加法的集合関数(pdfファイル:14ページ)

加法的集合関数
可測空間 (X, M) をひとつ固定する.特に断らない限り,X の部分集合は M に属す
るものだけを扱う.
定義 A ∈ M に Φ(A) ∈ R を対応させる写像 Φ : M −→ R が
An ∈ M (n = 1, 2, . . .), Am ∩ An = ∅ (m ̸= n)
∞
(∪∞
) ∑
=⇒ Φ n=1 An =
Φ(An )
(絶対収束)
n=1
を満たすとき,Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数 (σ-additive set function),
可算加法的集合関数 (countably additive set function),完全加法的集合関数 (completely
additive set function),符号つき測度
(signed measure),あるいは簡単に加法的集合関数
∑∞
という.ここで,右辺の級数 n=1 Φ(An ) は絶対収束するものとする.
Φ が σ-加法的集合関数ならば,∅ = ∅ ∪ ∅ ∪ · · · より Φ(∅) = Φ(∅) + Φ(∅) + · · · と
なること,および Φ(∅) ∈ R(であることから,
) ∑∞ Φ(∅) = 0 がわかる.An = ∅ (n ≥ 3) の場
∪∞
合を考えて Φ(A1 ∪ A2 ) = Φ
n=1 An =
n=1 Φ(An ) = Φ(A1 ) + Φ(A2 ) が得られる.
B ⊂ A ならば,A = B ∪ (A − B) より Φ(A − B) = Φ(A) − Φ(B) である.Φ(A − B) < 0
の可能性もあるが,そのときは Φ(B) > Φ(A) となる.また一般に Φ(A ∪ B) + Φ(A ∩ B) =
Φ(A) + Φ(B) が成り立つ.
測度との違いは,値が非負とは限らないこと,および値が実数である (±∞ という値
はとらない) ことである.値が非負の σ-加法的集合関数は,有限の値をとる測度に他なら
ない.
Φ と Ψ が σ-加法的集合関数ならば,Φ + Ψ は σ-加法的集合関数である.また Φ の定
数倍 αΦ (α ∈ R) も σ-加法的集合関数である.
補題 Φ を σ-加法的集合関数とする.
(1) An ∈ M (n = 1, 2, . . .), A1 ⊂ A2 ⊂ · · · =⇒ Φ(
(2) An ∈ M (n = 1, 2, . . .), A1 ⊃ A2 ⊃ · · · =⇒ Φ(
∪∞
n=1
An ) = lim Φ(An ).
n=1
An ) = lim Φ(An ).
∩∞
n→∞
n→∞
証明 測度に関する補題と同じ議論で証明できる.
∪
∪∞
(1): B1 = A1 , Bn = An − An−1 (n = 2, 3, . ∪
. .) とおくと, ∞
n=1 An =
n=1 Bn で Bn ∈
∑
n
M (n = 1, 2, . . .) は互いに交わらない.An = k=1 Bk について Φ(An ) = nk=1 Φ(Bk ) が
成り立つことに注意すると,
Φ(
∪∞
n=1
An ) = Φ(
∪∞
k=1
Bk ) =
∞
∑
Φ(Bk ) = lim
n→∞
k=1
n
∑
Φ(Bk ) = lim Φ(An ).
k=1
n→∞
∪
Cn ) = )
(2): Cn = A1 − ∪
An とおくと Cn ∈∩M, C1 ⊂ C2 ⊂ · ·(· ∪
なので,
(1) より Φ( (∞
n=1
)
∩∞
∞
∞
∞
lim Φ(Cn ) である. n=1 Cn = A1 −( n=1 An ) だから,Φ n=1 Cn = Φ(A1 )−Φ n=1 An
n→∞
が成り立つ.Φ(Cn ) = Φ(A1 ) − Φ(An ) だから,(2) がわかる.
1
定義 Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数とする.A ∈ M に対して,
Φ+ (A) = sup{Φ(E) | E ∈ M, E ⊂ A},
Φ− (A) = − inf{Φ(E) | E ∈ M, E ⊂ A}
として Φ+ および Φ− を定義する.Φ+ と Φ− を,それぞれ Φ の正変動 (positive variation)
または上変動 (upper variation),および負変動 (negative variation) または下変動 (lower
variation) という.
Φ+ および Φ− の定義から,Φ+ (A) = ∞ あるいは Φ− (A) = ∞ という可能性があるよう
に思えるが,実際は後で示すようにすべての A ∈ M について Φ+ (A) < ∞, Φ− (A) < ∞
である.
Φ+ + Φ− を Φ の全変動 (total variation) という.ここでは,全変動を VΦ で表すことに
する.VΦ = Φ+ + Φ− .
注意 一般に Φ は正の値も負の値もとるので,Φ は単調増加ではない.すなわち,E ⊂ A
でも Φ(E) > Φ(A) の可能性がある.Φ+ (A) と Φ− (A) の定義において A ∈ M であること,
および Φ(A) ≤ Φ+ (A), −Φ(A) ≤ Φ− (A) であることに注意する.特に,|Φ(A)| ≤ VΦ (A)
である.
注意 A ∈ M に対して |Φ(A)| ≤ VΦ (A) = Φ+ (A) + Φ− (A) であるが,一般に等号は成
り立たない.全変動 VΦ = Φ+ + Φ− を |Φ| で表すことが多いが,|Φ(A)| と VΦ (A) は一般に
等しくないので,ここでは |Φ| という記号は使わない.
補題 σ-加法的集合関数 Φ の正変動 Φ+ と負変動 Φ− について,次のことが成り立つ.
(1) Φ− = (−Φ)+ , Φ+ = (−Φ)− .
(2) Φ± (∅) = 0, Φ± (A) ≥ 0 for all A ∈ M.
(3) A, B ∈ M, A ∩ B = ∅ =⇒ Φ± (A ∪ B) = Φ± (A) + Φ± (B).
(複号同順)
証明 (1) は Φ+ と Φ− の定義から明らか.Φ(∅) = 0 であり,E ⊂ ∅ となる E は E = ∅
だけなので,Φ+ (∅) = Φ− (∅) = 0 である.任意の A ∈ M について ∅ ⊂ A だから,
Φ± (A) ≥ 0 である.
A ∩ B = ∅ とし,α = Φ+ (A), β = Φ+ (B), γ = Φ+ (A ∪ B) とおく.Φ+ の定義より,
En ⊂ A, Fn ⊂ B (n = 1, 2, . . .) で lim Φ(En ) = α, lim Φ(Fn ) = β となるものが存在
n→∞
n→∞
する.En ∪ Fn ⊂ A ∪ B だから Φ(En ∪ Fn ) ≤ γ で,さらに En ∩ Fn ⊂ A ∩ B = ∅ より
Φ(En ∪ Fn ) = Φ(En ) + Φ(Fn ) である.n → ∞ とすると,α + β ≤ γ がわかる.
Hn ⊂ A ∪ B (n = 1, 2, . . .) で lim Φ(Hn ) = γ となるものが存在する.Φ(Hn ∩ A) ≤
n→∞
α, Φ(Hn ∩ B) ≤ β で,Φ(Hn ∩ A) + Φ(Hn ∩ B) = Φ(Hn ) である.n → ∞ とすると,
α + β ≥ γ が得られる.以上により,Φ+ (A) + Φ+ (B) = Φ+ (A ∪ B) がわかった.(1) によ
り,Φ− (A) + Φ− (B) = Φ− (A ∪ B) が成り立つこともわかる.
定理 (Jordan の分解定理)
Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数とし,Φ+ , Φ− をそれぞれ Φ の正変動,負
変動とする.
(1) 0 ≤ Φ± (A) < ∞ for all A ∈ M.
2
(2) Φ+ , Φ− はともに可測空間 (X, M) 上の測度である.
(3) Φ = Φ+ − Φ− .
(Jordan 分解)
証明 (1): Φ+ (X) < ∞ を示すために,Φ+ (X) = ∞ と仮定して矛盾を導く.最初に,
Xn ∈ M (n = 0, 1, 2, . . .) で
Xn ⊃ Xn+1 ,
Φ+ (Xn ) = ∞,
|Φ(Xn )| ≥ n
(n = 0, 1, 2, . . .)
を満たすものが存在することを,n に関する帰納法で示す.仮定により Φ+ (X) = ∞ だ
から,X0 = X とすると,X0 は求める条件を満たす.Xn までの存在が示されたとする.
Φ+ (Xn ) = ∞ で Φ(Xn ) ∈ R だから,Φ+ の定義より E ∈ M で
E ⊂ Xn ,
|Φ(Xn )| + n + 1 ≤ Φ(E)
を満たすものが存在する.
A ⊂ Xn となる A ∈ M を任意にひとつとる.A = (A ∩ E) ∪ (A ∩ (Xn − E)) より,
Φ(A) = Φ(A ∩ E) + Φ(A ∩ (Xn − E)) ≤ Φ+ (E) + Φ+ (Xn − E).
A ⊂ Xn は任意だから,Φ+ (Xn ) = ∞ より Φ+ (E)+Φ+ (Xn −E) = ∞ である.Φ+ (E) =
∞ ならば,Xn+1 = E とすると Xn+1 は求める条件を満たす.Φ+ (Xn − E) = ∞ ならば,
Xn+1 = Xn − E とすると,Φ(Xn+1 ) = Φ(Xn ) − Φ(E) なので,
|Φ(Xn+1 )| = |Φ(Xn ) − Φ(E)| ≥ n + 1
が成り立ち,Xn+1 は求める条件を満たす.以上により帰納法が完了し,求める条件を満
たす Xn ∈ M (n = 0, 1, 2, . . .) が存在することがわかった.
∩
∩
X0 ⊃ X1 ⊃ X2 ⊃ · · · だから,Φ( ∞
lim Φ(Xn ) であるが, ∞
n=0 Xn ) = n→∞
n=0 Xn ∈ M
∩∞
だから Φ( n=0 Xn ) ∈ R である.これは |Φ(Xn )| ≥ n であることに矛盾する.よって,
Φ+ (X) < ∞ が示された.
A ⊂ X ならば,Φ+ の定義より Φ+ (A) ≤ Φ+ (X) である.よって,すべての A ∈ M に
対して Φ+ (A) < ∞ で,Φ+ について (1) が成り立つ.Φ− = (−Φ)+ だから,Φ− について
も (1) が成り立つ.
2, . . .) は互いに交わらないとし,A =
∪∞(2): Φ+ の σ-加法性を示す.An ∈ M (n =∪1,
∞
A
とおく.
E
∈
M,
E
⊂
A
ならば
E
=
n=1 (E ∩ An ) で Φ(E ∩ An ) ≤ Φ+ (An ) だ
n=1 n
から,
∞
∞
∑
∑
Φ(E) =
Φ(E ∩ An ) ≤
Φ+ (An )
n=1
n=1
となる.E は任意だから,これより
Φ+ (A) ≤
∞
∑
Φ+ (An )
n=1
がわかる.
ε > 0 とする.各 n について,(1) により Φ+ (An ) < ∞ だから,Φ+ の定義より
En ⊂ An ,
Φ+ (An ) − ε/2n ≤ Φ(En )
3
∪∞
を満たす En ∈ M が存在する.m ̸= n ならば Em ∩ En = ∅ で, n=1 En ⊂ A だから,
∞
∞
∑
) ∑
(∪ ∞
Φ+ (A) ≥ Φ n=1 En =
Φ(En ) ≥
Φ+ (An ) − ε
n=1
n=1
となる.ε > 0 は任意だから,これより
Φ+ (A) ≥
∞
∑
Φ+ (An )
n=1
∑∞
が得られる.よって Φ+ (A) = n=1 Φ+ (An ) となり,Φ+ の σ-加法性が示された.Φ− =
(−Φ)+ だから,Φ− の σ-加法性も得られる.以上により,(2) が成り立つことがわかった.
(3): A ∈ M とする.E ∈ M, E ⊂ A ならば,Φ+ の定義より
Φ(E) = Φ(A) − Φ(A − E) ≥ Φ(A) − Φ+ (A)
となる.これが任意の E ⊂ A について成り立つので,Φ− の定義より
−Φ− (A) ≥ Φ(A) − Φ+ (A)
すなわち
Φ+ (A) − Φ− (A) ≥ Φ(A)
である.Φ− = (−Φ)+ , Φ+ = (−Φ)− だから,この不等式で Φ を −Φ に取り換えると
Φ− (A) − Φ+ (A) ≥ −Φ(A)
となり,逆向きの不等式 Φ+ (A) − Φ− (A) ≤ Φ(A) が得られる.よって,Φ(A) = Φ+ (A) −
Φ− (A) がわかる.A ∈ M は任意なので (3) が示された.
定理 (Hahn の分解定理)
Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数とする.
(1) 次の条件を満たす A ∈ M が存在する.
Φ− (A) = 0,
Φ+ (X − A) = 0.
(2) (1) の A に対して B = X − A とおくと,
Φ+ (E) = Φ(E ∩ A),
Φ− (E) = −Φ(E ∩ B) for all
E ∈ M.
(3) A′ ∈ M も (1) の条件を満たすならば,
Φ(E) = 0 for all E ∈ M, E ⊂ A△A′ .
証明 (1):
Φ+ の定義により,
Φ(An ) > Φ+ (X) − 1/2n
を満たす An ∈ M (n = 1, 2, . . .) が存在する.Φ+ は測度だから,Φ+ (X) = Φ+ (An ) +
Φ+ (X − An ) である.よって,
Φ+ (An ) ≥ Φ(An ) > Φ+ (X) − 1/2n = Φ+ (An ) + Φ+ (X − An ) − 1/2n
4
となり,Φ+ (X − An ) < 1/2n がわかる.A = lim An とおく.
n→∞
X − A = lim (X − An ) ⊂
∪∞
n→∞
n=k (X
− An )
が任意の k = 1, 2, . . . について成り立つ.Φ+ は測度だから,これより
Φ+ (X − A) ≤
∞
∑
Φ+ (X − An ) < 1/2k−1 .
n=k
k は任意なので,Φ+ (X − A) = 0 である.
Φ+ (X) ≥ Φ+ (An ) だから,Jordan 分解 Φ = Φ+ − Φ− と Φ(An ) > Φ+ (X) − 1/2n より,
Φ− (An ) < 1/2n が成り立つ.Φ− は測度だから,測度の性質により
(
)
Φ− (A) = Φ− lim An ≤ lim Φ− (An ) = 0.
n→∞
n→∞
よって,Φ− (A) = 0 である.以上により,A が (1) の条件を満たすことがわかった.
(2):
B = X − A とおく.E ∈ M に対して,E = (E ∩ A) ∪ (E ∩ B) より,
Φ± (E) = Φ± (E ∩ A) + Φ± (E ∩ B) (複号同順)
となる.ここで Φ+ (B) = 0 だから,測度の単調性により Φ+ (E ∩ B) = 0 である.同様
に,Φ− (A) = 0 だから,測度の単調性により Φ− (E ∩ A) = 0 である.よって,Jordan 分
解 Φ = Φ+ − Φ− より
Φ+ (E) = Φ+ (E ∩ A) = Φ(E ∩ A),
Φ− (E) = Φ− (E ∩ B) = −Φ(E ∩ B)
となり,(2) が成り立つ.
(3): E ⊂ A△A′ = (A − A′ ) ∪ (A′ − A) とする.よって,
E ⊂ A ∪ A′ ,
E ⊂ (X − A) ∪ (X − A′ )
である.Φ± は測度だから,測度の単調性と劣加法性により
Φ+ (E) ≤ Φ+ (X − A) + Φ+ (X − A′ ) = 0,
Φ− (E) ≤ Φ− (A) + Φ− (A′ ) = 0
となるので,Φ(E) = Φ+ (E) − Φ− (E) = 0 である.
定理 Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数とする.Φ の全変動 VΦ = Φ+ + Φ−
と E ∈ M について,次のことが成り立つ.
VΦ (E) = sup
p
{∑
}
∪
|Φ(Ej )| E = pj=1 Ej , Ej ∈ M は互いに交わらない, p = 1, 2, . . . .
j=1
証明 Hahn の分解定理の A, B を用いる.E = (E ∩ A) ∪ (E ∩ B) について,
VΦ (E) = Φ+ (E) + Φ− (E) = Φ(E ∩ A) − Φ(E ∩ B) = |Φ(E ∩ A)| + |Φ(E ∩ B)|
5
だから,左辺
∪ ≤ 右辺 がわかる.
E = pj=1 Ej , Ej ∈ M (j = 1, 2, . . .) は互いに交わらないとする.Φ± は測度で,
VΦ (Ej ) ≥ |Φ(Ej )| だから,
VΦ (E) =
p
∑
VΦ (Ej ) ≥
j=1
p
∑
|Φ(Ej )|
j=1
となり,左辺 ≥ 右辺 がわかる.
例 (X, M, µ) を測度空間とし,f を X 上で µ に関して積分可能な関数とする.
En ∈ M
∪
(n = 1, 2, . . .) が互いに交わらないならば,E = ∞
E
について
n=1 n
∫
f dµ =
E
∞ ∫
∑
f dµ
En
n=1
が成り立つことは既知である.よって,E ∈ M に対して
∫
Φ(E) = f dµ
E
として Φ : M −→ R を定義すると,Φ は σ-加法的集合関数である.この Φ について,
∫
∫
+
Φ+ (E) = f dµ,
Φ− (E) = f − dµ
E
E
が成り立つ.ただし,f + = max(f, 0), f − = max(−f, 0) である.
A = [f ≥ 0],
B = [f < 0]
とおくと,この A, B は Hahn の分解定理の条件を満たす.
集合 [f = 0] 上での f の積分の値は 0 だから,F ∈ M, F ⊂ [f = 0] ならば,A′ = A−F ,
B ′ = B ∪ F も Hahn の分解定理の条件を満たす.
N を零集合,すなわち N ∈ M, µ(N ) = 0 とすると,N 上での f の積分の値は 0 だか
ら,A′′ = A ∪ N , B ′′ = B − N も Hahn の分解定理の条件を満たす.
上記の議論では,Jordan の分解定理を先に証明して,それを用いて Hahn の分解定理を
証明したが,以下に示すように,Hahn の分解定理を先に証明して,それを用いて Jordan
の分解定理を証明することもできる.
定義 Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数とする.A ∈ M について,すべて
の E ∈ M, E ⊂ A に対して Φ(E) ≥ 0 であるとき,A は Φ に関して正集合 (positive set)
という.また,すべての E ∈ M, E ⊂ A に対して Φ(E) ≤ 0 であるとき,A は Φ に関し
て負集合 (negative set) という.
注意 A ∈ M について,A が Φ に関して正集合であることと −Φ に関して負集合であ
ることは同値である.空集合 ∅ は正集合であり負集合でもある.
∪∞
補題 An (n = 1, 2, . . .) が正集合ならば, n=1 An も正集合である.負集合について
も同様のことが成り立つ.
6
( ∪n−1 )
証明 ∪
An (n = 1,∪
2, . . .) を正集合とし,B1 = A1 , Bn = An −
k=1 Ak (n = 2, 3, . . .)
∞
∞
とおく. n=1 An = n=1 Bn で,Bn (n = 1, 2, . . .) は互いに交わらない.正集合の任意の
部分集合が正集合であることは定義から明らかだから,
Bn (n = 1, 2, . . .) はすべて正集合
∪∞
∪∞
である.E ∈ M, E ⊂ n=1 An とすると,E = n=1 (Bn ∩ E) なので,
Φ(E) =
∞
∑
Φ(Bn ∩ E) ≥ 0
n=1
となる.よって,
∪∞
n=1
An は正集合である.負集合の場合も同様である.
補題 E ∈ M に対して,A ⊂ E, Φ(A) ≥ Φ(E) となる正集合 A が存在する.
証明 E が正集合ならば A = E とすればよいので,E は正集合ではないとする.よっ
て,Φ(F ) < 0 となる F ∈ M, F ⊂ E が存在する.
β1 = − inf{Φ(F ) | F ∈ M, F ⊂ E}
とおく.β1 > 0 で,Φ(F1 ) < −β1 /2 を満たす F1 ∈ M, F1 ⊂ E が存在する.
Φ(E) = Φ(E − F1 ) + Φ(F1 ) < Φ(E − F1 )
である.E − F1 が正集合ならば A = E − F1 とすればよいので,E − F1 は正集合ではな
いとする.よって,Φ(F ) < 0 となる F ∈ M, F ⊂ E − F1 が存在する.
β2 = − inf{Φ(F ) | F ∈ M, F ⊂ E − F1 }
とおく.β2 > 0 で,Φ(F2 ) < −β2 /2 を満たす F2 ∈ M, F2 ⊂ E − F1 が存在する.E −
(F1 ∪ F2 ) が正集合ならば A = E − (F1 ∪ F2 ) とすればよい.この操作が無限に続くならば,
{
(∪n−1 )}
βn = − inf Φ(F ) F ∈ M, F ⊂ E −
j=1 Fj
とおくと,βn > 0 で,
Fn ⊂ E −
(∪n−1
j=1
)
Fj ,
Φ(Fn ) < −βn /2
を満たす互いに交わらない Fn ∈ M (n = 1, 2, . . .) が存在する.B =
E = (E − B) ∪ B で
∪∞
n=1
Fn とおくと,
∞
∑
∞
1 ∑
Φ(E) = Φ(E − B) + Φ(B) = Φ(E − B) +
Φ(Fn ) ≤ Φ(E − B) −
βn
2 n=1
n=1
∑∞
となる.Φ の値は実数なので,この不等式において n=1 βn < ∞ である.βn > 0 だから,
βn → 0 (n → ∞) であることがわかる.
)
( ∪∞
A = E−B = E−
n=1 Fn とおく.上記の不等式より Φ(E) ≤ Φ(A) である.A
が正集合でなければ,Φ(F ) < 0 となる F ∈ M, F ⊂ A が存在する.βn > 0 で βn → 0
(n → ∞) だから,この F に対して Φ(F ) < −βk が成り立つような k が存在する.しかし,
F ⊂ A ⊂ E − (F1 ∪ · · · ∪ Fk−1 ) だから,βk の定義より Φ(F ) ≥ −βk でなければならな
いので矛盾である.以上により,Φ(E) ≤ Φ(A) となる正集合 A ⊂ E が存在することがわ
かった.
7
正集合,負集合を用いると,Hahn の分解定理の (1) は次のようになる.
定理 可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数 Φ に対して,
A は Φ に関して正集合,
X − A は Φ に関して負集合
となる A ∈ M が存在する.
証明 Φ(E), E ∈ M の上限を α とおく.
α = sup{Φ(E) | E ∈ M}.
よって,En ∈ M, (n = 1, 2, . . .) で Φ(En ) → α (n → ∞) となる En ∈ M が存在する.En
に対して,前補題により ∪
Φ(En ) ≤ Φ(An ) ≤ α を満たす正集合 An が存在する.Φ(An ) → α
(n → ∞) である.A = ∞
n=1 An とおく.A は正集合である.A = (A − An ) ∪ An より,
Φ(A) = Φ(A − An ) + Φ(An ) ≥ Φ(An ) となる.これが任意の n について成り立つので,
Φ(A) = α である.
F ⊂ X − A ならば,α ≥ Φ(A ∪ F ) = Φ(A) + Φ(F ) だから,Φ(F ) ≤ 0 である.よっ
て X − A は負集合であり,A は求める条件を満たす.
注意 A ∈ M について,∅ ⊂ A で Φ(∅) = 0 だから,Φ− (A) = 0 であることと A が正
集合であることは同値である.同様に,∅ ⊂ X − A だから,Φ+ (X − A) = 0 であること
と X − A が負集合であることは同値である.よって,上記の定理は Hahn の分解定理の
(1) を言い換えたものである.
注意 Φ を可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数とする.上記の定理の A ∈ M によ
り,Φ : M −→ R は M 上で最大値 Φ(A) および最小値 Φ(X − A) をとることがわかる.A
は Φ に関する正集合のうち最大のものであり,X − A は Φ に関する負集合のうち最大の
ものである.
P が正集合ならば A ∪ P も正集合なので,A の最大性により A = A ∪ P ,すなわち
P ⊂ A である.A は Φ に関する正集合全部の和集合であるが,一般に Φ に関する正集合
は可算個より多く存在する.σ-加法族においては,可算個を超える無限個の集合の和集合
はそのままでは扱えないので,上記の定理の証明のような議論が必要になる.
前定理を用いると,次のようにして Jordan の分解定理が得られる.
定理 可測空間 (X, M) 上の σ-加法的集合関数 Φ に対して,A ∈ M を前定理のものと
する.すなわち,A は正集合で X − A は負集合とする.このとき,Φ の正変動 Φ+ と負変
動 Φ− について,次のことが成り立つ.
Φ+ (E) = Φ(E ∩ A),
Φ− (E) = −Φ(E ∩ (X − A)) for all E ∈ M.
特に,Φ = Φ+ − Φ− である.
証明 E ∈ M とする.正変動 Φ+ の定義より,Φ+ (E) ≥ Φ(E ∩ A) である.F ∈ M,
F ⊂ E について,F = (F ∩ A) ∪ (F ∩ (X − A)) で X − A が負集合なので,
Φ(F ) = Φ(F ∩ A) + Φ(F ∩ (X − A)) ≤ Φ(F ∩ A)
である.さらに,E ∩ A = (F ∩ A) ∪ ((E − F ) ∩ A) で A が正集合なので,
Φ(E ∩ A) = Φ(F ∩ A) + Φ((E − F ) ∩ A) ≥ Φ(F ∩ A)
8
である.よって,Φ(F ) ≤ Φ(E ∩ A) となる.F ⊂ E は任意なので Φ+ (E) ≤ Φ(E ∩ A) が
得られる.以上により,Φ+ (E) = Φ(E ∩ A) がわかった.
X − A は −Φ に関して正集合で Φ− = (−Φ)+ だから,Φ− (E) = −Φ(E ∩ (X − A)) が
成り立つこともわかる.
Φ(E) = Φ(E ∩ A) + Φ(E ∩ (X − A)) だから,Φ = Φ+ − Φ− である.
定義 (X, M, µ) を測度空間,Φ を (X, M) 上の σ-加法的集合関数とする.
E ∈ M, µ(E) = 0 =⇒ Φ(E) = 0
が成り立つとき,Φ は測度 µ に関して絶対連続 (absolutely continuous) であるという.
ある零集合 N ,すなわち N ∈ M, µ(N ) = 0 が存在して,
E ∈ M, E ⊂ X − N =⇒ Φ(E) = 0
が成り立つとき,Φ は測度 µ に関して特異 (singular) であるという.
補題 σ-加法的集合関数 Φ が絶対連続で特異ならば,Φ = 0 である.
証明 仮定により Φ は特異だから,ある零集合 N が存在して,E ⊂ X − N ならば
Φ(E) = 0 である.F ∈ M とする.Φ(F ) = Φ(F ∩ N ) + Φ(F ∩ (X − N )) において,
Φ(F ∩ (X − N )) = 0 である.また,Φ は絶対連続だから Φ(F ∩ N ) = 0 となる.よって,
Φ(F ) = 0 である.F ∈ M は任意なので,M から R への写像として Φ = 0 である.
補題 Φ, Ψ を σ-加法的集合関数とし,α, β ∈ R とする.
(1) Φ, Ψ がともに絶対連続ならば,αΦ + βΨ も絶対連続である.
(2) Φ, Ψ がともに特異ならば,αΦ + βΨ も特異である.
証明 (1) は絶対連続の定義から明らか.Φ, Ψ がともに特異ならば,ある零集合 N ,
N が存在して,E ⊂ X − N ならば Φ(E) = 0, F ⊂ X − N ′ ならば Ψ(F ) = 0 である.
N ′′ = N ∪ N ′ とおくと,X − N ′′ = (X − N ) ∩ (X − N ′ ) なので,E ⊂ X − N ′′ ならば
αΦ(E) + βΨ(E) = 0 である.N ′′ は零集合だから,これは αΦ + βΨ が特異であることを
意味する.
′
補題 (X, M, µ) は測度空間で µ(X) < ∞ とする.Φ は非負値の σ-加法的集合関数で,
Φ ̸= 0 とする.Φ が特異でないならば,自然数 n と A ∈ M, µ(A) > 0 で
Φ(E) ≥
1
µ(E) for all E ∈ M, E ⊂ A
n
が成り立つものが存在する.
証明 n = 1, 2, . . . について Φn = Φ − (1/n)µ とおく.µ(X) < ∞ と仮定しているので,
これは σ-加法的集合関数である.Φn に対して Hahn の分解定理により,Φn,− (An ) = 0,
Φn,+ (X − An ) = 0 を満たす An ∈ M が存在する.ここで,Φn,− と Φn,+ はそれぞれ Φn の
負変動および正変動を表す.負変動,正変動の定義より,これは
1
µ(E) for all E ∈ M, E ⊂ An ,
n
1
Φ(E) ≤ µ(E) for all E ∈ M, E ⊂ X − An
n
Φ(E) ≥
9
が成り立つことを意味する.
∪∞
すべての n について µ(An ) = 0 と仮定して,N = n=1 An とおく.測度の劣加法性
により,µ(N ) = 0 である.n を任意にひとつとる.X − N ⊂ X − An だから,すべての
E ∈ M, E ⊂ X − N について
0 ≤ Φ(E) ≤
1
1
µ(E) ≤ µ(X)
n
n
が成り立つ.µ(X) < ∞ で n は任意だから,Φ(E) = 0 である.これがすべての E ∈ M,
E ⊂ X − N について成り立つので,Φ が特異であることになり,仮定に矛盾する.よっ
て,µ(An ) > 0 となる n が存在する.このとき,A = An は求める条件を満たす.
定理 (Radon-Nikodym の定理)
∪
(X, M, µ) は測度空間で σ-有限とする.すなわち,X1 ⊂ X2 ⊂ · · · , ∞
n=1 Xn = X,
µ(Xn ) < ∞ を満たす Xn ∈ M (n = 1, 2, . . .) が存在するとする.Φ を (X, M) 上の σ-加
法的集合関数とする.
(1) Φ は,(X, M) 上の測度 µ に関して絶対連続な σ-加法的集合関数 Φa と特異な σ-加
法的集合関数 Φs の和として,一意的に表すことができる.
Φ = Φa + Φ s .
(2) (X, M) 上の測度 µ に関して積分可能な可測関数 f で,
∫
Φa (E) = f dµ for all E ∈ M
E
が成り立つものが存在する.このような f は,測度 µ に関する零集合の上での違いを除い
て一意的である.
定義 (1) の Φ = Φa + Φs を,測度 µ に関する Φ の Lebesgue 分解という.Φa , Φs をそ
れぞれ測度 µ に関する Φ の絶対連続部分 (absolutely continuous part),特異部分 (singular
part) という.また (2) の条件を満たす f を,測度 µ に関する Φa の Radon-Nikodym 密
dΦa
度関数または Radon-Nikodym 導関数といい,
で表す.
dµ
Radon-Nikodym の定理の証明
(i): (1) の一意性を示す.Φ = Φ′a + Φ′s を満たす絶対連続な Φ′a と特異な Φ′s が存在する
とし,Ψ = Φa − Φ′a = Φ′s − Φs とおく.Φa − Φ′a は絶対連続で Φ′s − Φs は特異なので,Ψ は
絶対連続で特異な σ-加法的集合関数である.よって,Ψ = 0 すなわち Φa = Φ′a , Φs = Φ′s
となり,(1) の一意性が得られる.
(ii): (2) の一意性を示す.g も (2) の条件を満たすとすると,
∫
∫
f dµ = gdµ for all E ∈ M
E
E
が成り立つ.
A = ∫[f > g] とおくと,
A ∈ M で A 上では常に f − g > 0 である.仮定によ
∫
∫
り (f − g)dµ = f dµ − gdµ = 0 だから,µ(A) = 0 である.同様に,µ([f < g]) = 0
A
A
A
もわかる.よって f = g a.e. である.
10
(iii): Jordan 分解 Φ = Φ+ −Φ− により,Φ+ と Φ− のそれぞれについて Radon-Nikodym
の定理が証明できれば,Φ に対して Radon-Nikodym の定理が得られる.よって,Φ が非
負値の場合に証明すればよい.以下,Φ は非負値と仮定して議論をする.
(iv): X 上で µ に関して積分可能な関数 g に対して,(X, M) 上の σ-加法的集合関数
Φg を
∫
Φg (E) =
(E ∈ M)
gdµ
E
として定める.g ≥ 0 であって,すべての E ∈ M に対して Φg (E) ≤ Φ(E) となる X 上で
µ に関して積分可能な関数 g 全部の集合を H で表す.
H = { g | g ≥ 0, g は X 上でµ に関して積分可能, Φg (E) ≤ Φ(E) for all E ∈ M }.
Φ は非負値と仮定しているので,値が 0 の定数関数は H に属する.よって,H は空
集合ではない.g, h ∈ H ならば max(g, h) ∈ H であることを示す.E ∈ M に対して
A = E ∩ [g ≥ h], B = E ∩ [g < h] とおく.E = A ∪ B, A ∩ B = ∅ で,E の特性関数 χE
と max(g, h) の積は χE max(g, h) = χA g + χB h なので,
∫
∫
∫
∫
max(g, h)dµ =
χE max(g, h)dµ =
χA gdµ + χB hdµ
E
X
X
X
∫
∫
= gdµ + hdµ ≤ Φ(A) + Φ(B) = Φ(E)
A
B
が成り立つ.よって,
max(g, h) ∈ H である.
∫
Φg (X) =
gdµ, g ∈ H の上限を α とおく.
X
α = sup{Φg (X) | g ∈ H}.
0 ≤ α ≤ Φ(X) < ∞ である.
α の定義より,gn ∈ H (n = 1, 2, . . .) で lim Φgn (X) = α となるものが存在する.
n→∞
fn = max(g1 , g2 , . . . , gn ) とおく.gn ≤ fn ∈ H だから, lim Φfn (X) = α である.また
0 ≤ f1 ≤ f2 ≤ · · · だから,各点 x ∈ X に対して
n→∞
f (x) = lim fn (x)
n→∞
として X 上の可測関数 f を定義すると,f ≥ 0 で,任意の E ∈ M について単調収束定理
より
∫
∫
f dµ = lim
fn dµ ≤ Φ(E)
n→∞
E
E
が成り立つ.E = X の場合を考えて,
∫
∫
fn dµ ≤ Φ(X)
α=
f dµ = lim
X
n→∞
X
である.Φ(X) < ∞ だから f は X 上で µ に関して積分可能である.よって,f ∈ H であ
ることがわかる.
11
(v): µ(X) < ∞ とする.(iv) の f を用いて Ψ = Φ − Φf とおく.Ψ は (X, M) 上の σ加法的集合関数である.f ∈ H なので,Ψ の値は非負である.Ψ ̸= 0 とし,Ψ が特異では
ないと仮定する.前補題により,自然数 n と A ∈ M, µ(A) > 0 で
Ψ(E) ≥
1
µ(E) for all E ∈ M, E ⊂ A
n
が成り立つものが存在する.
{
1/n (x ∈ A)
h(x) =
0
(x ∈ X − A)
として可測関数 h を定義する.ここでは µ(X) < ∞ と仮定しているので,h と f + h は X
上で µ に関して積分可能である.任意の E ∈ M に対して,
∫
∫
1
Φf +h (E) = f dµ + hdµ = Φf (E) + µ(E ∩ A)
n
E
E
≤ Φf (E) + Ψ(E ∩ A)
(
)
≤ Φf (E) + Ψ(E ∩ A) + Ψ E ∩ (X − A)
= Φf (E) + Ψ(E) = Φ(E)
が成り立つ.f ≥ 0, h ≥ 0 だから f + h ≥ 0 なので,f + h ∈ H である.しかし,
Φf +h (X) = Φf (X) +
1
µ(A) > Φf (X) = α
n
だから,f + h ∈ H とすると α の定義に矛盾する.以上により,Ψ ̸= 0 ならば Ψ が特異で
あることがわかった.Ψ = 0 ならば Ψ は特異だから,いずれにしろ Ψ = Φ − Φf は特異で
ある.
零集合上での積分の値は 0 だから,Φf は絶対連続である.よって,
Φa = Φf ,
Φs = Φ − Φf
とおくと,Φa と Φs は定理の (1) と (2) の条件を満たす.以上により,µ(X) < ∞ の場合
に定理が証明された.なお,ここで得られた Φa と Φs は非負値であることに注意する.
∪
(vi): µ(X) = ∞ とする.仮定により,X1 ⊂ X2 ⊂ · · · , ∞
n=1 Xn = X, µ(Xn ) < ∞ を
満たす Xn ∈ M (n = 1, 2, . . .) が存在する.Y1 = X1 , Yn = Xn − X∪n−1 (n = 2, 3, . . .) と
∞
おく.Yn ∈ M (n = 1, 2, . . .) は互いに交わらないで,µ(Yn ) < ∞, n=1 Yn = X である.
n をひとつ固定する.Mn = {E ∩ Yn | E ∈ M} は Yn の部分集合の σ-加法族である.
F ∈ Mn に対して,µn (F ) = µ(F ) として µn を定めると,µn は可測空間 (Yn , Mn ) 上の測
度である.同様に Φn (F ) = Φ(F ) として Φn を定めると,Φn は可測空間 (Yn , Mn ) 上の σ加法的集合関数である.ここでは Φ は非負値と仮定して議論しているので,Φn も非負値
である.(v) の結果により,次のことがわかる.
(a) (Yn , Mn ) 上の測度 µn に関して絶対連続な σ-加法的集合関数 Φn,a と特異な σ-加法
的集合関数 Φn,s の和 Φn = Φn,a + Φn,s として,一意的に Φn を表すことができる.
(b) Φn,a と Φn,s は非負値である.
12
(c) (Yn , M) 上の測度 µn に関して積分可能な Mn -可測関数 fn ≥ 0 で,
∫
Φn,a (F ) = fn dµn for all F ∈ Mn
F
が成り立つものが存在する.
x ∈ X に対して
{
fn (x) (x ∈ Yn )
f˜n (x) =
0
(x ∈ X − Yn )
∑∞
として f˜n を定め,f = n=1 f˜n とおく.f˜n と f は X 上の M-可測関数で非負値である.
χYn f = f˜n であり,x ∈ Yn に対して
f (x) = fn (x) である.
∪∞
E ∈ M に対して,E = n=1 (E ∩ Yn ) で E ∩ Yn ∈ M (n = 1, 2, . . .) は互いに交わら
ないから,
∞
∞
∑
∑
µ(E) =
µ(E ∩ Yn ) =
µn (E ∩ Yn )
n=1
Φ(E) =
∞
∑
n=1
Φ(E ∩ Yn ) =
n=1
∫
f dµ =
E
∞ ∫
∑
n=1
∞
∑
Φn (E ∩ Yn )
n=1
f dµ =
E∩Yn
∞ ∫
∑
n=1
fn dµn
E∩Yn
が成り立つ.
E ∈ M に対して,
Φa (E) =
∞
∑
Φn,a (E ∩ Yn ),
Φs (E) =
n=1
∞
∑
Φn,s (E ∩ Yn )
n=1
として Φa (E) と Φs (E) を定める.Φn,a と Φn,s は非負値だから,Φa と Φs も非負値である.
F ∈ Mn に対して Φn (F ) = Φn,a (F ) + Φn,s (F ) だから,E ∈ M に対して
Φ(E) =
∞
∑
n=1
Φn (E ∩ Yn ) =
∞
∑
(
)
Φn,a (E ∩ Yn ) + Φn,s (E ∩ Yn ) = Φa (E) + Φs (E)
n=1
となるので,M 上の関数として Φ = Φa + Φs である.特に,Φ(X) < ∞ で Φa , Φs は非
負値だから,Φa (X) < ∞, Φs (X) < ∞ である.さらに,Φn,a と Φn,s は (Yn , Mn ) 上の σ加法的集合関数だから,Φa と Φs は (X, M) 上の σ-加法的集合関数である.
E ∈ M, µ(E) = 0 ならば,µn (E ∩ Yn ) = µ(E ∩ Yn ) = 0 となる.よって,Φn,a
(n = 1, 2, . . .) が µn に関して絶対連続であることから,Φa が絶対連続であることがわ
かる.
Φn,s (n = 1, 2, . . .) が µn に関して特異なので,Nn ∈ Mn , µn (Nn ) = 0 で,すべての
∪
En ∈ Mn , En ⊂ Yn − Nn に対して Φn,s (En ) = 0 となるもものが存在する.N = ∞
n=1 Nn
とおくと,N ∈ M, µ(N ) = 0 である.さらに E ⊂ X − N ならば,E ∩ Yn ⊂ Yn − Nn な
ので Φn,s (E ∩ Yn ) = 0,したがって Φs (E) = 0 となる.よって,Φs は特異である.
13
E ∈ M に対して,
Φa (E) =
∞
∑
Φn,a (E ∩ Yn ) =
n=1
∞ ∫
∑
n=1
∫
fn dµn =
E∩Yn
f dµ
E
が成り立つ.f ≥ 0 で Φa (X) < ∞ だから,f は X 上で µ に関して積分可能である.以上
により、Φa , Φs , f が定理の (1) と (2) の条件を満たすことがわかった.
注意 (X, M, µ) を σ-有限な測度空間とする.
∫
f dµ (E ∈ M) と
(1) X 上で測度 µ に関して積分可能な関数 f に対して,Φ(E) =
E
して Φ : M −→ R を定めると,零集合上での積分の値は 0 なので,Φ は絶対連続な σ-加
法的集合関数である.
(2) 逆に,Φ : M −→ R を測度 µ ∫
に関して絶対連続な σ-加法的集合関数とすると,
f dµ (E ∈ M) が成り立つような測度 µ に関し
Radon-Nikodym の定理により Φ(E) =
E
て積分可能な関数 f が存在する.このような f は f = g a.e. という同値関係を除いて一
意的である.
この意味で,σ-有限な測度空間 (X, M, µ) がひとつ与えられたとき,そこにおいて絶
対連続な σ-加法的集合関数と積分可能な関数の f = g a.e. という同値関係による同値類
とは,1 対 1 に対応する.
注意 次の例からわかるように,Radon-Nikodym の定理において “測度空間 (X, M, µ)
は σ-有限” という仮定は必要である.
例 X = [0, 1] を閉区間とし,X の部分集合で Lebesgue 可測集合であるもの全部の
集合を M とする.また R 上の Lebesgue 測度を m で表す.よって,m(X) = 1 である.
A ∈ M に対して Φ(A) = m(A) として定義される σ-加法的集合関数 Φ : M −→ R を考え
る.X の任意の部分集合 A ⊂ X に対して
{
A の元の個数 (A が有限集合のとき)
µ(A) = ♯(A) =
∞
(A が無限集合のとき)
として µ(A) を定める.µ はベキ集合 P(X) 上の測度である.
(1) 測度空間 (X, M, µ) は σ-有限ではない.
(2) µ(A) = 0 となる A ∈ M は A = ∅ だけである.よって,Φ は測度 µ に関して絶対
連続である.
(3) f を X 上で測度 µ に関して積分可能な M-可測関数とする.n∪= 1, 2, . . . につい
て,[f > ∪
1/n] と [f < −1/n] は有限集合である.よって,[f > 0] = ∞
n=1 [f > 1/n] と
∞
[f < 0] = n=1 [f < −1/n] は有限集合または可算集合である.したがって,[f ̸= 0] も有
限集合または可算集合なので,m([f ̸= 0]) = 0 である.
(4) ∫E = [f = 0] ∈ M とおく.E
∫ = X − [f ̸= 0] だから,m(E) = m(X) = 1 である.
f dµ = 0 だから,Φ(E) ̸=
一方,
E
f dµ となる.以上により,測度 µ に関して絶対連続
E
な σ-加法的集合関数 Φ に対して Radon-Nikodym の定理が成り立たないことがわかる.
14