画面に出すってこと
自分の意志を出すための道具としてデッ
が気持ちいいと思う画面を、気持ちいいと
がやりたかったから、河合塾の環境はすご
サン力はあって良かったと思います。適当
い良かった。すごく描ける先生もいるし、
な絵だとわかってもらえなかったりして。
1 年間、本科で芸大を目指そうと
ましたね。
「やり方」だけで指導されると、
学生講師で先端的なことをやっている先
でも河合塾に入った頃は全然描けなかっ
決めたときの気持ちは ?
あんまり身につかないなって思ってました。
生もいて。ある先生には、好きにやりなさ
たです。器用さも鍛えられたかな。受験を
高校を卒業した年の春に、これからは「誰
もちろん河合塾の先生が全て精神論で教
いって言われていて、そんなに口を出して
やってない人は耐えられないだろうって
よりも勝つ」じゃなくて、どの大学に行っ
えてるわけじゃないですけど、やり方と気
くる印象がなくて。で講評でいってくれる、
いう、すごく面倒な作業とかもやるんで。
ても、自分が納得して入れるようにしよ
持ちをどちらも分かってくれていて、本当
みたいな、見守ってくれてる感じが強かっ
あと、自分が好きな構成ってわりと覚えて
うって思って。そう思った瞬間に、なにか
はいま何が問題なのかまで知ってくれて
たのかな。それはすごいありがたかったで
て、全然違う作品をつくっていても、配置
する感覚のこととか、時々思い出しますね。
本当に開放されたようで、気の持ちようっ
た。誰よりも理解してくれる、
ひとりとして
す。でも必要な人にはちゃんと指導がある
てすごいなって思ったんです。
認められているというか。
し、先生に聞く子はガンガン聞いたり、そ
だから、粘土に触れたっていう感動が、毎
だから、先生たちは、家族みたいな感じ
れぞれな印象ですね。
日あるようにしたくて。自分のメンタルの
ですかね。朝から夜までずっと指導してて、
したね。だから本科の 1 年はすごく楽し
なに思うことってなかったです。家の外で
かったです。
反抗期するみたいな(笑)
。だから、お父さ
んとか、お姉ちゃんとかお兄ちゃん、みた
試験当日はどんな感じでしたか ?
いな、そんな感じがします。
二次試験では、午前中に全体をつくり終え
て、髪の毛のぽつぽつ、全部模刻してやろ
ここはあなたにとって
うと思って。これ以上つくれないっていう
どんな場所でしたか ?
のをつくれた気がしました。塾で、先生に
場所は新宿なんですけど、私にとっては、
ずっと「筋肉痛になるまでやれ」って言わ
自分の部屋みたいな感じで。ここに来ると
れてたんですよ。粘土を。そんなのやだ
落ち着くんです。ここで芯の深くまで考え
よーっていつも思ってたんですけど、初め
られた。本当に、一番自分と向き合えた場
て試験の翌日に筋肉痛になったんです。階
所だと思います。
段降りるのも辛くて、それくらい動いて、
あと、設備もすごく良かったです。本と
だからほんとにやり終わったって感じがし
かいっぱいあるし。事務の人もやさしいし、
た。
これはもう、
十分だろうって思いました。
寒くない。きれいだし。エレベーターもあ
るし、トイレもきれいだし…。大好きな場
河合塾の指導はどうでしたか ?
授業ではけっこう考え方とか、精神論が多
くて、私はそういうのにやる気を起こされ
8
芸大生が語る河合塾美術研究所
所です。
絵を続けてきて良かったと思う?
の中にポイって放り出されて、さあどっち
それは、はい。やってなかったら意識が全
に進む ? っていう感じ。受験は、整備され
然違ったと思いますね。ものを観るってい
た道路をいかに乗り物とかを駆使して最
うことが。描く前に観ないと描けないから、
短でたどり着くか、
という印象でした。
すごく観るんですよね、いろんなものを。
でも「これは受験だから」って思ってた
予備校には、現役のときはずっと地下鉄で
ことでも、意外と無意識の中に入りこんで
通ってたんですけど、本科に入ってからは、
て。たった 1 年でも、やってきたことはそ
家から自転車で通い始めたんです。それ
う簡単に抜けない。身についた技術はすご
で、外の景色をずっと見てたら、全部きれ
く助かりますね。逆にイメージがかたくな
いに見えてきて、あぁなんでも描けるって
り過ぎちゃう場合は、それを放り出すのに
思って、モチーフが何でも大丈夫だわって
時間がかかったりして。
思ったんですよね。絵をやってなかったら
河合塾は、アットホームな感じで、先生
そんな風には見えてなかったと思うし。あ
の接し方とかも居心地がいい感じだった
と、自分の調子とか気持ちが絵に出てくる
んで、私はいい意味で受験を忘れられて
のも、描いてないと見えてこないことです
いるし、いい意味で受験を覚えていられて
よね。美術でもなんでも、一生懸命それに
るのかも。合格した次の段階で、河合塾で
取り組むと、自分の感情とか意識とかが仕
良かったな、河合の工芸の先生たちで良
事に出てくるっていうのは、全部変わらな
かったなって思いますね。先生の中に個人
いなと思ってます。
いい意味で、受験を忘れているし、
覚えていられてる。
邪魔だなぁって思ったり、うるせえよって
すごい思ったりとか。家族以外の人にこん
大学の勉強と受験とは違う?
全然違いますね。今やってることは、草原
自分が気持ちいいと思う画面を、色を、ひたすら。
持ちかたで、どう課題に踏み込めるのか、
とか、自分自身のことをずっと研究してま
今はどんなことを考えて制作している ?
のデータみたいのがちゃんと入っていて、
それで個々に対応してくれたから、他人と
比べ過ぎずに素直に納得できるというか。
河合塾美術研究所 2015
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