19 2 次形式

19 2 次形式
19
49
2 次形式
本節では K = R の場合だけを考える. また, 実直交行列, 実対称行列を単に直交行列, 対称行列という.
19.1
2 次形式
実数を係数とする変数 x1 , x2 , . . . , xn に関する斉次 (同次) 2 次式
n
∑
∑
aii x2i + 2
i=1
aij xi xj
1≤i<j≤n
を (実) 2 次形式という. 変数をまとめて x := t (x1 , x2 , . . . , xn ) と書き, n 次の正方行列 A = (aij ) を
aij := aji (1 ≤ j < i ≤ n) により定める. このとき A は対称行列で, 上の 2 次形式は t xAx と表せる. A
が対角行列であるとき, 2 次形式 t xAx は対角形であるという.
例 19.1 (1)
(
ax2 + 2bxy + cy 2 = x y
)
(
a
b
b
c
)( )
x
(2)
y

a
(
)
ax2 + by 2 + cz 2 + 2(dxy + exz + f yz) = x y z 
d
e
19.2
.
d
b
f
 
x
 


f y 
.
c
z
e
2 次形式の標準形
対称行列 A に対し, 定理 18.22 より

t


P AP = 


0
α1
α2
0
..



.
αn
となるような n 次直交行列 P が存在する. 従って x′ = t (x′1 , x′2 , . . . , x′n ) を x = P x′ (すなわち x′ = t P x)
により定めれば, 2 次形式は
t
xAx = t (P x′ )A(P x′ ) = t x′ (t P AP )x′ =
n
∑
αi (x′i )2
i=1
と (x′1 , x′2 , . . . , x′n に関して) 対角形に変形される. 得られた対角形の 2 次形式を標準形という.
注意 19.2 α1 , α2 , . . . , αn は A の固有値であるから P の選び方には依らない. 従って 2 次形式の標準形は
変数の順序付けの違いを除いて一意的に定まる.
問 19.3 上の直交行列 P として, 行列式が 1 のものがとれることを示せ.
以上をまとめて:
50
線形代数学 B
定理 19.4 任意の 2 次形式は直交行列による変数変換によって対角形に変形できる. また直交行列は行列
式が 1 のものがとれる.
例 19.5 対称行列


a
b

A=
b
b
a

b

(b ̸= 0)
b b a
(
)(
)2
の固有多項式は δA (t) = t − (a + 2b) t − (a − b) で,
 
1
 

p := 
1
1
は固有値 a + 2b に関する固有ベクトルを与える. また, p が張る空間の直交補空間
⟨p⟩⊥ = { t (x, y, z) ∈ R3 ; x + y + z = 0 }
の直̇交̇基底として


1



q := 
 −1  ,
0


1



r := 
 1
−2
がとれる. 系 18.13 より ⟨p⟩⊥ は固有値 a − b に関する固有空間であることがわかる (b ̸= 0 より a + 2b と
a − b は異なる) から, これらは固有値 a − b に関する固有ベクトルを与える. 従って
 √
√
√ 
1/ 2
1/ 6
1/ 3
)
(
 √
√
√ 
1
1
1
p
q
r =
P :=
1/ 3 −1/ 2
1/ 6 

∥p∥
∥q∥
∥r∥
√ 
√
0
−2/ 6
1/ 3
は (行列式が 1 の) 直交行列で

t

P AP = 


a + 2b
0
0
0
a−b
0
0
0
a−b

.

よって 2 次形式
a(x2 + y 2 + z 2 ) + 2b(xy + xz + yz)
は変数変換
x′ =
x+y+z
√
,
3
x−y
y′ = √ ,
2
z′ =
x + y − 2z
√
6
によって
(a + 2b)(x′ )2 + (a − b)(y ′ )2 + (a − b)(z ′ )2
と標準形に変形される.
19 2 次形式
行列の固有値と 2 次形式の値
51
いま a ≤ α1 , α2 , . . . , αn ≤ b とすると, 任意の x′ = t (x′1 , x′2 , . . . , x′n ) ∈ Rn
に対して
a
n
∑
(x′i )2 ≤
i=1
n
∑
αi (x′i )2 ≤ b
i=1
′ 2
n
∑
(x′i )2
i=1
′ 2
が成り立つが, 命題 18.3 より ∥x ∥ = ∥P x ∥ であるから:
命題 19.6 対称行列 A の固有値 α1 , α2 , . . . , αn が a ≤ α1 , α2 , . . . , αn ≤ b をみたすとき,
a∥x∥2 ≤ t xAx ≤ b∥x∥2
(x ∈ Rn ).
注意 19.7 上の命題より, α1 ≤ α2 ≤ · · · ≤ αn とすると,
α1 ∥x∥2 ≤ t xAx ≤ αn ∥x∥2
(x ∈ Rn ).
Ax = α1 x のときには左側の等号が成立し, Ax = αn x のときには右側の等号が成立する.
2 次形式の符号数
19.3
n 変数の 2 次形式 t xAx (A は n 次の対称行列) の標準形を
∑n
i=1
αi (x′i )2 とし, A の固有値 α1 , α2 , . . . , αn
のうち p 個が正, q 個が負であるとする. このとき p + q ≤ n. また, 命題 19.6 と注意 19.7 より:
命題 19.8 (1)
(1)′
(2)
(2)′
t
t
t
xAx ≥ 0 (x ∈ Rn ) ⇐⇒ q = 0.
xAx > 0 (x ∈ Rn , ̸= 0) ⇐⇒ p = n.
xAx ≤ 0 (x ∈ Rn ) ⇐⇒ p = 0.
t
xAx < 0 (x ∈ Rn , ̸= 0) ⇐⇒ q = n.
これらの場合に t xAx は (または A は) それぞれ半正定値, 正定値, 半負定値, 負定値であるという.
p, q を組にした (p, q) を 2 次形式 t xAx の (または対称行列 A の) 符号数という. また, t xAx は (または
A は) p + q = n のとき非退化であるという (非退化であることと |A| ̸= 0 は同値であることに注意せよ).
例 19.9 a1 , a2 , . . . , ar ∈ Rn とするとき,
∑r
2
i=1 (x, ai )
は半正定値な 2 次形式を与える. このことは, 成分
計算を行えば直ちに確かめられるが, (x, ai ) = t x ai = t ai x より
r
∑
(x, ai )2 =
i=1
r
∑
t
r
(∑
)
x ai t ai x = t x
ai t ai x
i=1
i=1
となることからもわかる. 対応する (n 次の) 対称行列は
r
∑
(
) (
)
ai t ai = a1 a2 . . . ar t a1 a2 . . . ar
i=1
(
) 2
であるから, この 2 次形式は t a1 a2 . . . ar x とも書ける.
52
線形代数学 B
問 19.10 上の例の 2 次形式が正定値であるためには, a1 , a2 , . . . , ar が張る空間が Rn と一致することが
必要かつ十分であることを示せ.
対称行列が正定値かどうかの判定法としては, 次が知られている (証明は略):
定理 19.11 n 次の対称行列 A = (aij ) が正定値であるためには, k = 1, 2, . . . , n に対して
a
11 a12 . . . a1k
a21 a22 . . . a2k
.................
ak1 ak2 . . . akk
>0
が成り立つことが必要かつ十分である.
問 19.12 n 次の対称行列 A = (aij ) が負定値であるためには, k = 1, 2, . . . , n に対して
a
11 a12 . . . a1k
a21 a22 . . . a2k
(−1)k .................
ak1 ak2 . . . akk
>0
が成り立つことが必要かつ十分であることを示せ.
xy 平面上の点 (x0 , y0 ) の近傍で定義された C 2 級函数 f = f (x, y) の 2 次近似は
(
)
) x − x0
1 (
fx (x0 , y0 ) fy (x0 , y0 )
f (x0 , y0 ) +
1!
y − y0

(
)
f
(x
,
y
)
f
(x
,
y
)
(
)
x − x0
1
xx 0 0
xy 0 0

x − x0 y − y0 
+
2!
y − y0
fxy (x0 , y0 ) fyy (x0 , y0 )
極値問題への応用
で与えられる. さて, f (x, y) が (x0 , y0 ) で極値をとるためには fx (x0 , y0 ) = fy (x0 , y0 ) = 0 が成り立つこと
が必要であるが, 逆は一般に成り立たない. しかし

fxx (x, y)
Hf (x, y) := 
fxy (x, y)

fxy (x, y)

fyy (x, y)
(この対称行列を f の Hesse 行列という) が (x, y) = (x0 , y0 ) で非退化である場合には, 次のようにして極
大・極小の判定ができることが知られている:
命題 19.13 fx (x0 , y0 ) = fy (x0 , y0 ) = 0 かつ Hf (x0 , y0 ) が非退化であるとき
f (x, y) は (x0 , y0 ) で極小 ⇐⇒ Hf (x0 , y0 ) は正定値;
f (x, y) は (x0 , y0 ) で極大 ⇐⇒ Hf (x0 , y0 ) は負定値.
問 19.14 上の命題が成り立つ理由を説明せよ.
19 2 次形式
53
注意 19.15 定理 19.11 と問 19.12 を用いると, 命題 19.13 は次のように述べることもできる:
fx (x0 , y0 ) = fy (x0 , y0 ) = 0 かつ fxx (x0 , y0 ) fyy (x0 , y0 ) ̸= fxy (x0 , y0 )2 であるとき
f (x, y) は (x0 , y0 ) で極小 ⇐⇒
fxx (x0 , y0 ) > 0 かつ fxx (x0 , y0 ) fyy (x0 , y0 ) > fxy (x0 , y0 )2 ;
f (x, y) は (x0 , y0 ) で極大 ⇐⇒
fxx (x0 , y0 ) < 0 かつ fxx (x0 , y0 ) fyy (x0 , y0 ) > fxy (x0 , y0 )2 .
例 19.16 f (x, y) = sin x sin y とすると,
(
fx (x, y) = cos x sin y,
fy (x, y) = sin x cos y,
Hf (x, y) =
− sin x sin y
cos x cos y
cos x cos y
− sin x sin y
)
.
従って fx (x, y) = fy (x, y) = 0 となるのは cos x = cos y = 0 または sin x = sin y = 0 であるときである.
前者の場合, Hf (x, y) は ±E となる
f (x, y) は sin x sin y が −1 であれば極小, 1 であれば極大と
( . よって
)
0 1
なる. 後者の場合, Hf (x, y) は ±
となる. この行列は非退化であるが正定値でも負定値でもないの
1 0
で, f (x, y) は極小でも極大でもない.
演習問題
19.1 n 次の対称行列 A に対して f (x) := t xAx (x ∈ Rn ) と置くとき, 次が成り立つことを示せ:
f (x + y) − f (x) − f (y) t
= xAy
2
19.2 対称行列

(x, y ∈ Rn ).

1 1 0


1 1 1


0 1 1
を直交行列で対角化せよ. また, その結果を利用して 2 次形式
x2 + y 2 + z 2 + 2(xy + yz)
を標準形に変形せよ.
19.3 A を正則行列とするとき, t A A は正定値な対称行列であることを示せ. 逆に, 正定値な対称行列は正
則行列 A を用いて t A A と表せることを示せ.
19.4 n = 2, 3 の場合について, 定理 19.11 を証明せよ.
19.5 a, b, c ∈ R が a > 0 と ac − b2 > 0 をみたすとき, 次が成り立つことを示せ:
∫∫
R2
(
)
π
exp −ax2 − 2bxy − cy 2 dx dy = √
.
ac − b2