7. 等核2原子分子の結合

7. 等核2原子分子の結合
7.1.
F2
フッ素分子の間の結合はどうなるかを考えてみよう。分子軌道(分子の波動関数)を考え
る基本は、原子軌道を足したり引いたりと一つの軌道に2つの電子しか入らない。
原子軌道を足したり引いたりと一つの軌道に2つの電子しか入らない。
1.
構成する原子軌道がどうなっているか?
2.
そのうちで、結合を作る可能性のある軌道はなにか?
3.
結合を作る波動関数の形はどうなっているか?
4.
符号を考えて重なりの大きい方から近づけてやり、結合性と反結合性を作る。
5.
原子の波動関数をもとにエネルギー図を書いてやる。
まず、例として F2 を考えよう。
1.Fの原子の波動関数は。
Fは電子が9個からなる。1s に2個、2s に2個、2pに5個はいる。2pの5個はフント
の規則すなわちできるだけスピン量子数をそろえるということから、3つは上向きに入れ
て残った二つをした向きにいれる。
その結果2pの1個に1つの電子しか入らない状態ができる。
2.結合を作る可能性のある軌道は
結合を作る可能性がある軌道は、エネルギーの一番上の軌道である。そして、ひとつの軌
道には 2 つしか入らないことから、1つしか入っていない2pの軌道が別のフッ素の1つ
しか電子が入っていない2pと結合をつくることで、結合性に2個、反結合性に0個詰め
ることが可能になる。すでに2つ入っているばあいには分子軌道を作ると結合性に2つ、
反結合性に2つであり、結合によるエネルギーの得はない。また、1つと 2 つでもそれほ
ど得しない。
3.結合を作る波動関数は 2p であるから、そのかたちは、
図 7.1 1 P 波動関数
となる。
4.かさなりのおおきいほうから重ねるのだから、p軌道の広がる方向から重ねる。重ね
方は、符号を考慮して、二通りの可能性がある。
+
+
図 7.1 2 結合性と反結合性の軌道の重なり
1
その結果、上からは結合性、下からは反結合性の分子軌道が生まれる。
結合性軌道
反結合性軌道
図 7.1 3 結合性と反結合分子軌道
5.エネルギー図は次のようになる。
σ∗
pz
pz
図 7.1 4 エネルギー図
σ
2
7.2. O2 の場合
1.酸素の原子軌道は、以下のようになる。8個の電子が 1s に2個、2sに2個,2p に4
個はいる。
フントの規則により、3個の電子が同じ向きのスピンで平行、1個が逆
向きスピンで残りの一つに入る。そのエネルギー図は、
図 7.2 1 酸素のp原子軌道のエネルギー図
2.結合を作る可能性のあるものは、2つの p 軌道である。
3.近づける向きであるが、2通り考えられ、その内の一つを選ぶ。もう一つは、空いて
いるが軌道の広がりが平行になる。
σ結合
π結合
図 7.2 2 σ結合とπ
結合とπ結合
3
軌道の広がりと結合の方向が一致する結合をσ結合といい、軌道との広がりと結合の方向
が平行のものをπ結合という。
4.
軌道の符号を考えて重ねる。σ結合は重なりが大きいから、二つが結合性に収容される
とエネルギーが大きく得する。一方π結合は必ずしも大きくない。
σ結合
反結合性軌道
π 軌道
結合性軌道
反結合性軌道
結合性軌道
図 7.2 3 π結合とσ
結合とσ結合の結合と反結合性軌道
5.
エネルギー図は以下のようになる。ここで重要なのはπ結合を起こしうる軌道は2つ可
能性があり、その両者は対等だから、それぞれが2個のπ結合を作ると考えられる。そ
して、そのπ結合に電子を詰めていく。
すると、結合性のπ軌道は4つすべて詰まることになり、反結合性に2個はいる。この時
に、フントの規則に従って、同じ向きをもって、別々の反結合性π軌道に電子が入る。ス
ピンは小さい磁石と考えられる。したがって、酸素分子は磁石としての振る舞いをする。
問 7.2 1 N2 分子について、上記の考察をせよ。
4
問 7.2 2 F2 分子についてもπ
分子についてもπ結合を含めて結合を考えよ。
7.3. 結合の強さ
σ結合はエネルギーが最も低くなるから、結合は強い。π結合は、重なりも小さく、核を
結んだ直線上の電子密度を上げないので、それほどエネルギーを安定化しない。したがっ
て、補助的な役目である。N2, O2, F2 を比べると、結合性のπ軌道を2本持つ N2 が結合
性π軌道 2個、反結合性π軌道1個の O2や反結合性π軌道2個もつ F2 より、強いこと
が理解される。したがって、エネルギー図もσの結合性が低い位置になり、πはそれより
若干高くなる。反結合性は、π(π*)のほうはあまり高くならず、σの反結合性(σ*)はず
っと高い位置に入る。
問 7.3 1 N2,O2,F2 の化学反応性を比べてみよう。結合の強さとどういう関係にあるか?
σ
π
px,py,pz
π
px,py,pz
σ
図 7.3 1 酸素の分子軌道のエネルギー図
5