米ぬか油脂成分を利用した肉用鶏の生産改善 Improvement of chicken

米ぬか油脂成分を利用した肉用鶏の生産改善
Improvement of chicken meat production supplemented with lipid
fraction of rice bran
(農学研究院・生物生産科学専攻)佐藤
幹* 青木充
*連絡先
1.はじめに
米ぬか油は、玄米の表皮と胚芽から搾
った油で、原料を国内で生産している代
表的な植物油である。この油は、ビタミ
ン E 様物質であるトコトリエノールやフ
ェルラ酸エステルの一種であるオリザノ
ールの機能性脂質成分を含んでおり、抗
酸化活性が高いことが知られている。現
在、我が国では自給飼料としての飼料米
に注目が集まっており、これを有効利用
するためには、米に含まれる油脂成分の
機能性を家畜の効率化に応用することが
重要である。本研究室では、初生ヒナ(孵
化直後のヒナ)の骨格筋細胞分化を調節
し、成長後の増体(食肉)を改善する研
究を行っている。今回の科学技術展では、
その研究成果の一部である米ぬか油を用
いた肉用鶏の生産改善技術を紹介する。
2.研究成果
本研究は養鶏現場における生産の低コ
スト化を実現するとともに、飼料用米の
積極的に有効利用する新たな技術へと結
びつくものである。
(1)米ぬか油による肉用鶏の増体改善
効果
0 日齢(孵化直後)のヒナの飼料中油
脂を、2%米ぬか油に置換した飼料を 7
日齢まで給与し、その後は通常飼料で飼
育したところ、米ぬか油を用いていない
飼料区に比べ、増体が改善した。しかし、
この米ぬか油の増体改善作用は、米ぬか
油の置換量を 2%以上に増加させると逆
に抑制された。また、孵化直後から 3~7
日齢まで米ぬか油飼料を与えなければ増
体改善効果は得られなかった。
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(2)米ぬか油脂成分の肉用鶏増体改善
メカニズム
米ぬか油飼料を与えたヒナの骨格筋に
おける筋肉の分化誘導因子(筋肉の細胞
の増殖を抑制する因子)の遺伝子発現は、
対照とした大豆油飼料を与えたヒナに比
べ低下していた。よって、米ぬか油の成
分が、初生ヒナの骨格筋細胞を制御して
いることが明らかとなった。
そこで、鶏骨格筋培養細胞を用いて、
そのメカニズムと油脂中の成分を同定す
ることを試みたところ、米ぬか油中に含
まれるトコトリエノールとオリザノール
の作用によるものであると推測され、ま
た、その作用には一酸化窒素、そしてそ
れに関与するシグナルが関連しているこ
とが明らかになった。
(3)米ぬか油脂成分の機能性を用いた
実用的飼料の開発
米ぬか油は価格も高く、また、飼料に
添加すると急速に酸化し、その増体改善
効果は低下する。そこで、飼料用米自体
を用いた実用的なスターター飼料の開発
を現在進めている。
3.おわりに
本研究室(生物生産学科・畜産学研究
室)では、今回紹介した肉用鶏の研究の
他、産卵鶏、乳牛、ブタ、羊などの各種
産業動物を用いた研究を、遺伝子を用い
たバイオテクノロジーから農業現場に直
ぐに実用化される技術開発までの幅広い
視点で行っている。この研究発表を見学
したのち、スーパーなどの畜産物の価格
を目にして、
「安心・安全」そして「おい
しい食材」に関して、もう一度考えて欲
しい。