第7回 静磁場続き [ビオサバール] 前回、無限に長い直線電流の作る磁場を、立体角から求めた。 これを応用して、直線電流の各部分が作る磁場を求める。 今、z 軸上を負から正の向きに電流 I が流れているとする。これを、 P 点(0,y,0) P’点(dx,y,0) から眺めて立体角を考察する。 電流のうち、上のように角度をとって、2つの電流素片 dI1 と dI2 が、P 点の磁場にどれだけ寄与するか?を考える。 それは、P から P’に動いたときの立体角度によるが、dθはどちらも共通なのに対して、遠くにある dI2 の方が、動いた ときの立体角が小さくなる。距離は、P 点と dI1 は y なのに対し、P 点と dI2 の距離はy/ sin 𝜃2 であるので、この比率で、 dI2 の方が sin θ2 だけ寄与が小さくなる。 以上の考察より、上の図でθ2 をθと書くことにすれば、その部分の寄与は、 𝑑𝐵 = 𝜇0 𝐼 1 sin 𝜃 𝑑𝜃 μ0 𝐼 1 = sin 𝜃 𝑑𝜃 2𝜋 𝑦 ∫𝜋 sin 𝜃 𝑑𝜃 4𝜋 𝑦 0 これで、電流の一部を取り出したときの寄与が分かった。 これを変数を変えて書き直す。sin 𝜃 𝑅 = 𝑦と、𝑑𝜃 = sin 𝜃 𝑑𝑠 /𝑅で、 ⃑⃑⃑⃑⃑ | = |𝑑𝐵 μ0 𝐼 1 ⃑⃑⃑⃑ | sin 𝜃 |𝑑𝑠 4𝜋 |𝑅|2 これをビオサバールの法則という。さらに、この sin は外積で表現できて、 ⃑⃑⃑⃑⃑ 𝑑𝐵 = μ0 𝐼 1 (𝑅⃑ × ⃑⃑⃑⃑ 𝑑𝑠) 4𝜋 |𝑅|3 41 とすると、方向も含めた正しい式になる。 [直線電流再び] 直線電流のまわりの磁束密度はアンペールの法則と、磁位を用いた方法で求めてみたが、まずは再現するか見てみよ う。 なので、z 軸上を電流が流れて、(x,0,0) の磁束密度を求めると、 なので、 さて、この手の積分だが、z2 + a2 は、z = atanθ に置き換えると、 を使う。なお、√a2 − z2 は、z = acosθ か z = asinθ 、√z2 − a2 は、z = a/cosθ、√(z − a)(b − z) には、z = acos2 θ + bsin2 θ を 使う。それで、積分は、 (5.11) なので、cosθ の積分は −π/2 から π/2 なので 2 だから、結局磁束密度は、 となる。 今は、ある点の磁束密度の大きさを求めたが、ベクトル場を求めるには、R と ds をパラメータ t で書き表す。(a,b,c) 方 向の直線のパラメータ表示は、 で、今 z 軸上なので、a = b = 0 である。 42 で、 なので、 従って、 この積分はさっきのものと同じで、 と求まる。 [アンペールの法則(A)と rotB の関係] 初回に示した Maxwell の方程式には rotB が出てくる。 特殊な場合について、アンペールの法則(A)から rotB を求めてみる。 無限に長い円筒があって、その中を電流が流れている。 電流密度𝑖⃗はベクトル場であって、円筒のなかではどこでも等しく 𝑖⃗ = (0,0, 𝑖) 半径 b の円筒内を流れる全電流は 𝐼 = 𝜋𝑖𝑏 2 さて、円筒内で中心から a の距離の P 点の磁場はいつくだろうか?(ここではアンペールの法則(B)は使わない。アンペー ルの法則(B)を使えば自明なことではある。アンペールの法則(B)は、ストークスの定理を経た後で証明を示す、という話 の流れになっている。 ) 43 さて、P 点の磁場を求めるにあたり、以下(1)(2)を示したい。 (1) P 点より外側、つまり r>a の部分を流れる電流は P 点の磁場に寄与しない。 (2) P 点より内側、つまり r<a の部分を流れる電流は中心にまとめてもいい。 (1) については、幾何学的考察から示すことができる。 P 点の外側の円筒を考えれば、上図で、領域 A を流れる電流が P 点につくる磁場は 𝑟𝐴 𝜃𝑖𝜇0 1 𝐵𝐴 = 2𝜋 𝑟𝐴 同様に、領域 B を流れる電流が P 点に作る磁場は 𝑟𝐵 𝜃𝑖𝜇0 1 𝐵𝐵 = 2𝜋 𝑟𝐵 で、これは大きさが同じで方向が逆なので、打ち消しあう。 これで、P 点の外側の電流は効かないことが示せた。 次に(2)をしめすには、こういう簡単な方法がなくて、少し見たことない積分が必要になる。 図の斜線の領域の電流が P 点に作る磁場は、 𝜇0 1 (𝑏𝑑𝜃)(𝑑𝑏)𝑖 cos 𝜃 ′ 2𝜋 𝑟 𝜇0 1 𝑟 2 + 𝑎2 − 𝑏 2 (𝑏𝑑𝜃)(𝑑𝑏)𝑖 ( = ) 2𝜋 𝑟 2𝑟𝑎 2 2 𝜇0 1 𝑎 −𝑏 1 (𝑏𝑑𝜃)(𝑑𝑏)𝑖 ( + = ) 2𝜋 2𝑎 2𝑎 𝑟 2 𝑑𝐵𝑦 = また、 𝑟 2 = 𝑎2 + 𝑏 2 − 2𝑎𝑏 cos 𝜃 これを θ で積分するので、公式(b2 < c 2 ) 44 ∫ 1 2 𝑥 √𝑐 − 𝑏 = arctan ( tan ) 𝑏 cos 𝑥 + 𝑐 √𝑐 2 − 𝑏 2 2 √𝑐 + 𝑏 が必要。積分して、 𝐵𝑦 = 𝜇0 2𝜋 𝑎2 − 𝑏 2 2𝜋 𝜇0 2𝜋 𝜇0 𝜇0 𝐼 (𝑏)(𝑑𝑏)𝑖 ( + (𝑏)(𝑑𝑏)𝑖 ( ) = )= 𝑏𝑑𝑏𝑖(2𝜋) = 2𝜋 2𝑎 2𝑎 𝑎2 − 𝑏 2 2𝜋 𝑎 2𝜋𝑎 2𝜋𝑎 よって示せた。 (1),(2)が分かったので、円筒の内側の磁場の大きさは中心から r の位置で、 𝜇0 𝐼 𝜇0 𝜋𝑟 2 𝑖 𝜇0 |𝐵| = = = 𝑖𝑟 2𝜋𝑟 2𝜋𝑟 2 方向は(-y,x)なので、ベクトルは μ 𝑖 ⃑⃗ = 0 (−𝑦, 𝑥) 𝐵 2 したがって、rot の z 成分は μ 𝑖 μ 𝑖 ⃑⃗) = 0 − (− 0 ) = 𝜇0 𝑖 (rot B 𝑧 2 2 となり、これは𝑖⃗の z 成分である。 円筒の外側の磁場については、演習でやったように、rotB=0 になる。ここでは電流密度はないので、どちらでも ⃑⃗ = 𝜇0 𝑖⃗ rot 𝐵 が成り立つ。 ここでは、アンペールの法則(A)を仮定して、特別な条件で上の式が成り立つことを示したわけだが、逆に上の式はアンペ ール(A)を含んでおり、また別の実験から広い範囲で上の式が成り立つことが分かっているので、アンペールの法則(A)の かわりに上式を基本法則として採用することにしたのが、Maxwell の方程式(の一部)である。 45 [ストークスの定理] ストークスの定理とは、任意のベクトル場について、ある曲面上の rot の法線成分の大きさの面積分と、その曲面の周囲 の線積分が等しくなる、という定理である。 ⃑⃑⃑ = ∬ (rot 𝐴) 𝑑𝑆 ∮ 𝐴 ∙ 𝑑𝑙 𝑛 𝐶 𝑆 左辺のドット・は内積で、右辺の n は normal(垂直)の意味。 この式では、方向の情報が述べられてない。それは後でふれる。 (方向がちがえば正負が変わる。実は rot それ自体が右 手系か左手系かに依存している。 )また右辺が、ベクトルを積分しているのか大きさを積分しているのかあいまいだが、こ れは大きさを積分する。しかし正と負があるときは打ち消すので、絶対値記号を使うと意味が変わってしまう。符号が変わ らないような面では絶対値記号で書いていい。 これを以下の順序で証明する。 (1) 平面上の四角形、三角形、円で成り立つ。 (2) 斜めにした三角形で成り立つ。 (3) 周積分は、周囲の線を、座標軸に平行な線分に変えても、周積分の値は変わらない。 (4) 面積分は、周囲を固定してあれば、面をどのように動かしても、面積分の値は変わらない。 (1) 四角形 四角形の左下は、原点にとる。大きさはΔx×Δy。 この領域で、ベクトル A の各成分はテーラー展開できる。 𝜕𝐴𝑥 𝜕𝐴𝑥 𝑥+ 𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝐴𝑦 (𝑥, 𝑦) = 𝐴𝑦 (0,0) + 𝑥+ 𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑦 ⃑⃑⃑ との内積なので、I1 + I3 にはAx しか関係ない。 周積分は𝐼1 + 𝐼2 + 𝐼3 + 𝐼4 であるが、dl 𝛥𝑥 𝛥𝑥 𝜕𝐴𝑥 𝜕𝐴𝑥 𝜕𝐴𝑥 𝜕𝐴𝑥 𝜕𝐴𝑥 𝐼1 + 𝐼3 = ∫ (𝐴𝑥 (0,0) + 𝑥+ 0) 𝑑𝑥 − ∫ (𝐴𝑥 (0,0) + 𝑥+ 𝛥𝑦) 𝑑𝑥 = − 𝛥𝑥𝛥𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑦 0 0 ほとんどの項は打ち消しあうのでこうなる。 同様に、 𝛥𝑦 𝛥𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝜕𝐴𝑦 𝐼2 + 𝐼4 = ∫ (𝐴𝑦 (0,0) + 𝛥𝑥 + 𝑦) 𝑑𝑦 − ∫ (𝐴𝑦 (0,0) + 0+ 𝑦) 𝑑𝑦 = 𝛥𝑥𝛥𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥 0 0 したがって、周積分は 𝜕𝐴𝑦 𝜕𝐴𝑥 𝛥𝑥𝛥𝑦 − 𝛥𝑥𝛥𝑦 = (rot 𝐴)𝑧 𝑑𝑆 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝐴𝑥 (𝑥, 𝑦) = 𝐴𝑥 (0,0) + これで示せた。 三角形、円形、および(2),(3),(4)は次回に。 46
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