音波を用いた真砂土と黒ボク土の気相率の測定 Acoustic measurements of soil air content in Decomposed granite and Andosol 釜瀬諒太・石倉尚樹・葛城隆治・深田耕太郎 島根大学生物資源科学部 Abstract 農地土壌を有効活用するには、土壌の物理性を把握する必要がある。そのために開発された音響 測定法はまだ適用例が少ない。そこで音響測定法を真砂土と黒ボク土に適用し気相率の測定を行 った。音響測定により、試料の最大音波強度とピーク周波数を求め気相率との関係を調べたとこ ろ、両者に相関がみられた。真砂土と黒ボク土に対して、音波により土壌の気相率を推定できる 可能性が明らかとなった。 テーマ:土壌物理研究の最前線 Trend in Soil Physics キーワード:音響測定、気相率、土壌空気、乾燥密度 Key Words: Acoustic measurement, Air content, Soil air, Bulk density 1.はじめに た。真砂土は風乾状態で 500g 程度測り、目的 農地土壌の物理性の把握は、その農地を有効 とする含水比になるように所定の水と混ぜ合 に活用するためには、必要不可欠なことである。 わせた。加える水分量を変えることで、含水比 土壌の測定法としては、様々な方法が存在して 0.7~16.9%までの湿潤試料を用意した。湿潤試 いる。その中でも、音響測定法は、土壌の非破 料は、内径 8.4cm 高さ 2.0cm の円筒容器(薄 壊性測定法である。音波を土壌に当て、反響や い供試体)及び、内径 2.5cm、高さ 7.5cm の 共鳴のデータを取ることで、土壌空気の物理性 円筒容器(細長い供試体)に充てんした。真砂 を測定することができる。また、土壌に大きな 土の乾燥密度は 1.48~1.68g/cm3 であった。黒 負担を与えない測定法であり、分析も簡単であ ボク土は 110 ℃で一定質量になるまで、炉乾 る。しかし、農地土壌を対象にした、音波を使 燥したものを 250 g 程度 9 つ分取した。それら った測定法の研究はまだ少ない。また、土壌の の試料を、黒ボク土の含水比が 10~50 %にな 種類による音響測定法の結果への影響もわか るように水分を加えて調整した。含水比を調整 っていない。本研究では、音響測定法の中でも、 した試料を内径 5 cm、高さ 2.5cm の円筒容器 定在波法を用いて、真砂土と黒ボク土の気相率 に詰め入れた。黒ボク土の乾燥密度は を対象とした測定を行った。 0.88~1.07g/cm3 であった。 実験装置の共鳴筒の先に試料を取り付け、共 2.実験方法 鳴筒の中に取り付けられたスピーカーから 5 定在波法の実験装置は内径 2.5 cm、 長さ 100 秒間で 5~200 Hz の周波数の音を流し、試料か cm の共鳴筒、マイク、スピーカー、アンプ、 らの反響などを、共鳴筒内に取り付けられたマ パソコン、試料と共鳴筒を繋ぐコネクタから構 イクで集音するという測定方法を用いた。 成されている。 初めに、塩化ビニール板をコネクタに取り付 土壌は島根大学の実験室に保管されている け、共鳴筒の一端を完全に閉じた状態の録音波 真砂土と島根県大田市の三辺演習林で採取し、 形を、音響測定法の「基準」とした。また、デ 2.0mm ふるいを通過した黒ボク土を対象とし ータのばらつきを抑えるために、測定を 4、5 回繰り返した。なお、新しい実験を行う度に、 燥密度が小さかった。そして、ピーク周波数の 再度基準の録音波形を取得した。次に、各供試 変化量の最大値は真砂土のほうが黒ボク土よ 体に音波を当てた。その時に、共鳴筒の中に生 り大きかった。これよりピーク周波数の変化量 じる音をマイク、アンプを通じてパソコンに録 は気相率だけでなく固相率にも影響を受ける 音した。実験で得られた、録音波形のデータ解 と予想される。よって、充てんする試料に対し 析を行うために FFT 解析を行った。FFT 解析 て、音響測定法を用いる場合、乾燥密度の把握 によって得た曲線を、共鳴曲線と呼ぶこととす が正確な測定を行うために必要であると考え る。また、音の大きさのことを音波強度と呼ぶ。 た。また、ピーク周波数の変化量と最大音波強 音波強度の最大値を最大音波強度、最大音波強 度を測定することで、気相率の推定が可能であ 度のときの周波数をピーク周波数とする。 るということが示された。しかし、音波強度は 共鳴筒内の気密性によって大きく変動するた 3.結果と考察 め、測定が難しい。したがって、音響測定法で 試料の共鳴曲線は、基準の共鳴曲線と比べる は気相率の推定を行う際にピーク周波数の変 と、真砂土、黒ボク土ともに、最大音波強度が 化量を用いる方が最大音波強度よりも適して 小さくなった。真砂土は薄い供試体のほうが最 いると考えた。 細長い供試体では、薄い供試体に比べて最大音 波強度が高い値を示した。これは、音波を当て る面積が狭かったことで、試料の気相率が増加 しても音波が吸収されにくかったからと予想 される。黒ボク土は乾燥密度が低いものが最大 音波強度と気相率との明確な関係を示した。 真砂土の薄い供試体では、気相率が増加する ピーク周波数の変化量(Hz) 大音波強度と気相率との明確な関係を示した。 7 薄い供試体 6 細長い供試体 5 4 3 2 1 0 0 にしたがってピーク周波数の変化量が大きく 20 気相率(%) 40 60 なる傾向がある(Fig.1♦)。これは、気相率が増 Fig.1 真砂土のピーク周波数の変化量と 加することで振動する空気が増え、音波強度が 気相率の関係 小さくなったためと考えられる。しかし、細長 5 い供試体では、気相率が増加してもピーク周波 関係が明確に示されているとは言えない。よっ て、真砂土に音響測定法を適用するときは、断 面積が広く、薄いものが適している。 黒ボク土も真砂土と同様に、気相率が増加す るにしたがってピーク周波数の変化量が大き くなった(Fig.2)。しかし、乾燥密度が高いもの は、気相率が増加してもピーク周波数の変化量 がわずかに増加するだけであり、大きい変化は 見られなかった。 また、黒ボク土は、全体的に真砂土よりも乾 乾燥密度1.07g/cm3 ピーク周波数の変化量(Hz) 数の変化量は小さく、ピーク周波数と気相率の 4 0.88~1.06g/cm3 3 2 1 0 0 20 40 気相率(%) 60 80 Fig.2 黒ボク土のピーク周波数の変化量と 気相率の関係
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