2016年2月19日 投資情報室 米国経済・株式市場情報 世界的な金融市場混乱の背景と今後の米国経済の見通し ①欧州信用不安の台頭、②米国の景気後退観測、③日銀のマイナス金利政策導入が世界的リスクオフの主な背景。 ドイツ銀行の資金繰り懸念払しょくには時間を要するも、欧州銀行セクター全体では信用不安の拡大はなお限定的。 市場は米国の景気後退リスクを懸念しはじめる。ただし、米国の実体経済は個人消費中心に底堅さを維持。 米社債市場では優良企業の資金調達環境はなお緩和的。市場見通しでは2016年は合計2回の米利上げを予想。 図1:日本・米国・ドイツの主要株価指数の推移 世界的にリスクオフが加速した3つの背景 2016年は年明け以降、世界的にリスク回避の動きが 加速し、主要国の株価低迷が顕著となっています。2015 年の最高値からの株価下落率は、日本やドイツでは2割を 上回り、米国でも1割弱の下落となっています(図1)。特 に2016年2月以降、世界的なリスクオフが加速した背景 には、主に次の3つの要因があると考えられます。 第一に、欧州での信用不安の台頭です。市場では 2015年決算で過去最大の赤字を計上したドイツ銀行の 偶発転換社債(CoCo債)の利払いが滞るとの懸念が浮上 し、欧州全体に銀行株の下落が拡がりました。第二に、米 国での景気後退観測の浮上が挙げられます。中国など新 興国の景気が力強さを欠く中、米国景気の先行き不安が 投資家の慎重姿勢に繋がっているものとみられます。第 三に、日銀によるマイナス金利政策の導入決定も、リスク オフ加速のきっかけとなった模様です。日銀の政策決定 直後は円安に振れた米ドル円相場が円高・米ドル安基調 に転じたことで、金融緩和効果への不透明感が意識され た可能性があります。 (2006年末=100) 200 日本 TOPIX 180 ドイツ DAX 160 米国 S&P500 140 リーマンショック 120 今後、ドイツ銀行が収益を安定化させ、資金繰りを巡る 市場の懸念を完全に払拭するにはなお時間を要すると みられるものの、欧州銀行セクター全体で見れば信用不 安の拡大は足元でも限定的に留まっています(図2)。 当面の注目点としては、3月10日の欧州中銀(ECB)理 事会で追加金融緩和策が打ち出されれば、信用不安の 緩和に繋がる可能性があると考えられます。 中国株安 欧州債務問題 米国債格下げ 100 80 60 40 20 07 08 09 10 11 (2016年2月17日時点) 12 13 米国 (S&P500) 14 15 日本 (TOPIX) 16 (年) ドイツ (DAX) 2015年の最高値からの騰落率 -9.6% -24.2% -24.2% 2016年の年初来騰落 -5.7% -17.1% -12.7% (出所)ブルームバーグ (注)2007年1月1日~2016年2月17日 ECBの金融緩和が信用不安緩和に繋がる可能性 欧州の信用不安に関しては、民間大手のドイツ銀行が 2016年および2017年のCoCo債の利払原資が十分ある と表明したこと(2月8日)や54億米ドル規模の社債買戻し 計画を公表したこと(2月12日)などを受けて、短期的に は資金繰り不安の拡大に歯止めがかかりつつあります。 世界的なリスクオフ加速 (bp) 図2:欧州銀行セクターのCDSスプレッド (シニア債、5年物) 350 欧州銀行セクター全体 (Markit iTraxx欧州金融指数) 300 250 ドイツ銀行 200 217.83 150 100 113.22 信用不安拡大 50 信用不安緩和 0 2012年1月 2013年1月 2014年1月 2015年1月 2016年1月 (出所)ブルームバーグ (期間)2012年1月1日~2016年2月17日 (注)1bp(ベーシス・ポイント)=0.01%。CDSはクレジット・デフォルト・ス ワップの略で、同スプレッドは債券の信用保証料。 ●当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、レッグ・メイソン・アセット・マネジメントの情報を基に、ニッセイア セットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。 ●当資料は、信頼で きると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。●当資料の グラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手 数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。●当資料のいかなる内容も将来の市場環 境の変動等を保証するものではありません。 1/3 〈審査確認番号H27-TB199) 米国経済・株式市場情報 図3:向こう12ヵ月の米国の景気後退確率 (エコノミスト・コンセンサス予想) 市場は米国の景気後退リスクを懸念し始める 米国経済に関しては、市場関係者の間で先行きの景気 後退(リセッション)入りの可能性を懸念する見方が広がり (%) 25 つつあります。2016年2月時点のブルームバーグ集計の 20 コンセンサスでは、向こう12ヵ月の景気後退確率は20% 15 へ上昇しています(図3)。依然として少数派の見方ではあ るものの、一部のエコノミストは50%前後の確率で米国の 10 景気後退入りを予想しており、金融市場が混乱する中で 5 米国景気に対する弱気見通しが投資家心理の悪化を助 0 20% 19% 10% 10% 8月 9月 長している可能性があります。 15% 15% 15% 10月 11月 12月 1月 2015年 2月 2016年 (出所)ブルームバーグ 米国経済は個人部門中心に底堅さを維持 一方、実体経済に目を転じると、2015年10-12月期 図4:米国の実質GDP成長率の寄与度内訳 の実質GDP成長率は前期比年率+0.7%へ減速したもの の、米経済は個人部門中心に底堅さを維持している模 様です。 10-12月期は民間設備投資や純輸出、在庫など主に (前期比年率、%) 6 4 3 企業部門の活動がGDP成長率を押し下げる要因となっ 2 た一方、民間消費や住宅投資が成長押し上げに寄与し 1 ました(図4)。金融市場が懸念する「米国の景気後退入 実質GDP 2015年10-12月期 前期比年率+0.7% 5 政府支出・投資 住宅投資 民間消費 0 民間設備投資 純輸出 在庫・その他 ‐1 り」が現実化するかどうかは、GDPの約7割を占める個人 ‐2 消費の行方がカギを握っているといえます。 ‐3 ‐4 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 13 2016年初も米国の個人消費は堅調に推移 直近の経済指標では、2016年1月の小売売上高が前年 比+3.4%へ回復するなど(2015年12月は同+2.4%)、 2016年に入ってからも米国の個人消費は堅調さを維持し ていることが示唆されています。 特に小売売上高の内訳を見ると、ガソリン価格下落の影 響などからガソリン・スタンドの売上が落ち込んでいる一方、 スポーツ用品・娯楽用品・書籍・音楽ストアや無店舗小売 業者(電子ショッピング等)、自動車・部品販売店などの売 上が高い伸びを示しています(図5)。住宅投資に関連した 建設資材・ガーデニング用品店や家具販売店の売上も前 年比+4~5%の底堅い伸びとなっています。 このように、娯楽品や自動車、住宅関連の支出が伸びて いる米家計の消費行動からは、景気後退の兆しは依然とし て限定的であると考えられます。 3Q 4Q 1Q 2Q 14 3Q 4Q (年) 15 (出所)米商務省経済分析局 (期間)2013年1-3月期~2015年10-12月期 図5:米国の小売売上高(飲食サービス含む) スポーツ用品・娯楽用品・書籍・音楽ストア 9.1 8.7 6.9 6.1 5.0 4.0 3.5 3.4 2.2 2.1 2.0 0.9 無店舗小売業者(電子ショッピング等) 自動車・部品販売店 飲食サービス 建設資材・ガーデニング用品店 家具販売店 ヘルスケア用品店 小売売上高・飲食サービス(全体) 衣料品店 その他小売店 食品・飲料販売店 総合小売店 電気機器販売店 ‐4.2 ガソリン・スタンド ‐8.1 ‐10 (前年比、%) ‐5 0 5 10 (出所)米商務省センサス(国勢調査)局 (注)2016年1月時点 金額ベース ●当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、レッグ・メイソン・アセット・マネジメントの情報を基に、ニッセイア セットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。 ●当資料は、信頼 できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。●当資料 のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税 金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。●当資料のいかなる内容も将来 の市場環境の変動等を保証するものではありません。 2/3 米国経済・株式市場情報 ハイイールド社債利回りには注意が必要 一方、米国企業の資金調達環境の面では、上昇基調に あるハイイールド社債利回りの動向は注意深く見守る必要 がありそうです。米国のハイイールド社債利回りは2月11日 図6:米国のハイイールド社債と投資適格債の利回り 20 には2011年10月以来となる節目の10%台へ上昇しまし た(図6上段)。ハイイールド社債利回りの上昇や株安など 市場の混乱が持続した場合には、米国経済にも悪影響が ハイイールド社債 (%) 25 米国ハイイールド社債利回り 15 2000年以降の平均 (9.18%) 9.88% 10 及ぶリスクがあると考えられます。 5 米投資適格社債利回りは低水準で安定する傾向 米国10年国債利回り 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) もっとも、米国の投資適格社債の利回りは足元でも低水 準で安定した傾向にあり、必ずしも社債市場全体が機能 不全に陥っている訳ではありません。2月16日時点の投 1.77% 0 投資適格社債利回り (%) 10 9 資適格社債利回りは3.67%と2000年以降の平均を下 8 回っており、格付水準の高い優良企業にとっては緩和的 7 な資金調達環境が続いているといえます(図6下段)。 6 米国投資適格社債利回り 2000年以降の平均 (4.97%) 5 4 アップルの起債を契機に社債市場に回復の兆し 2016年年初の投資適格社債市場は世界的な市場混乱 の影響を受けて起債が低調でしたが、2月16日にアップル 3.67% 3 米国10年国債利回り 2 1.77% 1 0 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (S&P社格付=AA+)が自社株買いプログラムのため120 (出所)ブルームバーグ、バークレイズ (期間)2000年1月1日~2016年2月16日 (注)社債利回りは期限前償還を考慮した最低利回り。 億米ドル規模の起債を行ったことをきっかけに、投資家の 社債投資需要が回復しつつあると思われます(同日には IBM(50億米ドル)やトヨタ・モーター・クレジット(17.5億ド ル)も投資適格社債を起債)。今後は投資適格社債市場 図7:米国の政策金利の見通し (FOMC参加者、市場コンセンサス、金利先物) の回復が継続するかが、米国株やハイイールド社債などに 対する投資家の信認回復の試金石となりそうです。 (%) 2.5 世界的な金融市場の混乱が続く中、米連邦準備制度 理事会(FRB)による利上げ基調が鈍化する公算が高まっ ていると思われます。ブルームバーグ集計の市場コンセン サスでは、2016年内の利上げは4-6月期と10-12月期 2.0 1.625 1.375 1.5 1.0 の計2回と予想されています(図7)。 当面は、次回3月15-16日の連邦公開市場委員会 (FOMC)において、世界的な金融市場の混乱に配慮した 利上げ見通しの修正が示されれば、市場心理の改善に 2.375 FOMC参加者の政策金利見通し (中央値、2015年12月時点) 市場混乱の影響から米国の利上げ観測が後退 0.625 0.625 1.375 1.125 市場コンセンサス 0.875 (2016年2月11日時点) 0.5 0.375 0.375 FF金利先物(2016年2月17日時点) 0.0 繋がると期待されます。なお、2017年以降については、 年間4回のペースでの利上げ基調への回帰を予想する見 (出所)FRB、ブルームバーグ 方が市場関係者の間で依然として大勢となっています。 ●当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、レッグ・メイソン・アセット・マネジメントの情報を基に、ニッセイア セットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。 ●当資料は、信頼 できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。●当資料 のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税 金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。●当資料のいかなる内容も将来 の市場環境の変動等を保証するものではありません。 3/3
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