小論文 慶應義塾大学 経済学部 1/2 設問A 設問B 【解答例1】 【解答例1】 リベラルな自由とは個人が自らの目的を自ら 地球温暖化問題は、次世代の利害を考慮する 選択する能力にあり、他者にもそうする権利 ものである。いま、ここにいる人たちだけの を認める。したがって、政府は善き生に関す 利益によって決定を行うならば、取り戻せな る特定の考え方を支持してはならない。共和 い環境破壊を将来の世代に残すことになる。 主義的政治理論では自由は自己統治の分かち リベラルな自由とは個人が自らの目的を自ら 合いに支えられていると考える。それは、共 選択することに基づいているが、将来世代は 通善について市民同士が議論に参加し、共同 自己の意思を表明することができない。当事 体の方向性を決定することである。そのため 者となる他者が沈黙している状況は、リベラ には個人の自由な選択の権利を認めるだけで ルな自由と矛盾する。ここで、将来世代の利 は不十分であり、帰属意識やコミュニティと 害を想像し、代弁する必要が生じる。われわ の道徳的つながりといった一定の市民道徳を れは個人の利益を越え、将来世代にとっても 国民が獲得しなければならない。したがって、 かけがえのない環境の価値という道徳を共有 共和主義的な自由の概念は、価値観や目的に し、温暖化対策について議論を行わなければ 中立ではありえず、自己統治に必要な特性を ならない。こうした自己統治の分かち合いは 国民の中に培う政治を要求する。 共和主義的な自由に合致するものとなる。 【解答例2】 【解答例2】 リベラルな自由観は、自由は自らの目的を自 共同体構成員にとり相互に不利益が発生しな ら選ぶ能力にある、と考える。政府は善き生 ければ、各自が幸福を追求する自由は認めら に関する特定の考えを支持してはならず、中 れるべきである。それは、一国家から地球規 立的な権利の枠組みの中で人びとが自身の価 模に対象を拡大しても同じだ。しかし、地球 値観や目的を選べるようにする手続き的共和 温暖化のような不可逆的でかつ致命的な影響 国を支持する。対して、共和主義的理論は、 を次世代に残す場合は事情が異なる。未来の 自由は自己統治の分かち合いに支えられてい 共同体構成員は、現在の政治に参加できず、 る、と考える。それは共通善について同胞市 共通善に関する議論も権利の主張もできない 民と議論することだが、そのためには国民が からだ。予測可能な危機的状況に次世代をさ 帰属意識、コミュニティとの道徳的つながり らし、自らが発生させたわけではない不利益 など一定の市民道徳を獲得しなければならな を強要するのは道義上許されない。ゆえに、 い。自由には連帯感や市民参加の感覚が必要 現在の国際社会の構成員は、次世代も想定し である。したがって、価値観や目的に中立で た自己統治を地球規模で分かち合い、リベラ はなく、自己統治に必要な美徳や品格を国民 ルな自由を制約してでも必要な道徳を共有し、 のなかに培う形成的政治を要求する。 相応のコストを払わなければならない。 © 河合塾 2016 年 小論文 慶應義塾大学 経済学部 2/2 【解答例3】 個人の生は生物学的には有限だから、その時 間の中だけで「自己の目的」 「善き生」を考え るリベラルな自由観に立つなら、次世代のた めに自身を犠牲にすることは、自由と矛盾す る。だがわれわれはそうした有限の生に充足 しない。われわれの「善き生」の中には、わ れわれ自身の子孫や死後も存立すべき共同体 の「幸福」もまた含まれる。われわれのアイ デンティティは他者の承認なしにはあり得ず、 そしてその他者は将来世代をも含む。われわ れの遺産相続人が存在しなければ、われわれ の「善き生」は無のうちに霧散する。次世代 のためにわれわれが何かを犠牲にすることは、 われわれの自由とは決して矛盾せず、むしろ 必要不可欠なものである。 【解答例4】 少子高齢化に伴う年金・医療・介護の費用の 急増は、現役世代の負担を過重にしているば かりか、財源調達を国債発行に依存すること で巨額の借金を次世代にツケ回している。こ の解決には、現在の世代が税負担の引き上げ や社会保障給付の節減といったコストを払う 必要がある。税負担の増大は個人や企業の自 由な活動を妨げるという批判もあるが、社会 保障制度という共通善を維持しなければなら ない。そのために現役世代と高齢者世代の間 だけではなく、次世代との間の強い連帯感の 形成が不可欠だ。生きている世代間では対等 な議論という自己統治の分かち合いが可能だ が、まだ登場していない次世代との連帯は想 像力に支えられた道徳なしにはありえない。 © 河合塾 2016 年
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