斜杭の支持力に関する研究 2.試料と実験方法 3.結果と考察

斜杭の支持力に関する研究
―温室用基礎を対象とした引抜き特性を中心に―
環境開発工学
1.はじめに
武藤
秀治
現在日本における温室園芸は野菜や果樹を生産し、生鮮食品および花
やみどりの周年的な安定供給、農家経営の安定と向上に大きな役割を果たしている。
しかし近年、温室施設の安全性が強調されるあまりに過大な構造材が用いられる傾向
がある。そこで本研究では、従来温室用基礎として用いられているコンクリートブロ
ックよりも比較的安価で土壌に及ぼす影響も少ない杭基礎の中でも、斜杭を用いた場
合の有用性を検討した。温室施設は他の構造物に比べて自重が小さいため、台風など
による強風を受け上方向に働く荷重の方がはるかに大きい。そのため、引抜き特性に
着目した模型実験を行い、斜杭による支持力を調べることを目的とした。
2.試料と実験方法
模型地盤の作製に使用した土
表1
土の物理的特性
試料は粘性土で、その物理的特性は図1に示すとお
土粒子の密度
2.645(g/cm3)
りである。引抜き試験を行う地盤はできるだけ自然
自然含水比
72.9(%)
礫分
0(%)
状態に近づけるため、含水比は自然含水比に設定し
粗砂分
13.4(%)
た。突き固めによる土の締固め試験は、土試料が粘
細砂分
12.0(%)
性土の性質を持つことから、「JIS A 1210 突き固め
シルト分
52.6(%)
による土の締固め試験」の湿潤法―非繰返し法に従
粘土分
22.0(%)
液性限界
60.8(%)
塑性限界
50.5(%)
に設定し、ラン
塑性指数
10.3
マ−を用いた突き固めにより地盤を締固めた。この
湿潤密度
1.56(g/cm3)
最適含水比
69.8(%)
最大乾燥密度
0.85(g/cm3)
い試験を行った。地盤の締固めについては湿潤密度
を参考にし仕事量
0.5625kgfcm/cm 3
地盤に直径 9mm、長さ 20cm で 2 本1対の模型杭
を打ち込み、直杭基礎と狭角 30°60°、90°の斜杭
基礎を設置した。各基礎に対し、引抜き速度 0.1mm/min で引抜き量が 20mm に達す
るまで引き抜き、その時の引抜き抵抗力を調べた。また、引抜き試験後の地盤の表面
から 5cm おきに 20cm までの各層における湿潤密度と、土壌硬度計を用い貫入量を測
定し、地盤の状態を調べた。
3.結果と考察
図1は杭の引抜き試験における引抜き量と引抜き抵抗力の関係を近
似曲線を用いて表したものである。直杭と斜杭の引抜き抵抗力を比較すると、杭間の
狭角 30°、60°、90°すべての斜杭が直杭よりも大きい引抜き抵抗力を持つことがわ
かる。直杭と斜杭の引抜き抵抗力が異なるのは、引抜きに対する抵抗要素の違いが大
30
直杭は地盤に対し垂直に打ち
25
込まれているため引抜き時に
働く抵抗要素としては、地盤
と杭周面による摩擦力と粘着
力がほとんどである。一方、
斜杭は周面摩擦力と粘着力に
引抜き抵抗力(kgf)
きな要因であると考えられる。
狭角60°
狭角30°
20
狭角90°
15
10
5
直杭
0
加え、杭に掛かる地盤の自重
や、杭が引き抜かれ地盤にめ
0
5
10
15
20
引抜き量(mm)
図1
垂直変位と引抜き抵抗力の関係
り込む際に働くせん断抵抗も
抵抗要素となる。そのため斜杭は直杭よりも大きな引抜き抵抗力が生じると思われる。
杭間の狭角 30°、60°、90°それぞれの引抜き抵抗力を比較すると、狭角 60°の
時が最も大きく次に 30°、90°となっていることがわかる。狭角 90°は狭角が大き
く杭と地盤表面との距離が近いため、杭が引き抜かれると早い段階で地盤の破壊が起
こり、引抜き抵抗力がそれほど増加し
表2
地盤の各層における状態
ないと考えられる。表 2 は引抜き試験
表面からの深さ
貫入量(mm)
湿潤密度(g/cm3)
間隙比
後の地盤の状態を調べたもので、この
0cm
15.99
1.430
2.260
結果から地盤は表面から深いほど、よ
5cm
16.16
1.434
2.250
10cm
16.52
1.464
2.200
く締固まっていることがわかる。その
15cm
16.97
1.465
2.164
20cm
17.04
1.469
2.144
ため図 2 で示すように、地盤が深いと
引抜き荷重
ころほど杭にかかる引抜き抵抗力が大きくなる。
また狭角が大きくなるほど杭が引き抜かれる際
引抜き抵抗力
弱
増加する。そのため、狭角 60°のときに最も大
きい引抜き抵抗力が生じたと考えられる。また、
狭角 30°が狭角 60°に近い引抜き抵抗を示し
地 盤 の締 固 まり 度
に地盤に貫入する体積が増え、引抜き抵抗力が
強
た原因としては、深くなるにつれ締固まりが強
くなるという地盤特性による影響と考えられる。
4.まとめ
図2
地盤の深さと引抜き抵抗力の関係図
今回の研究で斜杭が直杭よりも優れており、特に狭角 60°、30°は引
抜き抵抗が大きく、温室用基礎としての有用性が証明された。今後は引抜き特性だけ
でなく、水平荷重や押し込み荷重に対する抵抗力も調べ、斜杭の支持力を明確にし、
温室用基礎としての有用性を更に検討していきたい。