古泉修行さん(新潟県・新潟大学教育学部附属新潟小学校5年)

第 24 回全国小学生作文コンクール
「わたしたちのまちのおまわりさん」
内閣総理大臣賞(高学年の部)
タイトル: たった一つの命
氏名:古泉 修行
小学校名:新潟県 国立新潟大学教育学部附属新潟小学校 五年
その日、新潟は雪が降った。雪は町を白一色に変えた。色とりどりの見慣れた景色を、
一晩で別世界にした。雪の中、ぼくは母を待っていた。塾が終わり、ドアを開けるといつ
もある母の笑顔が、今日はなかった。
「遅れてごめーん。寒かったでしょう。
」
しばらくして到着した母の笑顔は元気がなく、見ると、車は右前がつぶれていた。
関東での生活が長かった母に、凍結した道は牙をむいた。なれない雪道で、他の車と接
触事故を起こしてしまったそうだ。幸いノロノロ運転だったため車の損傷は軽く、相手の
方にも母にもけがはなかった。しかし、初めての事故に母は大きなショックを受けていた。
「でも警察の人が優しかったから嬉しかった。」
心配するぼくに、母は説明してくれた。母を担当したのは、新潟中央警察の近藤さんとい
うおまわりさんだった。事故に落ち込む母に
「緊張しなくても大丈夫ですよ。リラックスして周りを見れば、今度は安全運転できます。」
と優しく言い、その穏やかな笑顔は真っ黒になった母の心を軽くし、希望を持たせた。
それ以来、交通事故があるとおまわりさんの行動に目がいくようになった。新潟では、
雪が降り始めると途端に交通事故が増える気がする。夜の雪の中、パトカーから機材を出
しているおまわりさん。寒い中、ずっと立って交通整理をしているおまわりさん。時間や
天気に関係なく、事故現場にかけつける。事故の原因究明や交通整理。けが人がいる場合
は救急隊と協力する。そして事故処理の他、事故を起こした人への声掛けも大切な仕事だ
と知った。時には優しく、時にはきびしい声掛けもあるだろう。市民への意識付けが今度
の運転に影響するからだ。
「大変な仕事だなあ。」と、改めて尊敬と感謝の気持ちが出た。
ぼくは今まで、人間には失敗がつきもので、いつでも、何度でもやり直せると思ってい
た。失敗を恐れず、何にでもチャレンジすることがぼくのモットーだった。しかし、母の
事故で、やり直しのきかない失敗もあることを初めて強く思い知った。交通事故は一瞬で
人の命をうばい、残された家族の運命をも変えてしまう危険があるからだ。ぼくも「もし
母がけがをしていたら。
」と思うと、大きな恐怖が心を埋め尽くす。交通事故は絶対に起こ
してはいけない失敗だ、と心に深く言い聞かせた。
ぼくの学校では公共交通機関で通学する児童が多いため、交通安全について学ぶ機会が
多い。ぼくはマナーを守っている自信があった。しかし、危険はどこに潜んでいるかわか
らない。その過信は油断を招き、事故につながる恐れがある。上級生になった今、下級生
にも目を配り安全への意識を呼びかけていく。
母は事故後、視野が広がり、より安全運転を心がけるようになったという。落ち込んだ
母に前を向かせ、ぼく達家族に交通事故の怖さと交通安全の重要性を教えてくれた、新潟
中央警察の近藤さんにお礼を言いたい。
「ありがとう。一つだけの命、大切にするよ。」