ところ変われば品変わる - 中国経済産業局

テクノえっせい 339
ところ変われば品変わる
広島工業大学名誉教授
中山勝矢
明けましておめでとうございます。今年も引き続き、よろし
くお願いいたします。
門松といえば、「松竹立ぁてて・・」と歌われるように、真ん
中に太い竹、周りに松の枝葉を置きますが、ここ東京の府
中では松(マツ)を嫌い、珍しくも杉を使います。(写真1)
府中の中心に鎮座する大国魂(おおくにたま)神社の境内
には松は一本もなく、植えても枯れるとあります。それは祭
神の大国魂大神がこの地にいらした時、待たされたという
故事によるといわれています。
大国魂大神は鎮座する土地を、一緒に降臨した八幡様に
探させました。八幡様は戻らずに先に八幡山に鎮座してし
まい、長い間大神は待つ(マツ)ことになったのだそうです。
(写真1)竹に杉をあしらったユニークな「門松」
(東京都府中市役所の玄関で撮る)
●「わが家の雑煮」
「ところ変われば品変わる」といいますが、品物が変わるく
らいでなく、慣習も価値観も微妙に違うことを経験します。
グローバル時代には、とくに心しなければなりません。
かつては暮れが迫ると、新しい年を迎えるためにどこの
家でも大掃除をして家の内外を整え、女性たちは正月三が
日のお節料理を作ることに忙しかったものです。
最近では祝うにしても、予め注文しておいたお重を開き、
雑煮を食べるくらいになりました。そのために秋のうちから
お節料理の広告が氾濫しています。
一方のお雑煮はさっぱりで、宅配サービスの話も聞かず、
「お雑煮の素」といった真空パックやレトルト商品は見たこと
がありません。お雑煮は本来が、家庭料理なのでしょう。
(写真2)ぶりを使うお雑煮の例(手前右に見
えるぶりの切り身の他、丸餅や青菜、昆布、
蒲鉾などが入る広島県東部高原のお雑煮。
「広島の食事」から)
わが国では北から南まで、元旦はどこの家もお雑煮を
祝ってきました。内容は個性的で、誰もが古くから引き継が
れてきた「わが家の雑煮」に惹かれる気持ちがあります。
子どものころ、母のお雑煮は鶏肉を入れたお澄ましでした
が、伯母の家では、同居する祖母の故郷に合わせてブリ
だったので、小さいながらも好奇心が湧きました。(写真2)
旬レポ中国地域 2015年1月号
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●伝統に生きるお雑煮
この習俗の起源は知りませんし、どれが正統という話も聞
いたことがありません。全国各地のお雑煮紹介を紐解いて
みると、いずれも地域性が濃厚であり、面白いのです。
手元にある昭和62年に社団法人農村漁村文化協会*が出
した「聞き書 広島の食事」という本には、豊富な写真と一緒
に広島県各地の行事と食が興味深く述べられていました。
実はこの本は、「日本の食生活全集」全50巻の1冊なので
す。この「広島の食事」はその34巻にあたります。たまたま手
近にあったので、ネタにした次第です。
(写真3)広島湾沿岸部の澄まし仕立てのカキ雑煮
(下に丸餅が置かれ、椀の左上にカキが2個見え
る。他に青菜と蒲鉾などが添えてある。「広島の食
事」から)
目を引いたのは、安芸から備後の瀬戸内海沿いの地域で、
正月に必ず食べるカキ雑煮です。カキには「賀来」の字を当
て、「福をかき寄せる」との思いを込めているとあります。
澄まし仕立てならまず大粒のカキをさっと茹で、その汁を醤
油味にして丸餅を煮て椀に盛ります。その上にカキやら青み
野菜、蒲鉾などを並べ、汁を注ぐわけです。(写真3,4)
日常大粒のカキは出荷するので、家庭では食べません。
大粒のカキが使われるのは、まさにハレの日だからです。焼
き豆腐やでべら(干し鰈)を使う記録も島にありました。
一方、岡山県に近い神石郡の油木ではブリ雑煮かハマグ
リ雑煮なのです。 椀には丸餅2個の他に里芋、大根、昆布を
入れて澄まし汁をかけるとあり、ちょっと変わっています。
「和食」が無形文化遺産に登録されたのは喜ばしいことで
すが、このような地域ごと、あるいは家庭ごとに伝わる多様
なお雑煮はどうなのかと気になってきます。
地域色豊かなお雑煮は本来、地域で取れる食材、そこで
使われる材料が主役なのです。鶏肉があり、ブリがあり、カ
キがありますが、言ってみれば「地産地消」です。
(写真4)味噌仕立ての広島湾沿岸部のカキ雑煮
(丸餅の上に三方向にカキとタコが置かれ、他に
大根、人参、青菜などが見える。「広島の食事」か
ら)
ずいぶん前のこと、若い仲間が「将軍、将軍」と呼んで親し
くしていただいたお年寄りが身近におりました。元軍人で、退
職されたときは陸軍中将だったといいます。
若い人の結婚披露宴で、この方が「やがて食事などは奥さ
んの里の風習になります。わが家も家内が金沢の出なもの
で、正月料理は金沢風になっている」といわれました。
戦前に将軍だった方が家庭の内輪話をしたのですから、耳
に残りました。知らず知らずのうちに、お雑煮を通して伝統が
受け渡されているというのは、意味深長な指摘でした。お雑
煮は個性的で混じり合わないように見えます。
経済産業省 中国経済産業局 広報誌
旬レポ中国地域 2015年1月号
(*注)現在は:(一社)農村漁村文化協会
東京都港区赤坂7-6-1 Tel 03-3585-1141
HP http://www.ruralnet.or.jp
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