微分方程式Ⅰ 参考資料 6 2015 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ■ 定数係数連立微分方程式の一般解 定数係数連立微分方程式 { ( ′ ) ( )( ) x (t) x(t) x′ (t) = ax + by a b ⇔ = · · · (∗) y ′ (t) = cx + dy c d y ′ (t) y(t) ) ( ) ( a b a−T b に対し、係数行列 A = の特性多項式を ΦA (T ) = det とおく。特性多項 c d c d−T 式 ΦA (T ) の根が A の 固有値 eigenvalue であったことを思い出しておこう。 babababababababababababababababababab 定数係数連立微分方程式の一般解 連立微分方程式 (∗) の解の基本系 { ψ 1 (t), ψ 2 (t) } (ベクトル!!) は以下の様に求められる。 ΦA (T ) の根 (∗) の解の基本系 2 つの相異なる実数根 λ1 , λ2 eλ1 t v 1 , eλ2 t v 2 (v 1 , v 2 はそれぞれ固有値 λ1 , λ2 に関する固有ベクトル) Re(eλt v), Im(eλt v) 共役虚数根 λ, λ̄ (v は固有値 λ に関する 複素 固有ベクトル) eλt v, eλt v 0 + teλt (A − λI2 )v 0 重根 λ (v は固有値 λ に関する固有ベクトル) (v 0 は A の固有ベクトル でない 任意のベクトル) ( ) x 連立微分方程式 (∗) の一般解は = C1 ψ 1 (t) + C2 ψ 2 (t) の形で表される。 y 注意 (1) 特性多項式 ΦA (T ) が共役虚数根 λ, λ̄ を持ち、v を λ に関する複素固有ベクトルとすると、A が実数係数より Ā = A であることと、複素数の積と共役の可換性 ᾱβ̄ = αβ を用いて Av̄ = Āv̄ = Av = λv = λ̄v̄ と計算出来るので、λ̄ に関する固有ベクトルは v̄ (複素ベクトル v の各成分を共役複素数に したもの) である。したがって eλ̄t v̄ = eλt v より Re(eλ̄t v̄) = Re(eλt v) Im(eλ̄t v̄) = Im(eλt v) = Re(eλt v) = Im(eλt v) が成り立つ。つまり、解の基本系を求める際には、2 つあるうちのどちらの固有値, 固有ベク トルを用いても構わない。 (2) 特 性 多 項 式 ΦA (T ) が 重 根 λ を 持 つ と き 、つ ま り ΦA (T ) = (T − λ)2 と な る と き 、 ケーリー-ハミルトンの定理 Cayley and Hamilton’s theorem から (A − λI2 )2 = O が成 り立つ。したがって {eλt v 0 + teλt (A − λI2 )v 0 }′ = (eλt )′ v 0 + (teλt )′ (A − λI2 )v 0 = λeλt v 0 + eλt (A − λI2 )v 0 + teλt λ(A − λI2 )v 0 = Aeλt v 0 + teλt {A − (A − λI2 )}(A − λI2 )v 0 hhhh 2 = A(eλt v 0 ) + Ateλt (A − λI2 )v 0 − teλt (A −h λIh vh 2 )h 0 λt λt = A(e v 0 + te (A − λI2 )v 0 ) となり、ψ(t) = eλt v 0 + teλt (A − λI2 )v 0 も (∗) の解となっていることが確認出来る*1 。 ■ 連立微分方程式の平衡点と安定性 定義 ( ) ( ) ( ) x′ (t) x x =A · · · (∗) に対して、A = 0 を満たす点 (x, y) を (1) 連立微分方程式 ′ y (t) y y (∗) の 平衡点 critical(point)と呼ぶ。 x(t) (2) 連立方程式 (∗) の解 は、変数 t を動かすと xy 平面上の曲線を描く。このよう y(t) な解曲線を xy 平面に描き込んだ図を 相図 phase portrait と呼ぶ。 ここで興味があるのは、変数 t をどんどん大きくしていったときに (「時間 t が十分に大きくなっ たときに」) 解曲線がどのように振る舞うかである。特に解曲線の振る舞いと平衡点には密接な関係 がある。その様子を、特性多項式 ΦA (T ) の根で分類して観察してみよう。 ■ 特性多項式が 2 つの相異なる実数根を持つとき 固有値を λ1 > λ2 とし、v 1 , v 2 を固有値 λ1 , λ2 に関する固有ベクトルとする。このとき解の基 本系は eλ1 t v 1 , eλ2 t v 2 であった。 (ア) λ1 > λ2 > 0 のとき rank A = 2 より A は正則。したがって平衡点は A−1 0 = 0 (原 点) のみ。ここで t → ∞ とすると eλ1 t , eλ2 t → +∞ となり、 t → −∞ とすると eλ1 t , eλ2 t → 0 となるので、解曲線は t が非常 v2 O v1 に小さいときは原点 0 の非常に近くにあって、t が大きくなるに つれて原点から離れてゆくことが分かる (右図 (ア) 参照)。 このとき、平衡点 0 を 不安定結節点 unstable node と呼ぶ。 図 (ア) : 不安定結節点 (イ) λ1 > λ2 = 0 のとき ( ) x rank A = 1 より A は正則でない。平衡点の集合、つまり連立一次方程式 A = 0 の解集 y 合は、固有値 0 の固有ベクトルのなす部分空間 {tv 2 | t ∈ R} である。ここで t → ∞ とする *1 なお、(A − λI2 ){(A − λI2 )v 0 } = Ov 0 = 0 より、(A − λI2 )v 0 は A の (固有値 λ に関する) 固有ベクトルになっ ている ことに注意。ベクトル v 0 は A の 一般化固有ベクトル generalised eigenvector と呼ばれるものである。 v2 O v2 v1 図 (イ) O v2 v1 O 図 (ウ) : 鞍点 図 (エ) v2 v1 v1 O 図 (オ) : 安定結節点 と eλ1 t → +∞, となり、t → −∞ とすると eλ1 t → 0 となるので、解曲線は t が非常に小さ いときは直線 {tv 2 | t ∈ R} の非常に近くにあって、t が大きくなるにつれて v 1 と平行に外 向きに進んでゆくことが分かる (図 (イ) 参照)。 (ウ) λ1 > 0 > λ2 のとき (ア) と同様に rank A = 2 で平衡点は 0 のみ。ところが t → ∞ とすると eλ1 t → +∞, eλ2 t → 0 となり、t → −∞ とすると eλ1 t → 0, eλ2 t → +∞ となる。したがって解曲線は、 v 1 の方向には原点 0 から外側に向って進んでゆくが、v 2 の方向では 0 に向って外側から進 んでくることが分かる (図 (ウ) 参照)。 このとき、平衡点 0 を 鞍点 saddle point*2 と呼ぶ。 (エ) 0 = λ1 > λ2 のとき (イ) と同様に rank A = 1 で、平衡点集合は v 1 の張る部分空間 { tv 1 | t ∈ R } である。ここ で t → ∞ とすると eλ2 t → 0, となり、t → −∞ とすると eλ2 t → +∞ となるので、解曲線 は t が大きくなるにつれて v 2 と平行に直線 { tv 1 | t ∈ R } に向って進んでくることが分かる (図 (エ) 参照)。 (オ) 0 > λ1 > λ2 のとき (ア) と同様に rank A = 2 で平衡点は A−1 0 = 0 (原点) のみ。ここで t → ∞ とすると eλ1 t , eλ2 t → 0, となり、t → −∞ とすると eλ1 t , eλ2 t → +∞ となるので、解曲線は t が大き くなるにつれて外側から原点に向ってどんどん近づいてゆくことが分かる (図 (オ) 参照)。 このとき、平衡点 0 を 安定結節点 stable node と呼ぶ。 ■ 特性方程式が共役な虚数根を持つ場合 このとき rank A = 2 より、平衡点は 0 のみである。 複素固有値 (のひとつ) を λ = a + bi とし、v をその複素固有ベクトルとすると、解の基本 ( ) 系は Re(eλt v) = eat Re(ebit v), Im(eλt v) = eat Im(ebit v) である。ここで v = z1 z2 と表すと、 ( ) ( (bt)i ) e z1 bit z1 = は z1 , z2 を bt だけ回転させた複素数を成分に持つベクトルであり、した e (bt)i z2 e z2 2π 2π がって t が だけ増えると元に戻る (つまり周期 の 周期関数 である)。ゆえに Re(ebit v), b b Im(ebit v) は t が大きくなると振動する関数である。このときの解曲線の振る舞いは、指数関数部分 eat によって大きく変化する。 *2 「馬の鞍」の意味から。鞍の座る部分をイメージしよう。 O O 図 (カ) : 不安定渦状点 O 図 (キ) : 渦心 図 (ク) : 安定渦状点 (カ) a > 0 のとき t → ∞ としたときに eat → +∞ となるので、解曲線は t が非常に小さいときには平衡点 0 の非常に近くにいて、t が増えると渦を巻きながら外側に向って進む (図 (カ) 参照)。 このとき平衡点 0 を 不安定渦状点 unstable spiral point と呼ぶ。 (キ) a = 0 のとき 解曲線は 0 を中心とする楕円を描く (図 (キ) 参照)。平衡点 0 を 渦心 ( 点 ) centre と呼ぶ。 (ク) a < 0 のとき t → ∞ としたときに eat → 0 となるので、解曲線は t が増えるにつれて渦を巻きながら平衡 点 0 に向かって進む (図 (ク) 参照)。平衡点 0 を 安定渦状点 stable spiral point と呼ぶ。 ■ 特性方程式が重根を持つ場合 このときも rank A = 2 より、平衡点は 0 のみである。 (ケ) A が対角化可能な場合 このときは A はスカラー行列 A = λI2 に他ならず、任意のベクトル v に対して eλt v が (∗) の解となる。したがって λ > 0 のときは解曲線は平衡点 0 から放射状に外側に進み ( 不安定固有結節点 unstable proper node, 図 (ケ-1) 参照), λ < 0 のときは解曲線は平衡点 0 に向かって放射状に進む ( 安定固有結節点 stable proper node, 図 (ケ-2) 参照)。 (コ) A が対角化不可能な場合 このときは解曲線は、λ に関する固有空間 { tv | t ∈ R } に接するように進むことが知 られている。λ > 0 のときは解曲線は平衡点 0 から外側に進み ( 不安定非固有結節点 unstable improper node, 図 (コ-1) 参照), λ < 0 のときは解曲線は平衡点 0 に向かって進む ( 安定非固有結節点 stable improper node, 図 (コ-2) 参照)。 v O 図 (ケ-1) : 不安定固有結節点 O 図 (ケ-2) : 安定固有結節点 O 図 (コ-1) : 不安定非固有結節点 v O 図 (コ-2) : 安定非固有結節点
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