資本主義に希望はある

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5 分 で 分 かる 話 題 のビジネス書
資本主義に希望はある
私たちが 直 視すべき14の課 題
資 本 主 義 の「 14 の 欠 点 」
本書は「世の中には、資本主義に関して書かれた本が山
ほどある。
」
という一文から始まる。しかし、世にあふれる
資本主義経済の解説本と一線を画すのは、これが“近代マ
ーケティングの父”として著名なフィリップ・コトラーが
書いたものであるということだ。
マーケティングの専門家であるコトラーがなぜ、今「資
本主義」
について書く必要があったのか?フリードマン、
サ
ミュエルソン、ソローという3人の異なる思想を持つノー
ベル経済学賞受賞者に師事した著者は、経済の仕組みや本
質に関しても深い洞察を備える。歴史的に言って資本主義
ほど優れたシステムはないとしながらも、
「14の大きな欠
点がある」と指摘。マーケティングの枠組みを使い、資本
主義の改善点を提示する−それが本書の試みだ。
貧困、所得格差、環境問題、IT化で減少する雇用、乱高下
する市場……それぞれが一冊の本になってもおかしくない
14のテーマが課題として挙げられている。
期 待 高い 経 済 的 成 果
特に読み応えがあるのは、米国で進行している構造変化
だ。現在起きている「所得の中央値の減少」
「年間GDP成
長率の歴史的な低下」
「全人口に占める労働力人口の比率
の低下」
といった現象は「所得格差を放置しながらGDPを
増やそうと努める矛盾した構造」
を表していると分析。中
間層の減少は米国の経済成長を鈍化させ、家計の借金を増
大させていると結論付けている。取り上げられているの
は米国の事例だが、日本も他人ごとではない話題である。
フィリップ・コトラー 著
倉田幸 信 訳
高岡浩三 解説
ダイヤモンド社
2 , 0 0 0 円+税
本書で提示されている問題は、それぞれが密接に絡み合
い、はっきりとした解決策が示されていないものもある。
「すべてが解決される見込みは非常に小さい」かもしれな
い。しかし、それでも資本主義自体は否定されるべきでは
ないと著者は説く。
あとがきには、こんな記述がある。
「共産主義やファシ
ズムといった他の経済運営体制と比べ、資本主義は経済的
成果やイノベーション、価値創造でより優れた結果を生み
出せる見込みが高い。
(中略)これらの欠点にきちんと対
処すれば、人々の暮らしを改善することができると私は信
じている」
。大きな欠点を見過ごすわけにはいかないが、
「資本主義に希望はある」
のだ。