ver.20160226

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『微分積分 — 1 変数と 2 変数』
正誤表・コメント
このノートは川平友規著『微分積分 — 1 変数と 2 変数』
(日本評論社,2015 年 7 月
刊)の正誤表・コメントをまとめたものです(ver.20160226)*1 .
正誤表
• 32 ページ,13 行目.4 章の例 2.
誤: x21 < x1 x2 < x22
正: x21 ≦ x1 x2 < x22
• 60 ページ,9 行目.7 章例題 7.2 の解.
f (x)
f ′ (x)
誤: lim
= lim ′
= 2.
x→a g(x)
x→a g (x)
f (x)
f ′ (x)
正: lim
= lim ′
= 2.
x→0 g(x)
x→0 g (x)
• 257 ページ,下から 9 行目.問 23.2 の解答.
誤: f (x, y) = r 2 (1 − (5/4) sin 2θ)
正: f (x, y) = r 2 (1 − (5/4) sin2 2θ)
コメント
■極限の公式について(23 ページ,9 行目.3 章の公式 3.1). 公式 3.1 の仮定とし
て「 lim f (x) = A, lim g(x) = B のとき」とあるが,あくまで「x → a のとき f (x)
x→a
x→a
は実数 A に収束し,g(x) は実数 B に収束する」場合のみを考えていて,A = ±∞
*1
謝辞.以下の方から誤植等のご指摘をいただきました.ありがとうございました:石谷常彦氏,天
才ガロワ君 w 氏,高津飛鳥氏.
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0
『微分積分 — 1 変数と 2 変数』
正誤表・コメント
や B = ±∞ は考えていない.(そのように書くべきだった.たとえば「はさみうちの
原理」なんかは無理やり正当化することもできるが..
.)
そもそも A + B = ∞ ± ∞ や AB = ∞ · ∞ のような計算は定義しないからである.
sin x
の極限について(23 ページ,下から 3 行目.3 章の公式 3.2(4)). 極限
x
sin x
lim
= 1 を示すとき,高校の教科書や大学の微積の教科書によく載っている方
x→0 x
■
法はしばしば循環論法になっていると言われている.どこがおかしいか,ちょっと確
認してみよう.
sin x
sin(−x)
=
(偶関数)より,0 < x → +0 の場合を考え
x
−x
れば十分.まず図の左側のような状況を考える.ただし,O = (0, 0),A = (1, 0),
B = (cos θ, sin θ),C = (1, tan θ) である.このとき
よくある証明.
三角形 OAB ⊂ 扇形 OAB ⊂ 三角形 OAC
=⇒ [三角形 OAB の面積] <[扇形 OAB の面積] <[三角形 OAC の面積]
であるから,
sin x cos x
x
tan x
sin x
1
< <
⇐⇒ cos x <
<
2
2
2
x
cos x
x → +0 のとき cos x → 1 − 0 であるから,
「はさみうちの原理」より (sin x)/x → 1.
■
問題とされる点. この証明のどの部分が問題(
「循環論法」)か.それは,扇形の面積
を計算する部分である.
そもそも扇形の面積をどう定義すればよいのだろうか.たとえば本書の 213 ページ
でも平面集合の面積の厳密な定義が定数関数 1 の重積分として与えられているが,実
質的には長方形(その面積は「底辺×高さ」として定義される)を細かくしながらタ
イルのように敷き詰めていって,それらの面積和の「極限」だと考えてよい*2 .
*2
扇形の面積は「半径×弧長÷ 2」,三角形の面積は「底辺×高さ÷ 2」,といった具合に,個別に公式
で定義すればよい,というものではない.証明では集合の包含関係を実質的に用いているので,集合
の包含関係が面積の大小関係に正しく反映している必要がある.図形に依存した面積の定義ではこの
点が処理できない.
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いずれにしろ,通常の微分積分学の枠組みで [扇形 OAB の面積] の値を計算するに
は,「関数のグラフで囲まれた部分の面積」に帰着するしかない(220 ページ,命題
26.2 参照).たとえば,この場合は線分 OB をグラフにもつ 1 次関数 y = (tan θ)x の
√
断片と y = 0 のグラフが囲む直角三角形と,弧 BA をグラフにもつ関数 y = 1 − x2
の断片と y = 0 のグラフが囲む部分の面積和として計算する.具体的には,次のよう
な積分となる:
∫
[扇形 OAB の面積] =
∫
cos θ
1
(tan θ)x dx +
0
√
1 − x2 dx
cos θ
∫ 0
sin θ cos θ
sin t(− sin t) dt
=
+
2
θ
∫ θ
sin 2θ
1 − cos 2t
=
+
dt
4
2
0
あとの計算は省略するが,この積分の計算を遂行するには (sin x)′ = cos x という微分
公式を用いることになる(53 ページ,公式 6.5).ではこの微分はどう計算するのか.
じつは本書ではあえて書かなかったのだが,多くの教科書では加法定理を用いて
sin(x + h) − sin x
sin x(cos h − 1) + cos x sin h
=
h
h
−2 sin2 (h/2)
sin h
= sin x
+ cos x
h
h
(
)2
sin(h/2)
h
sin h
= − sin x
· + cos x
h/2
2
h
と変形できることから, lim
h→0
sin h
sin(h/2)
= lim
= 1 を用いて(!)
h→0
h
h/2
lim
h→0
sin(x + h) − sin x
= cos x
h
と結論するのである.したがって,[扇形 OAB の面積] を計算する過程で証明したかっ
た極限が暗に使われているではないか,というのである.
本書の立場での解答. この問題に,本書の枠組みでどのように始末をつけたらよいの
だろうか.そのためには,まず角度を測る「ラジアン」の定義,さらには三角関数の
定義にまで立ち帰るしかない.
ラジアン角とは,「点 O を中心とする単位円周上の点 A から左回りに円周上を長
さ θ 進んだ点を B とするとき,角 AOB を θ ラジアンとよぶ」ものであった.すな
わち,「単位円周上の点 A から左回りに円周上を長さ θ 進んだ点を B」が決まらな
いと話にならない.すなわち,「円弧の長さ」がまず計算できなくてはならないので
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『微分積分 — 1 変数と 2 変数』
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正誤表・コメント
ある.本書では 11 章で,「(滑らかな)曲線の長さ」を積分の形で定義した.とくに,
定理 11.4(100 ページ)では「グラフの長さ」の計算式を与えている*3 .単位円の定
√
x2 + y 2 = 1(原点との距離は 1)より x ≧ 0 を満たす半円は y の関数として
√
x = f (y) = 1 − y 2 のように表現できる.(先ほどの図の右側は,そのさらに上半分
を図示したものである)いま,点 O と A の座標がそれぞれ (0, 0),(1, 0) で与えられ
√
ており,x 軸から高さ s ∈ (−1, 1) の場所にある円上の点 ( 1 − s2 , s) が点 B であっ
義式
たとしよう.このとき,弧 AB の長さ L(s) は
∫
s
L(s) =
√
(
1+
0
dx
dy
)2
∫
s
dy =
0
1
√
dy
1 − y2
である.被積分関数は −1 < y < 1 の範囲でつねに正であるから,L(s) は s の関数と
して,L(0) = 0 かつ −1 < s < 1 のとき単調増加な関数である*4 .とくに θ = L(s)
のとき,角 AOB にあたる回転量を「θ ラジアン」と呼び,B の x 座標を cos θ,B の
y 座標を sin θ と定義するのであった(40 ページ,5.2 節)*5 *6 .
さてこの場合,s = sin θ (B の y 座標)である.一方,関数 θ = L(s) は −1 < s < 1
で単調増加であるから,単調増加な逆関数 s = L−1 (θ) が存在する(33 ページ,命
題 4.4).すなわち,L−1 (θ) = sin θ であり,これは θ の単調増加な関数である.さ
らに,微積分の基本定理(87 ページ,定理 10.2)より,θ = L(s) は微分可能であり,
1
dθ
= √
> 0 を満たす*7 .よって定理 6.3(逆関数の微分,52 ページ)より逆
ds
1 − s2
関数 s = L−1 (θ) = sin θ も微分可能であり,
√
ds √
d
= 1 − s2 ⇐⇒
sin θ = 1 − sin2 θ = cos θ
dθ
dθ
が成り立つ.すなわち,(sin x)′ = cos x が示された.とくに微分係数の定義から,
lim
h→0
sin h
sin(0 + h) − sin 0
= lim
= cos 0 = 1
h→0
h
h
を得るのである.
ちゃんと書いてないが,4 つのグラフとも,
■35 ページの下段のグラフについて.
左下隅の軸の交点は (0, 0) であり,中央にある点線の交点は (1, 1) である.念のため.
*3
より一般には,「曲線上の点を結んで得られる折れ線の長さの上限」として定義する.
*4
−1 < s < t < 1 のとき L(t) − L(s) =
*5
すなわち,三角関数の定義には弧長の定義が必要であり,その計算には連続関数(この場合は無理関
数)の積分が必要なのである.だからといって三角関数の前に積分を定義するのは教科書としてどう
しても無理がある.
√
∫t
s (1
− y 2 )−1/2 dy > 0
とくに,B の座標が ( 1 − s2 , s) であったことから,cos θ =
*7 L は arcsin にほかならない.
*6
√
1 − sin2 が成り立つ.