回復期・生活期における慢性呼吸器疾患のリスク管理 国立精神・神経医療研究センター 寄本 恵輔 リハ専門職は慢性呼吸器疾患を目の前にすると、呼吸理学療法の排痰手技を 学ぶことに執着しがちである。しかしながら、どのようなリスクがあるのか を知り、どのようにリスクに気づき、どのように評価した上で、そのような 手技を使えば良いのかという点を知らなければ、有効性は示せない。また、 当然のことながら慢性呼吸器疾患の取り組みはリハ専門職種のみで成果をあ げられるものではなく、多専門職種との連携が不可欠である。 閉塞性換気障害のガイドラインでは禁煙等の生活習慣の改善教育や運動療 法に治療戦略がシフトしている。その一方で、神経難病患者の慢性呼吸障害 である拘束性換気障害においては、徒手による咳嗽介助等の呼吸理学療法が ガイドラインで推奨されているにもかかわらず、適切な呼吸理学療法が行わ れることが少ない。なぜならば、神経難病の呼吸理学療法は、閉塞性換気障 害の呼吸理学療法に影響を受け、神経難病患者における拘束性換気障害に特 化した呼吸理学療法には至らなかったからである。腹式呼吸や口すぼめ呼吸 法は呼吸障害がある神経難病患者においては疲労感を増すことが多く、徒手 による胸郭介助を行い、呼気補助をしたとしても十分な換気や排痰を得るこ とができない場合も多い。これはCOPD等で肺胞が過膨張し、呼気抵抗が高 い閉塞性換気障害患者には有効な呼吸理学療法であっても低換気で肺が虚脱 している神経難病の拘束性換気障害に対しては有効とはならない。そのため 神経難病の呼吸理学療法の有効性は発症初期に限られ、呼吸障害が進行する と呼吸理学療法が有効でないと判断されることや未だに閉塞性換気障害の病 態と混同した呼吸理学療法が行われている。 神経難病患者における呼吸理学療法は閉塞性換気障害の流れを大きく受け てきたものの、そこから脱却し、疾患および病態特性を捉えた呼吸理学療法 へのパラダイムシフトが必要である。神経難病患者における呼吸障害は、呼 吸筋力の低下による拘束性換気障害であり、その結果、低換気となり、肺は 虚脱している。そこに必要な呼吸理学療法は、虚脱している肺を陽圧でしっ かりと広げ、有効な咳嗽力を維持することが重要である。DMDのガイドライ ンには、呼吸管理の第一選択はNPPVとされ、徒手や器械的咳介助(Mechanical insufflation-Exsufflation: MI-E)により気道クリアランスを保ち、肺や胸郭の可 動性を維持するために行う最大強制吸気量(Maximum Insufflation Capacity: MIC)練習などの呼吸理学療法が推奨されている。このようにDMDガイドライ ンから神経難病の呼吸理学療法が解明されており、閉塞性換気障害とは異な る呼吸理学療法があることをリハ専門職は認識し、呼吸理学療法を提供でき るようにしなければならない。 今回、講義として、回復期・生活期における慢性呼吸器疾患のリスク管理 について述べる。 1 <略歴> 2000年国立精神・神経センター国府台病院リハビリテーション科に理学療法 士として就職。2003年3学会認定呼吸療法士取得。2004年日本糖尿病療養指導 士取得。2006年第60回国立病院医学会塩田賞受賞、臨床福祉専門学校脳神経 外科学非常勤講師。2008年国立国際医療センター国府台病院、リハビリテー ション科及び救命科バックアップメンバー兼務。日本救急医学会認定ICLSイ ンストラクター取得、アメリカ心臓協会認定BLS及びACLSプロバイダー取 得。2009年吉野内科・神経内科医院リハビリテーション科科長として就職。 難病マンション「つばさハウス」つばさ訪問看護ステーション、鎌ヶ谷総合 病院千葉神経難病治療センター難病脳内科兼務。同年に専門理学療法士(内部 障害系、神経系)取得。2010年介護支援専門員取得、英国 聖クリストファーホ スピスClinical Placement Training Program緩和医療(Physiotheraphy)研修終了。 近年、パーキンソン病の運動療法 Lee Silverman Voice Treatment(LSVT) BIG therapist、認定理学療法士(神経筋障害、呼吸、代謝)取得。 2011年より現職である国立精神・神経医療研究センター病院身体リハビリ テーション部理学療法主任。院内活動として、リハビリテーション業務及び 呼吸ケアサポートチーム(RST)・緊急時反応チームとして活動。兼任として、 日本神経難病リハビリテーション研究会世話人、東京都理学療法士協会北多 摩ブロック世話人、公立昭和病院 非常勤講師、Shanghai Charity Foundation Special Found Caring For Children with rare disease of Duchenne Muscular Dystrophy as the Medical advisor(2013-2015)、カトマンズ盆地における呼吸器疾 患患者の早期社会復帰支援に向けての取り組み(2015-2017)―呼吸リハビリ テーションの普及―。現在、早稲田大学大学院 人間科学研究科健康福祉科学 研究領域 緩和医療学・臨床死生学を先攻中、神経難病の呼吸理学療法、ロ ボットスーツHAL等、神経難病リハビリテーションの第一人者として活動し ている。 詳細を読む: http://yoooori.webnode.jp/ 2
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