群論覚書 1 素数冪位数の部分群の存在 2 Sylow 部分群

群論覚書
1
素数冪位数の部分群の存在
命題 1.1 有限アーベル群 G の位数の素因子 p にたいして,G の位数 p
の部分群が存在する.
[証明] G = {g1 = 1, g2 , · · · , gn } として
⟨g2 ⟩ × · · · × ⟨gn ⟩ → G ((x2 , · · · , xn ) 7→ x2 · · · xn )
は全射だから |⟨gi ⟩| (i = 2, · · · , n) の少なくとも一つは p で割り切れる.
定理 1.2 有限群 G の位数の約数なる pe (e > 0) に対して |H| = pe なる
G の部分群 H が存在する.
[証明] |G| = p ならば明らかだから,|H| < |G| なる任意の群 H に対し
て定理が成り立つと仮定する.p ̸ |(G : H) なる部分群 H G があれば,
|H| < |G| かつ pe は |H| の約数だから,帰納法の仮定から H の部分群
で位数 pe なるものが存在する.任意の部分群 H G に対して p|(G : H)
ならば,類公式から p||Z(G)|.よって命題 1.1 から Z(G) は位数 p の部
分群 N をもつ.N ▹ G で pe−1 ||G/N | かつ |G/N | < |G| だから,帰納法
の仮定から G/N は位数 pe−1 の部分群 H/N (N ⊂ H ⊂ G) をもつ.こ
のとき |H| = pe である.
2
Sylow 部分群
命題 2.1 p-群 G が集合 X に (g, x) 7→ g · x により作用していて p ̸ |♯X
ならば,g · x = x for ∀g ∈ G なる x ∈ X が存在する.
[証明] X = Ω1 ∪ · · · ∪ Ωr を G-軌道分解とし,xi ∈ Ωi の固定部分群を Gi
とすると
r
r
∑
∑
♯X =
♯Ωi =
(G : Gi ).
i=1
i=1
ここで (G : Gi ) > 1 ならば p|(G : Gi ) で p ̸ |♯X だから,(G : Gi ) = 1 な
る i がある.即ち g · xi = xi for ∀g ∈ G となる.
1
定義 2.2 有限群 G と素数 p に対して |G| = pe m, p ̸ |m (e > 0) のとき,
|S| = pe なる部分群 S ⊂ G を G の p-Sylow 部分群と呼ぶ.
定理 2.3 有限群 G と p||G| なる素数 p に対して
1) G の p-Sylow 部分群が存在する.
2) p-Sylow 部分群 S ⊂ G と p-部分群 T ⊂ G に対して T ⊂ gSg −1 な
る g ∈ G が存在する.
3) p-Sylow 部分群 S ⊂ G に対して
♯{G の p-Sylow 部分群 } = (G : NG (S)) ≡ 1
(mod p).
[証明] 1) 定理 1.2 より良い.
2) p-群 T が X = G/S に自然に作用していて p ̸ |♯X だから,命題 2.1
より t · gS = gS for ∀t ∈ T なる gS ∈ X が存在する.即ち g −1 T g ⊂ S
となる.
3) p-Sylow 部分群 S, S ′ ⊂ G に対して,2) より S ′ ⊂ gSg −1 なる g ∈ G
が取れるが,|S ′ | = |S| だから S ′ = gSg −1 となる.よって
♯{G の p-Sylow 部分群 } = (G : NG (S)).
S は X = G/NG (S) に自然に作用する.gNG (S) ∈ X の S-軌道を Ω と
すると,gNG (S) ∈ X の固定部分群は
{x ∈ S | xgNG (S) = gNG (S)} = {x ∈ S | g −1 xg ∈ NG (S)} = S∩gNG (S)g −1
だから ♯Ω = (S : S ∩ gNG (S)g −1 ) となる.よって ♯Ω = 1 ならば S ⊂
gNG (S)g −1 ,即ち g −1 Sg と S は NG (S) の p-Sylow 部分群となるから
g −1 Sg = nSn−1 = S (n ∈ NG (S)),よって g ∈ NG (S) となる.よって
(G : NG (S)) = ♯X ≡ 1
(mod p).
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位数 6 の群の決定
定理 3.1 位数 6 の群は巡回群 Z/6Z または 3 次対称群 S3 と同型である
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[証明] G を |G| = 6 なる群とする.G が可換群ならば,命題 1.1 から G
は位数 2 の元 a と位数 3 の元 b を持ち,ab の位数は 6 だから G = ⟨ab⟩
は巡回群である.以下 G は非可換であるとする.G の 2-Sylow 部分群を
T , 3-Sylow 部分群を S とする.(G : S) = 2 だから S ▹ G. S ∩ T = {1}
だから G = S n T .よって T ▹ G ならば G = S × T は可換群となるか
ら,hT h−1 ̸= T なる h ∈ G が存在する.自然な作用
G × G/T → G/T
((g, xT ) 7→ gxT )
に付随して群の準同型写像
θ : G → S(G/T )
が出来て
Ker(θ) =
∩
(g 7→ [xT 7→ gxT ])
xT x−1 ⊂ T ∩ hT h−1 = {1}.
x∈G
よって θ は単射であるが,(G : T ) = 3 より |G| = 6 = |S(G/T )| より
θ : G→
˜ S(G/T ) = S3 となる.
4
半直積
群 H, N と群準同型写像
θ : H → Aut(N )
(h 7→ θh )
が与えられたとき,直積集合 N × H は演算
(n, h) · (n′ , h′ ) = (n · θh (n′ ), hh′ )
に関して群となる.
単位元 = (1N , 1H ),
(n, h) の逆元 = (θh−1 (n)−1 , h−1 )
である.この様にしてできた群を N ×θ H と書いて,θ による N と H の
半直積と呼ぶ.
例 4.1 特に θh = idN (∀h ∈ H) のとき,N ×θ H の演算は
(n, h) · (n′ , h′ ) = (nθh (n′ , hh′ ) = (nn′ , hh′ )
となるから,N ×θ H は群の直積 N × H と同じことである.
3
例 4.2 群 G の部分群 H と正規部分群 N に対して
H ∩ N = {1},
G = {nh | n ∈ N, h ∈ H}
とする.群準同型写像 θ : H → Aut(N ) (h 7→ θh ) が θh (n) = hnh−1
(h ∈ H, n ∈ N ) により定義されて,群同型
N ×θ H →
˜ G
((n, h) 7→ nh)
が成り立つ(証明せよ).更に
θh = idN for ∀h ∈ H ⇔ H ▹ G
である.
例 4.3 H = ⟨τ ⟩ を位数 2 の巡回群,N をアーベル群とすると,群準同
型写像
θ : H → Aut(N )
(h 7→ θh )
が θ1 = idN , θτ (n) = n−1 により定義されるて,半直積 N ×θ H が定義さ
れる.特に H = ⟨σ⟩ が位数 m の巡回群のとき,半直積 D2m = N ×θ H を
二面体群と呼ぶ.空間においた正 m 角形の中心の周りの回転で正 m 角
形を不変とするのも全体のなす群と同型である(正 m 角形の中心軸まわ
りの m 分の 1 回転を σ ,正 m 角形の裏返しを τ とする).
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4 次対称群の部分群
G を八面体群とする.作用している正八面体 Ω の対面に番号 1, 2, 3, 4
をふると,G の作用により {1, 2, 3, 4} 上の置換,即ち 4 次対称群 S4 の
元が生じて,G から S4 への群準同型写像 θ ができる.向い合う辺の中
点を通る直線の周りの 180 度回転は任意の互換 (i, j) (1 ≤ i, j ≤ 4) を生
じるから,θ は全射である.|G| = 24 だから θ は同型 G →
˜ S4 を与える.
向い合う頂点を通る 3 本の直線 l1 , l2 , l3 に G が作用すると,G から 3
次対称群 S3 への群準同型写像 η が出来る.l1 の周りの 90 度回転は l2 , l3
の互換を生じ,他も同様だから,η は全射である.その核を V とすると
|V | = 4 である.li (i = 1, 2, 3) の周りの 180 度回転が V の 3 個の自明で
ない元を与えて
V = {1, (12)(34), (13)(24), (14)(23)}
˜ S3 である.
となり,η : G/V →
4
|G| = 23 . · 3 で,Ω の中心を通り li (i = 1, 2, 3) に直交する平面が Ω か
(i)
ら切り出す正方形 Qi の固定部分群 D8 が G の 3 個の 2-Sylow 部分群
である.
(1)
(2)
(2)
(3)
(2)
(1)
V = D8 ∩ D8 = D8 ∩ D8 = D8 ∩ D8
である.
G の 3-Sylow 部分群は 4 個あって,夫々 Ω の対面 1, 2, 3, 4 の中心
を通る直線 M1 , M2 , M3 , M4 の周りの 60 度回転で生成される.これを
T (1) , T (2) , T (3) , T (4) とする.
G の位数 6 の部分群は定理 3.1 から S3 と同型である.H ⊂ G を位数
6 の部分群とする.H は {1, 2, 3, 4} に作用して,一つの軌道を ω とする
と,固定部分群の位数は 1, 2, 3, 又は 6 だから ♯ω = 3, 2 又は 1 である.
H が G の 3-Sylow 部分群 ⟨M4 ⟩ (M4 の周りの 60 度回転で生成された)
を含めば,H は巡回置換 (1, 2, 3) を含むから,H 軌道は二つあって,一
つは 3 個の点,他の一つは 1 個の点からなる.即ち S4 の元で 1, 2, 3, 4
の一つを固定する部分群が S3 と同型な G の部分群となる.
(i)
(1)
G の位数 4 の部分群 H は D8 (i = 1, 2, 3) の部分群である.H ⊂ D8
とする.H が巡回群ならば l1 の周りの回転で生成された巡回群 Hc(1) で
ある.H が (2, 2)-型アーベル群ならば,l2 , l3 の周りの 180 度回転で生成
された V か,又は Q1 の対辺の中点を通る直線の周りの 180 度回転で生
(1)
成された H2,2 で,例えば
(1)
H(2,2) = {1, (1, 2), (3, 4), (1, 2)(3, 4)}
である.
S4 の共役類とそこに含まれる元の個数は
共役類
元の個数
14
1
12 21
6
11 31
8
22
3
41
6
である1 .|H| = 12 なる部分群 H ⊂ G は,(G : H) = 2 より,G = S4 の
正規部分群だから S4 の共役類の和集合となるが,可能な組み合わせは
H = 14 ⊔ 11 31 ⊔ 22 = A4
のみである.
σ ∈ Sn の共役類は σ を巡回置換の積に書いた時に現れる巡回置換の長さにより決ま
る.長さ i の巡回置換が ei 個現れるとき,その共役類を 1e1 2e2 · · · nen (1 · e1 + 2 · e2 +
n!
個.
· · · + n · en = n) と書くと,そこに含まれる元の個数は e e
1 1 2 2 · · · nen e1 !e2 ! · · · en !
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5