新聞用紙こうして作る 製紙工場見学記

新聞用紙こうして作る
■新編集講座 ウェブ版
第40号
製紙工場見学記
2015/11/15
毎日新聞社 技術本部長(元・大阪本社編集制作センター室長)
「紙を作る現場を見ませんか」。そうお誘いを受け、大王製紙の三島
工場(愛媛県四国中央市)を見学する機会を得ました。新聞用紙や
OA用紙、段ボール原紙を製造する、日本最大級の製紙工場です。
あまり見ることのない、新聞用紙製作の工程をご紹介しましょう。
■ 甲子園球場 42 個分
秋晴れのある日、新幹線で岡山に向かい在来線特急に乗り換えま
した。瀬戸大橋の上から瀬戸内海をめでた後、四国北岸を西にひた
走り、四国中央市の伊予三島駅に着いたのは午前 11 時近くでした。
四国中央市は、静岡県富士市と並ぶ紙の町。臨海地区には多くの
製紙工場が並びます。中でも大王三島工場 =写真①=は、敷地 167
万平方㍍(甲子園球場 42 個分)、生産高 210 万㌧。専用港も備え、
日本最大級の規模を誇ります。
駅から 5 分ほどで工場に到着しました。東西に走る国道をはさん
で、南側(陸地)に旧工場、北側(埋立地)に新工場があります。
まず工場長から講義を受けた後、見学に出発しました。無線マイク
とイヤホンを渡され装着したのですが、理由はすぐに分かります。
■ チラシと混ぜて「鮮度」アップ
最初に見たのは、古紙の倉庫=写真②=です。ワイヤでしばられた
古紙の束(1㍍×1㍍×1.8 ㍍、1 ㌧)が山積みされていました。
チラシも一緒で、カラフルです。新聞用紙は古紙率 80%程度です
が、チラシは新しいパルプの含有率が高く(古紙率 40%程度)
、混
三宅 直人
島
、
高
知
)
全
て
に
接
す
る
。
誕
生
。
四
国
の
他
の
3
県
(
香
川
、
徳
市
、
伊
予
三
島
市
な
ど
が
合
併
し
て
2
0
0
4
年
4
月
、
愛
媛
県
川
之
江
■
四
国
中
央
市
①
手
前
が
大
王
、
対
岸
が
丸
住
製
紙
②
倉
庫
に
積
ま
れ
た
新
聞
古
紙
③
屋
外
に
あ
る
パ
ル
パ
ー
合してリサイクルすることで、再生した新聞紙の「鮮度」はアップ
します。それを何度も繰り返していくわけです。「古紙が減ってい
る。もっと新聞を売って下さい」。案内役が笑いました。
古紙の束はベルトコンベヤーに積まれ、戸外にあるパルパー=写
真③=に運ばれます。文字通りパルプを作る設備で、巨大な洗濯槽
を横に倒したような構造です。古紙と水を混ぜて何度も回転させ、
どろどろの溶液にします。
この後、溶液は新聞用紙の製造建屋に運ばれます=写真④⑤。全長
が 400 ㍍ほどある、細長い建物です。ここでは、①ゴミを取り除く
②インキを抜く③漂白剤を入れ白くする――などの工程が行われ
ます。このあたり、機械のごう音で、横の人と会話も出来ません。
無線マイクとイヤホンの理由は、この騒音だったのです。
④
窓
(
白
○
印
)
か
ら
中
を
の
ぞ
く
と
・
・
・
⑤
溶
液
が
見
え
る
⑥
高
速
で
紙
の
原
料
が
流
れ
る
抄
紙
機
■ 圧縮と加温で水抜き
こうして古紙パルプが出来ました。別に、木材片(チップ)を薬
品で煮込んで新しいパルプを製造します。両者を配合したものが新
聞用紙の原料です。
ここからが後半工程。原料のパルプを、抄紙機 =写真⑥⑦=で新聞
用紙に仕立てます。私が訪れた建屋では、2台の抄紙機それぞれに、
原料パルプが分速 1150 ㍍(時速 70 ㌔㍍)という高速で流れ、音と
⑦
同
上
熱気が充満していました。
紙の原料は水分が 99%ですが、抄紙機で①2枚の網(ワイヤ)で
圧
縮
や
加
温
で
水
分
を
抜
く
挟んで水分を流す(水分 80%程度に)、②ローラーで紙をプレスし
水を絞る(水分 55%程度に)
、③まだ残る水分をフェルトで吸着④
ドライヤーで乾燥させる(水分 8%程度に)――という処理を行い
ます。さらに、紙の腰を強くするために、表面にでんぷんを塗ると
完成です。おなじみの巻き取り紙が誕生しました=写真⑧。
⑧
新
聞
用
紙
(
巻
き
取
り
紙
)
が
誕
生
■ 船で、貨車で、トラックで
製造された用紙は、各地の新聞社に送られていきます。遠い東京
へは輸送費の安い船で、比較的近い大阪へは機動力のあるトラック
でと、距離に応じ使い分けます。雪の多い北陸方面へは、専用引き
込み線=写真⑨=からJRの貨物列車で運ぶそうです。冬場は、「ト
⑨
貨
物
列
車
の
専
用
駅
ラックより列車の方が時間が安定している」というのが理由です。
瀬戸大橋を渡り雪国をめざす新聞用紙。旅情を感じます。
こうして古紙搬入から巻き取り紙搬出までの工程を一通り見ま
した。全体を通じて感じたのは、いろいろな作業が機械化、自動化
されていること。現場では、人の姿をほとんど見かけませんでした。
聞けば、1台の抄紙機を7人で動かしていて、業務は監視や危機管
理中心とのことでした=写真⑩。
■ エリエールタワー
最後に、工場の一角にそびえ立つ「エリエールタワー」=写真⑪の
左端の白い建造物=に登りました。ティッシュやトイレットペーパーな
ど大王製紙の生活商品の代表的ブランド名を冠したこのタワーは、
実は集合煙突なのです。高さ 207 ㍍。完成した時は、東洋一のコン
クリタワーだったと聞きました。
タワーにはエレベーターが設置され、地上 180 ㍍の展望台まで上
がれます。 2 分ほどかけゆっくり上がると、中には煙突が 4 本並び、
細い通路がありました。
「ラウンジ設置も検討したが、さすがに無理だった」という狭い
空間。煙突の排熱で気温は 40 度に達し=写真⑫=、体がほてります。
でも眺望は抜群。北に広がる瀬戸内海=写真⑬、手前が専用港(茶色の山は
詰まれたチップ)=、付近の臨海工業地帯=写真①=や四国中央の街並み、
さらには四国山地など、視界 360 度の景色を満喫しました。
⑩
(
右
上
)
監
視
室
⑪
(
左
)
エ
リ
エ
ー
ル
タ
ワ
ー
⑫
(
左
)
タ
ワ
ー
内
温
度
計
⑬
(
左
下
)
タ
ワ
ー
か
ら
の
眺
望