電気電子 1 年 (2015.6.23) 3–7 電気回路学I及び演習 (第 10 回) 3 学習の目標:チェックリスト □ 交流理論に必要な以下の複素数の計算ができる. □ 実部,虚部 (直交形式) □ 絶対値,偏角 (極形式) □ 四則演算 □ 共役複素数 □ 指数関数形式・フェーザ形式への変換,オイラーの公式 □ 1 の m 乗根 学習上の注意点 • 教科書のこの節では,電気回路学で必要となる複素数の初等的事項だけを述べて いる.複素数に関する詳細は, 「応用数学 I 及び演習」の講議で扱われる. • 電気関係の分野では,虚数単位として j を用いる約束になっている (電流の記号 に i を用いるため).しかし,その他の分野では,虚数単位の記号として i を用 いるのが普通である.どちらの記号を用いるかは講義によって変わるので,教科 書や担当の先生の指定に従うこと. • 量を表す記号は,通常,Im のように斜体で印刷されるのに対し,関数名など記 述的な記号は,Im のように立体で書かれる.両者は全くの別物であるので,混 同しないように注意すること. 3.2 虚数単位,自然対数の底なども記述 的な記号であり,それぞれ,j, e の ように立体で書く取り決めになって いる. 複素数 → p.32 教科書の順序とは異なるが,計算に便利なように教科書の式をまとめてみよう. 複素数:complex number. 直訳す ると, 「複数の要素から成る数」, 「複 合数」. 複素数 虚数単位(imaginary unit) j は,次の性質を持つ数として定義される. j2 = −1 (3·11) 複素数z は,2 つの実数 x , y と虚数単位 j によって次のように表される. ポイント:1 つの複素数で 2 つの実 数を表せる. z = x + jy (3·12) x = Re z , y = Im z (3·13) x , y をそれぞれ実部,虚部と呼び, と書く.ここで,Re , Im は複素数の実部,虚部をとりだす操作を意味する.実部が 0 複素数と実数の関係:自然数,整数, 有理数,実数と進んできた数の拡張 も,複素数で終わりである. 複素数 実数 である場合 (z = jy),その複素数を純虚数と呼ぶ.一方,虚部が 0 である場合 (z = x), その複素数は実数とみなすことができる. 複素数と実数の関係 電気電子 1 年 (2015.6.23) 3–8 複素数の相等 2 つの複素数 z1 = x1 + jy1 , z2 = x2 + jy2 (3·25) は,それぞれの実部と虚部が等しいとき (また,そのときに限り),互いに等しい.特 ⇔: この記号は同値の意味で用いて いる. に,z = x + jy = 0 は,x = 0 , y = 0 を意味する. z1 = z2 ⇔ x1 = x2 , y1 = y2 および z = 0 ⇔ x = 0, y = 0 複素数の四則演算 複素数の四則演算は次の規則に従って実行される. 〔加法〕 z1 + z2 = (x1 + x2 ) + j(y1 + y2 ) 〔減法〕 z1 − z2 = (x1 − x2 ) + j(y1 − y2 ) 〔乗法〕 z1 z2 = (x1 + jy1 )(x2 + jy2 ) 〔除法〕 (3·26) = (x1 x2 − y1 y2 ) + j(x1 y2 + y1 x2 ) z1 x1 + jy1 x1 + jy1 x2 − jy2 = = · z2 x2 + jy2 x2 + jy2 x2 − jy2 (x1 x2 + y1 y2 ) + j(x2 y1 − x1 y2 ) = x2 2 + y2 2 x2 y1 − x1 y2 x1 x2 + y1 y2 +j ♠ = 2 2 x2 + y2 x2 2 + y2 2 複素数の四則演算の規則は,実数の 四則演算と整合するように定められ ている. (3·30) (3·47) 実数の場合と同様に,任意の複素数 z1 , z2 , z3 について,次の関係が成り立つ. 〔加法の結合則〕 z1 + (z2 + z3 ) = (z1 + z2 ) + z3 〔乗法の結合則〕 z1 (z2 z3 ) = (z1 z2 )z3 〔分配則〕 z1 (z2 + z3 ) = z1 z2 + z1 z3 複素数の四則演算規則は,次のようにまとめることができる. • 加法については,実部どうし,虚部どうしの和を計算する.減法については,同 様にして差を計算する. • 乗法については,実数の場合と同様にカッコを展開し,j2 = −1 を考慮する. • 除法については,式 (3·47) のように分母の虚部の符号を変えたもの (共役複素数) を分母と分子にかけ (分母の実数化),あとは乗法と同様に計算する. 分母の実数化は,基本的な計算法の 1 つである. 共役 複素数 z について,虚部の符号を変えて得られる複素数を,z の共役複素数と呼び,次 のように書く. z̄ = z ∗ = x − jy (3·49) 共役(conjugate) とは, 「対をなす」というほどの意味である. 対をなす:実数を係数にもつ 2 次方 程式の解が複素数となる場合には, 共役複素数が対となって現れる. 共役について次の式が成り立つ. ( (z1 + z2 ) = z1 + z2 , z1 z2 = z1 z2 , z1 z2 ) = z1 z2 ♠ (3·51) 式 (3·13) を共役複素数を使って書き直すと,次のようになる. Re z = 1 1 (z + z̄) , Im z = (z − z̄) 2 2j (3·52) 電気電子 1 年 (2015.6.23) 3–9 複素平面 式 (3·12) で表される複素数 z は,図 3・4(a) のように平面上の点に対応させることが できる.これは,実数を数直線に対応させるのと同様の考え方である.この平面を複 素平面 (ガウス平面,数平面),横軸を実軸,縦軸を虚軸と呼ぶ. 複素平面上で,原点 O から複素数 z を表す点 x + jy までの距離を r とすると,次 の関係が成り立つ. r= √ x2 + y 2 虚 部 y r θ (3·14) x O この r を複素数 z の絶対値と呼び,|z| と書く (絶対値は非負の実数である). 絶対値について次の式が成り立つ. 〔三角不等式〕 図 3・4(a) |z| = r √ |z| = z z̄ (3·53) |z1 + z2 | ≤ |z1 | + |z2 | (3·27) |z1 z2 | = |z1 | |z2 | z1 |z1 | = z2 |z2 | (3·35) (3·20) なお,複素数どうしの大小関係は定義されないので注意が必要である.例えば,2 つ の複素数 z1 , z2 について,z1 < z2 と書くのは誤りである.実数の大小関係は言える ので,|z1 | < |z2 | などと書くのは大丈夫である. 極形式 複素平面上の点 z = x + jy を,極座標 (r , θ) で表すことができる (図 3・4(a) を参照). このとき,x = r cos θ , y = r sin θ(式 (3·18)) が成り立つので, z = r(cos θ + j sin θ) (3·19) と書き表すことができる (複素数の極形式あるいは極表示).ここで,r は複素数 z の 絶対値であり,θ は複素数 z の偏角と呼ばれ, 偏角:argument. arg z = θ (3·20) と書く.偏角は, θ = tan−1 y x (3·15) で計算できるが,関数 tan−1 の計算には注意が必要である (資料 2–12 を参照).なお, z = 0 の偏角は特に定義されない. 2 つの複素数 z1 , z2 を,z1 = r1 (cos θ1 + j sin θ1 ) , z2 = r2 (cos θ2 + j sin θ2 ) とする と,極形式による乗法と除法は次のようになる. 〔乗法〕 〔除法:逆数〕 〔除法〕 z1 z2 = r1 r2 [cos(θ1 + θ2 ) + j sin(θ1 + θ2 )] 1 1 = r−1 (cos θ − j sin θ) = [cos(−θ) + j sin(−θ)] z r r1 z1 = [cos(θ1 − θ2 ) + j sin(θ1 − θ2 )] z2 r2 (3·34) ♠ (3·43) 極形式における複素数の乗除算は,次のようにまとめることができる. • 乗法:絶対値は,積の計算.偏角は,和の計算. • 除法:絶対値は,商の計算.偏角は,差の計算. 乗法と除法については極形式が幾何学的なイメージを与える (教科書 pp.35–36). 実部 電気電子 1 年 (2015.6.23) 3–10 指数関数 複素数 z を変数とする指数関数 ez は,次のように無限級数で定義される. ∞ ∑ 1 3 zn 1 2 e = exp z = 1 + z + z + z + · · · = 2! 3! n! n=0 ♠ z (3·56)–(3·57) この式から次の関係が導かれる. 〔指数の加法則〕 〔指数関数の微積分〕 複素数における指数関数の定義: 実 数を変数とする指数関数のマクロー リン級数展開を,複素数に拡張した ものである.マクローリン級数につ いては,数学の教科書を参照のこと. ここで,0! = 1 である. ez1 ez2 = ez1 +z2 ∫ d z z e =e , ez dz = ez dz (3·58) (3·59)–(3·60) 加法則は指数関数の定義から確認できる.微積分については,厳密には複素関数の微 積分の概念が必要である.複素数を変数とする指数関数については,実数の場合と同 様な結果になることが知られている. ここで,純虚数 z = jθ(θ は実数) の場合には,オイラーの公式と呼ばれる次の関係 が成り立つ (非常に重要). ejθ = cos θ + j sin θ 〔オイラーの公式〕 (3·64) オイラーの公式の導出については, 数学の教科書を参照のこと.参考書 “オイラーの贈物” にも詳しく記述 されている. オイラーの公式は,複素数の世界では指数関数と三角関数が密接に関連している,と いうことを示している.この式から,次の関係が容易に導かれる. jθ e = 1 (ejθ )−1 = e−jθ = cos θ − j sin θ ejθ − e−jθ ejθ + e−jθ sin θ = Im ejθ = , cos θ = Re ejθ = 2j 2 (3·68) オイラーの公式を使って極形式の式 (3·19) を書き直すと,次のようになる. ♠ z = r(cos θ + j sin θ) = rejθ (3·65) m 乗根 教科書とは別のやり方で 1 の m 乗根 (m は正の整数) を求めてみよう.1 の m 乗根を 求めるには,次の方程式を解けばよい (代数学の基本定理により,複素数の範囲におい て,この方程式の解は m 個ある). zm = 1 明らかに z = 1 は解の一つである.この解を指数関数形式で書くと次のようになる (n は整数). z = 1 = ej0 = e2nπj これを,最初の式を変形したものに代入すると,次のような式が得られる. 1 1 n z = 1 m = (e2nπj ) m = e2 m πj 最右辺の式で,試しに n = 0 とすると z = 1 となる.次に,n = 1, 2, . . . , m − 1 と代 1 2 入していくと,e2 m πj , e2 m πj , . . . , e2 m−1 m πj という解が次々に得られる.n = m のとき, 一巡して z = 1 という解が再び得られ,あとは重複した解が得られるだけである. 以上の議論から,次の結果が得られる. 2π 1 の m 乗根は 1, κ = ej m , κ2 , . . . , κm−1 である. 対数関数 対数関数については,当面必要ないので省略する. [3·74] κ: カッパ 電気電子 1 年 (2015.6.23) 3–11 交流理論 電気回路の交流理論で使用される複素数はフェーザと呼ばれ,式 (3·19) を, z = r6 θ (3·22) と書くことが多い (極形式の一種,フェーザ形式).交流理論では,絶対値 r を大きさ(あ るいは長さ) と呼び,偏角 θ を位相角(あるいは角) と呼ぶのが普通である.なお,実 際の計算では,フェーザ表示の角 θ の単位としてラジアンではなく度 [˚] を用いる. ここで,複素数の表現についてまとめると,補足図 A のようになる. 直交座標 極座標 z = x + jy = r cos θ + jsin θ = r e jθ = r ∠ θ 直交形式 極形式 指数関数 フェーザ 形式 形式 補足図 A—式 (3·67) 【例題】 例題 1.次の直交形式の複素数の,実部,虚部および共役複素数を示しなさい. √ 2 + 2j , j , 1 − j 3 (解答例) • 実部:Re{2 + 2j} = 2,虚部:Im{2 + 2j} = 2,共役複素数:2 + 2j = 2 + (−2) · j = 2 − 2j • j = 0+1·j より,実部:Re j = 0,虚部:Im j = 1,共役複素数:j̄ = 0+(−1)·j = −j √ √ √ } √ } { { • 1 − j 3 = 1 + (− 3) · j より,実部:Re 1 − j 3 = 1,虚部:Im 1 − j 3 = √ − 3, √ √ 共役複素数:1 − j 3 = 1 + j 3 例題 2.例題 1 の複素数の絶対値を求めなさい. (解答例) √ √ • |2 + 2j| = 22 + 22 = 2 2 √ • | j | = 02 + 12 = 1 √ √ √ √ • 1 − j 3 = 12 + (− 3)2 = 4 = 2 例題 3.例題 1 の複素数の偏角を求めなさい. (解答例) • arg(2 + 2j) = π/4 = 45˚ • arg(j) = π/2 = 90˚ 電気電子 1 年 (2015.6.23) 3–12 √ • arg(1 − j 3) = −π/3 = −60˚ ※偏角を確実に求めるには,複素数を複素平面にベクトルとして描くこと. 例題 4.例題 1 の複素数を,指数関数形式とフェーザ形式 (r6 θ) で書きなさい. (解答例) 例題 2, 3 の結果を用いて, √ √ π • 2 + 2j = 2 2ej 4 = 2 26 45˚ π • j = ej 2 = 16 90˚ √ π • 1 − j 3 = 2e−j 3 = 26 (−60˚) 【演習問題】 □問題 1.複素数の直交形式を用いて以下の関係を示しなさい.ただし,c1 = a1 + jb1 , c2 = a2 + jb2 とする. 1. |c1 · c2 | = |c1 | · |c2 | c1 |c1 | 2. = c2 |c2 | □問題 2.複素数の極形式 (z = r(cos θ + j sin θ)) を用いて以下の関係を示しなさい. ただし,c1 = |c1 | 6 θ1 , c2 = |c2 | 6 θ2 とする. 1. c1 · c2 = |c1 | · |c2 | 6 (θ1 + θ2 ) 2. c1 |c1 | 6 (θ1 − θ2 ) = c2 |c2 | □問題 3.三角関数の公式およびオイラーの公式を使って,以下の関係が成り立つこ とを確認しなさい (θ は実数).ただし,指数関数の性質 (ea+b = ea eb など) は使わな いこと. 1. ejθ = e−jθ 2. ejθ = 1 3. e−jθ = 1 4. e−jθ = 1 ejθ 5. ej(θ1 +θ2 ) = ejθ1 · ejθ2 6. ej(θ1 −θ2 ) = ejθ1 ejθ2 □問題 4.問題 3 の関係式 4.–6. をフェーザ形式に書き直しなさい. ) 13 (√ 3 1 +j □問題 5. を計算し,そのベクトル図を複素平面に描きなさい.ヒント: 2 2 この問題の解は,3 つ存在する. 手書きの場合は,角度記号 6 の下 辺を伸ばして,その上に角を記入す るのが一般的である.
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