ヒツジはヒトよりも暑がり―春から秋まで暑熱環境― Sheep are more thermally sensitive than human -Spring and autumn are also hot seasons- (農学研究院・生物生産科学専攻)竹村勇司* *連絡先 1.はじめに 年々、夏の気温が高くなっていると感 じませんか。最高気温の更新、ヒートア イランドの拡大、熱中症搬送者の増加な どが話題になります。地球温暖化に伴い 暑熱期間が長くなる影響は人間だけでな く家畜にも及びます。家畜がどのように 体温調節を行っているかを知ることは、 暑熱期や寒冷期の家畜管理技術の確立に 役立ちます。今回、ヒツジを対象に実施 した研究を紹介します。 ヒツジでは冬毛(ウール)が抜けるこ となく伸び続け、春に毛刈りを行います。 日本ではコリデール種が羊毛生産のため に飼われており、毛厚は 10cm くらいにな ります。温熱環境がヒツジにとって快適 かどうかを簡便に推定するには呼吸数が 使われ、毎分 20 回程度の時に快適である ことが知られています。 2.研究 1:ヒツジの体温調節に及ぼす 季節と被毛の影響 春(4 月)から秋(10 月)にかけて、 ヒツジの受ける温熱ストレスがどのよう に変化するかを知るため、本学で飼育し ている雌雄成ヒツジ 16 頭を用いて、体温、 呼吸数などの体温調節にかかわる生理機 能、被毛状態、および温熱環境条件の推 移を調べた。その結果、呼吸数は毛刈り (4 月下旬から 5 月中旬)後(平均約 25 回/分)を除くと、常に 90 回/分を超え、 特に、盛夏(8 月中下旬)には 200 回/分 を超えていたことから、春から秋の間は、 ヒツジにとって暑熱環境であり、特に、 夏は強い暑熱ストレスを受けていること が分かった。 3.研究 2:春季における毛刈りの影響 1 歳から 13 歳までのヒツジ 21 頭を用 E-mail: [email protected] いて体温調節に及ぼす毛刈りの影響を調 べた。毛刈り後は全ての個体で呼吸数の 減少が観察され、ほとんどの個体で呼吸 数は 20~60 回/分となったが、12 歳以上 の個体では低呼吸数(14~15 回/分)を 示した。また、3 歳以下と 12 歳以上の個 体は毛刈りによる体温低下が大きかった。 これらの結果から、春季の毛刈りは成体 では暑熱ストレスを緩和するが、成長期 および高齢の個体では寒冷ストレスにな る可能性が示唆された。 4.研究 3:夏季における体温調節 1)体温調節行動にみられる雌雄差 雌雄成ヒツジ 4 頭ずつを用い、夏季日 中における居場所選択に見られる体温調 節行動を調べた。雌では日向よりも日陰 にいる時間が有意に長かったが、雄では 有意差が認められず、日向にいる時間が 雌よりも有意に長かった。居場所選択行 動から見ると、雌は雄よりも有利な体温 調節行動を取ることが分かった。 2)生理的体温調節にみられる雌雄差 同上の個体を用い、夏季日中に、日向、 日陰に 30 分間係留した後の体温を比較 した結果、雄では有意差は認められず、 雌では日向での体温が日陰よりも有意に 高く、雄は雌よりも体温調節能力が高い ことが示唆された。 5.研究 4:ヒツジの皮膚蒸散量 従来、発汗を含むヒツジの皮膚蒸散量 は少ないと考えられてきたが、実際に測 定すると、夏季には、身体部位によって 1 時間に 90~160 g/m2の水分蒸散をして いることが分かった。これは、ヒトの約 1/4 に相当しており、暑熱時の体温調節 機構を総合的に理解するために今後の検 討が必要な分野である。
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