基礎現代化学 基礎現代化学 ~第4回~ ~第4回~ 分子の形と異性体 分子の形と異性体 教養学部統合自然科学科・小島憲道 教養学部統合自然科学科・小島憲道 2014.04.30 第1章 §1 §2 第2章 §1 §2 第3章 §1 §2 §3 第4章 §1 §2 第5章 §1 §2 §3 原子 元素の誕生 原子の電子構造と周期性 分子の形成 化学結合と分子の形成 分子の形と異性体 光と分子 分子の中の電子 物質の色の起源 分子を測る 化学反応 気相の反応、液相の反応 分子を創る 分子の集団 分子間に働く力 分子集合体とその性質Ⅰ 分子集合体とその性質Ⅱ 参考書 『現代物性化学の基礎』小川桂一郎・小島憲道 共編(講談社サイエンティフィク) 『原子・分子の現代化学』田中政志・佐野充 著(学術図書) 水素原子の電子構造(陽子1、電子1) 3px,y,z 3s 3dxy,yz,zx,x2-y2,z2 水素の電子構造 M殻(18個まで) n=3 2s 2px,y,z n=2 L殻 (8個まで) 1s n=1 K殻 (2個まで) 1+ e- 電子軌道 (s, p, d, f)の名称の由来 (真空準位) 『原子と分子-化学結合の基本的理解のために-』 B.C. Webster著 (化学同人) p. 89. 水素分子の分子軌道 反結合性分子軌道 エネルギー ψ − = φa − φ b + − 節面数1 反結合性分子軌道 原子軌道 原子軌道 φa それぞれの原子軌道を占有 する電子が干渉を起こす φb 結合性分子軌道 ψ + = φa + φ b 節面数0 結合性分子軌道 . H H: H .H 核間に存在する電子が正の電荷 を帯びた原子核をつなぎとめる 水素分子の軌道を対称性で分類する 対称要素 : 結合軸の周りの回転に対して分子軌道が対称なら σ軌道 逆対称なら π軌道 二つの核の中点に対して分子軌道が点対称なら gerade g 逆点対称なら ungerade u 反結合性軌道 - + 二つの核の中点に関し逆点対称 (ungerade) 結合性軌道 + + 二つの核の中点に関し点対称 (gerade) 結合次数 = σu* 軸 : 対称 点 : 逆対称 * は反結合性軌道を意味する σg 軸 : 対称 点 : 対称 (結合性軌道の電子数:n)−(反結合性軌道の電子数:n*) 2 水素分子 2−0 =1 2 単結合 (一重結合) フッ素分子の分子軌道 価電子 7つ pz σ2p* 反結合性軌道 : : 2py 原子軌道 原子軌道 x p x σ2p : : . px : : x p x py pz 孤立電子対 2px, 2p.z F py px F 結合性軌道 pz z 本当は 2s ± 2S 2pz ± 2px 2pz ± 2pz 考えるが、結合性軌道と 反結合性軌道に2つず つ電子が入っているの で、結合次数は 0 . 2py : F py . : pz y F py 孤立電子対 フッ素の結合エネルギー 154.6 kJ/mol 結合次数 2−0 =1 2 フッ素分子の分子軌道 : : : : : : :F . F原子 :F:F: F2分子 σ2p* 2px, 2pz 2px, 2py , 2pz 新しくできた分子軌道 σ2p 結合に関与しない軌道 2s 2s 2s 1s 1s 1s 核からの距離 F py x p x . . px : . : : x p x : : : F py pz pz z pz y F py p軌道どうしの相互作用 異なる種類のp軌道同士が重ね合わさっても、分子軌道は形成されない 例: pz 軌道と、 py軌道 軌道の重なった部分の、同位相の重なりと、 逆位相の重なりが等しい。 従って、重なり合っても結合が出来ない。 原子軌道 (このような関係を“直交”という) py pz ∫ ∞ −∞ p z p y dτ = 0 同じ種類のp軌道同士では、分子軌道を造ることができる 例: py 軌道同士 σu∗ py py 原子軌道 反結合性軌道 σg 結合性軌道 分子軌道 例: pz (px)軌道同士 pz pz 反結合性軌道 pz pz 原子軌道 pz+ pz 結合性軌道 分子軌道 O2分子の常磁性 直交する2つの分子軌 道にスピンを平行にして 収容される(フント則) 原子軌道 結合次数 分子軌道 (8 - 4) / 2 = 2 原子軌道 二重結合 O=O 液体酸素は、沸点が90Kの淡青色の液 体である。磁石に近づけると、液体酸素 は磁石に吸い寄せられる。 小川桂一郎、小島憲道 編、新版 『物性化学の基礎』、講談社 (2010) ~化学結合を原子軌道の重なりで理解する~ 分子軌道の考え方: 1) 結合に関与する原子軌道の重ね合わせで、分子軌道ができる。 2) 電子はエネルギーが低い分子軌道から順に入る。 3) 原子間に節がない軌道(結合性軌道)に入った電子は、結合性を高める。 4) 原子間に節のある軌道(反結合性軌道)に入った電子は、結合性を低下させる。 5) 結合性軌道と、反結合性軌道に入った電子の数の差が、結合次数を決める。 : : : : σ2p* 2px, 2pz 反結合性軌道 :F:F: py − py − + 節 = 電子の切れ目 σ2p 2s 1s − + 2s py + py + − 1s − 結合性軌道 分子軌道 私たちの眺めている物質は常温・常圧という一点にすぎない 高温超伝導の発現 光で磁石を作る 分子結晶から超伝導の発現 小川桂一郎、小島憲道 編、新版 『物性化学の基礎』、講談社 (2010) 【多重極端条件で眺めた固体ヨウ素:圧力誘起分子解離】 1気圧,7.4万気圧,15.3万気圧における固体ヨウ素の電子分布 高圧下X線構造解析によ る固体ヨウ素の電子分布 の圧力変化 固体ヨウ素は21万気圧 を超えると分子内と分子 間の化学結合が等価に なり、金属になる。 1 GPa = 1万気圧 藤久裕司,高圧力の科学と技術, 5, 160 (1996). 固体ヨウ素は極低温・超高圧下で超伝導を示す 電気抵抗 ダイヤモンドを用いた高圧発生装置 マイスナー効果 50 mm 天谷喜一,石塚守,清水克哉,他,固体物理,28, 435 (1993). 地球の内部構造と圧力 現在では、ダイヤモンドの先端で地球の中心部 の圧力を発生させることができる。 http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_57/ 電気抵抗 電気抵抗 固体酸素は高圧下で超伝導を示す 100万気圧かけると酸素は金属となり、0.5 Kで超伝導体となる 清水克哉,高圧力の科学と技術,10, 194 (2000). 超伝導を示す元素(単体) 小川桂一郎、小島憲道 編、新版 『物性化学の基礎』、講談社 (2010) H N H ・・ 分子の形 H H C H ~分子の立体的な形を化学結合を通じて理解する~ ① 分子の立体的な形が原子間の結合形成により決まることを、 炭素原子を中心とした分子形成を例にとり学ぶ。 ② 炭素原子の結合の多様性が混成軌道の概念で理解できることを学ぶ。 炭素の化学 炭素は、安定な直鎖構造を作る。 H2 C C H2 H2 C C H2 H2 C H N C H2 安定 HH H C C HH HH C HH C HH N H H N O O N H O O O O 反応性が高く超不安定 HH C N H H N C C C O O HH NH2NH2 H O S O O S O O O HH オクタン 燃やさない限り安定 K ヒドラジン 爆発性・ロケットの燃料 ペルオキソ二硫酸カリウム 爆発性 炭素は、様々な様式の結合を作る。 平面的な結合様式 グラファイト 立体的な結合様式 ダイヤモンド K フラーレン 炭素化合物の形 四配位の炭素でできる分子 鎖状 3-メチルヘプタン n-オクタン C ≡ 正四面体 HH H C C HH 環状 HH C C HH シクロヘキサン HH C C HH HH C C H HH アダマンタン デカリン H H H H H H C H C C H H H C C H2C C H H H2C CH2 CH2 C H H H C CH2 CH2 CH2 CH2 C H2C H H2C C C C H CH2 CH2 H 三配位の炭素でできる分子 . H H C C H H エチレン H H C C H H C C H H 1,3-ブタジエン 二配位の炭素でできる分子 . . H C 直線 アセチレン C 直線 C H H C C C ジアセチレン (1,3-ブタジイン) C H 直線 結合が3方向 H H:C:::C:H H H C C H C : C : : H H H C H C H H H エチレン [2次元] メタン [3次元] アセチレン [1次元] 炭素のつくる様々な結合様式は、混成軌道に代表される 分子軌道の考え方で統一的に理解される。 ・・ sp2混成軌道 ・・ 120º ・・ ・・ 109.5º sp3混成軌道 ・・ : : H H C H H H C H :: H 結合が2方向 : 結合が4方向 180º sp混成軌道 : : 炭素原子の混成軌道 ~なぜ炭素は多様な結合形式を取りうるか~ Linus C. Pauling (1901 – 1994, USA) 「化学結合論」 混成軌道の概念を提唱 The Nature of the Chemical Bond and the Structure of Molecules and Crystals; An Introduction to Modern Structural Chemistry (邦題「化学結合論」) 1954年 ノーベル化学賞 「化学結合の本性、ならびに複雑な分子の構造研究」 1962年 ノーベル平和賞 混成軌道 1s 2s 2p 12 6C 価電子:4個 内核電子 他の原子と結合をつくる際に、炭素原子のs軌道とp軌道が混ざりあい、 新たな分子軌道が形成される。 → 混成軌道 py 2H pz 2H C C H px 不対電子 C H H 90゜ CH2 H H C H 109゜ 正四面体 CH4 エネルギーから見た混成軌道の安定性 s軌道の電子をp軌道まで持ち上げるのに C 96 kcal/mol必要 (1s)2 (2s)2 (2p)2 不対電子2個 2p C (1s)2 (2s)1 (2p)3 (1s)2 (sp3)4 不対電子4個 2p sp3 2s 96 kcal/mol CH2 結合対の反発を 最小化するように 軌道の形が変化 2s 174 kcal/mol安定 CH4 混成軌道の形(I) - 2配位の炭素 - 三重結合を形成 2配位 s軌道 H C C H H ・ 2px H p 軌道 sp混成軌道 p軌道 H 2pz 2pz ・ C ・ C ・ z H 2px アセチレンのπ結合 y x アセチレンのσ結合 r pz r ψ1 = as + b py z y r px x r py y 単位ベクトルとみなす r ψ 2 = a s + b( − p y ) 2s軌道と2pz軌道の重ね合わせ ψ 2s + − ψ 2py y ψ + y ψ y + + − − y y 2s + 2py ψ 2s + ψ + − y ψ −2py y y + − ψ y + − 2s − 2py y 混成軌道の形(II) - 3配位の炭素 - 二重結合を形成 3配位 H s軌道 H C p 軌道 sp2混成軌道 p 軌道 C H H z y y ・ ・ x x エチレンのσ結合 エチレンのπ結合 r ψ 1 = a s + b px r ψ 2 = a s + b( − p x + 3 2 r py ) r ψ 3 = a s + b( − p x − 3 2 r py ) 1 2 1 2 混成軌道の形(III) - 4配位の炭素 - 4配位 s軌道 sp3混成軌道 p軌道 H H H C H メタンのσ結合 H4 z H1 x H2 y H3 r r r ψ 1 = a s + b( p x + p y + p z ) r r r ψ 2 = a s + b( p x − p y − p z ) r r r ψ 3 = a s + b(− p x + p y − p z ) r r r ψ 4 = a s + b( − p x − p y + p z ) 混成軌道のまとめ(Ⅰ) ある炭素が別の原子と結合を形成するときに、 s軌道とp軌道が混成して、より安定な混成軌道が形成される。 混成軌道の方向は、結合電子間の反発が最も小さくなるような配置になる。 ・・ ・・ sp2混成軌道 ・・ ・・ ・・ 109.5º sp3混成軌道 180º 120º sp混成軌道 炭素がsp2およびsp混成軌道を作って結合する場合 混成軌道を利用した結合はσ結合となり、残ったp軌道はπ結合をつくる。 → 二重 or 三重結合 混成軌道のまとめ(Ⅱ) エネルギー sp3混成軌道 p軌道 (2s + 2px + 2py+ 2pz ) s軌道 sp2混成軌道 (2s + 2py+ 2pz) sp混成軌道 (2s + 2pz) 窒素原子を含む化合物 1s 14 7N 2s 内殻電子 2p 価電子:5個 メタン: CH4 アンモニア: NH3 vs ピリジン: ベンゼン: N 水に溶ける。 塩基性。 金属錯体を形成できる。 水に溶けない。 中性。 金属錯体を形成しない。 分子の形と極性 非対称な分子は、分子の電荷に偏りが生じる(極性)。 δ− δ− H C H H vs H 孤立電子対 (マイナスの電荷) N H H δ+ 極性なし N H δ+ 極性あり (水に溶けない) (水に溶ける) 分子の極性は、水溶性、金属への配位能のもととなる。 δ+ O H δ− H δ− δ+ δ− O H δ+ H δ+ N H δ+ H δ− H O H δ+ δ+ H NH N Mg2+ N N Mg N NH N N 窒素の混成軌道 1s 14 7N 内殻電子 3配位 2配位 sp3 sp2 孤立電子対 sp3混成軌道 価電子:5個 1配位 sp 孤立電子対 イミン化合物 N CH3 H ピリジン N 2p 2s sp2混成軌道 孤立電子対 sp混成軌道 酸素原子を含む化合物 1s 16 8O 2s 内殻電子 水 2p 価電子:6個 δ− δ+ δ+ 90°ではない! 水分子の持つ極性により、水素結合に代表される様々な特徴ある挙動が現れる。 参考:融点 メタン アンモニア 水 – 183℃ –78 ℃ 0℃ 水の結晶(氷) 内部では、静電的なネットワーク(水素結合)によって、三次元的に 水分子間どうしが相互作用しているため、アンモニアなどに比べて高い融点を持つ。 酸素の混成軌道 1s 16 8O 2s 2p 内殻電子 価電子:6個 孤立電子対(二個) 孤立電子対(二個) 2配位 sp3 1配位 sp2 sp3混成軌道 孤立電子対の反発のため 結合角が少し狭まっている H C H O H H アルコール C O R H エーテル sp2混成軌道 ルイス構造 分子の磁性 N2O4 = 2NO2 – 57.2 kJ 極限構造 極限構造 共鳴 NO2は常磁性 N2O4は反磁性
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