極形式とオイラー公式

極形式とオイラー公式
一つ前のテキストで学んだ複素数の表現方法を直交形式といいますが、複素数にはもうひとつ極形式という表現方法
もあります。直交形式と極形式はオイラー公式を使って 1 対 1 で相互変換できます。
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極形式の定義
前のテキストで示した複素数の定義では、複素数を実数軸の座標と虚数軸の座標を使って表していました。このよう
に複素数を複素平面の座標で表す方式を直交形式といいます。直交形式による複素数の定義を再掲します。
定義: 直交形式で表した複素数
a と b が実数の時
z =a+j·b
この直交形式の例として前のテキストでは z = 1 + j · 2 をあげていました (図 1)。
虚数軸
Im[Z]
z=1+j・2
2j
|z|=√5
0
1
図 1: 複素数の例: 直交形式 z = 1 + j · 2
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Re[Z]
実数軸
ところで複素数は複素平面上の点 (又はベクトル) でしたので、全く同じ複素数の位置を座標ではなく、図 2 の様に原
点から点までの距離と角度で表すことも出来ます。
虚数軸
Im[Z]
z=1+j・2
|z|=√5
∠ z(rad)
Re[Z]
実数軸
0
図 2: 複素数の例: z = 1 + j · 2 の位置を距離と角度を使って示した場合
距離は前のテキストの絶対値 |z| そのものです。一方角度は実数軸から反時計回りに測った値を使います (単位はラジ
アン)。この角度の事を偏角と言って、図のように ∠ z と書いたり、arg z と書いたり、θ で表したりします。このテキ
ストでは特に指示が無い限り z の偏角として ∠ z を使うことにします。
さて、|z| と ∠ z を使って複素数を表現する方法を極形式、またはフェーザ形式、またはオイラー表現と言い、ネイピ
ア数 e の指数を使って次のように書きます。
定義: 極形式 (またはフェーザ形式、オイラー表現)
絶対値が |z|、偏角が ∠ z の時、
z = |z| · e{j·∠
z}
さてこの極形式を初めて見た人は必ず大混乱を起こします。何故いきなり e が出てくるのか?何故 e の指数に虚数単
位 j が入ってるのか?
その辺を考え始めると訳が分からなくなりますが、とりあえず複素数をこのような極形式で表すようにしたお陰で物
理学、信号処理、その他の様々な計算問題が簡単に解けるようになって人間社会が発展しました。従ってまた繰り返し
ますが極形式も計算を楽にするための単なる道具ですので、やはり深く考えず素直に覚えて下さい。
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偏角の範囲
絶対値 |z| は定義から 0 以上の実数と分かります。一方、偏角 ∠ z は点の角度ですので −∞ から ∞ までの値を取れ
ますが、ある z を 360 度回転させると全く同じ位置に戻ります (これを演習で確かめます)。
従って一般的には偏角の範囲は −π から π までに限定することが多いのですが、文献によっては −∞ から ∞ の場合
もあるので注意して下さい。このテキストでは偏角の範囲は −π から π までとします。
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複素共役と極形式
虚部の符号が異なる複素数の組のことを複素共役といいましたが、図 3 より虚部の符号が異なるということは偏角の
符号が異なることを意味します。
複素共役を極形式で表現した場合
例えば z = |z| · e{j·∠
z}
の複素共役 z ∗ は
z ∗ = |z| · e{−j·∠
z}
虚数軸
Im[Z]
z=1+j・2
∠ z(rad)
Re[Z]
実数軸
0
−∠ z(rad)
z*=1-j・2
図 3: 複素共役の関係
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オイラー公式
さていよいよこのテキストのメインテーマであるオイラー公式の説明をします。
オイラー公式は極形式の複素数を sin と cos を使って直交形式に変換するための公式です (もっとも歴史的にはオイラー
公式の発見が先で、オイラー公式から極形式が生まれたらしいですが)。大元の定義は次のとおりです。
定義: オイラー公式その 1
θ を任意の実数とした時、
e{j·θ} = cos θ + j · sin θ
何故どうやってこんな式を思いついたかについては寿命を全うしてから天国で発見者に尋ねて下さい。
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このオイラー公式を変形することで cos と sin を複素数の和または差で表す事ができます。文献によってはこちらを
オイラー公式の定義としている場合もあります。
定義: オイラー公式その 2
cos θ =
e{j·θ} + e{−j·θ}
2
e{j·θ} − e{−j·θ}
2·j
}
{−j·π/2} {
e
=
e{j·θ} − e{−j·θ}
2
sin θ =
sin の 2 行目の変形は 1/j = j/j 2 = −j の関係を利用して求めました。どちらの定義も同じくらい良く使われるので
両方覚えておきましょう。
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極形式と直交形式の変換
オイラー公式を極形式に当てはめることで、極形式を簡単に直交形式に変換することができます。
極形式 → 直交形式に変換
|z| · e{j·∠
z}
= |z| · cos ∠ z + j · |z| · sin ∠ z
一方直交形式を極形式に変換する場合、実際に複素平面に矢印を描いて、矢印の長さを定規で測って、角度を分度器
で測るという原始的な手段もありますが、文明人ならプログラミング言語や表計算ソフト、または関数電卓にある atan2
関数を使って求めるのが一番楽です (とは言うものの、紙に書いて極形式を求めるという手段も実際には良く使います)。
直交形式 → 極形式に変換
z =a+j·b
に対し、絶対値と偏角を以下のようにして求める。
|z| =
√
a2 + b2 , ∠ z = atan2(b, a)
※ プログラミング言語や表計算ソフトによっては atan2(a, b) の時もあるので注意
このように、極形式と直交形式は 1 対 1 で簡単に相互変換出来るので、状況に応じて扱いやすいとか計算しやすい方
の形式に変換して使うことが可能です。
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演習
演習 1 (チーム):オイラー公式はいつ誰が発見したのかチームで調べてノートにまとめよ。
演習 2 (個人):前のテキストの演習で使った直交形式 z1 = 0、 z2 = −1、 z3 = j 、 z4 = 2 − 2j 、 z5 = −1 + 2j を表計
算ソフトを「利用せずに」極形式に変換し、結果をノートに書け。偏角の範囲は −π から π とする。
演習 3 (個人):この z1 、 z2 、 z3 、 z4 、 z5 を表計算ソフトを「利用して」極形式に変換した結果をノートに書き、演
習 2 と答が一致することを確認せよ。
演習 4 (個人):極形式 z6 = 2 · ej·π/4 、z7 = 1 · e−j·π/2 の位置を複素平面上に点と矢印としてノートに表わせ。
演習 5 (個人):この z6 、z7 をオイラー公式を使って直交形式に変換し、その結果をノートに書け。
演習 6 (個人):z6 を 360 度左に回転させた z60 を求めてノートに書け。偏角の範囲は −∞ から ∞ とする。
演習 7 (個人):z6 を 360 度右に回転させた z600 を求めてノートに書け。偏角の範囲は −∞ から ∞ とする。
演習 8 (個人):z6 の複素共役 z6∗ を求めてノートに書け。偏角の範囲は −π から π とする。
演習 9 (個人):z60 、 z600 、 z6∗ の位置を複素平面上に点と矢印としてノートに表わせ。
演習 10 (個人):複素数 z8 = 1 を 90 度左に回転させた z80 、 180 度左に回転させた z800 、 90 度右に回転させた z8000 を求
めてノートに書け。偏角の範囲は −π から π とする。
演習 11 (個人):z80 、z800 、z8000 の位置を複素平面上に点と矢印としてノートに表わせ。
演習 12 (個人):オイラー公式その 2 をオイラー公式その 1 から求める証明をノートに書け。
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