そ の 広 き 舞台 で 少女 は ひ と り 輝く

その広き舞台で
少女はひとり輝く──
香澄が入部した翌日の放課後。謡舞踊部の部室に五人のメンバーが集まっていた。
「あらためて、本 城 香 澄 で す 。 こ れ か ら よ ろ し く 」
「それじゃあ早速 だ け ど 、 練 習 を 始 め ま し ょ う 」
「その前にちょっといいかい? えっと…月坂さん、だったかな」
「紗由でいいです よ 。 な ん で す か 香 澄 さ ん 」
「その…部長は練習に参加しないのかな。奥でずっとお茶を飲んでいるんだけど」
「ああ、うちのこ と は お 構 い な く ~ 。 紗 由 ち ゃ ん に 全 部 任 せ て る し 」
「なるほど、それで出ないって言ってたんですね~」
「納得いかないが、納得したよ」
「…部長、リズム感が壊滅的に絶望的」
みんなが茫然の表情で見つめる中、瑞葉は鳴り響くエイトビートを無視して、優雅に舞
い続けていた。
週末になり、舞菜たち五人は秋葉原の街を歩いていた。
「うう、まさか部長がリズム感無い人だったなんて……」
「ええ~っ、も~、しゃあないなあ~。わかったわあ。みんながそこまで言うんやったら、
「ほら、二人もこ う 言 っ て ま す 。 み ん な で 出 場 し ま し ょ う ! 」
「…出ないとかえのウルトラくすぐりマシンで部長のことをどうにかしてしまうかも」
「そんなこと言わ な い で 、 一 緒 に 出 ま し ょ う よ 、 部 長 さ ん っ 」
紗由の驚きの声 と 共 に 、 全 員 が 瑞 葉 を 見 る 。
「で、出ないって、なんでですか!? せっかく部員も揃ったのに!」
「なんでって言われても~。うちは応援係やなあって最初から決めてたしぃ」
「え? 紗由ちゃん。うちいつ出るって言った?」
「えっ?」
んです。だから安 心 し て く だ さ い 」
「でも、市杵島さんは部長なんだよね? プリズムステージには出ないのかい?」
「もちろん、部長も出ますよ。のんびりしてますけど、ああ見えて舞のスペシャリストな
「わたし、こんなにたくさんのいろんなアイドルが集まるイベントなんて初めてです」
ちで溢れている。
一同は休日を使って秋葉原で行われるアイドルのイベントを見に来ていたのだった。歩
行者天国の道路には数々のステージが設置されており、たくさんのアイドルとお客さんた
「…さすがサウザンドキルエンジェル。このイベントを選ぶとは…」
ントー』を見れば、さすがの部長も触発されてやる気に満ちるはずだ」
「ふふふじゃありません!」
「部長は『舞』だったら本当に凄い人だから、当然出来ると思ってたの」
「でも、二人っきりの部員だった紗由さんも全然知らなかったんだね」
「まあ、うちは裏も表も無い真っ直ぐな性格ってゆーことやなぁ。ふふふ」
うちも参加するわ あ 。 で も 、 ど う な っ て も 知 ら ん よ ~ ? 」
プリズムステージに出るアイドルとは違って誰でも出演することができるけど、レベルは
高く、評判もいい。たくさん勉強になるはずだ」
「そうなのか。それなら舞菜にとってもいい機会だね。このイベントに集まるアイドルは、
「それに、今日一日、ボクおすすめのこのイベント『グローイング・アイドル・イン・カ
「大丈夫だよ、特訓すれば部長さんだって変われるよ」
「舞はジャンプとかないからなぁ。ふふふ」
「ふふふじゃありません!」
瑞葉は一人ステージに立ち、音楽に合わせて踊り始めた。それは優雅で華麗で…。くる
くるくると瑞葉は 踊 っ た 。
「はあ~、ほんま、アイドルがたくさん居てはるねえ~」
そう言ってひら ひ ら と 手 を 振 る 瑞 葉 。
しかし――。
「……そ、そんな 、 ま さ か … … 部 長 が … 、 部 長 で 、 部 長 な の に … … 」
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「おっと。何だい、そののんきな声は。今日は部長のために来たんだ。さあ、どんどん行
ステージに近づくと、みいは一人で軽やかに跳ねながら手を振っていた。
「今日はぁ、みいのために来てくれてぇ、ありがとみぃ! みいは、みんなのこと、大好
きみぃ~!」
度。
そう言ってみいが手でハートマークを作ると、客席からは再び大きな歓声が沸いた。
「不思議な語尾だね~。でも、この声って、どこかで聞いたことがあるような…?」
舞菜が首を傾げる。隣では香澄がスコープを取り出していた。
「ボクもあの子は見たことがある気がするよ。特にあのマイクの持ち方。…角度、
グリル部末端からの指の距離、3 7.センチ。うん、確かに記憶にある…」
「…かえのIPPグラスにもみいと同じ数値が記録されてる」
「てことはもしかして、うちの学校の人なん?」
ぃぃぃぃぃ
「あーーっ! もしかして、長谷川副会長 」
すると、ステージ上のみいがびくっと肩を震わせて、紗由を見た。
「みみっ!? なんであんたたちがこんなところにいるみぃ
もう終わりだみぃぃぃぃ
」
言いながら紗由はみいをじっと見つめる。そして、ある人物が紗由の脳裏に浮かんだ。
けが…」
「そ、そんなまさか! うちの学校に私たち以外にアイドルに興味ある人なんか…いるわ
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香澄が瑞葉の首 を 掴 み 、 引 っ 張 っ て 行 く 。
「ちょ、ちょっと ち ょ っ と 、 香 澄 ち ゃ ん 、 ど こ 引 っ 張 っ て ん の ~ ? 」
い?
「さあ、追いかけっこは終わりだよ、子ウサギちゃん。まさか逃げ切れると思ってたのか
「なにじっと見て る の 」
「確かに、よく見 る と 副 会 長 さ ん で す 。 で も … 」
舞菜はしゃがみ込んで、不思議そうにみいの顔を見つめた。普段は髪をまとめている長
谷川実が目の前の ア イ ド ル と 同 一 人 物 だ と は 信 じ ら れ な か っ た 。
「…あれは、今ネ ッ ト で も 話 題 に な っ て る 、 ア イ ド ル の 『 み い 』 」
様々なアイドルを見学していると、一際沸いている歓声が聞こえてくる。
「わあすごい。あ そ こ 、 お 客 さ ん が い っ ぱ い 集 ま っ て る 」
イドル活動なんか始めて、それなのにトントン拍子で仲間を増やして…。でも、すぐにそ
「ううん。腹が立ったのは最初だけ。最初は何よって、思った。いい加減なスタンスでア
「それで副会長は、私たちに対して厳しかったんですね」
腹も立つわなあ」
「本当に副会長さん…なんですか?」
「語尾みぃなキャラもたいがい変やと思うで、実ちゃん」
このサウザンドキルエンジェルから」
「香澄さん、すご い 。 あ の マ イ ペ ー ス な 部 長 を 引 っ 張 っ て っ て る … 」
「アイドル姿の副 会 長 さ ん は 、 普 段 よ り も ず っ と ず っ と 素 敵 で す 」
んな気持ちは消えちゃった」
「…さすがサウザ ン ド キ ル エ ン ジ ェ ル 」
「な、何よ…。あんたなんかに褒められたって、うれしくなんかないんだからみぃ…」
顔を上げたみいは、なんだか泣きそうな顔をしていた。
「だって、あなたたちのライブを見ちゃったから。あなたたちの、とても楽しそうな、幸
「すごくなんかないわよ、落ちたんだから…。それでも、チャンスがあると思って高尾校
「…最終選考なん て 、 す ご い … … 」
て落ちてしまった の … 」
心に決めてた。でも…。二年前、私は稀星学園の本校を受験したとき、最終面接まで行っ
場する。そして将来は、日本中の人たちを元気にする、そんなアイドルになるって、そう
「中学に入ったら、同じアイドルを目指す子たちと一緒になって、プリズムステージに出
みいは、アイドルに憧れる少女だった長谷川実が、どうやって今に至ったのかを話し始
める。
瑞葉はみいの隣に座ると、その手の上に自分の手を重ねる。
「うちら、二年前に一緒になれてたら良かったのになぁ」
「そんなこと、するわけないやん」
ね。私のこと、生徒会に報告してもいいわ」
みいはそう言うとまた俯いた。
「ごめんなさい。私があなたたちの邪魔をしたのは事実。どんなに嫌われても仕方ないよ
「少し、悲しくなった。それだけよ」
「ただ?」
消えちゃったの。ただ…」
に入った。こっちでも部活に入って、プリズムステージを目指そうって思ったの。でも、
「もう…遅すぎるみぃ」
気づくと公園は夕暮れに包まれていた。
週が明けて、謡舞踊部では瑞葉の特訓が始まった。
しかし、みんなのアドバイスを受けても瑞葉はすぐには上達せず、部活が終わった後も
一人で練習を続けていた。
アイドルを目指し て 活 動 を 続 け て た … 」
「はあ……全然できひんなあ。こんなんで、ほんまにあの子たちと大会に出れるんやろか
「それで、一人で 活 動 す る 道 を 選 ん だ ん や ね 」
「長谷川さん…」
…」
「一人でもアイドルにはなれるから…、もう仲間なんて必要ない。私はずっとそう思って、
「でも、今年にな っ て 突 然 、 謡 舞 踊 部 が ― ― 」
だったんだもん… 」
たの。でも、アイドルになりたい夢は捨てられなかった。小さい頃からずっと、ずっと夢
「部活が作れなければ、大会には出られない。だから、私はプリズムステージをあきらめ
「うちらの学校、進学目的の子ばっかやもんな。うちの部も全然部員集まらんかったわ」
ど、『そんなの本校の子がすることだ』って言われて、見向きもしてもらえなかった…」
そもそもこの学校にはアイドルを目指す部活はなかった。いろんな女の子に声をかけたけ
せそうな、そして真っ直ぐにアイドルを目指す姿を見たら、そしたら、怒りなんかもう、
「アイドル活動を始めたわけやな。廃部を免れるっていうええ加減な理由で。そらまあ、
そう言って、恥ずかしそうな表情をしたみいは、確かにいつもの副会長、長谷川実と重
なって見えた。
ひときわ
みいは諦めたのか、秋葉原の裏手にある公園のベンチに座りこんだ。
「謡舞踊部は変な人材集めすぎみぃ…」
こう!」
!?
みいは舞菜たちに見つかった後、ちょうど終わったステージから駆け降りて逃げ出した。
そのみいを香澄が一瞬で追いつめる。
!?
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!!!
に来ただけよ。あんたのことが気になって来たわけじゃないんだから…」
「名前で呼んでいいって言った覚えはないんだけど…。それに、生徒会の仕事で、見回り
「実ちゃん…もし か し て 、 練 習 見 に 来 て く れ た ん ? 」
声がした方を振り向くと、部室の入り口に実が立っていた。
「そんな弱気じゃ 絶 対 無 理 よ 。 あ き ら め な さ い 」
「え…?」
「え…っ」
「ほんまにそうなんかな…」
「だから、それはもう遅すぎるって……」
「うち、もっと早う実ちゃんの気持ちを知って、こうやって一緒に頑張りたかったなあ」
「な、なによ急に……」
もうっ、と実が瑞葉を押しのけ、そっぽを向いた。そんな実の隣に瑞葉が寄り添う。
「なあ実ちゃん…、うちもこの春まで一人やったんや…。そやから、実ちゃんの寂しかっ
「――無理ね」
「そうか~。ふふ 、 や っ ぱ り 優 し い 子 や ね 、 実 ち ゃ ん は 」
ってみなさいよ」
「そんなことない、ちゃんと練習すればできるようになるわ。ちょっと私の言う通りにや
瑞葉はやってみせたが、やはりこけてしまう。
「ほんまにあかん な あ 。 う ち 、 向 い て へ ん の や わ 」
一緒にスタートして、頑張らへん?
「……」
「でも、これがうちの正直な気持ちなんやもん」
いつになく真面目な顔で瑞葉が実を見つめる。
「……そ…そうやって私の心を見透かして……そういうところが気に入らないのよ」
た気持ち、ようわかるんよ…」
「あ~、もう…っ。…ほら、ステップやってみなさいよ。さっきから何回も練習して、こ
けてばっかりのや つ 」
瑞葉が実に向き合うように立ち、実の手をぎゅっと握った。
「なあ実ちゃん。うちらと一緒に部活やらへん? うちは実ちゃんと一緒にアイドルにな
りたいって思ってる。実ちゃんは? 実ちゃんはどう思ってる?」
実は瑞葉にミスをしてしまう原因を伝え、ちゃんとした動きを教えた。
「はい、もう一回 や っ て み て ! 」
「一緒に…」
「やっぱめっちゃ 見 て る や ん 」
「えいっ!」
「覚悟の上や」
もう一回、夢を追いかけようや。今度は、一緒に」
「うちら、やっとスタートラインに立つんや。うちは踊りの。実ちゃんは部活の。だから、
「あきらめないで 。 も う 一 回 ! 」
二人はしばらくの間見つめあった。そして、一息吐くと、実はにこっと微笑んで……
「レッスンは優しくしないわよ…っ」
「やあっ!」
「あと少しで出来 る わ ! さ あ も う 一 回 ! 」
「とおっ!」
何回も失敗する瑞葉に懲りず、実は根気よく練習に付き合った。そして、ついに……
翌日、謡舞踊部のステージに瑞葉と実が立っていた。
「というわけで、特別コーチ、兼、新入部員の実ちゃんや」
たん! と瑞葉のステップが綺麗に決まった。
「……い、今の見 た ぁ ! ? 」
「うん! 見てたわよ! やればできるじゃない!」
「ほんまありがと な あ ~ 。 う ち 、 実 ち ゃ ん の こ と 大 好 き や ~ 」
ありがとうございますっ!」
「副会長さん…!
「き、来てあげたみぃ! 感謝するみぃ!」
入ってくれるんですね!
瑞葉が実に抱き 着 く と 、 実 は 瑞 葉 の 腕 の 中 で 照 れ な が ら も が い た 。
「だからっ、その っ 、 実 ち ゃ ん っ て の っ 、 や め な さ い っ て ば っ ! 」
「仕方なくだけどね。あんたたちの部長が、どーーーーーしてもコーチが必要なんですっ
て。だから仕方な く よ ! 」
「…相変わらず素 直 じ ゃ な い 」
「でも、これで部のレベルが格段に上がった。ボクも負けてられないな。よろしく、副会
長」
「私のことはみい さ ん っ て 呼 び な さ い 。 い い わ ね ? 」
「ああわかったよ 、 副 会 長 」
「ふふ、これで『梅こぶ茶飲み隊』は安泰やなあ~。優勝も間違いなしやあ~」
「ちょ、ちょっと待って! 今の何? なんなのよ、『梅こぶ茶飲み隊』って! まさか、
あんたたちのユニ ッ ト 名 じ ゃ な い で し ょ う ね ? 」
「えー、そうやけ ど 。 ど し た ん ? 何 か 問 題 で も あ る ? 」
「あるに決まってるでしょぉ! そんなヘンなの、変えさせてもらいますからね!」
「ええ~っ、そん な 殺 生 な あ ~ 。 実 ち ゃ ん の 鬼 ぃ ~ ! 」
「鬼じゃないっ! 」
「わたしも、ちょ っ と 気 に 入 っ て た ん だ け ど な ぁ … 」
「えっ、うそでしょ!? 本気で言ってるの、舞菜」
「…紗由。舞菜は セ ン ス も ミ ジ ン コ だ か ら 」
実がビシっと指 さ し て 、 一 同 の 前 に 立 つ 。
「いい!? 今後は、楽曲も、歌詞も、振り付けも、衣装も! このみいのチェックを通
すように! 生徒会より厳しくいくわよ!」
「「「「は……は い ~ っ ! 」 」 」 」
「はあ…こうなったら腹をくくるしかないな。頼んだで、みいちゃん」
「任せるみぃ!」
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